二度目の初恋
――はっきり言って、ライゼント学院高校は、頭がおかしい。
だって……愛の神をその身に宿すギャルを、生徒として普通に通わせているのだから。
あの後、理事長のツバキさんは一連の事件の後始末に追われた。
邪神徒による精神汚染の被害者は奇跡的にゼロだったけれど、学院を含む建造物の破損が目立った。
アコード省とも連携し、修繕や補償を進めているらしい。
事件に関わった邪神徒は一人残らず拘束され、そのまま逮捕された。
もちろん、主犯格であるツバメも。
これから量刑が審議されるところだが、僕はツバメに一度も会っていない。
もう二度と会うことはないと思う。
ホトギが生配信していたこともあり、邪神徒による邪神復活未遂はニッポン中の関心を集め、連日ニュースに取り上げられた。
数年後には教科書にも載るかもしれない。
けれど、誰も知らないだろう。
アメノの復活を阻止したのが、ギャルに転生した女神であり……
それを目覚めさせたのが、僕のキスだったなんて。
あれから二週間。
破壊された街の修繕も進み、今日からライゼント学院では通常授業が再開された。
だけど僕は、登校しなかった。
寮を出て、そのままゲームセンターへと向かった。
ツバメへの復讐という宿願を果たした今、学院に通う意味も、神律師でいる意義もなくなってしまった。
達成感の賞味期限はとうに切れ、今は燃え尽きたような虚無感だけが残っている。
……いや、違う。
これは言い訳だ。
学院に顔を出したくない理由は、もっと別にある。
……気まずいのだ。
身勝手にファーストキスを奪ってしまったヒメカに会うのが。
あの後ヒメカは、気を失ったまま病院に運ばれた。
何度か見舞いに行ったけれど、彼女が寝ているタイミングを狙って行ったから、あれ以来会っていない。
……これでいい。
このまま、会わないでいよう。
僕がバディでいる限り、ヒメカは一生貰魔力を稼げない。
彼女のためにも、僕は学院を辞めるべきだ。
大丈夫。元々、何者でもなかったんだ。
ヒーローでもヴィランでもない。
愛されないし、愛することもない。
選ばれないならこっちだって選ばない。
そんな存在に戻るだけ。
……そう。
このゲームの、つまらないモブキャラに戻るだけ。
と、無心でゲームのボタンを操作していると――
「――わ。ゲーム、めっちゃうまいじゃん」
後ろから、声をかけられた。
振り返った先にいたのは、ギャル。
騒音塗れなこの場所にあまりに不相応な、最強でメッカワな、ギャルだった。
「あたし、やったことないからさ。やり方教えてよ――リィト」
――ヒメカ・ヒメツカワ。
二週間ぶりの目には眩しすぎる笑顔で、彼女は僕を見つめた。
「ヒメカ、ちゃん……なんで……」
「なんでって、それはこっちのセリフだし。なに学校サボってんの? 反抗期?」
「いや、その…………ごめん。君に、申し訳なくて」
「え? なにが?」
「……キス。あんな形でしちゃったから。合わせる顔、ないなって」
我ながらダサすぎる。
見つかった挙句、後出しで謝るなんて。
俯く僕の顔を、ヒメカが覗き込む。
そして、両手で頬を挟まれ、無理やり上を向かされた。
「ホントだよ! 言っとくケドあたし、めっっちゃキレてっかんね?!」
「……そうだよね。あんなことしたんだ。本当に申し訳……」
「だって――あたしからキスするって言ってたのに!!」
………………え?
聞き返そうと開いた口は、すぐに塞がれた。
ヒメカの、強引で唐突な――キスによって。
重なる熱。柔らかな感触。
香水じゃない、ヒメカの香り。
そして…………
……不慣れが故にぶつかる、前歯と前歯。
「…………ったぁっ! 歯ぶつかるとか聞いてないし! キスむっず!!」
いつもの調子でヒメカが騒ぐ。
けれど僕は、言葉を失う。
こんな幼稚で荒っぽいキス……逆に初めてだったから。
「……あたし、諦めないから」
僕の頬を包み、ヒメカが言う。
「ぜったいぜったい、リィトをときめかせる……リィトに恋を思い出させるっ。だから……逃げてもムダだよ」
そして、困ったような、今さら照れているような、弱々しい上目遣いをして、
「リィトが側にいないと落ち着かないのっ。学校にいても寮にいても、リィトのコトばっか考えちゃって……どうしてくれんの?!」
「ヒメカちゃん……」
「あたしばっか振り回されててズルいっ! リィトもあたしで頭いっぱいになってよ! いい加減、あたしに…………『キュン』ってしてよ」
…………っ。
――『キュン』。
…………電子音が鳴った。
ヒメカの、バイタリストから。
「……え。今のって…………」
信じられない様子で、ヒメカが液晶画面を見る。
すると……
――[Accord Scale:1]
誤魔化しようのないその表示に、僕は汗をダラダラ流し……ヒメカは、ぱぁっと笑う。
「リィト!!」
「違う」
「『キュン』って!!」
「違うっ」
「したでしょ?! あたしに!!」
「ちがーーうっ!!」
嗚呼、嘘だ。
こんな……ムードも何もない、お子様キスにときめかされるなんて。
「わーいっ、やったやったー! ふふーん。リィト、案外チョロいね」
…………このギャルめが。
僕は悔しくなって、ヒメカの腰を抱き寄せる。
そして、顎をくいっと持ち上げて、
「……違うよ」
「へっ?」
「教えたでしょ? キスは…………こうするんだよ」
メガネの奥に、密かな降伏を隠しながら。
二度目の初恋を奪った彼女に、僕は…………愛を込めて、キスをした。
―完―
これにて完結です。
お読みいただき、ありがとうございました!
念願の商業デビュー1作目が、2026年5月2日(土)NolaブックスGlanz様より発売となります。
タイトルは、
「日常感ゼロな俺の青春崩壊ラブコメディ〜異世界の姫と魔王とタイムトラベラーと世界を救う話」
です。
異世界転移×異世界転生×タイムトリップな非日常系ラブコメディですので、よろしければチェックしてみてください!




