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 もうすぐクリスマス。確かに。

 だからって、どう動いたらいいのかわからない。

 自分から? ……すごく、怖い。

 

 ハルくんへの想いを自覚した初夏。

 ただ、見ているだけの日々。

 時たま、神様の気まぐれのように話せることもあったけど。

 夏休みは、長かったな。それでなくても長い大学の夏休み。まったく会えない時間。ハルくんを見ることすらできない時間が延々と続いて。それでも、まだ夏は耐えられた。

 秋が来て、英語の課題をきっかけに、思いがけず連絡先を交換できて。学祭を手伝ったり、お礼って一緒に出掛けたり。

 また元の日々に戻ったかと思ったら、体調壊した私をわざわざ家まで送ってくれたり。

 お礼メールを送ってみれば、そっけなかったり。

 そしてまた、ほとんど見ているだけの日々に戻っていて。

 だけど。


 だけど、私は、もう知ってる。


 ……つないだ手のぬくもり。名前を呼ぶ声。少しだけ辛そうな笑顔。つかまれた腕の強さ。


 ……ハルくん。

 ハルくん。

 ハルくん。


 知らなかった日には、戻れない。


 クリスマスの後は、また休みが続く。お正月を過ぎれば、後期試験があるだけで。その後は、春まで会えない。

 このまま、だったら。

 また、ずっと、会えないまま。

 そんなの。


 ……会いたい。


 ハルくんに、会いたい――――。



 会いたいと思うほど、会えなくて。

 頼みの綱の英語の講義ですら、姿を見かけなかった。

 クリスマス当日とか、イブとか、それはさすがに無理だろう。だったら、もう、会える日なんてほとんど残ってない。

 このまま、会えずに春まで? 会えなければ、いっそあきらめられていい?

 そんな問いかけを繰り返して。


 十二月二十三日、仲のいい女子だけでイブイブを過ごす。自宅が遠い千裕と私も、ちょうど中間に位置する街で、いつもの四人が集まって。

 千裕も明日菜も、クリスマスは彼と。さっちーも、なんだか予定があるみたい。

 女子会トークは、楽しくてあっという間に時間が過ぎた。

「美緒、あれから、ハルくんに会った?」

そろそろお開きかな、という時間になって、千裕が聞いてきた。

 私は首を振る。なんだかぐるぐる考えてるうちに日にちだけ、経ってしまってて。

「それで、いいの?」

それでも私が黙っていると、

「自分の気持ちに素直に動いた方がいいこともあるよ?」

さっちーが言った。

「骨は拾ってあげるから」

そういう明日菜は、さっちーに軽くたたかれる。

 うん。

 どうしても、会いたいなら、伝えるしか、ないよね。


 心配する友人たちと別れ、都香駅に着いた。いつも乗り換える、ターミナル駅。

 帰ろうと思ったけど。

 電車に乗るのをためらった。一本電車を見送って、ホームに残る。

 電車から降りてきた人の波が、改札への階段に吸い込まれていって。

 鞄から取り出したケータイに文字を打つ。

"都香駅にいます。会いたいです″

 待ってみようと、思った。こんな強引なの、迷惑かもしれないけど。でも。

 ホームから階段を下り、改札を出て。

 さらに階段の下に大型書店がある。ここなら、遅くまでやってるし。私は、待てるだけ、待ってみることにした。


 ハルくんにメールしたのが、八時半過ぎ。

 それから、もう、一時間以上たった。返信は、ない。

 この本屋さんも、十時まで。もうすぐ閉店ですよと、アナウンスと音楽が流れてきた。

 この後は、どうしよう。ぎりぎりまでここにいて、それから後は、外で待つしかないよね。

 十時過ぎ。外は、結構寒い。人の流れが、少し足早になってきたような気がする。

 ケータイの画面を見て、操作してるふりをする。

 さっきは、酔っぱらったおじさんたちに話しかけられた。中の一人がまだ崩れてなくて、ほかの人たちを引っ張るように、すぐに、駅の方に行ってくれたけど。何かしてないと、不安。

「ひとりー?」

明るい声がして。

 二人組の男の人。

「さっきから、ずっと待ってない?」

「もしかして、すっぽかされた?」

私が答えないでいると、

「そんな時間あるんだったら、俺らと飲みに行こ?」

と腕をとられる。

「あの、飲めませんから」

「はあ?」

「なにゆってんの?」

「み、未成年、なので」

……やだ、間違えた!

「やば、うけるー」

「そっか、まだ十代ね、いいじゃん、ほら」

「あの、人を待ってるので」

「でも来てないじゃん」

「ほんとに来んのー」

嫌だ、泣きそう。

 でも、自分でまいた種だもん、何とか切り抜けなきゃ……。


「美緒!」


 ハルくんの、声がして。

 階段の上の広場から、のぞき込むようにハルくんが身を乗り出していた。

 ハルくんは、そのまま、階段を駆け下りてきてくれて。

「ちぇー、なんだ、連れが遅れてただけか」

そう言って男の人たちは、立ち去ってくれた。



 

 



 

  

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