34話。彼の信念
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「皆居なくなれば、私は玲谷とふたりきりで居られる! 玲谷は私だけを見てくれる!」
「……………………狂ってますね」
小さく、低い声が呆れたように言葉を発すると、それを聞き取った咲が今まで玲谷にしか向けていなかった暗い瞳を月熾に向けた。
「私は狂ってなんかないよ? ただ玲谷を愛しているだけ。」
「理解できませんね」
得体の知れないものを見ているかのような月熾さんの言葉に、やれやれと肩をすくめる。
「別に良いよ。他人に理解されなくても。私が玲谷を愛しているのは覆しようのない事実だし……さあ、玲谷……一緒にカエろう?」
その光の無い暗い瞳を向けられ、恐ろしさに後ずさりすると、咲の瞳が見開かれ、ヒステリックに喚き立てる。
「なんで!? なんで逃げるの!? 私は君のことが好きなだけなのに!」
少し明るい黒茶色の艶やかな髪を掻き毟り、信じられないとばかりに叫んでいた咲が、ふと手を下ろし、表情を消した。
「嗚呼……そっかあ……まだアイツが居るからなのね。大丈夫。待ってて」
そういうと、やけに柔らかく、優しげな笑みを浮かべる。
これまで、幾度となく安心感を覚えてきたはずのその笑顔は、咲が本性を現した今、寒気しか感じなかった。
覚えた嫌な予感は的中し、咲は冷たい目をしたままの月熾さんをやっと見たかと思うと、ゆらりと体を揺らす。
「貴方“も”邪魔者なのね……じゃあ、消えて?」
そう言うと、クナイを構えて駆け出した。
「月熾さん! 逃げて!」
目まぐるしい展開に付いていけて居ないのか、棒立ちのままの月熾さんに必死に声を掛ける。
僕の言葉に、ハッとした月熾さんは素早い動きで回避をするが、手首を僅かに掠めてしまった。
月熾さんが、凛と同じように倒れてしまうんじゃないかと心配で駆けつけようとするが、目線で止められる。
「女性にこんなことはっ……したくないんですがね」
「グッ」
咲の追撃しようと翻した右腕は容易く掴み取られ、離脱出来ないところに月熾さんの鋭い膝蹴りが鳩尾に直撃し、咲は苦しそうに呻く。
「少し……眠っていてもらいますよ」
月熾さんが、両腕を上げ、頭と首に何やら一撃を加えようとしたとき、咲の左腕が動いた。
「クッッ! 無理……ですか」
何とか追撃を避けるが、抵抗を続ける咲に、本人以外は知るよしもないが、口の中で“すみません”と呟く。
「せめて……安らかに」
やけに慣れた手つきで抜かれた短刀が、寸分違わず、咲の胸の中心に、刺し込まれた。
月熾さんが短刀を抜いたことで、支えを失った躰が力無く崩れ落ちる。
(え……? 咲……?)
