第七話 ヴァルタイユの異能
オーラスが展望台で調べた結果、アクトの言う『塔』は遥か西にあったらしい。
馬車を使って約2週間、3人はただひたすらに西へ進み続けた。
「…あった」
そしてついに辿り着いた。
頂上が雲に隠れていて、高さがわからないほど高い塔だ。
「ようやくアクトに会えるんだ」
「それじゃあ入ろうか」
緊張に拳を握るアレクを尻目に、オーラスは塔の扉を開けた。
「おや」
塔の内部は何もない…いや、正確には螺旋階段しかなかった。
塔の壁に沿うようにして、階段は遥か上まで続いている。
「アレク、『フライ』は使えるようになりましたよね」
「一応」
「なら飛行魔法で一気に上まで登りましょう」
そう言って、エマは飛んでいった。
「僕たちも行こう」
オーラスの言葉に頷き、アレクも飛んだ。
目指すは頂点、アクトの場所だ。
※
「それで、頂点はどこなんですか?」
「階段を探そう、まさか途中で螺旋階段が終わってるなんてね」
螺旋階段を登りきり、3人は今謎の部屋で迷子になっている。
もしかしたら本棚の後ろに隠し通路があるのではないかと、アレクは本棚をどかした。
しかし何もない。あるのは石の壁だけだ。
「二人とも、これを見てくれ」
オーラスの声に振り向き、アレクとエマは彼が手に持っているものを見た。
日記だ。表紙には『塔』とだけ書いてある。
「読んでみる?アレク」
「…ああ」
もしかしたら、これはアクトが書いたのかもしれない。
ならば、アクトが伝えたい真実というのがここに書いてある可能性がある。
そう思い、アレクは日記を開いた。
「…『塔』を得た者よ、私はエドワード・アハラル・クライス、デリア様の配下だ。『塔』の概要は分かるまい。何故なら君より以前の異能者が、『塔』の能力を明かさなかったからだ。そして君も、能力を明かさないことを誓ってほしい」
「それ日記なの?僕の記憶では、日記って日々の記録を記したものだったような気がするんだけど」
確かにそうだ。この本は日記ではない。
では何か、それはもちろん『塔』に対するメッセージのためだろう。
「『塔』の能力は、相手の希望を絶望に落としただけ強くなれるというものだ。私たち『塔』の目的は、世界を救うこと。そして最強を身につけ、覇王イグリダの後を継ぎ世界を統一する。そのために君はヴァルタイユを殺し、絶望を喰らって最強になり、覇王の後を継がねばならない…。…えと、ヴァルタイユって誰?」
「クアランドで最近危険人物として登録された紳士服の男です。各地に姿を現し、虐殺の限りを尽くしています」
「俺たちの知らない人同士の争いみたいだな…。コホン、力が満ちていない時、ヴァルタイユとは絶対に戦ってはならない。彼の異能を対策するには、彼の想定をはるかに上回る力を身につけなければならないのだ。奴の異能を忘れるな。ヴァルタイユの異能『運命』の能力は……。……破れてる」
全く意味不明だ。
何故アクトはこの塔にアレクを呼んだのだろう。
とにかくアクトを探さなければ。
「あの、一つ可能性がありますが…」
言いづらそうにエマは呟いた。
「アクトが、『塔』である可能性は…」
直後、視界が暗転した。
※
体が重い。思い通りに動かない。
起き上がれないのではない、すでにアレクの体は起きている。
魔法の鎖に縛られているのだ。
その魔法の効果だろうか、アレクの魔力は失われてしまった。
「邪悪な魔法使いを捕らえるために作った魔法らしいが、今じゃ悪人の方がこの魔法を有効活用している。皮肉な話だな」
そういうと、桃色の髪の青年は口元を歪めて笑った。
「教えてやるよ、真実ってやつを。お前に近づいたのも、育ててやったのも、ここに連れてきたのも、全部お前の絶望をもらうためにやったことだ、ってな」
アレクは慌てて周囲を見た。
塔の屋上だ。
アレクは中央で鎖に縛られ、アクトは端にいる。
そしてアクトの足元では、同じく鎖に縛られたエマとオーラスがいる。
「『女教皇』は戦闘じゃ役立たねえ、『教皇』も魔力奪っちまえばどうってことねえ、アレク、お前が連れてきた助っ人は随分弱いんだな」
「…アクト…その二人をどうするつもりだ」
「ははは、殺す。お前の目の前でここから突き落とす」
平気な顔でそう言ってのけるアクトに、3人は顔を青ざめさせた。
そして同時に、この男のしたかったことを理解した。
おそらくアクトは、いつでも絶望を取り込める状態を各地で作っていたのだろう。
だからアレクの元にあまり帰らなかったのだ。
そしてアレクを自分の元に置いておくことに限界を感じていた。
そこでエマとオーラスの姿を確認し、二人と接触させ、ここまで連れてきた。
「さて、どうすればお前の絶望が増えるかな」
「…やめろ」
「まあいいか、どうせお前……殺せば絶望するだろ」
そう言って、アクトは二人の魔導兵に向き直った。
「別に僕だけ見逃してくれてもいいんだけど…」
「いやだね。お前は早めに殺しとかないとまずい」
困ったように笑うオーラスに、アクトは顔を顰めた。
おそらく二人が思っていたよりも絶望しなかったからだろう。
「最近多いんだよ、死に際で絶望しないやつが」
ぽりぽりと頭をかきながらアクトは言った。
「何でだ?悔いはねえのか?」
「いえ、私たちはまだ死にたくありません。残した研究も数多くあります」
「じゃあ絶望しろよ。今から死ぬんだぞ」
苛立ちを感じたのか、アクトは少し声のトーンを落とした。
だがエマとオーラスは、疑う余地もない信頼をアレクに向けてきた。
「信じていますから」
「ま、たった何週間かの付き合いだけどね」
「ああ」
そうだ、アレクは絶望してやらない。
練習してきた技があるのだ。
学生時代にエマがずっと近くで見てきた技、それを今解放する。
(力を貸してくれ、母さん———ッ)
「『魔力解放』———ッッッ!!!」
直後、紫色の魔力が渦巻いた。




