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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第三章 禁忌の魔法
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異能記『死神』

異能記は異能者のサイドストーリーで、本編に入れられなかった部分です。

外伝ではないので必読という形になります。

死臭が漂う。祖父は死臭を漂わせたまま死亡した。

その匂いは、両親にもあった。


最初はただ、祖父の匂いがついているだけだと思った。

しかし成長していくごとに、臭いの正体が理解できた。


「お父さん、お母さん、死臭がするよ」


無邪気なその言葉を放った途端、二人は心臓を押さえて苦しみ始めた。

胸部を掻きむしり、地を這いながら、やがて泡を吹きながら死んでいった。


俺は人を殺したのか?


道ゆく人から、死臭がする。

死臭を漂わせた人が、交通事故に遭って死ぬ様を見たこともある。


俺は死を見れるのか?


ついに、大切な仲間からも死臭を嗅ぎ取った。


「俺は、死神なのか?」



※



恨んでいるだろうか。否、自分は罪を犯した。罰されて当然だ。

ならば、自分を憎むか。否、俺がここまで追い詰められたのにも理由がある。


それなら、『死神』を憎むか。


「ああ、憎いさ」


歯軋りをして、ディオンはつぶやいた。


どうしようもなくこの力が憎い。

これさえなければ、自分はもっと良い人生を送れたはずなのに。


だが、不意に思うことがある。

もし『死神』を持っていても、感情さえなければ誰も悲しまずに済むのではないか、と。


「君にいい話がある」


嗤う男に森で出会い、ディオンの人生はここで変わろうとしていた。



※



世界はすでに九回破壊されている。

そして十回目を迎えた時、世界は『仮壊状態』となる。


『仮壊状態』では、世界の形が大きく歪み、ありとあらゆるものが今の世界とは違くなる。

その中の一つとして知られているのが、『人の感情がなくなる』というものだ。


それはディオンが望む状態だった。

『仮壊状態』ならば、『死神』によって悲しむものはいなくなる。


この男、ヴァルタイユは、ディオンのように感情がなくなることを望む少年少女を集めて『世界のカケラ』を集めているらしい。

世界のカケラを全て集めることで世界の治療が行えるらしいが、同時に『魔法の天才でなくても禁忌の魔法が放てる』らしい。


「僕は過去に戻って、デリアを殺したい。だから禁忌の魔法を使って時間を越えるんだ」


ヴァルタイユは言った。


「僕は君を信頼している」


たびたびこの男は、初対面であるディオンと最初から仲が良かったかのような振る舞いをする。

それが彼の、人との距離を縮めるコミュニケーションなのか、あるいはもっと別の理由があるのか。


「過去に戻ってデリアを殺す…栄光が欲しいってことか?」


「違う、いつか君にも話そう」


そう言って、ヴァルタイユは背を向けて歩き出してしまった。

ディオンがついてくるのをわかっているかのように。



※



途中でヴァルタイユが『ワープ』を使ったので、もうすでにここがどこなのか見当がつかない。


複雑な岩場の中に広大な土地が広がり、そこには歪な形の建物が建っていた。

設計も何もない、建築素材もそこらからかき集めてきたような建物だ。


建物の内部は、紳士服と中折帽を着た少年少女が徘徊している。

この歪な建物を作ったのは、彼らなのだろうか。


「すでに最初から役割は決まっている。君は3人目の『幹部』だよ、ディオン・フレデミ」


ディオンは建物の中心部にある少し広めの部屋に案内された。

今はまだ何もないが、魔法の研究道具などを望めば持ってきてくれるらしい。


ヴァルタイユは部屋を出る直前に言った。


「『死神』の詳しい能力が聞きたくなったら、いつでも僕の部屋に来るといい。中心にあるからね」


「…ああ」


世界を仮壊に導く組織、それが本格的に動き出すのは近い。

第三章終了しました。

第四章も引き続き読んでいただけると幸いです。

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