29話。少しの疑惑と最後の階層
○から○は別視点です。
以前の~~~よりは見やすいかと思って変えました。
玲谷が雑魚寝部屋へ向かい、毛布を被るとあっという間に深い眠りについた。
「……ひろさん。藤弘さん、起きてください」
体を揺さぶられて目を覚ます。
窓もなく、光が入ってこないため分からないが、どうやら朝になったようだ。
「ふぁっ……」
欠伸をしつつ周りを見回すと、栗出さんも月熾さんも起きていて、慌てて起き上がる。
「すみません……! お待たせしてましたか!?」
「いえいえ……そこまででは無いので大丈夫ですよ」
「とはいえすぐに放送が入りそうですし、女性2人と合流しましょうか」
月熾さんの提案にのり、3人で隣の部屋に向かう。
栗出さんが軽くノックをすると、咲たちも既に起きていたようで、すぐに返事が返ってきた。
「は~い。どうぞ?」
咲の返事がして、扉を開けると、そこには既に身支度を調えた2人が居た。
「あ、玲谷おはよう」
「お、おはよう……早いね2人とも……」
2人が無事なことに安堵していたのは僕だけだったようで、平然としている咲に驚く。
「そんなことないよ? あ、さては玲谷……また寝坊したんだね?」
「そ、そういうわけじゃ……」
咲に見事に言い当てられて、たじろいでしまう。
(やっぱり咲には勝てないな……)
その時、まるで僕らが集まるのを見ていたかのようにブッという機械音がしたかと思うと、放送が始まった。
《あ”ー毎階恒例、朝のお知らせだ~》
相変わらず不機嫌そうなルリの声に、音の発生源が分からないなりに皆自然と天井を見上げる。
《昨夜の犠牲者は……“無し”か。詰まんねぇの》
落胆したかのようなルリだったが、対して僕は改めて全員が生きていることの実感が湧き、嬉しさを噛み締める。
《え~と、ヒントは非公開で……後はっと……このくらいか。》
ふと、スラスラと話し続けるルリの声が止まったかと思うと、ハクの声が聞こえてきた。
《最下層……最後の戦い……頑張って……ね》
「「え……?」」
驚き、届かないとは知りつつも、疑問を呈しようとしたとき、また、ルリが小声で呟いたのが聞こえた。
《はっ……そうでないとつまらない……せいぜい踊ってくれよ?》
言い終えると話は終わったとばかりにブツッと放送が切れた。
「最後……ですか」
何か考えているような月熾さんの声に、ハッとする。どうやら他の人には最後のルリの言葉は聞こえていなかったようだ。
(そうか……最後だと言うなら、僕の勝利条件にあったあれも……!)
水晶に表示されていた情報を思い出す。
確かに僕の勝利条件の欄には、
勝利条件:味方を守り、共にダンジョンを攻略し、ラスボスを倒すこと。
とあった。
(ラスボス……最下層に居るってことなのか?)
聞きたいことは幾つもあったけど、これまでのことからルリが答えるはずがないことは分かっていた。
だからこそ、と月熾さんに提案されたことには、誰も反対しなかった。
「次の階層で最後ならば、支度を整えたら向かいませんか? どれだけ時間がかかるか分からないですし……」
ーー数分後
僕らは次の階層へ続く階段を下りていこうとしていた。
「一応、次へ行く前に確認をしておきましょう」
月熾さんの提案で、武器や攻撃手段などを軽く教え合うことになった。
「じゃあ、僕から……「待って下さい」」
どうせほぼほぼバレているから。と思い、口火を切って話し出そうとすると、今まで黙っていた栗出さんに止められた。
「どうしたんですか?」
「藤弘さん。少し二人きりで話したいことがあるのですが、宜しいですか?」
“なぜですか?”と聞こうとして、その深刻そうな表情に、瞳が一瞬黄色に見えたような気がして思いとどまる。
先に居た3人を見ると、「大丈夫」と言わんばかりに頷いてくれている。
「分かりました。」
そう返事すると、栗出さんが先導するかのように休憩所の入り口……階段のある場所の反対まで行く。
振り返った栗出さんは、これまでの不安そうな表情はなりを潜め、光の加減かほんのり黄色がかった黒の瞳を細めて、柔らかく微笑んだ。
