第二話 : もほ面
正式名、モホロビチッチ不連続面。
他意はない、いたって普通の題名です。
前回のあらすじ。
結局、エドさんとディーに代わって、なぜかおれがそれぞれの紹介をするハメになった。
……まあ、よく考えてみれば両者を知っているのはおれだけなんだし、間を取り持つのもおかしくは無い。と思う。
それ以前に色々とおかしい気もするけど。
だが、そこで問題が一つ。
「ではエドさん、こっちはウィン・ディーナって名前で、名前、で…………?」
言おうと思った途端に気付く。
ディーの素性を紹介する、その意味に気付く。
座っているおれの横に控えているメイドさん、キリオーネムさんから見えないように、ディーに急いでアイコンタクトを送る。
なんとか伝わってくれ……!
「(ディー! もしかして、おまえの正体って言うとマズいんじゃ?)」
「(まずいですよ?)」
「(なんでちょっと疑問形なんだよ…………。ならどうやって言えば良いんだ?)」
「(それが判らないから私も黙ってたんですー!)」
「(なんで怒ってんの!?)」
やたらと内容がよく伝わるアイコンタクトだった。
むしろ伝わりすぎて怖い。
しかしそうして、おれ達が焦って相談していると。
エドさんがパンっと自分の手を叩いた。
「ああ! 水守のウィンさんのお子さんか!
道理で髪が同じ色合いだと思ったよ!」
顔はあまり似ていないみたいだね、もしかして母方に似ているのかな? と、軽い調子で言葉をかけてくる。
そして、そっかー、そうだったんだね、となにやら一人で納得している様子。
…………って、え?
「ディーの事、知ってるんですか?」
「まあ、父娘で水守として北の湖を管理してもらってるって事と、後は魔人って事ぐらいかな?」
口から変な声が出そうになった。
「でぃ、ディー、完全に正体バレてんじゃねえかーー!!
……ええっと、エドさんは魔人について何か思うこと、とか無いんですか?」
心もち右隣のディーを半身で隠すように前に体を乗り出して、前のエドさんに尋ねる。
包帯の巻かれた腕の添え木がテーブルに触れた。
一瞬考えこむもののしかし、彼はまた爽やかに笑いかける。
「もしかしてヒカリ君。
魔人族への偏見の事を言っているのかい?」
「…………ええ、まあ」
「無いよ、ないない!!
確かにまだこの国でも皇宮の一部の頭の固い大臣や他国から派遣されて来た文官は、あまり魔人の存在を良しとはしていないみたいだけどね」
エドさんが、前に置かれた紅茶をくいっとあおる。
「でも、僕に限ってそれだけは無いと言えるよ。街の人だってそんないちいち相手の種族を気にする人なんて居ない。
なに、ヒカリ君にかけて誓ってもいい」
「なるほ、ど……?」
なんかイヤな誓われ方をされた気がする。
……だけど、やっぱりディーの言っていた通り、魔人の居心地ってのは他と比べて良くないみたいだな。
多少なりとも、魔人というだけで受け入れられないという人が居るらしいのだから。
その事情が、ディーに割合好意的(?)な彼から判ったのは僥倖かも知れない。
多少、安心したという気持ちもあった。
「でもエドさん、なんだか皇宮の方の事情に詳しいですね。
他国から派遣された文官、だなんて」
なんの気なしに言った一言だった。
だが、それを聞いてエドさんの目がキラーンと光る。
「ふむ。鋭いね、ヒカリ君!!」
「えっ?」
「じゃあ僕からは勝手に自己紹介をさせてもら……う前に、また一つだけ聞かせて欲しいんだけど…………」
話の舵を取った爽やか金髪の青年が、テーブルに肘をついて腕を組む。
そしてこちらを真っ直ぐに見た。
「君はね、ヒカリ君。かれこれ四日前だけど、町の外から戻った冒険者に運ばれてきたんだよ。荷車に載せられてね。
それでシスター・エマ君の居る施療院に運ばれたのはいいが、あそこはその時魔素侵蝕の患者で一杯だった。だから僕の家で治療にと預かったのさ、この家はムダに大きいし魔素中和石も多めに建材に含まれているからね」
「そんな事があったんですか……」
「でも、これは本題じゃないよ?」
ふむ?
