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35話。魔王討伐

「やってみるといい。今度は愉しめそうだ」


愉しそうに嗤うと、玉座から腰を上げ、ローブを揺らめかせて、ゆっくりと中央付近まで歩いてくる。


「どうした? 仕掛けないのか?」

隙だらけだぞ? と片手をひらひらとさせる魔王だが、その威圧感は消えることなく玲谷達を圧倒している。


戦闘中は気にもしていなかったが、近づくことで、その姿の異様さがよく分かる。


脇腹辺りが破けた灰色のローブには怪しげな鎖や何処かの紋章がついているが、ささやかなもので、全体的にシンプルにまとまっていた。


フードの隙間からのぞく灰色の髪からは、人間では有り得ない尖った耳が僅かに見えた。

緻密な彫刻のある細い指輪がはまる手は、負けず劣らず細く、白く透き通るような肌をしていた。


灰の睫毛に隠された瞳は、尊大な態度を取っていても、諦観の念が消えることはなく、目の下には大きな隈が作り出されていた。


この威圧感さえ無ければ、誰もが心配してしまいそうなほどの線の細さでありながら、その好戦的な笑みは消える気配が無い。


「言われるまでもありませんよ」

月熾さんが此方を振り返ったので、僅かに頷く。

それを確認した瞬間、月熾さんは床を蹴り出し、目にもとまらぬ早さで前に飛ぶように駆けていく。


数秒遅れて玲谷が駆け出す頃には、既に2人は接敵していた。


駆けた勢いのまま突き出された短刀は、魔王の首に届くかと思われたが、ゆるりと持ち上げられた黒く染まった指で止められる。


短刀を染め上げた闇が、魔王の黒に反発するようにバチバチッと音を立てる。


「なっ!? それは……一体」

「まあ、手品のような物だ。それより……これだけなのか?」

首を軽く傾げ、挑発する魔王に、月熾さんは唇を僅かに噛むと、左手を閃かせた。


「舐められた物ですねっ!」

目にもとまらぬ早さで振られた短刀を、それでも魔王は一瞥をくれ、フンッと鼻を鳴らすと、歯牙にもかけず、対策を講じるでもなく放置を選んだ。


……それが妥当であることは数秒後に証明された。

短刀は、魔王の脇腹に確かに斬撃を加えたはずが、その部位を構成する黒い光によって食い止められる。


「……仕方ないですね」

そう呟いたかと思うと、指で止められている方の短刀に力を込める。

「なら、これも受け止めて下さいね!」

「無論っ……!?」

鷹揚に頷く魔王の目が驚愕に見開かれる。


短刀に触れていた指が、先端から崩れだしたのだ。

玲谷の光は“分解”のようだったが、それはまさしく“崩壊”としか言いようが無い。


短刀に触れている指先から、暗い闇が這い上ったかと思うと、通った箇所から、皮膚が剥がれるように、肉が落ちるように、骨が削がれるように崩れていった。


己の肉体が崩れていく様を見逃す魔王でもなく、右腕を振り、出した黒い光の刃によって崩壊しかかっている指を切り落とした。


「おや……無茶なことをなさいますね」

「チッ……そんな隠し球を持っていたとはな」

ひとつ舌打ちすると、飛び退り、忌々しげに短刀を睨む。


「もう少し油断していただけたら嬉しいんですがっ!」

地を蹴り、再び接近しようとする月熾に向け、腕が振られた。


黒い光の刃を視認した月熾が蹴る方向を変えることで回避するが、どうやら少し遅かったようで刃が僅かに月熾の指を掠める。


刃に引き出されたように赤い色が飛んだ。

「ハッ……これでおあいこだな」

嘲笑する魔王に、怯んだ様子も無く指を軽く押さえながらも嘲笑を返す。

「案外、魔王様というのも短気なのですね」

「ぬかせ」


お互いに挑発し合い、まさに一触即発といった雰囲気の中、少し息切れしている玲谷の声が響く。


「月熾さん!」

声を聞き、玲谷を一瞥すると、軽く頷き、玲谷の射線上から退いた。


短距離でも、全力疾走した玲谷は、息も絶え絶えといった様子だったが、大きく息を吸い込むと、先程よりも黄色い光が濃くなり、またバチバチと鳴っている剣を振りかぶる。


魔王は、同じ手は食らわんと言わんばかりに冷めた目になると、ひらりと躱す。

(でも……想定内だ!)


