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少し時間が経ちます!
このソルヴィエール領へ移ってから3年、私の生活習慣は全く変わりました。
「っはぁっはぁ!!待てや!こんの、クソガキィ!!!」
「待てと言って待つ奴がいるかボケ!」
まず、口の聞き方が悪くなった。
「はぁっはぁっはぁ!きょ、今日こそは、この前の借りを、かえ、し、はぁ、はぁって貰うぞ!」
「っは!寝言は寝て言いなよ!バーカ!」
「ぐんぬ~!っ待ちやがれぇえ!!」
私は塀に片足を着け、グッと力を入れるとあっという間に屋根の上だ。
「ックソ!」
「べーっだ♪」
そのまま屋根の上を駆ける!右手にはしっかり戦利品が握られている。先程のまで追いかけてきていた男はもう見えない…
「はぁ…これの何がいいんだろう?」
右手にある"ネックレス"を掲げてみる…ぶっちゃけ安っぽいものにしか見えない。だが、あの男にとっては大事なものだったらしい…
「まぁ、これで依頼は達成だ」
私にとってはどうでもいい品だけれど、一応依頼品だ。それをポケットにしまって屋敷に向かった…
祖母の屋敷に移って、先ず義務付けされたのが自分一人で身を整えること。次に、洋服は可愛らしい物から実用性を重視された殆ど男性用の服を着るようになった。髪は切るつもりだったらしいが流石にそれは嫌でとことん駄々をこねて止めさせた…恐るべし私の癇癪!髪を切る代わりに、いつも一本縛りにしている。今は背中の半分くらいまで伸びている…
「おかえりなさいませ」
「うん、ただいま!」
屋敷に着けば誰か必ず出迎えてくれる。
それは例え玄関からではなくて、サロンの窓から入ったとしてもだ……
「先ずはお風呂に入ってくださいませ。メイローズ様がお待ちです。」
「はーい」
メイローズとはこの屋敷の主、我が祖母だ。祖父は既に他界していて、私は一度も会ったことはない。
メイローズ・ディー・サークレイ
それが私の祖母の名前だ。だが、彼女には裏の顔が有ってそこでは"モルテ"と呼ばれている。なんと、暗殺者ギルドの長だったのだ…
私の母方の一族は皆暗殺者として育てられる。そして何故か縛りがあって、長になるのは女性のみである。
しかし長になるには、誰よりも強く賢くなければならない。故に、私は過酷な環境下に置かれて生き延びなければならなかった。本来ならば母が次期長になる筈だったけれど、母が祖母に賭けを持ちかけて祖母はそれにノッた。
"私が女児を産んだら、その子を長にしてもいいわ"
それが2人の間で交わされた契約だった。この賭けは母にとって、とても不利だったのだ。だって私達は何故か女系一族…むしろ男児を産む方が珍しい。なので男児はめちゃくちゃ大切にされる。将来だって選べる!暗殺者にならないで、冒険者や研究者になっても誰も文句は言わない。だが、女児は必ず暗殺者になることが義務付けられている…何だろう差別じゃん!って思いたくもなる!
これを知って少しだけ母の私に対しての態度がわかった気がする。きっと彼女は負けたくなかったのだろう…何せ根性で第1子と2子を連続で男児を産めたのだ。彼女はすごい!
身体の汚れと汗を綺麗に全て落として、いつもの白いシャツと黒の短パンに着替える。髪はまだ濡れているからこのまま縛らないで自然乾燥にしよう…少し手で整えば完璧!なんて簡単だろう!最近よく思うんだけど、私ほど早く準備が終わる公爵令嬢は居ないと思う…
準備が出来たら"依頼品"を持って祖母の執務室に向かう…今日も軽い依頼だったから、直ぐに終わるだろうと思ってノックもせずに部屋に入った。
「"依頼品"無事に回収しました!」
「ご苦労様。今回も早かったわね!流石私の孫ね…これなら次の段階に進んでも問題無さそうね…」
えぇ…相変わらず嫌な予感がするんだけど…
「実はこの近くの森に珍しい羊の魔物が出たのだけれど、すばしっこくてなかなか捕まえられないのよねぇ…ルーナは高いところに昇ったら右に出る者が居ないじゃない?ちょっと捕まえてきてちょうだい♪」
「…それは命令ですか?」
「そうよ♪」
「…はぁ、今から行ってきます…」
「あら、明日でもいいんだよ?もう暗いし見つけるのは大変でしょう」
「おばあちゃん、私だって夜目が聞くよ…それに明日はちょっと用事あるから今日の内に全部済ませたいんだよね」
嘘、ただ寝たいだけ…もうね、最近ずっと寝不足なのだ…それも全部彼奴らのせいだ…夢だと思っていた精霊はあの後ちょくちょく現れては私の体力を奪っていく…私はまだ成長途中なんだ!寝る子は育つって言うのにこれじゃ育たないじゃんか!
「そうかい…なら、朝方までには戻りなさい。それが今回の達成リミットよ!…ほらこれがその魔物の特徴よ。行ってらっしゃい」
渡された紙をみて、首を傾げた…
「結構普通の羊に見えるんだけど…」
もくもくの身体に短い足、つぶらな瞳は庇護欲すら湧かされる。
「ああ、そうね。言いそびれていたわ!姿は普通の羊なのだけれど、それ、手のひらサイズよ」
「え」
「頑張ってね♪」
マジかよ!?おばあちゃん鬼畜やん!?
「……いってきます」
時間制限を掛けられた珍獣探しが始まった…
でも、まさか別の珍獣に出逢うとは思っていなかった………
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