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36話。結末と裏切り

「つっ!?」

月熾さんの顔がみるみるうちに青ざめ、苦しそうに呻くと胸をかき抱いて蹲る。


「月熾さん! 大丈夫ですか!?」

「だ……大丈夫……ですよ」

安心させようと笑みを浮かべた口はヒクヒクと動き、眉は苦痛に歪んでいる。……何処をどう見ても大丈夫な筈がない。


「うっ……ゲホッ」

1度何かを堪えるように俯いたかと思うと、口を手で覆った。


少しして離された掌が、胃液と何やら赤いもので汚れているのが僅かに見え、慌てて駆け寄る。


常に何らかの苦痛に襲われているのだろうか。歪みきった表情が戻る気配は無く、噛み締めた唇からは、赤い液体が滴っている。


時間経過で少しばかり回復していた光を手に集め、何か出来ないか試行錯誤する。

(凛みたいな回復が出来ないか!?でも、もし魔王(あいつ)みたいになったら……)


無機物()を光で覆ったとき、強化とも言えるような状態になり、攻撃力が増した。

しかし、有機物(魔王)に光が当たったとき、粒子となって消えていった。


それは、亡くなった生き物が腐り落ち、分解されて植物の栄養になるのと同じように。

それは、栄養を得て成長した樹木が寿命を迎え、土に還るのと同じように。


自然の摂理とばかりに、魔王()は解けて消えていった。


そんな力を使うわけにはいけない。


(僕には何も出来ないのか? 今度は()()()()()()のに……)


焦る僕の耳に、掠れた声が聞こえた。

「ふじ……ひろ…………さん」

「どうしたんですか!?」

例えこれが最期の言葉だったとしても、いや信じたくはないが、であろうからこそ一言一句たりとも聞き逃すまいと耳を寄せる。

「さいご……にっ…………











……騙されてくれて有難う」

「えっ……?」


先程の苦しげな声とは一転、明るく楽しげな声がしたかと思うと、腹に衝撃が走り、視界が暗転していく。


ぼやけていく視界の中、僅かに見えたのは、三日月のように目を細め、口の端を歪めて愉しそうに嗤う月熾さんの姿だった。


“騙された!”そう憤っても可笑しくない……いや、それが普通といえるこの状況で、ただ僕の中にあったのは、「安堵」と「喜び」だった。

(良かった……苦しくは、無かったんだ……)






…………やったね」

「……様にお褒めの言葉を……とは、感無量……いますっ……!」


ざわめきで目を覚ます。

辺りを見回しても、そこは気を失う前と変わりの無い謁見の間だった。


ただ1つ違うのは、魔王が座っていた玉座に、見知らぬ少年が腰掛け、彼に向かって銀髪の青年が跪いていること。


状況を確認しようと体を起こそうとしたとき、床につこうとした手が動かなかったことで、両手が後ろ手に固定されてることに気づく。


石の枷……だろうか。ざらざらとした独特な質感と、ひんやりとした冷気を感じるそれで、腕だけとはいえ自由を奪われていた。


なんとか肘や足を使って上半身を起こし、座り込む。


身動ぎしたときの音が聞こえたのか、そうしてるうちに少年が此方に目を向ける。


「おや? 起きたの?」

まず、玉座に腰掛け、足をぶらつかせている少年が玲谷が動き出したのを見て、声を掛けてくる。


その少年は、“黒”だった。

全体的には短くも、顔の両側だけ長い不思議な形状の艶やかな黒髪を前に流しており、羽織った黒のケープから伸ばした足をぷらぷらと揺らしていた。


さらに顔の上半分を覆う無機質な仮面を付けており、常に薄っぺらい笑顔を浮かべる少年の真意を読み取ることは不可能だろう。

「ハク……?」


口元しか見えず、その口も愉しそうに歪められ、終始無表情だったハクとは到底思えないのに、何故かその言葉が口をついて出る。


2人とも目元が見えないからか、その雰囲気が似通ったものだったから……だろうか。


「アハハッ! ()()()()だね~勇者くん♪」

「じゃあ……?」

「あぁでも、ぼくは()()()()()()かな?」


(はじめまして? でも確かに……服も髪も違うのに同一人物な訳ないか。)