自分にとって脅威になると自覚しているものに集中しているとき、どうしてもそれ以外が疎かになる。例えそれが……()()()()()()()()()()だとしても……!


だが躱した先には、退避していた月熾さんが居る。僕を警戒している魔王は、まだ気づいていないはず……!


月熾さんのフッッ! という息を吸い込む音と共に、無防備な首に闇の刃が振り下ろされた。


「ワンパターンだな」

刃はいとも簡単に黒い光によって食い止められるが、月熾さんは攻撃する手を休めることなく次々と短刀を繰り出しながら此方を見て頷く。


(今だ!)

振り下ろしていた剣を返し、先程とは逆に切り上げようとする。

再び僕を視認した魔王が目を見開き、後ろに飛び退こうとするが、背後からの月熾さんの攻撃でその場に留められる。


「許すわけがないでしょう?」

「……くそっ」

回避が間に合わないと悟り、慌てて黒の光を集め、剣を防ごうとする。

(だけど、僕の剣の方が早い……!)


黒の光が集うよりも早く、黄光の刃が皮膚を抉り、肉を断ち、光が傷を覆う。

「グゥアッ!?」

黄色い光は、前回よりも強く、早く、魔王の体を細かな光に分解していく。


「つっ……学ばぬのか!」

光に圧倒されつつも、それでも集いかけていた黒の光が黄の光を押し返し始める。

「浸食してしまえば此方のものよっ!」

「させませんよ?」


月熾さんが囁くと同時に無防備になった魔王の背中に闇を纏った短刀を刺す。

本体は辛うじて残していた薄い光に防がれるが、短刀から漏れ出た闇が蠢き、体内に侵入する。


闇は、肉体を蝕むことなく、黒の光だけを的確に崩壊させていく。


「バカな! ()()()()()()()闇ごときに、黒を超えられるはずが……!?」

抑える光を失い、成されるがまま体が分解されていくのを止められない魔王が、信じられないとばかりに手で頭を覆い、首を振った。


「貴方の当たり前がどうなのかは存じ上げませんが……」

1度口を閉じると、嘲るような笑みを浮かべる。

「今、消えかかっている真実が何よりも証拠となるのでは無いですか?」


あれだけ強大に思えた魔王も、月熾さんを前に慌てる姿を見ていると憐れにすら感じる。


「もう……眠ってくれ」

残虐な敵でも、憎い相手でも、復讐しようとは、苦しめようとはもう、思えなかった。

少しずつ分解が広がる傷口にそっと手を当てると、辛うじて残っていた光を掌に集め、直接体内に流し込む。


「バカな!こんな終わり方など……!」

威力を増す黄色の光に焦った様子で力を振り絞ろうとするが、残りカスすら残っていなかったのか、抵抗は感じなかった。

暫く険しい表情をしていたが、宙を見つめ、諦めたようにふっと脱力すると、穏やかな笑みを浮かべる。


「存外……()()()というのは……難しいものだな」

魔王()が生を諦めたことを感じ取ったのか、光の分解も早さを増していく。


下半身はとうに消え、上半身も胸まで消えかかった時、魔王()を見つめ、呆然とする僕らに心底楽しそうに笑いかける。


「勇者よ……見事だ。我を倒すとはな……」

勇敢なる者に賛美を送ると、半分消えかかった口を歪めた。

「だが……精々油断せぬことだ……」


恐ろしく、強大だった敵は、黄色い粒子となって天に昇っていく。

……全てが終わったのだ。






しかし、それは決してデスゲーム(ゲーム)の終わりでは無い。






玉座に残された黒い光の塊が、主の敵を討つかのように飛び出す。


フヨフヨと漂っていたソレは、何かを感じ取ると、一直線に無防備に佇んでいた月熾の胸へ……飛び込んだ。

斯くして魔王は打ち倒された。



~私も混乱してきたので説明~

黒の光➡黒属性

紫の闇➡闇属性

薄黄の光➡光属性

薄緑の光➡白属性

※これ単体でネタバレにはならない……はずです



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。(o_ _)o


もし「続きが気になる!」や「面白い!」と思って頂けたらブックマークや下の☆マークを1つでも押して頂くと作者のモチベーションに繋がります!(o゜▽゜)o


(※ただし、更新が不定期なのは変わらないと思います(o_ _)o)

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