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ぎゃるめがっ!!!〜ときめきが魔力になる学園で、魔力ゼロなチョロかわギャルとバディになった話〜  作者: 河津田 眞紀@5/2ゼロラブ第1巻発売!
8.メガネと遊園地

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24/50

はじめてのデート




 ――ツバメと付き合っていた頃、外食といえばおしゃれなカフェか、落ち着いたレストランに行くことが多かった。


 中学生の僕には分不相応な店ばかり。

 せめて格好だけでもそれらしくしたくて、服を買うところから始めた。

 背伸びをした僕の装いを見て、ツバメは「可愛い」と笑った。


「……カッコいいって言ってよ」

「もちろんカッコいいよ。でも……私に合わせて頑張る君が、最高に可愛くて、愛しいの」


 そう言って、柔らかに笑うツバメ。

 そりゃあ笑うよな。

 僕みたいなカモガキが、自分の思い通りになっている様を見るのはさぞ気分が良かっただろう。



 ……そんなわけで。

 デートや食事はいろいろしたけれど、こうして女の子とハンバーガーを食べに来るのは初めてなわけで――




「――んんっ?! うんまーっ! 肉汁やっばー!!」


 ほっぺをハムスターみたいに膨らませながら、ヒメカが目を輝かせる。

 ただでさえ大きな瞳が、こぼれてしまいそうだ。


「うん、おいしいね。パイナップルがいいアクセントになってる」

「だよねだよね! ぜったい合うと思ってたんだぁー! 肉×パイナップル無理な人もいるじゃん? あたしは全然アリなんだけど!」


 ……と、そこで。ヒメカは急にはっとなって、


「今さらだケド……リィトは肉×パイナップル大丈夫な人だった? あたしに合わせて無理させちゃってたら、まじでごめん……」


 ……なんて、上目遣いで尋ねる。


 ヒメカは、可愛い。

 基本、能天気なギャルだけれど、相手のことをよく見ているし、気遣いもできる。こういうギャップにやられる男は多いはずだ。

 バディを組んだのが僕でなければ、今ごろ一回くらいは『キュン』が鳴っていたのかもしれない。


 こんな恋愛不感症な男と組むことになってしまって、本当に申し訳ない。

 そう思いながら、僕は微笑んで答える。


「僕もどちらかというと、肉×パイナップル否定派だよ」

「ひっ……まじ?! ごごごごめん!!」

「ううん。苦手というより、ただの食わず嫌いだったから。今日、初めて食べてみて……アリ寄りになった」


 ――ぱぁああっ……。


 ヒメカの顔が、わかりやすく綻ぶ。

 うん、やっぱり可愛い。


「ね、ね! おいしいよね! 一度知っちゃうとパイン無しじゃ物足りなくなるくらい!」

「いや、そこまでではないかな」

「がーんっ!」


 ショックを受ける時もオーバーリアクション。

 そんなヒメカに、僕は紙ナプキンを差し出して、


「うそうそ。……また食べに来ようね」


 彼女の口の端に付いたソースを、そっと拭った。

 直後、


 ――『キュン』


 ……と鳴る、僕のバイタリスト。

 まぁ、なんとなく予想はしていたけれど。


「も……もうっ。そういうのズルイっ!」

「今のはヒメカちゃんがあざといよ。こんな口元にソース付けて、『拭いて』って言ってるようなものじゃない」

「わざとじゃないし! 気付かなかっただけだし!!」


 ぶんぶん手を振るヒメカ。

 たしかに、こういうあざとさを計算で発揮できるようなタイプではないか。だからこそ、一緒にいて楽なんだけれど。


「なんか、いつも貰魔力(サレチカ)もらってばかりでごめんね」

「ほんとだよ!!!!」

「それを踏まえての提案なんだけど……今度の競技大会、こないだみたいに僕がヒメカちゃんをサポートするのはどうかな?」


『こないだ』というのは、クラスでやった実戦演習のことだ。

 ミコ・ミコシバとの対戦で、僕が賜魔術(アコード)を使い、ヒメカが発動させたのだと周囲に錯覚させた。


「僕が賜魔術(アコード)を使えるのは、ヒメカちゃんからもらう貰魔力(サレチカ)のお陰。つまり、元はヒメカちゃんの力ってことだ。それを使って君の賜魔術(アコード)を偽装するのは、間違ったことではないんじゃないかな」


