表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/32

金太郎~宣伝編~そのに。

「いやあ、負けた負けた。凄いね、金太郎」

「そ……そりゃ、どうも……」


 幸いにも相撲で済んだ勝負結果は、決まり手うっちゃりで金太郎が勝ちました。流石は後世鬼退治を行う事になる人物、その強さは伊達ではありませんでした。


 のほほんモードへと戻ったクマ君の賞賛の声に、金太郎は息も絶え絶え、答えました。全身の汗が、疲労とはまた別の理由で止まりません。


「……と言う訳で、サクッと次行こうか」

「何か気が付けば、目の前に谷が口を開けてるんだけど!?」


 唐突にも程がある場面転換に、金太郎は驚愕します。足柄あしがら山は、空気の読める山なのでありました。


「……ま、まあ良いか。これは栗拾いの場面だな。谷の向こう側に栗の木があるんだけど、渡る事が出来ない。そんな動物達のために、俺が木を倒して橋を掛けてやるんだ」

「説明ご苦労様。僕との相撲の場面は何となく知ってるって人は居ると思うけど、谷に橋を掛ける場面は知らないって人多いと思うんだ。ホント、金太郎の活躍ってマイナーだよね……」

「今更のように同情の目を向けられてるし……」


 クマ君からの指摘に、改めて虚しさを感じる金太郎でした。


「ほらほら、金太郎。早く橋を掛けてよ」

「「「そうだそうだー」」」


 何時の間にやら用意していたおやつをパク付きながら言うクマ君に、他の動物達も同調します。


「わ、分かったよ、急かすなよ。……良しっ、一つ気合を入れて行きますか」

 かぶりを振って気を取り直し、金太郎は手近な木に狙いを定めます。


「はーいみんな、離れて離れてー。……行くぜ、どりゃぁぁあっ!!」

 叫び、金太郎はスギの木に向かって突進します。マサカリを使うという発想は、どうやら彼にはないようです。


 衝突音が辺りに響きます。一拍置いてクマ君の「たーおーれーるーぞーっ!!」と言う注意喚起がそれに続きました。


 根本からへし折れて傾き、自重を支え切れなくなったスギが、バキバキと音を奏でながら倒れて行きました。


「どーよ、俺の体当たりは」

「「「わー、凄いー」」」


 胸を張る金太郎に、実にフラットな調子の声援が飛んで来ました。出来ればもっと盛り上げて欲しいと金太郎は思いましたが、先程のような野生剥き出しモードは怖いので、特に文句は言いませんでした。


「んじゃ、最後の仕上げ行くか。……だりゃぁぁぁあっ!!」

 叫ぶが早いか金太郎は、へし折ったスギを持ち上げます。そのまま先端部分を対岸へと渡し、谷に橋を掛けるのでした。


「「「わー、凄いー」」」

 全てを見届けた動物達の、テンプレじみた賞賛が上がります。


「はい、ご苦労様。力持ちって言う評判は本物だよねー」

「おう。これで俺の友達想いっぷりもアピール出来た……ところでクマ君、さっきから何食べてるんだ?」


 おやつ片手に話し掛けるクマ君へ、金太郎は問います。


「ん? 甘栗」

「台なしだなオイ!? わざわざ向こうに渡る必要ないじゃん!?」


「あ、みんなの分もあるけど、要る?」

「「「要るー」」」

「いやあ、わざわざありがとう!! おかげで俺の茶番っぷりも、より一層際立つよ!!」


 渡る者の居ない橋の前に広がる、香ばしい甘栗の香り。食欲をそそるその香り

は、金太郎が涙目になるのに十分でありました。






「じゃあ最後の場面、頼光よりみつさんにスカウトされるところ行こうか」

「……ああ、そうだな。甘栗美味かったよ畜生……」


 虚しさの残滓ざんしを引きずりながら、金太郎は答えました。


「へーい、そこのマサカリ担いだ坊やー」

「あ、来た来た。さあ金太郎、最後の仕上げだよ」


 そんな彼等の前に、一人の立派な武士が姿を現しました。

 彼こそが、源頼光。平安時代中期の武将であり、頼光四天王を率いて鬼退治を行った人物です。


「見てたよー、君凄いじゃーん」

「どうもありがとうございます」


 頼光さんから声を掛けられ、金太郎はぺこりと頭を下げます。下げながら、ここが勝負所と内心で気を引き締めます。ここで格好良くスカウトされる事は、その後の自分の大物感を引き出す事に繋がるのです。


「敵の大群の中に取り残された主の子供を、単騎で助けに行くなんて中々出来る事じゃないよー」

「すみません。それ三国志の人の話だと思います」


 そして頼光さんは、全くの別人の偉業を褒め称え始めました。流石にここで「そうなんですよー」とは言えない金太郎でした。


「あれ、違った? じゃあアレだ、御所に押し寄せて来た敵を、単身で迎え撃ったんだっけ? 畳に何本も刀を突き立てておいて、刃こぼれするたびに新しいのに交換しながら」

「すいません。それ戦国時代の人の話だと思います。しかもそれ、最終的に討ち死にします」


「違いますよ、頼光さん。妖怪土蜘蛛を退治した人ですよ」

「ああー、そうだったそうだった。ありがとね、クマ君」

「すみません。それ頼光あなたの話だと思います。て言うかクマ君、わざとでしょ」


「そうだっけ? まあ良く分かんないんだけど、とにかく君、ボクの家来にならない?」

「良く分かんない人を家来にするんですか頼光さん!? て言うか、俺の話どんだけ知られてないんだ!?」


 こんなにも締まらないスカウトのされ方もありません。はらはらと涙を流しながら、金太郎はうなだれます。


 そんな彼の肩に、クマ君は優しく手を置きました。


「そんな落ち込まないでよ、金太郎。確かに君の活躍はマイナーだけども、君の名前自体は桃太郎、浦島太郎と並んで『昔話三大太郎』と呼ばれる位に有名じゃん。活躍はマイナーなのに有名人って、中々ない特徴だよ。むしろ、恵まれてる立場な方じゃないかな」

「ありがとう、クマ君。マイナーマイナーうるさいけど、慰めてくれてるってのは分かるよ」


 金太郎は涙を拭い、


「まあ、考えてみればここまでの話って、あくまでも俺が頼光さんの家来になるまでの経緯みたいなもんだしな。ここから先の活躍次第で、俺等四天王の強さをアピールする機会はいくらでもあるはずだ」


 決意も新たに、天を見上げるのでした。


「よーしじゃあ、ボクん(摂津国、現在の兵庫県)行こうかー。レッツらゴー」

「じゃあ、行ってくるぜクマ君達。向こうでも、絶対活躍してやるぜ」


 そう言って頼光さんの後に続く金太郎の耳に、クマ君達の「頑張ってー」の声援が響くのでした。






 こうして、頼光さんの家来になった金太郎――坂田金時(きんとき)は、頼光四天王と共に大江山の鬼退治に参加し、見事討伐に成功。その名を轟かせる事になりました。


 ちなみに、インゲン豆の一種である『金時豆』は彼こそがその名の由来です。そして彼の息子、坂田金平(きんぴら)の名を冠した食べ物こそが、『きんぴらごぼう』であります。


 金太郎は見事、後世にその名を残す事が出来ましたとさ。


 めでたし、めでたし。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