…………本題?
一体それは何ですか、とおれが言う前に。
エドさんは、真剣な顔で告げた。
「それでは聞きたい。
君は『何を』『どうして』いたんだい?
しかも、『なぜ』そこまでのケガを負ったんだい?」
聞きたくて仕方ないといった感じではなく、まるで何かを確認しているかのような言い方。
彼自身も、微妙に緊張しているのが窺える。
だがそれが何故かは判らない。今は、まだ。
「……ええっと、ディーには尋ねなかったんですか?」
「君が快復してから聞くのがスジだと思ってね」
「あ、でも、私も『詳しく』は知りませんね。最後は倒れちゃってましたし」
「おやディーナさん、そうなのかい?」
紅茶に砂糖をだばぁと入れながら、ディーが同調した。
どうやら彼女には紅茶のストレートは少し味が渋かったようだ。
……でもあれ、絶対甘くなり過ぎると思う。
しかしそうか、確かに『目』を撃破した時に意識があったのは、おれだけなのか。
でも、これ。
――――果たして、話しても良いものだろうか?
『目』を倒した結果、聞く限り街は元に戻った。『目』こそが異変の元凶だったのはこれで間違いなくなった。
それを自分が倒してしまったのだ。
おれは冒険者として登録はしていたものの、だが皇宮の出した『緊急任務』を受諾できる階級ではなかった。クエストを受けていないのだ。
恐らく、いや確実に、自分で意図していないほどに自分がやった事は影響力がある。
隠匿するつもりは無いけど、その顛末をあっさりと話してしまって良いものか?
内容が内容だ、もしかすると『おれの正体』や『ディーの出自』についても言が及ぶ可能性はある。
それはちょっと、マズいんじゃないか……?
もう一人の当事者ことディーを、横目に確認する。
彼女はこの事態をどう考えているんだ……?
「あ、甘い……!!」
砂糖マシマシの紅茶を飲んで、変な顔をしていた。
視線に気付き、こっちを何か訴えかけるように見てくる。
それからおれの、まだ砂糖の入っていない紅茶を物欲しそうに見る。
ダメだこの子。
微妙に言いあぐねていると、当のエドさんからフォローが入った。
「困らせてしまったみたいだね……。
もちろん話さなくても構わないよ? 君が秘密にしておく必要を感じたのなら、僕から強制する事は全く無い。何よりもヒカリ君を困らせる事が僕の望む所ではないからさ」
「うーん、そうではないんですけど……。
ただ、言ったとしてもエドさんを今度は困らせる可能性が……」
あと、言ったところで信じてもらえるだろうか。
――――街から出て針路を逸れて森に入ったら洞窟を見つけて、さらに一日かけて進んだら地下の最奥部て巨大な『目』と戦闘になって、倒したら魔素が霧散して消えて、自分たちは湖に水揚げされた魚よろしく打ち揚げられた、だなんて。
………………。
…………。
……やばい、自分で言っててワケが判らない!!
既に最初から判らない!!
誰が信じるんだこんな話! ヨシヒコか!
「いや、それは違うよ」
しかしエドさんは、それを否定した。
「君の帰って来たのと魔素の晴れたタイミングや、他の人から聞いた情報を合わせて考えると、なんとなく事の次第は推測できるけど……。
だが、ヒカリ君の話が僕を困らせる、なんてことは無いよ。
むしろ僕にとって、『一番必要な話』だと思う」
「…………?」
「伝わらないよね、これじゃ」
肩をすくめ、首を横に振った。
それから今度は自分の口に人差し指を当て、こちらにウィンクをする。
妙に様になっている。
ちなみにウィンクの射線からは避けた。
理由はなんとなくである。
「……ヒカリ君がここで話してくれた際には、君が望めば僕は他言無用を約束するけど、これからする僕の『自己紹介』も、同じく他の人には秘密でお願いできるかな?」
先にそっちを話すべきだったねと言葉を継ぎ足し、カップに残った紅茶を飲み干す。
カップの底がソーサーに当たり、カチンと音を立てた。
「それじゃ、ヒカリ君には改めて。ウィン族のディーナさんには、初めましてになるのかな」
無言でディーの紅茶を注ぎ足して甘みを薄めてくれているキリオーネルさんを余所に、おれも動ける左腕でカップを手に取り、香る紅茶を口に含む。
自分は香りについて詳しくは無いけど、苦味もなくてとても良い味だと思う。
でもエドさん。
おれはもう聞いてるんだし別段、自己紹介でそこまで勿体ぶらなくても、
「僕の名はエドワード。
エドワード・ティリア=アストレイだ。
この帝国の現皇帝の息子にあたるかな」
「ぶふぁっしゅ!!」
紅茶を吹いた。
「ぎゃーーーー!! ヒカリさん!?」
「ごほっ! ごほっ!!
