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 秋たけなわの文化の日。

 綺麗に晴れた青空の下、私は、たこ焼きを焼いている。

 ハルくんに頼まれた模擬店の手伝いは、屋台のたこ焼き。意外にお客さんも多くて、忙しい。

「長谷川さん、器用だよね」

隣で、ハルくんが感心している。

「焼いたこと、あった?」

「ないけど」

「それにしては、ほんとに上手い」

そんなに感心されるほどのことじゃないと、思うんだけど……。

 千裕は、注文とレジの方に回っている。どっちかと言うと、接客よりこっちの方がいいかな、と、焼く方に回ったんだけど。こんなに感心されると思わなかった。

 私と千裕が来たときは、ハルくんが主に焼いていて、ちょっと残念な出来のものが多かった。「変わって」と言うハルくんからバトンタッチしたんだけど。

 なんでもそつなくできそうなハルくんが、意外に不器用なのに驚いた。あんまり料理とかしないのかな? そういう問題じゃない、か。

「っていうか、俺らがヘタ過ぎたんじゃ……」

西井君が後ろで、足りなくなってきたタコをぶつ切りにしながら、言う。

「長谷川さんに来てもらってよかった」

ハルくんは、素知らぬ顔で焼きあがった分にソースを掛け、トッピング。

 こんなふうに一緒に何かをしていると、変な緊張も薄れて、すごく楽しい。ハルくんの隣で、すごく自然でいられる。

 時折、心配そうにこっちを見ていた千裕も、よかったね、とにっこりしてくれた。

 忙しい中の友だちのそういう気遣いも嬉しかった。

「そろそろ、交代ー」

クラスの他のメンバーがやってきた。

「長谷川さん、疲れたでしょ。佐々木さんと、もう上がっていいよ。あとは、こいつらがやるから」

 二時間余りも立ちっぱなしで、慣れない作業を繰り返してたので、さすがに疲れていた。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「いえいえ、こちらこそ、応援サンキュー。この恩は、ちゃんと返すから」

「期待しないで待ってるね」

私は、エプロンを取り、千裕と模擬店コーナーを後にした。



「結構、いー感じだったね」

祭りの雰囲気を楽しみながら構内を歩きつつ、千裕が言う。

「そう、かな?」

「うん。美緒にしては、すごく自然だった。しかも、恩返ししてくれるみたいだから、次があるよ」

そう、かな。だったら、いいな。

 なんだかほんわりした気持ちを抱いて、学祭をぶらぶらと見て回った。

 喉が渇いたので、飲み物を買って、千裕とベンチでまったりしていると。

 すっと、影が差した。

 私の前で立ち止まっていたのは、

「大野さん」

なんだか久しぶりに見た気がする大野さんで。

 たぶん一緒に来た連れの人たちを待たせ、わざわざこっちに来た様子。

「なんだか、楽しそうに手伝ってたわね」

大野さんの表情は、逆光で見えにくくて。

「私が、手伝いを断ったから、あなたたちに回ってきたって、知ってる?」

「だから、なに?」

言い方にカチンときたのか、千裕が素っ気なく聞き返した。

「……べつに」

千裕の切り返しに大野さんは、そっぽを向く。

「なにか、用? 友達、待ってるんじゃないの?」

「忠告」

私が一言も話していないのに、大野さんは、私の方だけ向いて言った。

「ハルくんは」

声が、ほんの少し震えている。

「……ハルくんは、誰も好きにならない」

それでも言いきった大野さんは、

「だから、舞い上がらない方が身のためよ」

と、さらに言い捨てて、友だちのところへと戻って行った。

 いつもより数段にぎやかな構内のざわめきが、一瞬少し遠くなった。

 かさり、と足元の落ち葉が音を立てる。

 ストローで吸い上げたゆずみつジンジャーが、急に苦くなったようで。

「なんで、私に言うのかな」

つぶやくと、

「まあ、わかりやすいから、ね」

千裕は、なだめるように笑ってくれた。

「わかりやすい?」

「んー、美緒、ずっと見てるし。注意してれば、わかるよ。よほど鈍感とかじゃなければ。藤崎くんを好きだったりしたら、余計に、気がつくんじゃないかな」

「……そっか」

「ねえ、美緒」

千裕は、少しためらったようだったけど、

「藤崎くんは、わかってるかも」

と言葉にしてくれた。

「美緒の、気持ち」

だから、私もちゃんと聞く。

「わかってて、利用……っていうか、そこまで悪辣じゃないけど。美緒に頼めば断らない、くらいには思ってたんじゃないかな」

「そうかな」

「藤崎くんは……、よくわからないけど、思い続けるには、もしかしたら辛い、かも」

「うん」

「ごめん、私の言うことじゃないね」

千裕は、最後は軽めにいってくれたけど。

 

 つらくない恋が、ありますか?

 そんなふうに切り返すには、私の経験値はやっぱり少なすぎて。でも。

 思うのをやめられるなら、それも恋じゃない、よね?

 

「ハルくんは、誰も好きにならない」


 大野さんの言葉は、ゆらゆらとゆっくり心の底に沈んでいった。

 だからって、やめられるなら。

 ハルくんを想わずにいられるなら、そんなこと、気にすることもないのに。



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