↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/14

14

「なに、してんの」

上から降ってくるハルくんの声がいつもより低い。

 怒ってる……?

「こんなとこで、一人で。何かあったら、どうする気?」

「……ごめんなさい。でも」

ハルくんが、目の前にいる。来てくれた。それだけで、もう……。

 ほんとに、もう、いっぱいいっぱいで。

 張りつめてたものが切れてしまって。泣きそう。

「場所、変えよっか」

ふう、と大きくため息をついてハルくんは言い、私の手を取って歩き出した。

 こんなふうに、来てくれて。手をつないだり、するから。

 だから……。


 駅近くのカフェに落ち着き、向かい合って座った。

「俺が、来れなかったらどうするつもり?」

ハルくんの口調は堅い。

「でも、ハルくん来てくれたし」

「バイト、入ってたし。メールから、ずいぶん経ってたから、もういないだろうって思ってたのに」

それでも、無駄足になるかもしれないのに、来てくれた。

 やっぱり、ハルくん、だから。

「もうちょっとだけ、って思って」

「……勘弁して。なんで急に」

「だって、下手したら、もう、春まで会えないから、だから」

会いたくて。

「俺も、その方がいいかなって、講義抜けてたのに?」

え?

「それ……ハルくん、わざと?」

ハルくんは、答えない。

 答えないってことは、意図的だったってことだ。

 なに、それ?

 忘れさせようとか、そういうの? 

「どうして?」

「やめといたほうが、いいかなって」

「だから、どうして?」

「彼女いるし」

「そんなの……知ってる」

「彼女から奪うとか、美緒は、そういうタイプじゃないくせに」

そう言って、ハルくんが少し笑う。嫌な笑い方。

 タイプとか、そういうの、違うのに。奪うとか、そういうことじゃなくて……。

「美緒は、どうしたいの?」

なんでこんな風に、ハルくんは私を追い詰めようとするんだろう?

「彼女いても、いい? 俺と、付き合う? 付き合っても、好きになれなくても、いい?」

追い打ちをかけるように一気にハルくんは言った。

 ……違う。違うのに、言葉にならない。

 私は、馬鹿みたいに頭をぶんぶん振った。

「やめよう、美緒」

ハルくんは、今度は優しく言う。

「俺、せりと明日から出かけるし。今度は、今までより上手くいきそうだから」

だから、ごめん、あきらめて、と。

 泣かないように、泣かないように、せき止めて。

 必死に耐えて。

「ハルくん」

「ん?」

なんでそんなに甘く、私を促すかな。

「好きになろうと思って、好きになれないのと同じで。好きでいるのをやめようと思って、やめられたりできない」

……できたら、いいのにね。


 ハルくんは、また駅まで私を送ってくれた。わざわざ同じホームにまで来てくれて、一緒に私の乗る電車を待ってくれた。

 アナウンスが、列車の到着を告げる。

「ごめん」

そう言って、ハルくんは、一瞬だけ私の頭を抱き寄せた。

 滑り込む、列車。列車待ちの雑踏。

 列車の扉が開くと、下りてくる人波が、スローモーションのように私たちを避けていく。

「気を付けて」

そうしてハルくんは、一番最後に私を列車に押し込んだ。

 動き出す列車の扉の窓から、私はずっとハルくんを、見えなくなるまで見つめ続けていた。



 ハルくん。

 私、なんでこんなところで、泣いてるんだろう。

 家路につく、夜更けの列車。あともう一回乗り換えて、それから、遅くなっちゃったから、駅からは、タクシーかな。

 付き合ってもいないのに、別れてきたみたい。

 なんだか、変だよね。

 ねえ、ハルくん。

 謝られても、突き放されても、嫌いには、きっとなれそうもないよ。

 だって、前より、もっと。

 好きになってる。


 このまま、年が明けて、そして春が来るまで。

 あなたに、会えなくても。

 また、あなたのいるところを、ずっと探し続けるだろう。



 ハルくん。

 こんなに、好きで、届かなくて。

 ……でも、終わらない、


 ――――sweet pein.







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。