13
もうすぐクリスマス。確かに。
だからって、どう動いたらいいのかわからない。
自分から? ……すごく、怖い。
ハルくんへの想いを自覚した初夏。
ただ、見ているだけの日々。
時たま、神様の気まぐれのように話せることもあったけど。
夏休みは、長かったな。それでなくても長い大学の夏休み。まったく会えない時間。ハルくんを見ることすらできない時間が延々と続いて。それでも、まだ夏は耐えられた。
秋が来て、英語の課題をきっかけに、思いがけず連絡先を交換できて。学祭を手伝ったり、お礼って一緒に出掛けたり。
また元の日々に戻ったかと思ったら、体調壊した私をわざわざ家まで送ってくれたり。
お礼メールを送ってみれば、そっけなかったり。
そしてまた、ほとんど見ているだけの日々に戻っていて。
だけど。
だけど、私は、もう知ってる。
……つないだ手のぬくもり。名前を呼ぶ声。少しだけ辛そうな笑顔。つかまれた腕の強さ。
……ハルくん。
ハルくん。
ハルくん。
知らなかった日には、戻れない。
クリスマスの後は、また休みが続く。お正月を過ぎれば、後期試験があるだけで。その後は、春まで会えない。
このまま、だったら。
また、ずっと、会えないまま。
そんなの。
……会いたい。
ハルくんに、会いたい――――。
会いたいと思うほど、会えなくて。
頼みの綱の英語の講義ですら、姿を見かけなかった。
クリスマス当日とか、イブとか、それはさすがに無理だろう。だったら、もう、会える日なんてほとんど残ってない。
このまま、会えずに春まで? 会えなければ、いっそあきらめられていい?
そんな問いかけを繰り返して。
十二月二十三日、仲のいい女子だけでイブイブを過ごす。自宅が遠い千裕と私も、ちょうど中間に位置する街で、いつもの四人が集まって。
千裕も明日菜も、クリスマスは彼と。さっちーも、なんだか予定があるみたい。
女子会トークは、楽しくてあっという間に時間が過ぎた。
「美緒、あれから、ハルくんに会った?」
そろそろお開きかな、という時間になって、千裕が聞いてきた。
私は首を振る。なんだかぐるぐる考えてるうちに日にちだけ、経ってしまってて。
「それで、いいの?」
それでも私が黙っていると、
「自分の気持ちに素直に動いた方がいいこともあるよ?」
さっちーが言った。
「骨は拾ってあげるから」
そういう明日菜は、さっちーに軽くたたかれる。
うん。
どうしても、会いたいなら、伝えるしか、ないよね。
心配する友人たちと別れ、都香駅に着いた。いつも乗り換える、ターミナル駅。
帰ろうと思ったけど。
電車に乗るのをためらった。一本電車を見送って、ホームに残る。
電車から降りてきた人の波が、改札への階段に吸い込まれていって。
鞄から取り出したケータイに文字を打つ。
"都香駅にいます。会いたいです″
待ってみようと、思った。こんな強引なの、迷惑かもしれないけど。でも。
ホームから階段を下り、改札を出て。
さらに階段の下に大型書店がある。ここなら、遅くまでやってるし。私は、待てるだけ、待ってみることにした。
ハルくんにメールしたのが、八時半過ぎ。
それから、もう、一時間以上たった。返信は、ない。
この本屋さんも、十時まで。もうすぐ閉店ですよと、アナウンスと音楽が流れてきた。
この後は、どうしよう。ぎりぎりまでここにいて、それから後は、外で待つしかないよね。
十時過ぎ。外は、結構寒い。人の流れが、少し足早になってきたような気がする。
ケータイの画面を見て、操作してるふりをする。
さっきは、酔っぱらったおじさんたちに話しかけられた。中の一人がまだ崩れてなくて、ほかの人たちを引っ張るように、すぐに、駅の方に行ってくれたけど。何かしてないと、不安。
「ひとりー?」
明るい声がして。
二人組の男の人。
「さっきから、ずっと待ってない?」
「もしかして、すっぽかされた?」
私が答えないでいると、
「そんな時間あるんだったら、俺らと飲みに行こ?」
と腕をとられる。
「あの、飲めませんから」
「はあ?」
「なにゆってんの?」
「み、未成年、なので」
……やだ、間違えた!
「やば、うけるー」
「そっか、まだ十代ね、いいじゃん、ほら」
「あの、人を待ってるので」
「でも来てないじゃん」
「ほんとに来んのー」
嫌だ、泣きそう。
でも、自分でまいた種だもん、何とか切り抜けなきゃ……。
「美緒!」
ハルくんの、声がして。
階段の上の広場から、のぞき込むようにハルくんが身を乗り出していた。
ハルくんは、そのまま、階段を駆け下りてきてくれて。
「ちぇー、なんだ、連れが遅れてただけか」
そう言って男の人たちは、立ち去ってくれた。




