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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第四章 異能士団
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第六話 不安定

「ということで、新入りにはガイナルの手伝いをしてもらう」


 ウァルスにいきなりそう言われ、ジン、フィクス、クロス、ティリア、ラーナは目を剥いた。


 王都で大人気の食堂、以前剣交祭で世話になった食堂は、城の地下の通路と繋がっていたらしい。

 そこから厨房に連れてこられ、今に至ると言うわけだ。


「は?何で呑気に料理長の手伝いなんざしなくちゃならねえんだよ?」


 苛立ち混じりにジンが問うと、ウァルスが「まあまあ」と制した。


「ガイナル・アグネイフ、王都じゃ腕利きの料理人と知られるこいつだが、実は異能士団幹部『力』の異能者なんだ。そんで、異能士団の小遣い稼ぎをしてもらってる」


「…よろしくな」


 相変わらずドスのきいた低音ボイスで挨拶を済ませると、ガイナルはラーナを見て顔を顰めた。


「…王国の姫がこんなのことをしていていいのか」


「いいのよ、父上は許してくれたし」


 ラーナは片目を瞑ってそう言った。


 エルドがラーナを異能士団に加えるために、直接国王に許可をもらいに行ったのだ。

 国王は特に動じることなく許可を出してくれた。


 王曰く、「よその貴族にだけは良い顔をする分には教育は十分、戦闘力を高める良い機会だ」ということらしい。


「そうか、では早速始めよう。男3人は倉庫から食材を運んだり、朝の仕込みをメインに。女2人は仕事中ずっと厨房で野菜を切り続けろ。それだけだ」


「え、僕たちの仕事量が少し少ないような気がしますけど」


「問題ない。一番良い味を提供するためには、俺が作った方が一番だ」


 何とも傲慢な。いや、自信があるというべきか。

 実際ガイナルの料理は剣交祭で口にした。彼の言うことに間違いはないだろう。


 やっていけばなれるはず。

 まずはすばやく仕事をこなし、空き時間で特訓しよう。



 ※



 日課的には、基本早朝から15時まで食堂で働き、そこからは夜間メンバーであるウァルス、ホルス、ローズが20時まで仕事をする。


 そして皆が揃った21時に食事をし、風呂に入ってからあとは好きにするという日課だ。


 訓練所にいた時よりも自主練習の時間が長い。

 時間があれば十分身体強化に努められるだろう。


「それにしても助かった!前は3人で早朝から夜までずっとやってたからさ!」


 黒髪の少年、ホルスは食べ物を貪りながら嬉々として言った。

 他のメンバーがしっかり制服を着こなしているのに対し、彼はベストを着ていない。

 むしろコートとズボン以外着ていないので、胸部の筋肉が丸見えだ。

 制服については特に規制はないのかもしれない。


(別に騎士じゃねえもんな)


 外に見せる顔ではないのだ。

 力さえ伴えば何だって良いのだろう。


「でも3人でよくあの仕事回せましたね。やっぱり経験でしょうか」


 興味深そうにフィクスが疑問を口にすると、ウァルスが自慢げな顔をした。


「それが便利な魔法があってよう。『ガーディアン』」


 不意に魔法を唱えると、彼の背後に3人の鎧騎士が召喚された。


「一般騎士程度の力を持つ魔物を召喚するマイナーな魔法だ。誰が開発したのかわからんが、戦闘に使えない代わりに荷物運びには役に立つ。あとは俺らで野菜を切ってれば良いって話」