 恐らくヒメカは、貰魔力(サレチカ)を集めにくい体質なのだろう。

 それは、貰魔力(サレチカ)を他者に与える力――愛する力である『与魔力(スルチカ)』が強すぎるが故の弊害なのかもしれない。


 バディである僕も不感症(こんな)だし、大会までにヒメカが貰魔力(サレチカ)を稼げる見込みはほぼない。

 だったら、初めから賜魔術(アコード)の偽装に全振りした方がいいんじゃないかと考えた。


 しかしヒメカは、すぐに首を振る。


「ダメッ! 大会までまだ一ヶ月あるんだよ? 少しでも貰魔力(サレチカ)稼いで、自分で賜魔術(アコード)使えるようにがんばるし!」

「でも……稼ぐって、どうやって?」

「うぅ……」


 ヒメカがしゅんとうなだれる。

 が、すぐに顔を上げ、ニヤリと笑って、


「ふふん……今日ね、新しい下着つけてるんだ。紐っぽい、けっこうキワドイやつ」


 ちらっ……とブラウスの前を開き、胸の谷間を覗かせる。


「どんだけキワドイか気にならない……? 『キュン』してくれたら……見せたげてもいいよ?」


 細めた目に、挑発的な囁き。

 襟の向こうに見える双丘は明らかに豊満で、張りがあるのに柔らかそうだ。


 二年前の僕なら、間違いなくやられていただろう――そう、未経験で初心(うぶ)だった僕ならば。

 残念ながら今の僕は、紐みたいな下着も、その下に隠された柔らかさも、嫌というほど履修済みだ。

 谷間を見せられたくらいでは、今さら何も感じない。


 可哀想なヒメカ。

 男の注意を引く方法を他に知らないのだろう。


 だから、僕は……はっきりと教えてあげることにする。


「ヒメカちゃん…………その下着なら、今朝見たよ」

「………………へっ?」

「朝、時間ギリギリまでメイクしていたから慌てて着替えたでしょ? 僕がいるのに、構わず下着姿になって」

「で、でも……ちゃんと背中向けてたしっ……!」

「ごめん、鏡に全部映ってた」

「………………!!!!」


 ぼっと茹で上がるヒメカの顔。

 やはり気付いていなかったか。


「悪いけど、僕に色仕掛けは通用しないよ。そういうのはぜんぶ経験済みだから」

「くっ……」

「だいたい、こんなことで顔真っ赤にするくらい初心(うぶ)なんだから、無理しないで。貰魔力(サレチカ)のために自分を安売りするなんて駄目だよ」

「……だって」


 ヒメカが顔を歪める。

 そして、真っ直ぐに僕を見つめて、


「だって……わかんないんだもん。どうしたらまた、リィトが『キュン』できるようになるのか」


 なんて切なそうに言うから……僕は昨日言われたセリフを思い出す。



『…………あたしが、変える』

『あたしが、リィトに「ときめき」を思い出させてあげる! 元カノのことなんか忘れるくらい……めっちゃくちゃに、キュンキュンさせたげるよ!!』



 ……まさか本当に、僕の恋愛不感症を治そうとしてくれているのか?


 思わず言葉を詰まらせていると、ヒメカはむっと唇を尖らせて、


「だから…………デートしよ」

「…………え?」

「あたしとデートっ! しよ? ちょうどメルりんから遊園地ライブのチケットもらったし! 行くっきゃないっしょ!」


 言って、今朝もらったチケットを掲げる。

 そういえば、僕ももらったんだった。


「遊園地なんて行くだけでワクワクドキドキじゃん! あと、割り箸効果? とかゆーのでときめきやすいって聞くし!」

「吊り橋効果ね」

「絶叫乗ってお化け屋敷入って、ライブでアガって! 最後に観覧車乗れば『キュン』ってくるでしょ! ね? 決まり!」


 遊園地デート……もちろんこれも経験済みだ。

 正直、目新しさはない。

 けど、


「あたし、男の子と遊園地行くの初めて! ってゆーか、デート自体初かも! 楽しみだね、リィト!」


 そう言って笑うヒメカが、あまりに無邪気だから。

 僕は……断る理由がなくなってしまって。


「……うん。僕も、楽しみにしてる」


 建前半分、本音半分な答えを、微笑みながら返した。




 * * * *




 ――ということで、一週間後の週末。

 第2ヨコハマ新都市で一番大きな遊園地に、僕は来た。


 待ち合わせ時間の十分前に到着。

 しばらく待っていると、ヒメカがエアスケーターを滑らせ近付いて来た。


「おっはよーリィト! デートにぴったしのいい天気だね!」


 今日も今日とて、ヒメカは完全無欠のギャルだ。

 ゆるめのトップスにタイトなミニスカートがよく似合っている。


「おはよう、ヒメカちゃん。今日のメイクはピンクっぽい色味だね。可愛い」

「んにゃっ……!」


 ――『キュン』


 ……そうか。これだけでときめくのか。

 ごめん、女の子の変化に気付いたら即褒めるっていう習慣が抜けなくて。


「あ、ありがと。今日はデートだから……気合い入れて、女の子っぽくしてみた」


 照れながらもじもじと目を逸らすヒメカ。

 僕が不感症じゃなかったら、間違いなく『キュン』としている可愛さだ。


「そういうリィトは、いつものもっさりメガネスタイルなんだね。てっきり顔出して来るのかと思ってた」

「うん、念のためにね。エンジュさんにも会うわけだし、そうでなくても人の多い場所だから」

「そっか。たしかに、顔バレはしない方がいいもんね」

「ヒメカちゃんはおしゃれして来てくれたのに、僕はいつも通りでごめんね」

「別に? だってリィトはリィトじゃん。ほら、行こ?」


 スケーターの車輪をしまい、ヒメカが手を差し出す。

 当たり前に放たれた言葉に、僕は面食らう。


 僕が素顔でいようが地味なメガネに徹していようが、ヒメカには関係ないらしい。

 言われてみれば彼女は、地味メガネな僕にも度々キュンキュンしている。


 ヒメカにとって、顔や装いは二の次。

 大事なのは、相手の"本質"……そう思っているのかもしれない。


 ……本当に、ツバメとは大違いだ。

 いや、こうしてツバメと比べること自体、ヒメカに失礼か。



 今日は、ヒメカとの初デート。

 僕だって楽しみにしてきた。

 過去のことは置いて、純粋な気持ちで楽しもう。



 僕は、差し出された手をきゅっと繋いで、


「うん。最初はどこから行こうか?」


 賑やかな音楽が鳴る方へと、歩き出した。



 

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