25話。悲しみと優しさ?
「ここも安全とは限らないんだ。道半ばで倒れた彼らの為にも、今生きている俺らは少しでも進もうぜ」
「……はい」
古梓さんたちの声が聞こえ、ハッと目が覚めた。ついつい引き込まれていたことを自覚し、雑念を振り払うように首を振る。
見ると、男性は女の子をそっと地面に横たえ、ある程度整えると、ボソッと何かを呟き、立ち上がる。
「……みゆ、おやすみ……」
そして此方を向いて、引き攣った笑みを浮かべる。……よく見ると大丈夫か心配になるほど、その顔は悲しげな雰囲気を纏っていた。
「ご心配をおかけしました。さぁ、進みましょう」
「大丈夫ですか?」
「ええ……私は……みゆの分も、生きなければなりませんから。」
問いかけた僕の方を向いてきっぱりと言い切った男性の顔は、心なしかさっきとは打って変わってスッキリとした表情を浮かべているようだ。
改めて皆で逸れないように確認し合いながら光を目指し、歩き出す。
しっかりとした足取りで歩く男性は、しっかりと前を見据え、後ろを振り向くことはもう、無かった……
あれ?
ふと違和感を感じ、振り向くと古梓さんが女の子の傍にしゃがみ込み、なにか考え込んでいる。
「古梓さん?」
不思議に思って近寄ろうとすると、何事もなかったかのようにスッと立ち上がり、こちらに歩いてきた。
「あぁすまん。せめて花でも添えてやろうと思ってな。」
その言葉に、女の子の方を見ると、緩く組まれた女の子の手には、小さな花が一輪、添えられていた。
あぁ、そうだったのか……
古梓さんの細やかな気遣いに感動したはずが、心に残った違和感は拭えず、申し訳ない気持ちになる。
まぁ、でも……せめて、あの子が安らかに眠れると良いな
それからどれだけ歩いたのか……いつまで経っても光は近づかず、丘から見た時はそこまで大きい森とは思わなかったこともあり、精神的にも体力的にも限界が近づいてきていた。
「ねぇ……もしかして……迷ったんじゃ……」
色奈の言葉は声にこそ出さないものの、僕も感じていたことでもあって……足の疲れがドッと押し寄せてきたような感覚がして、足を止める。
「このまま進んでも……」
たどり着ける気がしない。そう言おうとした僕の口に細い人差し指が添えられた。思わず口をつぐむと、栗出さんはパンッと手を打ち鳴らす。
「皆さんお疲れのようですし、少し休憩していきましょう。……この暗い中を進んでいると、どうしても悪い想像ばかりしてしまうものですから。」
「「はい」」
「だな。序でに栄養補給もしとけよ。これからどれだけ体力使うか分からねぇんだしな」
「そう……ですね」
月熾さんだけ、なにか物憂げな表情を浮かべているのが気に掛かったけど、疲れていたのは皆も同じのようで、周りを探って危険が無ければ1度休憩をとることに決まった。
剣で軽く周りの雑草を払い、腰を落とす。
剣本来の使い方ではないんだろうけど、自然と手に馴染み、自由自在に操れることが当たり前のような違和感を覚えた。
「玲谷! 凄いね!」
咲は褒めてくれたけど、あまり実感は無い。でもこれも、スキルのおかげ……なのかなぁ
皆、思い思いの場所で座り込み、僅かな休息をとっている。
「持ってきてよかった……」
ポシェットから干し肉と水を取り出す。お腹はまだ空いていないけど、古梓さんの言うとおり栄養は摂っておかないと……
「うわっ……このお肉しょっぱいっ!」
「そうなの?」
咲につられて固い肉に齧り付くと、木かと思うほどに歯を押し返してくる。
それでも負けじと歯を押し込むと、なんとか噛み千切ることが出来た。
口の中で転がしながら少しずつ噛み砕いていると、真っ先にしょっぱさが広がる。普段食べているお肉に比べると、かなり塩味が濃い……
「これは……しょっぱいね……」
「でしょ!でも他にご飯があるわけでも無いしね……仕方ないか」
水を飲みつつ、頑張って噛み続けていると、じわっと肉の旨みがしみ出してきた。
「……んまぃ」
思わず零す。……父さんがビールと食べてたおつまみみたいだ……
もう戻らないあの幸せな過去が、脳裏に浮かんで、胸がツキンと痛む……
そっと背に添えられた咲の手が温かく、その気遣いがじんわりと心に染みた。
しばらく経って、足の疲れもとれ、皆が再び歩き出そうとしたとき、目指していた光の方から、白いふんわりとした小さな固まりが飛んできた。
思わず腰の剣に手を伸ばし、構えようとした僕を、月熾さんが腕を伸ばして止める。
「待って下さい。敵意は無いようです」
近づいてきた白い固まりは、僕らのまわりをふよふよと飛び、攻撃をしてくる様子は無い。
よく見てみると、小さな小鳥だった。
真っ白なふわふわの羽毛に包まれ、小さな翼を必死にはためかせて飛んでいる。
僕が手を伸ばすと、ゆっくりと指先にとまり、きゅるんとした空色の瞳でこちらを見つめる。
か……「かわいいっ!」え?