 なるほど、そういえば以前この3人が厨房にいるのを見たような気がする。

 全員が厨房に入れたのは、この魔法のおかげというわけだ。


「魔法はどれくらい使えるんだ?」


 あらかじめ味方の戦力を確認しておきたい。

 ジンは顎に手を当て、ウァルスの使える魔法を聞いた。


「んー、大体全部」


「な、全部だと?」


「そう。あ、でも『汎用魔法』と『回復魔法』は無理」


 つまり、それ以外は何でも使えると言うことだ。

 先ほど『誰が開発したのかはわからんが』と言っていた。もしかすると、人が開発した魔法も全て使えるのかもしれない。


「それがこの男の異能『魔術師』だ。『属性魔法』、『防御魔法』、『設置魔法』、『儀式魔法』を全て使うことができる」


 ガイナルが淡々と説明した。

 どうやらウァルスはなかなかの強者だったらしい。


「なあなあ、新入りの異能を聞かせてくれよ。クロスとティリアは剣交祭で見たから、フィクスとラーナの聞きたいな」


 ホルスが身を乗り出して2人に聞いた。

 しかし2人は顔を見合わせ、苦い顔をした。


「アタシたちまだ自分の異能分かってないんだよね」


「ええ…普通わかってるもんだろ…」


 あからさまに残念そうな顔をして、ホルスはゆっくり座り直した。


「まあ、過ごしていくうちに分かっていくはずだよ。ごちそうさまです」


 フィクスはそういうと、食器を持って立ち上がった。


「食器はどこに持っていけば良いかな」


「厨房」


「え?」


「厨房」


 当たり前のように言ってのけるウァルスに、フィクスは何も言えないようだった。


 正直言って頭が悪い。

 まさかいちいちここで食べて、食堂に片付けにいっていたと言うのか。


「もう食堂で食えよ」


「「「その手があったか」」」


 ジンの発言に、ウァルス、ホルス、ガイナルは閃いたように手を打った。

 ここにいるメンバーは全員頭が足りないのだろうか。


「兄貴、まさかお前も気づかなかったのか?」


「…ふん」


「ふんじゃねえよ」



 ※



「その鍛え上げられた筋肉、さてはお前、俺と同じく女を釣るために筋トレしてるな?」


 風呂場にて、ジンの筋肉を見てホルスはニヤリと笑った。


「馬鹿野郎、剣士として自分を高めるためだよ」


「またまたー」


 戯けて見せるホルスに嘆息し、ジンは大浴場に入った。


 地下に水は通っていない。

 そのため上の城の風呂を借りるらしい。


 異能士団の男メンバーは勢揃いで風呂場に入った。

 流石にこの時間では誰も入っていなかった。


「それにしてもお前女みたいな体してるな。後輩より筋肉ないぞ」


 ウァルスは風呂に浸かってため息を吐きながらフィクスの身体を見た。

 確かに、クロスの方が全然筋肉がある。


「僕個人としては、筋肉はあまり重要じゃないんじゃないかなって」


「は?」


 フィクスの発言で、ホルスの口元にしわがよった。


「それより技術面での訓練に時間を使った方が効率がいいと思ってるんだ」


 そう言えば、マルクも似たようなことを言っていたような気がする。

 剣を振り続け、魔力運搬の精度を高めることが重要だと。

 その度にエリックが何とも言えない表情になっていた。


「戦意に恵まれれば、筋肉は必要ありませんからね。フィクスさんは多分戦意に恵まれたんですよね?」


「恵ま…れたね、80%は結構高い方だから」


 80%、やはりフィクスは才能に恵まれたようだ。

 ルシファーに選ばれるのも頷ける。


「俺が65でクロスが70だったな。お前らはどれくらいなんだ?」


「俺は魔法に特化した体で生まれてきちまったから確か50程度だったかな」


「俺は75%」


「75か…」


 ウァルスが50%で、ホルスが75%のようだ。

 割と高めのホルスに驚きを隠せなかった。



 ※



「結構うまくやっていけそうだね」


 城の廊下から地下に降り、自室に向かってジンとフィクスは2人で歩いていた。

 地下に兵士は配置されていないので、今は2人しかいない。


 フィクスは今いい気分だった。

 団長のエルドはあれだが、他のメンバーがいい人たちだったからだ。

 割とトークも弾んだので、今後の心配はしなくて済むだろう。


「浮かれるなよフィクス、何もこの日常をいつまでも続けるわけじゃねえんだ」


 だがジンにはそんな考えはなかった。

 そんな彼の様子に、フィクスは心を痛めた。


「ジン、イリアのことは…」


「——俺の前でその名前を口にするな!」


 唐突にジンが怒鳴ったので、フィクスは思わずジンの襟元を掴んだ。


「ふざけるな!僕も彼女が死んでどれだけ———」


 そこまで言ってフィクスはハッとした。

 この程度の感情の制御ができないようでは騎士失格だ。


 それにイリアが死んだ悲しみは、ジンの方がよほど大きいはずだ。

 もともと互いに好意を寄せているような場面は何度かあった。訓練所でそれが進行していてもおかしくはない。

 手を離すと、ジンも申し訳なさそうな顔をしながら襟を整えた。


「悪い、俺正気じゃねえみてえだ」


「僕も…ごめん」


 そのあと気まずい雰囲気が流れた。


 ジンはこんな状態だ、一刻も早くのこの精神状態を戻さなければ。

 フィクスは新たな決意を胸に秘めて言った。


「復讐を遂げよう」


「言われなくとも」

《キャラクター紹介》


○フィクス・エルレド

異能士団に所属する大剣使い。

剣型は『嵐』(主属性:雷、副属性:風)、戦意解放力は80%


○ウァルス・ネイン

異能士団の幹部。間抜け面と絡みつくような声が特徴。

異能は『魔術師』、戦意解放力は50%


○ホルス・ゲルザーテ

異能士団に所属する黒髪の少年。女好き。

戦意解放力は75%

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