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28話。優しさはある種の壁?

丈夫そうなその木の扉のドアノブを掴み、引き寄せ、少し扉が開きかけた時、中から咲の声がした。


「ちょっと待って下さい!」

その言葉に、引きかけていた手を止め、扉を閉じる。


それから十数分ほど経ち、扉の中から微かな足音と、カチャというドアノブを回す音がしたかと思うと、目の前のドアが開いた。


「ごめんなさい……私たちで水浴びをしてて……」

現れたのは水で濡れた髪をお団子に纏めている咲だった。

いつも下の方で1つくくりにしていて隠されていたうなじが露わになっており、慌てて目を逸らす。


「……って玲谷? どうしたの?」

「あ……えっと、最後だからって思って……食糧庫見たから、次ここに……」

(あ~もう! 自分ながら支離滅裂だ……)


慌てる僕を見て、咲はクスクスと楽しげに笑い出す。

「ふふっ……そっか。じゃ、ここも見ていくんだよね?」

「……うん」

少し恥ずかしく思いつつ、咲について部屋の中へ入る。


部屋の床は、全体的に灰色の石が敷き詰められ、壁や天井はコンクリートを塗装したかのような質感だった。


扉から入って右側には、壁や天井と同じようなコンクリートの灰色の壁が独立して立っており、それぞれ両側には見知った男女のピクトグラムがあり、トイレであることをうかがわせる。


正面を向くと、シンプルながらも綺麗だと感じる噴水がある。


白い石造りのそれは3段ほどになっていて、上の2段からは、今も透き通った水がサラサラと流れ出していた。

下の1段は一際大きく作られており、2名程度なら水浴びなどもできる大きさになっている。


おそらくそこで2人は水浴びをしていたのだろう。噴水の先にある着替えやタオルがある棚の前で、凛と咲が髪の毛を拭いている。


「あ……玲谷さん……」

「ごめんね。すぐ出てくよ」

申し訳なさそうな玲谷を見て、凛がなぜか慌て出す

「あの……えっと、玲谷さんも……」

「?」


途切れ途切れでも、必死に何かを伝えようとしているのは分かる。でも、要領を得ず、疑問に思っていると、咲がやれやれと言わんばかりに補足してくれた。

「……玲谷も水浴びしていったら?」

「……?分かった」

不思議に思いながらもその言葉に甘え、僕も水浴びさせて貰うことにした。

(臭いとかだったらちょっと嫌だな……)


流石に女性が居る場所で全て脱ぐのは抵抗があり、棚からタオルを持ってきて、水で濡らすと、シャツだけ脱いだ。

湿ったタオルで拭くだけでも、断然涼しく、少し汗ばんだ肌に気持ち良い。


横に置いたポシェットに手を伸ばし、水袋を取り出す。

お世辞にも冷えているとは言い難いけど、喉をスッと通っていく水気が体に染み渡る。

もう一口飲もうと水袋を傾けたとき、横から布のようなものが飛んできた。

(これは……棚にあったシャツ?)

飛んできた方を見やると、咲が何故か頬を赤らめており、凛はその背に隠れている

「玲谷! 早くそれ()着て!」


不思議に思いつつも、新品のピンと伸びたシャツを着込む。

「2人ともどうしたの?」

「どうしたもなにも……急に脱ぎだしたらびっくりするでしょ!」

「ご、ごめん……」

目をつり上げた咲に怒られ、反省するも、2人に“男”として見られていたことに驚く。

(余りにも色奈が無防備だったから……いや、確かに知り合ったばかりの凛も居るのに失礼だったな……)


「もう! 私達はもう行くから! 玲谷はちゃんとしてから出なよ!」

「は~い。分かったよ……」

溜息を吐き、呆れたような咲が、俯いたままの凛の手を引いて水場から出て行った。


2人が居なくなったのを確認してから、床に置いていたポシェットを持ち上げ、腰に巻き付ける。

ポシェットが落ちないようにしっかり止めると、改めて水場を見回す。

さっきまで玲谷が使っていて濡れたはずの床は既に何事もなかったかのように綺麗になっており、棚には減ったはずの服やタオルが補充されていた。

(確かに使ったはずなのに……不思議だなぁ)


(まあ、良いか)