横にいた咲に腕がグイと引っ張られ、その衝撃で小鳥は飛んで逃げ、僕らのまわりを再び飛び出した。
「そんな……小鳥ちゃん!こっちにおいでぇ!」
「さ、咲……?」
咲の豹変ぶりにたじろぐ僕らにも気づいていないのか、目をかっぴらき、猫なで声で小鳥に呼びかける咲。
その姿に恐怖を感じたのか、小鳥はピィとひとつ鳴くと、僕らのまわりを一周し、光から少しズレた方向に飛んでいく。
「小鳥ちゃん……」
咲の嘆きを他所に、小鳥は少し進んだ場所で枝にとまったかと思うと、空色の目でこちらをジッと見てくる。
「〝ついてこい〟ってことかぁ?」
「怪しいとはいえ、私としてはこのまま迷っているよりは良いと思うのですが……」
「でもなぁ栗出。それは、コイツがホントに出口を知っていたらの話だろう?」
「〝白〟に〝淡い水色〟ですよ?」
「あ~まぁ……それはそうだが……」
「流石に長かったのではないですか?」
「だからコレを寄越したと?」
険しい表情で小鳥を指さす古梓さんに、栗出さんが然りと頷く。
「じゃあ……まあ……行くかぁ」
「では皆さん、行きましょうか」
「は、はい……」
結局なんの話をしてたんだろ?
栗出さんの勧めもあり、小鳥について進んでいくと、これまでが何だったのかと思ってしまうほど直ぐに、森の出口が見えた。
「……やっと外に出られる」
歩いても歩いても同じ景色が続くというのは、案外気が滅入るんだよな……
瞬きする間に小鳥は消えていて、まるで煙に包まれたのかとも思ったけど、出口は確かにまだそこにあった。
「小鳥ちゃ~ん……何処行ったのぉ~!?」
「ま、まあまあ……また会えるよ……」
膝をつき、明らか落ち込んでますといったような咲を慰めていると、いつの間にか皆と距離があいてしまっていた。
「お前ら~置いてくぞ?」
「ちょっと待って下さい!……ほら、咲。皆待ってるから行こう?」
「うん……でも、小鳥ちゃんが……」
「ほら、先に行ってるかも知れないじゃん」
「あ!そうだね。ほら!早く行こ!」
「調子良いなぁ……」
さっきまで落ち込んでいたのが嘘かのように元気を取り戻した咲に苦笑しながらも、先に行った皆を追いかけようと、咲に手を引かれ、一歩踏み出したとき……耳元で声がした。
「……こちらより進んで頂けるのは……5名のみとなっております……」
低く、小さく、けれどもはっきりと耳に残る声……だけど、キョロキョロと辺りを見回しても、あるのは太い木々ばかりで、声の主は何処にも見当たらない。
「誰だっ!」
声が聞こえたのは僕だけでは無かったのか、皆がキョロキョロとする中、古梓さんが不機嫌に声を荒らげた。
「……嗚呼、大変恐縮では御座いますが……お命、頂戴致します」
突如声は不穏な色を纏い、ぞわっとするほど冷たい風が吹く。
ドサッ
前方で、誰かが倒れる音がした。
森編?はもう少しで終了です!多分……次回には。
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