第九話 封じられた光
何故、ジンに『純光』が使えるのか。
黒炎の主属性が不明、と言う点が引っ掛かっていたが、これを使わない手はない。
「これでお前の速度にも追いついたッ!」
ジンがティリアの動きを把握できるレベルまで追いついた。
ティリアはすかさず剣技をジンに放つが、ジンの『黒滅斬』で相殺されてしまう。
おかえしだと言わんばかりにジンも剣技を放った。
「『黒滅斬』———ッッッ!!!…………あれ?」
しかし放った剣技は思っていたよりも遅く、ティリアの元に届くことはなかった。
「『純光』の剣技じゃないと、多分使い物にならないとおもいますよ〜」
ティリアは笑って言った。
なるほど、確かに『黒炎』はスピードも高いが、流石に『純光』に追いつくことはない。
『純光』の魔力を使った『光速術』の速度よりも『黒炎』の剣技が遅いのは当然のこと。
それに比べてティリアは『光流』、主属性のみが光属性の剣技だ。
『光速術』の速さは彼女の戦意解放力に依存していると言っても過言ではない。
そして戦意操作は、自身の全ステータスが強化される。
視力や反射神経はもちろん、剣技の速度まで上げることが可能だろう。
戦意でカバー出来るレベルの剣型を持つティリアと、とってつけたような超スピードの剣型を持つジン。
ジンの剣技が遅いのも頷ける。
だがしかし、ジンとティリアの戦意解放力の違いは5%、そしてジンの剣型は『純光』でティリアの剣型は『光流』。
解放力の差異と、剣型の強さの差が明らかに離れている。
つまりどう言うことかと言うと、『光速術』を使った際のジンの速度は、ティリアを上回っていると言うことだ。
「剣技を攻撃として使わなくとも、十分太刀打ちできる!」
「く———ッ!」
ジンが振りかぶった斬撃を、ティリアは危ういところで交わす。
ティリアが負けじと剣技を繰り出すが、ジンの剣技で相殺される。
そんなことが一分ほど続いたところで、ジンとティリアの表情は苦しそうなものになっていた。
やってみると分かる。『光速術』は魔力を大量に消費する。
イリアは今までこの技を使ってだいぶ早くケリをつけてきたから問題はなかったのだろう。
おそらくティリアも気付いていた。だから一回戦では使わなかったのだ。
ジンの魔力がなければ、存分にこの技を使えない。
「こいつは早めに終わらせねえとな」
「あたしも同感です」
おそらく次の一撃で勝負が決まる、と二人とも確信していた。
だがその勝負を決める一撃で、ジンはとある賭けに出ようとしていた。
当然『黒滅斬』を放てば、ティリアにかわされて終わってしまう。
だがもしこの賭けが成功すれば、ほぼ確実に勝利することができる。
それに、ジンが『純光』を使える理由に繋がる。
もし黒炎の主属性が全属性の特徴を持っているのならば…
やがてジンとティリアは互いに向き合い、静かに剣を構えた。
観客席もしんと静まり、この超スピード勝負の行方を見逃すまいと集中していた。
そして———
「『ソードライト』———ッッッ!!!」
———ティリアが放った攻撃特化の剣技が空を裂いた。
それは真っ直ぐにジンのもとへ飛んでくる。
狙いは一瞬、ティリアがちょうどの位置を通過したときだ。
「うおおおおおおお!!『フラッシュ』———ッッッ!!!」
直後、閃光が闘技場を包んだ。
その光に目が眩み、ティリアが一瞬目を細めた。
その瞬間、
「『黒滅斬』———ッッッ!!!」
刃を平な面にして、ジンの剣がティリアの腹部を思い切り打った。
「ふ———」
ティリアは目を見開いたかと思うと、ものすごい勢いで床に転がった。
そして5mほど転がった後、動かなくなってしまった。
ザパースが医療班と共に急いで確認し、彼女の状態を確かめた後、手を挙げていった。
「ティリア・ファシー気絶!勝者、ジン・デルフ・エスパーダ!」
ザパースが言い終わると同時に、闘技場は歓声で包まれた。
※
「『黒炎』は、全ての属性を保持しているとでもいうのだろうか」
ふと顔を上げると、フィクスを連れたルシファーが顔をこちらに向けていた。
フィクスに言った言葉でないことは確実だろう。
「私も今それを考えていたところ。それと、『黒炎』に全属性が入っていることは多分あり得ないわ」
アゼルスはそう答えると、再び考え事に集中した。
『黒炎』に全属性が入っているのだとすれば、『黒氷』にも入っているはずだ。
だとすれば、『黒炎』と『黒氷』の違いを探す必要がある。
それとも、単純にジンが複数の剣型を持っているだけなのだろうか。
しかし剣型を複数持つ人間など現在報告されていない。
「ザパース殿に観察を頼むしかないのではないか?」
「そうね、私たちが考えても、結局ジン自身に分かっていないのなら無意味だし」
『黒炎』『黒氷』と同じような剣型を持っているにもかかわらず、複数の属性を使うジンに嫉妬してしまったが、今考えることではない。
この剣交祭を見終えても、自分にはまだやるべきことがあるのだ。
「フォーネ…絶対見つけ出すから」
失踪した自分の妹の名を呟き、拳を堅く握りしめた。




