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衛生兵 ベルナ  作者: mask
二等兵 アデル

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13/14

二等兵 アデル10

 そしてアデルが連れて来られたのは廊下の両端に鉄の扉が並ぶ場所。

 気付けば悲鳴などは静まっていた。

「こ、ここは……?」

「ここは尋問室だよ。今は帝国軍の捕虜から情報を引き出すために尋問してるの」

 何事もないように説明するマネリ。

 彼女の温かい手が、今やアデルにとって自分をここから逃がさないための手枷に思えていた。


 ガチャン


 一番手前の扉が音を発てて開く

「ひっ!?」

 現れたのは士官服の女性。

 スラリとした立ち姿はモデルのようだ。

 だが、その頬は血で汚れていた。

 他の扉も次々と開かれる。

 晴れやかな顔の者、押し黙る者、欠伸をする者、タバコを吸う者、ナイフをいじる者。

 計六人の士官服の軍人。

「皆さーん! お仕事お疲れ様です!」

 アデルの隣でビシッと敬礼するマネリ。

 六人の軍人はマネリたちを目に捉える。

「相変わらず騒がしいわね」

 初めに出て来た女性軍人が目を細める。

 ルビアと似た顔立ちと目つき。

 だがルビアよりも他者を威圧する瞳。

「今日のあなたは休みのはずだけど。何しに来たの?」

「はい! 少佐殿! マスクド大佐殿より本日から配属された新人の教育を任されましたので! 早速仕事場の案内を! ほら、アデルちゃん」

 ポンポンと背中を叩かれて、やっとアデルは動けるようになる。

「あ、アデルーー」

「自己紹介は必要ない。大佐殿より資料はいただいている。アデル・ヴィクナ二等兵。私は諜報課をマスクド大佐殿より預からせていただいているメリッサ・ガードナー少佐だ。君の直属の上官となる。何か質問は?」

「あ、いえ」

 メリッサの瞳にアデルは萎縮してしまう。

「少佐殿。次もありますから早めに休みましょう」

 他の軍人がメリッサを促す。

「ああ。マネリ少尉。ちょうど良い。あれを部下たちと一緒に片付けておけ。私たちは休憩に入る」

「承知しました〜!」

 二人の横をメリッサたちは通り過ぎていく。

 それを見届けたマネリは近くの扉をノックする。

「片付けの時間ですよ〜」

 その声に応えるように扉が開く。

「ういーす」

 戦闘服を着た兵士たちが複数人出て来る。

 全員がライフルを所持していた。

「マネリ少尉、これから何を?」

「上官たちの仕事の片付けだよ〜」

 兵士たちが一番手前の部屋に入って来る。

 そこはメリッサが出て来た場所。

「……っ」

 何かを引き摺る音。

 兵士が背中から出て来る。

「見ない方が良い」

「っ!?」

 唐突にアデルの自由が奪われる。

 再び硬直するアデル。

 彼女の視界が真っ暗になる。

「あれ〜? ルビア大尉、どうしたんですか〜?」

 マネリの声でアデルはルビアに抱き締められていることを知る。

「マネリ少尉。いきなり現場に投入するな。また新人を壊す気か?」

「何を仰っているんですか? こういうのは早めに体験して慣れないと〜。男女の関係と一緒ですよ。初体験は痛いですけど、慣れればそれもう気持ち良くーー」

「口を慎め」

 冷えた声。

「おーこわ。そんなに怒らないでくださいよ〜。眉間の皺が固着して消えなくなりますよ? というかこれは私がマスクド大佐殿から与えられた大事な任務。邪魔をするんですか? 罰せられても知りませんよ〜?」

「お前よりは大佐殿の信頼を得ている。それにたとえ罰せられても受け入れる」

「…………チッ」

 足音が遠ざかっていく。

「目を閉じてるか?」

 ルビアの問いが自分に向けられたものだとアデルは気付き、ルビアの胸の中で頷く。

「そのまま閉じていろ。心を壊したくないならな」

 ルビアの動きにアデルも足を動かす。

 来たときよりも時間をかけてゆっくりと二人は建屋を出る。

「もう良いぞ」

「は、はい」

 ルビアから解放されるアデル。

「あ、ありがとうございます、大尉殿」

「入ったばかりの新人を潰すわけにはいかなかっただけだ。それにしてもマネリ少尉め、危惧していた通りの行動をするなというのに」

「あ、あの」

 呆れ返るルビアにアデルは恐る恐る口を開く。

「た、大尉殿。あの建屋はなんなんですか?」

 アデルの怯えた目は出て来たばかりの建屋に向けられる。

「あそこは諜報課の仕事場だ。前線で捕らえた捕虜をここで尋問して情報を得て後方の収容所に送る」

「こ、殺してはいないんですよね?」

 まだアデルの耳には悲鳴がこびりついていた。

「……バレたら国際法と条約に違反するからな」

 それがルビアの答え。

 つまりここで行われているのはグレーの業務。

 いやすでに真っ黒の可能性もあった。

「どうして私が諜報課に? 私は適していないと思いますが」

「理由は二つある」 

 顔をあげられないアデルを不憫そうにルビアは見下ろす。

「まずひとつは帝国語を話せることだ。他の基地や捕虜収容所では基本的に担当の軍人以外に通訳がつく。だがここでは元から帝国語を話せる者を集めて業務に携わらせている。尋問だけが私たちの仕事じゃないからな」

「ではもうひとつは?」

「人間を殺しても罪悪感で潰れなさそうだからだ」

「それじゃあまるで私が殺人鬼みたいじゃないですか……」

「だが機会があれば帝国人を殺したいだろ?」

「っ!?」

 アデルはゆっくりと顔をあげる。

 射抜くようなルビアの瞳がアデルの心を見透かす。

「お前は母親を帝国人に殺され、お前自身は捕縛された。そしてーー」

 ぐっとルビアの首が絞められる。

「こんな力では誰も殺せないぞ?」

「っ!? も、申し訳ありません、大尉殿!?」

 アデルは自分がルビアの首を絞めていたことに気づき、慌てて両手を離す。

 自分が誰かを殺そうとしたことにアデルは青ざめる。

「いや。お前のトラウマを煽った私が悪い。罰したりしないから安心しろ」

「……はい」

 震える手がダラリと垂れる。

「お前の部屋に案内する。マスクド大佐殿の命令通りしばらくは療養に努めろ。身体も、心もな」

 ルビアに手を引かれる。

 自分の行いに恐怖したアデルは引っ張られるままだった。

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