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鈍色の封剣士  作者: 沙菩天介
第二章 異能の星
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第十一話 決勝戦

夕食が終わり、再び闘技場に観客が集まった。

もちろん、今日最大の試合を見るためである。


「決勝戦くらいは楽しめるんでしょうね?」


アゼルスの隣に佇む、橙色の髪の少女はつぶやいた。

予選時に席を外した人物だ。


「私は本戦の大体の試合が楽しめたけどね。もしかしたらラーナには退屈だったかも」


「アンタが楽しめても、アタシは退屈しそうだった?そういう情報は要らないのよ。アタシが楽しめそうだった試合があったなら別だけど」


ラーナと呼ばれた少女は不機嫌そうに言うと、顔をぷいと背けてしまった。

アゼルスはこの捻くれた性格の少女に苦笑いをするしかない。


ラーナ・アーサー・ウエラルド、この国のプリンセスだ。

だからこんな性格になってしまったのかもしれない。

まあアゼルスとて、彼女の育ちを詳しくは知らないが。


「ほら、入場してきたわよ。エスパーダ家のジンと、ルシファーの弟のクロスね」


アゼルスが説明すると、ラーナは仕方なさそうに二人を見た。

そしてしばらく見続けると、やがて眉をひそめた。


「どうしたの?」


「エスパーダ家の人間はどっち」


「え?」


「そのジンとやらはどっち、と聞いているのよ」


不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ラーナはアゼルスを睨んだ。

ラーナの機嫌の悪さに疑問を抱きながらも、アゼルスはジンを「灰色の髪のほう」と伝えた。


するとラーナは考え込むような仕草をして、


「おかしい…エスパーダ家の人間は決まって『黒髪と赤メッシュもどき』とかいうふざけた髪色のはず。何でジンとやらは灰色の髪をしているの?」


「赤メッシュ…?」


「…トアペトラのヘアスタイル」


アゼルスの問いにぶっきらぼうに答えると、ラーナはまた考え事を始めてしまった。


アゼルスは成績こそ優秀だったが、ここの剣聖についてはあまり詳しくはない。

確かに歴代の剣聖は皆同じ髪型だったような気もするが…。


もしかしたら、ジンの『剣型を複数持つ能力』の手がかりになるかもしれない。


そんなことを考えながら試合を見ていると…


「…!」


何と、初っ端からジンがクロスの異能に捕まってしまった。

愚かなことに、イリアと同じように『光速術ラピッドアーツ』で距離を詰めてしまったのだ。


前の試合から何も学ばなかったのだろうか。


「はあ…ジンは何も成長してないのかしら」


アゼルスがため息をついて額に手を当てると。


「いや、多分この試合すぐに終わる」


ラーナがそんな意味の分からないことを呟いた。

当然、クロスがジンを場外に飛ばして終わりだろう。


だが、ラーナが見据える勝利はクロスにはなかった。


「炎属性を舐めるんじゃないわよ」





さて、どうしたものか。

重力操作に今のところ通用するのは『セーブ・ライト』のような設置系剣技だ。


ジンには、そういう類の剣技は存在しない。

となればどうやってこの異能を回避すれば良いのか。


「兄貴、もう終わりですか」


クロスの問いが聞こえて来る。

そうか、自分はもう床に這いつくばっている状態なのだ。


どうしようもない。あとは場外に飛ばされて終わりだ。


———誰もがそう思っていることだろう。

すでにジンは作戦を思いついていた。


「吹っ飛べ!」


クロスが場外に意識を集中し、ジンを場外に出そうとした。


やがてジンは場外に吸い寄せられ———



ガツン!



———ジンの剣が床に突き刺さった。


「当然重力に則って落ちているだけなら、こういうこともできるよな?」


ドヤ顔でジンは言った。

その様子に観客は盛り上がっているが、それもそこまでだ。


「だから何だと言うんですか。結局俺が兄貴に剣技でも撃ってしまえば、兄貴は終わりです」


クロスが着々と近づいて来る。

剣から手が離れてしまったら、そこでもうゲームオーバーだ。


だが、ジンはこれを待っていた。

クロスが『剣で攻撃する』その瞬間を。


「剣技『星屑の剣流(スターダスト)』———ッッッ!!!」


火炎の流星とともに、クロスはジンの元へと近づいて来る。

やがて彼は———死線デッドラインを通り過ぎた。


「剣技『神炎刃デッドライン』———ッッッ!!!」


止まったジンの剣から、禍々しい『黒炎』の剣技が放たれる。

それは『神氷刃イエロ・ラル』のように、まずは両サイドから黒炎が襲いかかり、相手の構えを崩す。


そしてジンの場合は相手を掴み、一瞬の間だけ動けないようにする。

だがクロスの異能を解くにはその一瞬だけで十分だった。


「『黒滅斬』———ッッッ!!!」


「待っ———」


放たれた剣技が、クロスの腹部に峰打ちで食い込む。

ティリアと同じように吹っ飛び、床を転がって倒れ伏した。


よかった、割と上手くいった。

少し危ない賭けだったのだが、成功したようで何よりだ。

動けない状態でも『神炎刃デッドライン』が使えたのはいい収穫だった。


ザパースがクロスの状態を確認しようと近づいてきた。


だがクロスの呻き声が聞こえ、ザパースはその場にとどまった。


「…まだ…だ…、俺…は…」


拳を握りしめ、倒れ伏した状態から必死に起きあがろうともがいている。


「兄貴に…兄貴に勝つんだ…!」


その言葉と同時に、ジンの体が再び床に引き寄せられた。

しかしその力は貧弱で、ジンを這いつくばらせるほどの力はなかった。


「………」


やがてクロスは動かなくなり、ザパースはクロスの状態を確認した。


「…勝者、ジン・デルフ・エスパーダ———ッ!」


ザパースの掛け声と共に、観客は湧き上がった。

だがその中で、ただ紫色の騎士は切なげに表情を歪めていた。





あまりにも呆気ない決勝に、アゼルスは拍子抜けだった。

ラーナはこれを見越していたようだが、もっとこう…パフォーマンスは無かったのだろうか。


「所詮クロスとやらは発現した異能の力を利用して、初見殺して決勝まで上がったに過ぎない。そもそも入ったばかりの一年生がエスパーダ家に勝てるわけないのよ。全くつまらない」


そういうと、ラーナは肩を怒らせて退室してしまった。

仕方あるまい、決勝なら楽しめるかもと思ってきてみればこんな結末だ。

彼女なら怒って当然だろう。


「エスパーダ家の剣交祭って、あまり芸がないみたいだし」


エスパーダ家の圧倒的な戦闘力は、戦いを一瞬で終わらせてしまう。

それも考えれば、ジンには十分なパフォーマンスが出来ていたのかもしれない。


彼の力が剣聖に及ばないというのも気の毒な話ではあるが。


「ジンが望む剣士像には、一体いつになったら届くのかしら…」


まだまだ剣聖には程遠いジンに同情し、アゼルスは心を痛めた。

《キャラクター紹介》


○ラーナ・アーサー・ウエラルド

ウエラルド王国の姫君。性格は少しキツめ。

アゼルスに対する口調は厳しいが、なんだかんだで仲が良いようだ。

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