「……大丈夫ですよ」
「え……?」
こちらを真っ直ぐ射すくめてくる瞳に見とれていたが、何もかもを見通しているかのような栗出さんの言葉に身を震わせる。
「貴方が勝利条件を満たせば、皆無事です」
「皆が……ですか?」
(僕が勝てば皆助かる…? 亡くなった命は戻らないんじゃ…)
「ええ。とはいえ私は一足先に抜けさせていただきます」
「つっ!?」
今まで心の何処かで頼りにしていたのだろう……栗出さんも古梓さんや他の人のように居なくなると知って、動揺が隠しきれない。
「真実を知った私が居れば、あの人もやりづらいでしょう。」
「あの人……って?」
そんな質問も、柔らかい微笑みで誤魔化される。
「さぁ……皆さん待っておいでですよ。」
振り向くと、3人が此方を不安そうに見つめているのが見えた。
小走りで駆け寄り、栗出さんを気にしている3人に、「後で話しますから」と説明し、階段を下りる。
階段の途中で振り返ると、扉の前で栗出さんは手を振ってくれていた。姿が見えなくなるまで……ずっと。
階段を1階分ほど下りていくと見えたのは、木で出来たなんの装飾もなされていないシンプルな扉。
「では改めて、立ち位置の確認をしますか?」
扉の前で月熾さんが振り返り、問いかける。
(あ……僕と栗出さんのやり取りで遮られてたから……)
「その前に! 栗出さんは一緒に行かないの?」
さっきは最後まで出来なかった相談の続きをしようと口を開きかけたとき、咲に遮られる。
「栗出さんは来ないよ」
「そっ……か」
その言葉に納得したのか、咲は目を彷徨わせると、押し黙った。
「大丈夫だよ! 4人でも、きっとやれることはあるはずだよ」
「そう……だよね」
不安そうな咲を慰める為に出した言葉は、しかし僕自身を納得させる為のものでもあった。
4人での話し合いの結果、剣とそれを扱える術を持っている僕が前衛で主な攻撃を担い、回復が使えると言った凛が後衛で皆の回復を担うこととなった。
他2人は、クナイを扱う咲が後衛である凛を守り、短刀2本を扱える月熾さんが、遊撃として撹乱と攻撃をすることとなった。
「では、それ以外は臨機応変にいきましょうか」
纏めてくれた月熾さんや、勇気を出した凛を他所に、思わず考え込む。
凛は回復が使えると言った。
僕の“勇者”の役職で“光魔法”と“剣術”のスキルがあったように、基本は役職のイメージに合ったスキルが備わっていると考えている。
そして、8種ある役職のうち、“回復”のイメージがあるのは“聖者”だけ。
(凛が“聖者”なのだとしたら、月熾さんの役職は……?
勿論、僕が勝手に“そう”だと考えていただけで、月熾さん本人が言っていた訳では無い。
でも、そうしたら、残る役職は……)
それまでの考えを追いやるように首を振る。
“本人に聞いたわけでもないのに決めつけてはいけない。”
そう思い直し、顔を上げると、心配そうな月熾さんと目が合い、思わず後ろに少し下がってしまった。
「どうされましたか?」
「いえ……なんでもないです」
思わず誤魔化し、扉へ顔を向ける。
「そ、そろそろ行きませんか?」
「……そうですね」
今の僕は挙動不審そのものだったろうに、月熾さんは軽く微笑んでスルーしてくれた。
この先が、最終階層だ。
もしかすると、入ってすぐに戦闘になるかも知れない。
そう考え、ポシェットから剣を取り出し、腰に携える。見ると、他の3人も武器を構えたり、しっかりと装着したりと、すぐに戦闘になっても対応できるように準備を整えていた。
「じゃあ……行きますよ?」
気を取り直し、皆で顔を見合わせて頷き合うと、扉を押し開いた。
○
誰も居なくなった静かな休憩所で、真実を解明しつつも、自分の勝利を選んだ男が佇んでいた。
男は、己の選択を後悔するかのように、しかして決意を1つ、呟く。
「すみません。私は…傍観の道を選びます」
○
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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