……す、すみません! 机に紅茶がっ!」
「ご心配なさらず」
混乱するおれと叫ぶディーの間に入ってきたキリオーネルさんが、いつの間にか持っていた布巾で汚れたテーブルを瞬時に拭う。
「う、動きが早い!」
「いえ、ディーナ様。ヒカリ様がこうなるのは予想していましたので」
「予想ですか!?」
メイドさんってすごい職業なんですねえ、なんてのんきな声が横で聞こえた。
だが、おれはそれどころではない。
むせながらも、なんとか話す。
「ごほっ! ――――あ、アストレイ!? ティリア!?」
「ヒカリさん、口の端に紅茶が付いてますよ?」
「言ってる場合か!! ディー、『ティリア=アストレイ』姓だぞ!?」
「あす、とれ?」
カップを片手に首を傾げるディー。
「口を半開きにしてぽやっとしたリアクションを取るんじゃないっ!
なんでここに来て間もないおれよりも知らないんだ!!」
まさか本当に、ほとんど街に出てきたことはなかったんだろうか。
おれもそこまで詳しくはないけど、この国内ではムチャクチャ有名な名字だろうに。
「ひ、ヒカリさんだって私が最初に魔人のコトを話した時、そんな顔してたじゃないですか!」
「まあ、そうだけど! 言ってただろ、皇帝の息子、つまり皇子なんだよ!
この国の中でも上から何番目かにエラい人だぞ!!」
やっとこさでディーも気付いたようで、
「え、えぇええーーーーーー!?」
ガタタッ!
椅子を揺らして驚いていた。
……驚いた拍子に、手にしたカップの中身がおれの顔に飛んできた。
「ぐああああ熱ーーい!? しかも妙に甘ったるーーーーい!!」
「ぎゃーー!! ヒカリさんごめんなさーい!」
「ご心配なさらず」
どこからともなくキリオーネムさんが濡れタオルを取り出し、おれの顔に当てる。
サッ、と顔にかかった紅茶が拭い去られた。
甘いのと苦いのが混ざったよく判らないデロっとしたものが、すぐに取り払われる。
「な、なんと動きが早い……!」
「いえ、ヒカリ様。ヒカリ様がこうなるのは予想していましたので」
「なんで!?」
「使用人ですから」
笑顔を絶やさずに言われてしまった。
メイドさんって凄い。
だけど、予想できるなら先に止めてほしかったな……。
「しかしヒカリ様、召し物が濡れてしまいましたが」
でも、さすがにバスローブにまで掛かった紅茶はどうしようも無かったようだ。
見れば、肩から胸にかけてびちゃあとなっている。
「あー……、本当ですね」
「僕はそのままで構わないよ?」
「私も全然大丈夫ですよ?」
「なんで被害者よりも先に加害者と脇で見てた人が答えてるんだよ!!」
何この二人! 息ぴったり!!
さっきまで互いに名前も知らなかったんじゃないのか!?
