表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第四章 異能士団
46/198

第一話 姫

 ウエラルド王国の王城では、いつも貴族たちが華やかに暮らしている…というわけではなかった。


 皆が皆揃って庭に赴き、剣を振るって体を鍛えていたのだ。

 中には決闘を申し込む輩もいる。


 そして戯れに闘技場を貸し切り、貴族同士で勝ち上がり表を組むこともある。


 これが剣の国ウエラルドの中心部の様子である。


「貴族なのに元気ですよね」


 少年、フィクス・エルレドは窓の外を見て、どこか呆れたように嘆息した。

 青い髪、紫電の瞳、そして女性のようにきめ細やかな肌と整った顔、かつてジンとともに剣の修行に励んだ、彼の幼馴染である。


 フィクスの言葉に隣の人物、ルシファーは苦笑した。


「それを言われるのは何度目だろうか」


「さあ、やっぱり僕の思う貴族のイメージと違うのでしょっちゅう思ってしまいます」


 フィクスは肩をすくめて、庭の一角を見た。


 半年前、新たに騎士団長となった少女、アゼルス・アスプロスだ。

 最強の剣型『黒氷』の威力は凄まじく、貴族が組んだ勝ち上がり戦でアゼルスが入っている場合は絶対に優勝してきた。

 間違いなく、歴代の騎士団長でトップクラスの技術を持つはずだ。


 剣聖といい騎士団長といい、今代の剣士たちは優秀な者ばかりだ。


 フィクスも腰に刺した大剣『魔剣アバドン』で日々鍛錬に励んでいる。

 剣域を出せたところまでは成長し、現在は剣域で宙に浮かんだり、高所から着地する方法を模索している。


 剣域で宙に浮かぶといても、魔法の『フライ』のように自由に移動できるようになるわけではない。

 出す前からあらかじめ魔力の形を決めておく必要があるため、そこまで繊細な動きは不可能だ。

 しかし宙に浮き、高所から着地できるという技術は、相手の攻撃を交わしたり、騎士団としての探索にも大いに役立つはずだ。


 この研究にはルシファーも協力してくれている。

 風属性が副属性の剣型『嵐』を持つフィクスのように、騎士団の中の剣士のうちの何人かにこの技を習得させれば、平野の探索や遠方に向かわなければならない上位魔物討伐作戦の効率が大きく上がることだろう。


「剣交祭も終わったし、本格的に研究が進みますよ」


「日々の鍛錬も怠ってはいけないぞ」


「はい、いつかルシファーさんに追いついて見せます」


 フィクスの言葉にルシファーは昔を懐かしむように目を細めた。

 やがて二人は、いつもの実験場所へと向かった。



 ※



 剣域の実験を行うのは、周囲に人もおらず真上に何の障害物も存在しない中庭だ。

 そこから見える姫の部屋の窓を眺めながら、ルシファーは言った。


「姫のプライベートの姿が見えたら成功だ」


「変な言い方しないでくださいよ…」


 口元を緩めて放ったルシファーの言動にフィクスは顔を顰めた。


 しかしフィクスも正直、姫のことが気になる。

 彼女は全くと言っていいほど外に出てくることがない。

 剣交祭では姫の姿を確認できたが、見たのはそれが初めてだった。


「姫ってどんな人なんですか?」


「どんな人…うむ、かなり…気難しい性格をしていらっしゃるお方だ」


「気難しい…もしかして、少し厳し目な人ですか?」


「ああ、確かに厳し目な性格だな。アゼルスが仲がよかったはずだ、彼女に聞いてみるといい」


 アゼルスとは何度も話したことがあり、今ではすっかり仲が良くなった。

 訓練所内でのジンの様子も話してもらったので、再び彼と再開するのが楽しみになった。


 あと2年、その時にジンがこの城に騎士としてやってくる。

 その日が待ち遠しい。


「よし、確か今日は剣域の魔力運搬のルートを変えた剣域の試し撃ちだったな。早速やってみるとしよう」


 ちなみにルシファーの剣型は『薄灯』、主属性が闇で副属性は炎だ。

 風属性が入っていないので、この実験には参加できない。


 流石に闇と炎では空を飛ぶことはできまい。


「剣技『風域・飛翔の型』!」


 自身の足元に展開させる『風域・減速の型』の改良版だ。

 魔力の流れをバリアのように張り飛び道具を減速させる『風域・減速の型』とは違い、魔力の流れを自身の真下に向けて宙に受けるような仕組みにしてある。


 その魔力の流れは完璧で、フィクスの体はしっかり1mほど浮いていた。


「おお!浮いているぞ!今度はそのまま消費魔力量をあげるんだ」


「やってみます」


 嬉しそうに声をあげるルシファーに頷き、 フィクスは剣域に込める魔力の量を増やした。

 そうすることで威力が上がり、今よりも高く飛べるはずだ。


「うわっ!?」


 フィクスが魔力量を上げた途端、ものすごい速度で上昇した。


 しまった、まだ着地の練習はあまりできていない。

 あまり高くまで飛びすぎると、落下で大怪我を負ってしまう。

 下手をすれば死ぬだろう。


「くっ」


 フィクスはとにかく夢中で突起物を探し、ちょうど近くにあったベランダの柵にしがみついた。


 危なかった、あともう少しで落ちるところだった。

 とりあえずこのベランダから中に入って、城内からもう一度中庭に向かおう。


 そんなことを考えながらベランダに這い上がった。


「あれ?」


 そういえばここは姫の部屋のベランダだ。

 となれば、あのベッドでだらしない格好で本を読んでいる少女は何者なのだろう。


 まさかあの高貴さのかけらもない少女が姫だというのか。


 驚いたような顔をしたままフィクスが硬直していると、ベッドの少女がふとこちらを見た。

 一瞬固まると、無言でこちらに歩み寄り、窓を開けた。


「早く入りなさい、この無礼者め」


「無礼者って…確かにそうだけど」


 姫ならばもう少し姫らしくあるべきではないのか、などと思いながら、フィクスは彼女の部屋に入った。


 室内は豪華な家具で埋め尽くされてはいるものの、小物は床に散らかったままだ。

 しかし本は好きなのか、しっかりシリーズごとに整理された小説が綺麗に本棚に入っている。


 机の上も散らかっていて、食べかけのスイーツが放置されている。

 これならまだ、幼い頃に見たジンの部屋の方が綺麗である。

 まあ彼も一応貴族なので、それなりの気品さは備えていたのかもしれない。口調は別として。


「アタシのプライベートを侵害したんだから、ちゃんと納得のいく理由を提示してくれるんでしょうね?」


 不機嫌そうにベッドに座り込んだ姫、ラーナ・アーサー・ウエラルドは言った。

 その言葉に、フィクスは苦笑いで返すしかなかった。

《キャラクター紹介》


○フィクス・エルレド

ウエラルド城で剣の訓練に励む少年。ジンの幼馴染。

剣型は『嵐』(主属性:雷、副属性:風)


○ルシファー・メルティア

ウエラルド王国騎士団の副団長。フィクスの育成にも励んでいる。

剣型は『薄灯』(主属性:闇、副属性:炎)


○ラーナ・アーサー・ウエラルド

ウエラルド王国の姫君。

性格は少し荒く、気品もない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