なぜハクと重ねたのか自分でも分からず、首を傾げる。


愉しそうに嗤う少年を見つめていると、やり取りが途切れるのを待っていたかのように、跪いていた青年が振り向いた。


()()()()への謁見を邪魔するとは……」

低く、地を這うような声で警告を発した青年は、座り込む僕を穢らわしいものを見るような目で見てくる。


しかし、その姿を見た途端、その警告という形の拒絶を気にしてられないほどの驚愕に目を見開く。


光に解けそうなほど美しい銀髪を下ろして肩に流し、神父のような神官のような、黒に白の細やかな刺繍が施されている服を着こなしている。

海より深い蒼色の瞳が冷たく見下すように細められていなければ、ファン……いや、信者が出来てしまいそうなほど、その顔立ちは整っていた。整いすぎていた。


禍々しいこの謁見の間であっても、神聖さすら感じる青年は、“優しげなお兄さん”といった印象の彼とは全く違うはずなのに、顔立ち、仕草どれをとっても、先程まで共に戦っていた人がどうしても重なる。


(月熾さん……なのか?)

次々と入ってくる情報に頭がパンクしそうになっていた僕は、それに気づくことはなかった。




先程の疑念を解消するに足る、青年が呼んだ名に。




「まあまあ……彼は元々()()()()()()のためにここに居るんだし」

唇を噛み、整った顔を歪ませ、ただ只管に睨み付けていた彼が、不満げながらも引き下がる。


「コハク様がそう……おっしゃるなら」

「うんうん。偉いよぉ~」

少年……コハクの軽い口調の賛辞に、彼はパアッと表情を輝かせると、サッと跪いた。


彼の態度はいつものことなのだろうか、唐突な行動にも関わらず、コハクは驚いた様子も無い。

「じゃあ、彼を抑えていてくれるかな?」

「謹んでお受けします!」


恍惚とした笑みを浮かべ、快諾すると、座り込む玲谷に近づいてくる。


「努々逃げようとは思わないことです」

先程とは打って変わって無機質な冷たい声と共に、首筋に添えられたものから、金属のような冷たさと鋭さを感じる。


「月熾……さん? なんで……」

呆然とした玲谷の声を聞き、彼はため息を吐く。

「先程から“ハク”様やら“月熾”やら……それほどまでに名称が大切なのですか?」

理解できないとはがりに首を傾げるも、その手の得物は依然添えられたまま。


「大事……ですよ。だって…………」

(…………)

「あぁ、止めておいた方が良いですよ?」

「え……?」


会話を遮るように、添えられた刃から闇が走り、玲谷が密かに集めていた光を霧散させる。


「“破滅の闇”と“回帰の光”は互いに相性が良いからこそ相性が悪い。()(貴方)を害することは出来ないが、()が居るところで(貴方)は力を発揮できない」


それは忠告だったのだろう。

“害することは出来ない”と言いつつも、“これ以上抵抗するようなら容赦はしない”という圧は、確かに伝わっていた。


「……もう良いかな」


玲谷が抵抗を止め、力を抜いたのを見たコハクが、小さく呟くと、徐に指を鳴らす。


パチンッという音と共に、コハクから“黒”が溢れ出る。


その“黒”は、黒よりも黒く、闇よりも深く、暴力的なその魅力に抗うべく、目を逸らすことしか出来なかった。






暫くして“黒”が収まり、ふと発生源を見ると、確かに先程までは居なかったはずの人影が、玉座の後ろに7つ、コハクに跪くような体勢で現れていた。


揃いの黒のローブで姿を隠す彼らは、体格も体勢も多種多様だが、一切身じろぎ


「いつの間に……」


「さぁ、これで役者は揃ったね」

自分に跪く彼らを歯牙にも掛けずに、芝居がかった仕草で腕を広げるコハク。

「ネタばらしをしてあげよう!」

閉じた口が再び弧を描く。コハクの視線は、ただ一点……玲谷だけを見据えていた。


「薄々察してはいたんだろう? 彼は……月熾 翠治は…………






…………裏切り者だ。」

解決編! いや、答え合わせ編……ですかね?


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。(o_ _)o


更新が不定期にも関わらず、見て下さる方が少しずつ増えて、ブックマークや評価をしていただけることがほんっとうに嬉しいです!やる気が湧いてきます!(≧∇≦)b


まだまだ拙い文章ですが、少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたら嬉しいです。

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