第四話 異能士団
月明かりが照らす夜道、その一角で、氷と雷がぶつかっていた。
ただひたすらに氷刃を放つ少女に、フィクスは防戦一方だった。
まだ戦い始めて間もない、なのにフィクスの魔力はそこをつきそうだ。
フィクスの魔力量はあまり少ない方ではない。
ある程度連続で剣技を放っても尽きることはなかった。
だがそれはしっかりした決闘だったからだ。
ここまで無闇に剣技を放ってくる相手は未だかつて存在しなかった。
何者なのだ、この少女は。
「ぐあっ!」
ついに肩に槍が直撃し、フィクスの体は吹き飛ばされた。
そしてそのまま近くの壁に直撃し、フィクスはうめき声を上げた。
立ち上がれない。頭をぶつけた。
このまま負けてしまうのか。
「だめだ…!」
自分一人なら、この先のことを思い、悔いて死ぬだけで済まされる。
だが今は、一国の姫を守らなければならない立場にある。
ここで死ぬことは、騎士として許されない。
「もういい、見てられないわ」
だが、フィクスが再び抱いた戦意は、守るべき対象の一声にかき消された。
「アタシがあいつを仕留めるから」
「え?」
「『刹那の構え』」
剣技名を呟くと、ラーナは刀の柄を握り、腰を低くして動きを止めた。
その構えは全く動かず、まるでラーナの時が止まっているかのようだ。
「『ブリザード』」
少女は、手から氷属性の中級魔法を放った。
それは高速で突き進み、進むごとに鋭利になっていく。
だが、その氷刃は灼熱の刃によって消滅した。
「『一閃』」
今、剣技を放ったのか。
フィクスの目には全く見えなかった。
見えなかったが、剣技を放つ瞬間、彼女の戦意が常識を超えていたような気がする。
「『刹那の構え』」
再び、ラーナは構えを取った。
だが、彼女の周囲には『ブリザード』によって散りばめられた無数の氷の粒がある。
「まずい——」
「『氷災儀ドラグニカ』」
氷の上位魔法だ。中級、初級によって散りばめた氷を魔力元とし、対象を巨大な氷の柱に包む。
そうなれば、下手をすれば窒息死だ。
動かず、目を瞑って集中するラーナの周囲の氷が肥大化し、一瞬で彼女の身を包もうとする。
だが、それすら彼女には通用しなかった。
「『陽炎の舞【神威】』」
先程とは比べ物にならない量の炎刃が空を切り裂き、氷の上位魔法は一瞬で砕け散った。
また、彼女の握る刀の刃が視界に入ることはなかった。
これが噂に聞く王族の剣術、陽刀剣法の力だ。
カウンターの極意と呼ばれるその剣技は、放つ瞬間戦意を150%近くまで上昇させるという。
「剣の国の王女を舐めるんじゃないわよ」
ラーナが威圧的にそういうと、少女はゆっくり槍をしまった。
「…時間」
少女にはもう戦う意志はないようだ。
しかしまだ、微かに戦意を宿らせている。
フィクス達の背後を見据えて。
「『混沌の舞』」
不意に、七色の剣撃が少女を襲った。
その剣技は見間違うはずもない、限りなく最強に近い剣型『覇気』によるものだ。
しかし少女は氷の壁を設置し、姿をくらました。
再び剣撃が放たれ、氷の壁が破壊された。
再び放たれたその剣技が生み出した衝撃波は、やはり凄まじいものだった。
しかし冷気の霧が晴れても、少女が姿を現すことはなかった。
「逃げられたか。それより、まさか城内に二人もいたとはな」
冷たく囁くような声に振り向くと、そこには赤と黒が入り混じったような髪を後ろで結んだ男がいた。
光り輝くその剣を腰にしまい、男——エルドは言った。
「二人とも、同行を要請する」
※
「ごめんなー、悪いようにはしないからよ」
黄髪の男に出迎えられ、フィクス達は王城の地下に降りて行った。
まさか階段のさらに下に隠し通路があるとは。
警戒する様子を見ると、ラーナも来たことがない場所のようだ。
エルドは二人を広間のような場所に案内した。
壁のかなり高所から光が差している、おそらく地下一階だろう。
「名乗らせてもらう。俺が現剣聖兼、この『異能士団』の団長のエルド・デルフ・エスパーダだ」
「で、俺が『異能士団』の幹部、ウァルス・ネイン」
エルドが名乗り、それに続いて黄髪の間抜け面の男がエルドの隣に立ち、胸を張って言った。
「僕はルシファー副騎士団長の弟子のフィクス・エルレドです。あの、なぜこんな場所に?」
「お前達を『異能士団』に勧誘するためだ」
『異能士団』の概要を、フィクス達は教えてもらった。
それはこんな内容だった。
修行の旅先で、エルドは世界の危機について知った。
あと一回禁忌の魔法を使えば『仮壊状態』となってしまう、その事実も調べ上げた。
その調査結果を国王に報告すると、国王はそれを止めるための組織を結成することを許可。
エルドは共に世界を救うものを調べようとするが、世界の危機を民衆に伝えるわけにはいかない。
限定して機密情報を流せる強者、エルドは仲間を『異能者』に絞って探し始めた。
そして結成したのが『異能士団』、世界の危機を救う組織だ。
現在では『愚者』のエルドをはじめとした合計6人の異能者が集っている。
「どうだ、俺たちと共に世界を救わないか」
手を差し出すエルドの手を、フィクスは握ることができなかった。
確かに、世界は救いたい。
しかし目の前の男の手が、あまりにも恐ろしい。
憎悪で満たされたその手を、誰が握ることができるだろうか。
「僕は——」
「ねえ、その光ってるの何?」
不意に、ラーナがウァルスの腰についている結晶を指さした。
何かの警報のように点滅するその石を慌ててウァルスが取り出すと、顔を輝かせた。
「やった、『星』と『正義』が帰ってきたぞ」
「そうか、ではお前一人で迎えに…」
「待てエルド、まずいぜこりゃあ」
うっすらと顔を青ざめさせるウァルスに、エルドは不審なものを感じ取ったのか、顔をこわばらせた。
やがてその正体を、ウァルスが明かした。
「ヴァルタイユが来てる」
「…すぐに出るぞ」
ヴァルタイユ、その名を聞いたことはない。
もしかすると危険な人物かもしれない。
「お前達はここで待っていろ」
エルドはそう言い、ウァルスを連れて階段を駆け上がっていった。
※
「———『混沌の舞』」
それが聞こえた直後、氷の壁を高速で切り裂く音が聞こえた。
流れる魔力は炎、氷、雷、風、いや、全ての属性だ。
この世に全ての属性を操る剣士など一人しかいない。
そして直後、0.1秒にも満たない速さで目の前に現れた男がいた。
「ヴァルタイユ、お前に剣を向ける日を楽しみにしていた」
「エルド、僕も君を待っていたよ」
エルド・デルフ・エスパーダ、この世界で最強と謳われる剣士がそこにいた。
《キャラクター紹介》
○エルド・デルフ・エスパーダ
今代剣聖で、異能士団の団長。
剣型は『覇気』(主属性:全て)
○ウァルス・ネイン
異能士団の幹部。
間抜け面と、耳に絡みつくような声が特徴。