今の僕には、血振りをした後、冥福を祈るように胸に手を当て、目を閉じている月熾さんさえ目に入らない。
信じられない。信じたくない光景に、固まる。脳の処理が追いつかない。
思わず駆け寄ろうとしたとき、腕に凛を抱えていたことに気づき、壁に寄りかからせる。
そして、二人に駆け寄ると、唇を噛み、苦しげな表情で眠っている咲を抱き起こす。
「なんで……」
当たり前のことだ。先に襲いかかったのは咲なのだから。
亡くなっていった彼らの事を思うと、ここで月熾さんを攻めるのはお門違いだ。
頭では分かっているのに、感情は止められない。
「なん……で……」
またしても自分の腕の中で失われていく体温を、命の灯火を、引き留められないのが、こんなにもはがゆい。
「ご友人……でしたね……すみません」
行き場の無い怒りが、静かに己の行動を悔いるかのように謝罪をした月熾さんに向かう。
我が儘を言う子どものように、威力の無い拳を、言葉を叩き付ける。
「なんっで!なんでっ……咲をっ……」
(月熾さんのせいじゃないです……気にしないで下さい。)
そう言いたいのに、口をついて出るのは攻める言葉だけ。
そんな僕の言葉に責めても可笑しくないというのに、月熾さんは“致し方無いこと”とばかりに目を閉じて僕の八つ当たりを受け入れていた。
「……すみません……月熾さんは悪くないのに……」
ようやっと罪悪感が勝ち、謝罪するが、月熾さんは苦笑いを浮かべた。
「構いません。俺のしたことは……こんなことでは許されない……いや、許されざるべきなので」
その笑みは、何処までも儚げで、月熾さんにとって先程の行動が致し方なかったことなのだと、他に手は無かったのだと分からされた。
「月熾さんが悪いわけじゃ……!」
言いかけた言葉を詰まらせる。
(攻めた僕にそれを言う資格は……無い)
後悔と謝意が支配する無音の空間に、居なくなったはずの彼の声が響く。
「もう良いか?」
呆れたように発されたその声に目を見開き、2人ともが振り向く。
そこには、確かにトドメを刺したはずの魔王が平然と玉座に腰掛け、頬杖をついていた。
「なっ!?」
「お涙頂戴……結構だ。だが…………魔王を忘れて貰っては困るな」
芝居がかった動作でやれやれと呟く魔王を見ると、確かに抉ったはずの横腹は、何やら黒い光で覆われ、失った体を形作っていた。
「どうして……生きて……」
分からなかった。崩壊しかかっていたあの状態からどう回復したのかも、黒い光は何なのかも、何も。
思わず月熾さんと顔を見合わせる。
「なるほど……厄介ですね」
「もう一度ってことでしょうか」
(そんなの……できっこない)
さっきは色んな条件が揃ったから一撃を入れることが出来たのだと思っている玲谷にとって、その知らせは絶望でしか無かった。
「……手はありますよ」
月熾さんに手招きされて耳を寄せる。
「先程の“光属性付与”、もう少し強めにすることは出来ますか?」
寝耳に水な話に目を見開きながらも、1つ、頷くと、満足そうに笑った。
「先程、確実に苦しんでいるようだったので。」
「でも、ただ強くしたところで、今みたいにされたらどうしようもない……「とは限りませんよ」え?」
月熾さんは僕に笑いかけると、短刀を握る両手に力を込める。
「怖がらないでくださいね」
その言葉と共に月熾さんの腕から滲み出たのは、闇だった。
しかし、魔王の黒のように恐怖を感じる事は無く、むしろ安らぎさえ感じられる。
滲み出た闇が、2つの短刀を覆うと、じわりと刀身に染み込み、銀に光っていた短刀は、黒く光を吸収するような色に変化した。
「それ……は……」
あまりの美しさに息を呑む。そんな僕をどう捉えたのか、月熾さんは申し訳なさそうに眉を歪める。
そして語られた説明……いや、信念に、僕は引き込まれた。
「光と闇は、一見して対極のように感じられますよね。闇は特に物語でも“悪”と語られることがあります。ですが……果たして闇は悪なのでしょうか。
対極に見える光と闇は、お互いになくてはならない存在なのです。
光は闇が無いと気が休まらず、闇は光が無いと闇たり得ない……」
虚空を……ここではない何処か遠くを見つめる月熾さんは、過去を見ているような、未来を見据えているような、不思議な目をしていた。
「なんて……何時か何処かに居た誰かの受け売りですけどね」
「月熾さん……」
「ほら、折角待っていてくれてるんですから」
促されるがまま、剣に光を流す。
2度目だからか、月熾さんのやり方を見ていたからか、光はスムーズに剣を覆う膜を作り出した。
体を向け直すと、暇そうに頬杖をついていた魔王が此方を一瞥する。
「準備は出来たのか?」
「ええ。律儀にも待っていてくれたんですね」
「まあ、同じ事の繰り返しは詰まらんからな」
まるで遊戯のように“詰まらない”と宣う魔王に怒りを覚える。
「今度こそ僕の刃を届かせる……!」
「やってみるといい。今度は愉しめそうだ」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。(o_ _)o
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まだまだ拙い文章ですが、少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたら嬉しいです。