気にしても仕方が無いことだからと頭を切り替え、使ったタオルを回収し、踵を返すと、水場の扉を押し開いて廊下に出た。


(そういえば、なんで同じ休憩所の中に押し戸と引き戸があるんだろう……)

そんな素朴な疑問を抱きつつも、正面を見やると、シンプルな廊下に似つかわしくないほどに真っ白で豪奢な両開きの扉があった。


左右対称のデザインで、中央には雄大な緑をたたえた大樹が彫り込まれ、大樹の根は透き通った泉に深く沈み込んでいる。

神話で語られる聖地のような神々しさを持つその風景には、多種多様な羽根を持つ小人や、空を飛ぶ子どもが描かれていた。


「妖精……?」

それは、まるで御伽噺であるような妖精や精霊のそれで、思わずこぼす。

この扉の上には、他の扉とは違って上部には何も書かれていないのに、“礼拝室”だと言われても、納得するほどの神々しさを放っていた。


大樹の枝葉のような彫刻がされている取っ手を持ち、押し開く。

ギィィ……と重苦しい音を立て、扉は少しずつ開いていった。


扉の先は、まるで別世界だった。

壁や天井は、真っ白で滑らかな石のようなもので出来ていて、汚れ1つ知らないかのように綺麗に磨き上げられていた。

しかし輝きを放つ訳でも無く、静謐さを醸し出している。


部屋の一番奥は一段高くなっていて、これまた細やかな彫刻がなされた祭壇があり、その奥にはシンプルながら美しい4対の像と一体の像が静かに存在感を放っている。


手前には、壁などと同じように白い石のようなもので出来た背もたれの無い長椅子が左右に三脚ずつ並べられている。


一番奥の長椅子の端に、人影があった。

見ると、後ろで1つに纏められた長い黒髪が、俯くことで前に流れている。

彼はコツコツと床を叩く靴の音で僕が近づいているのに気づいたのか、ゆっくりと振り返った。


彼の長い睫毛に隠された、青みがかった黒の瞳が、僕の姿を確認すると、驚いたように軽く見開かれた。

「藤弘さんでしたか。どうされたのですか?」

月熾さんの優しそうな笑みに、言葉がつっかえる

(あのことを聞いても良いんだろうか……)


「あの……三階層の休憩所で……」

「?はい」

「いえ……なんでもないです」

(いや……見間違いだろう。月熾さんの髪は銀じゃなくて黒だし……)

「そうですか」

変なことをしている玲谷にも優しく微笑むと、月熾さんは

「お先に失礼します」

と言うと、礼拝室を出て行った。


「にしても……綺麗な像だなぁ……」

改めて礼拝室を見回すと、壁の柱には絡まる蔦や花が彫り込まれており、目の前の祭壇には美しい妖精達が楽しそうに飛び回る様子が描いてあった。

全体的に真っ白だったが、細やかな美しい装飾は、穢してはならない静謐さを感じさせた。

それになにより祭壇の奥にある像が一際美しく、更に像の上の天井に描かれた儚く美しい羽根を持った中性的な美人も目を引く。


像は中央と天井の2柱を除き、男性と女性の対になっていた。

一番手前の2柱は、人型ながらも麗しく、どちらも本と羽根ペンを持っている。

次の2柱はオオカミともキツネともどうとでもとれそうな獣の姿をしていたが、野性味よりも神聖さを持っている。

次の2柱は、背が一番小さく、男性女性共に豊かな髭をたたえて、大きな槌を担いでいる。

次の2柱は、どちらも髪が長く、スレンダーな体型で、美しい容姿に長い耳で、弓と矢筒を背負っていた。

中央の1柱は、人型ではあったが、天井の1柱と同じように中性的で、爬虫類のような大きな羽を背中に備え、頭には2本の艶やかな角。肌には鱗が浮き出ていた。


玲谷は、その美しさにしばらく見とれていたが、かなり時間が経っていることに気づくと、慌てて礼拝室を出て、雑魚寝部屋へ向かい、毛布を被るとあっという間に深い眠りについた。

描写頑張ったんですが、長すぎて見づらかったらすみません……最後駆け足です(^_^;)


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


更新が不定期にも関わらず、見て下さる方が少しずつ増えて、ブックマークや評価をしていただけることがほんっとうに嬉しいです!やる気が湧いてきます!


まだまだ拙い文章ですが、少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたら嬉しいです。

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