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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第七章 闇の皇帝と絶望の塔
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第六話 思想

「『皇帝』ですね」


 クアランド王都に帰る途中の馬車で、エマは指を立てて言った。


「十年ほど前、『女帝』と『皇帝』を被験者として行われた実験がありました。その時の研究レポートにあった能力と同じです」


 異能『皇帝』と『女帝』は、対をなす関係らしい。

『皇帝』の能力は闇属性の制御。どれほど強力な闇の魔力でさえも武器として保有できる。

 一方『女帝』の能力は闇属性の増幅。武器として蓄えた闇の魔力をより凶悪な兵器として生まれ変わらせる。


 エマの話によれば、『皇帝』に蓄えた膨大な闇の魔力を『女帝』で増幅させ、強力な兵器を作ろうとした魔法使いの集団があったらしい。

 純粋な闇の魔力を使って。


 その研究は失敗に終わり、『皇帝』は死亡。『女帝』は姿を消した。


「異能者が死亡した場合、異能はランダムに別の人へと宿ります。おそらくアレクは『皇帝』がランダムに宿ったのでしょう」


「…なるほど」


 しかしそれが分かったところで、塔の問題も母の問題も解決したわけじゃない。

 どうせ塔で真実とやらを教えてもらったあと、アレクは戦闘から離れて普通に暮らすのだから、『皇帝』の能力などほとんどどうでもいい。


「まずは…」


 遠方に見えるクアランド城、その頂上にある展望台を見てアレクは目を細めた。



 ※



「それじゃあ展望台は僕が調べてくるから、二人は待っててね」


「…何でだよ」


「アラスタ王がシャイでさ、研究データをあんまり見られたくないらしいんだよね。エマはオタクだし、アレクは部外者だから、そこらへん理解してね」


「オタ…っ」


 口をへの字に曲げつつ反論できないエマを尻目に、オーラスは展望台へ向かう通路の入り口の扉を開けた。


「世界を見てくるよ」


 そう言って、オーラスは扉の向こうに姿を消した。


 さてどうしたものか。

 正直言って、魔法を使うタイミングはもうほとんどなくなった。


 長旅を想定して便利な魔法を身につけようと思ったが、もうすぐ旅は終わる。

 あとは適当にトアペトラにでも行って、そこらへんに転がっている仕事に就けばいい。


「…エマは」


「…?」


「なんで危険を冒してまで魔導兵やってるんだ?」


 それが素直な疑問だった。


 戦う、それはアレクにとっては生きる術。

 獣を狩り、肉を食らうための術。


 だが森の外に出れば、安全に生きる術などいくらでもある。

 商人にでも、道化師でも、トアペトラに行けばいくらでも、生きる術は転がっている。


 数多く存在する仕事の中で、魔導兵を選んだ理由がわからないのだ。


「…魔法を学べば、大体の人が魔導兵に流れてきます。ここにいる多くの人がその類でしょう。実際にオーラスはそれです」


「ええ…」


「または私のように、魔法の研究に飢えている人も来ます。魔法の研究組織は公に認められていませんから、必然的に魔法の研究ができる場所がここしかないんです」


「じゃあ、みんな戦闘が目的で魔導兵やってないんだ…」


「いえ、いますよ。正確には、目的を果たすために戦闘という手段を選ぶ人が」


 そう言って、エマは廊下を歩いてきた少年を指した。


 逆立った金髪の少年だ。

 目は空のように青いが、その色はどこか悲しみに震えている。


「リーフ・グラウィス、今年魔導兵団長になった人です。彼は前代のライ・ヘロウル・ゼウスと違い、魔導兵全員を死なせないための立ち回りをしています。守るために戦闘を選び、それを完璧に遂行する。誰も殺させないという安心感がある。そんな人です」


「その割には、だいぶ哀愁漂う感じだけど」


「当然です、彼のせいで生徒が二人死んだんですから」


 その瞬間、アレクはゾッとした。

 一瞬エマの心の中に、闇の存在を感じ取ったからだ。


 おそらく『皇帝』の力だろう。

 どうやらこの異能は、闇の存在を感知できるらしい。


「言葉選びは気をつけて欲しい、エマ」


 ふと視線を向けると、リーフが困ったような表情でエマを見ていた。


「これ以上僕の心を抉らないでくれ」


「私は事実を言ったまでです。あなたが無理な要求をライにしなければ、あなたが力を使うことに躊躇しなければ、マレンもマーカスも死にませんでした」


「ああ、僕のせいだ。でもその死があったからこそ、僕はみんなを守れる力を得た。あの二人の死に意味を持たせたいんだ。だから何も言わないでくれ」


 そう言って、リーフは立ち去ろうとした。


「待ってください。それでは、あの子達は死ぬべくして死んだと言いたいんですか?」


 怒りに感情をたぎらせて、エマは聞いた。

 エマとオーラスは魔法学校の生徒だったと聞いた。後輩が死んで怒るのは当然のことだろう。


 リーフはゆっくり振り向いてこういった。


「僕は生まれてきたものの運命は決まっていると考えている。人は生まれてから死ぬまでのルートが決まっていて、どう足掻いてもそのルートから逃げることはできないと。一度は違うかもしれないと思った。でももう分かったんだ」


 リーフの心は清純だった。

 ただ、感情が悲しんでいるだけ。


 対してエマの心は闇を秘めている。

 一体この二つには何の違いがあるのだというのか。


「あの二人は、あそこで死ぬ運命だったんだ」

《キャラクター紹介》


○アレク・ネオプトル

黒髪の青年。目は海色。

剣型は『純闇』、戦意解放力は45%。

『皇帝』の異能を持つ。


○リーフ・グラウィス

現魔導兵団長、サウザントオーブの力を使う。

剣型は『自然』(主属性:風、副属性:土)、戦意解放力は200%。

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