おれは仕方なく、この場で一番頼りになるであろうメイドさんに向き直った。
「すみませんキリオーネムさん、どこか着替え」
「あちらに新しい服と水桶を用意してあります」
「早っ!?」
頼りになるどころか、むしろ空恐ろしいものがあった。
五分後。
「……で、エドワード皇子」
「エドでいいよ。あんまり堅苦しいのは好きじゃないからね。
いやそれも嫌ならこう呼んでも良いんだよ、」
「エドさん」
「つれないね……」
手と声と目線でエドさんの言葉を制した。
全力の制止だ。
そして、新しいバスローブを着たおれが話を先に進める。
このままじゃ一向にらちが明かない。
…………再びバスローブを着ていることについても、もう諦めている。
何着あるんだこの家。さっき見たチェスト一杯に入ってたぞ。
「エドさんが皇子、というのは判りました」
「正確には『第二皇子』だけどね」
「……第二皇子? どういうコトですか?」
ディーの質問に、爽やかに答えるエドワード皇子。
「僕の母上は今はもう病気で失くなってしまったけど、母はパトリック皇帝の側室という立ち位置でね。
正室である皇妃の方から僕より先に生を受けたのが……」
「……まさか」
「うん。ヒカリ君は知っているだろうね。ボラン皇子だ。
皇位継承権も彼が持っている。正室であり、長子が継ぐんだから一番揉め事が起きない形になってるんだけどね」
ボラン皇子。
最初に会ったのは……、というよりその一回しか相まみえたコトは無いけれど、会ったのはおれがこの世界に喚ばれた最初の、皇宮で行われた『謁見の儀』の時だ。
まあ、因縁の相手といえば、確かにそんな感じかもしれない。
別に恨んだりはしていないんだけどね。
記憶にあるボラン皇子とエドさんの姿を見てもほとんど似ている要素は金髪アンド碧眼以外は見当たらなかったけど、母方が違っていれば、それなりに違うのも当たり前かもしれない。
私もヒカリさんからお話で聞いていますよ! となぜか横で張り合っているディー。
だがそんな事よりも、おれは気になることがあった。
「って事は、まさか……おれのことも?」
「ごめんよ。騙すつもりは無かったんだけど……」
最初から正体は知られちゃってたって事か。
皇族ともなれば、話は入ってくるだろう。
おれだってあんなコトをやらかしたんだし。
「まあ何がなんでも隠さないとってワケでもないですし、構いませんけど……。
でも、どこから伝わったんですか?」
「え? 『謁見の儀』の一部始終を僕も見てたんだよ?」
「マジですか!?」
皇族、この国で一番偉い一族相手に、思わず若者言葉(?)が出てしまった。
が、エドさんは特に気にしていないようだ。
「うん。本当本当。
あんまりああいった堅苦しい儀式とは会合は頑固者の大臣達も来るし遠慮したかったんだけど、でも国事となれば流石に出席しないわけには行かなくてね。
せめてもの抵抗として、あの広間を二階から見下ろせる離れた閲覧席の方にいたんだ」
なるほど。
……それで、一部始終を見てたのか。
見てらっしゃったのか……。
背中にイヤな汗がつーっと流れた。
気を抑えるために紅茶を飲もうとすると、目の前にあったカップはいつの間にか空になっていた。
着替えて戻ってきてから、おれは一度も口を付けてないハズ。
隣のディーを見ると、シュバッと余所を向かれた。
早業だった。
色んな意味で頬をヒクヒクさせながら、それでもおれは尋ねる。
「………つ、つまり、『例のシーン』も?」
「見てたよ?」
アッーーーーーー!!
「スミマセンでしたァーーーー!!
ご家族の方にはホントご迷惑をォーー!!」
「ヒカリさんがイスの上で膝座りを!?」
正確にはジャパニーズDOGEZAと言って欲しい。
まさか異世界の皇子様に使われるとは、昔の人は思いもしなかったに違いない。
「ああ、いいよそんな事しなくて!
あれはどう見ても僕の兄、ボランの方に非があったからさ、良識があれば誰だってそう思うよ」
「ですが、私めが皇女様に失態をしたのは事実でございます……」
しかしエドさんはまた、いいよそんな事、と言うのだった。
隣ではディーが、ヒカリさんの敬語で話す姿ってなんかヘンですねー、なんて呑気に言っている。
ディー、後で頬をつねってやる。
「エミリアは僕の実妹だから、その時も話に行ったんだけどね。別に聞いてないどころか、顛末を聞いたらむしろ君のコトを心配してたよ?」
「そ、そうですか……?」
「だから僕も君の様子を見るために街に行ったんだけどね。まさかあんなに早く会えるとは思わなかった」
シスター・エマさんのいる施療院で初めて会った時のことを言っているのだろう。
まあ初めて会ったと思っていたのはこっちだけで、エドさんからしたら追いかけてきたという形だったのだ。
「なるほど、そんな真相が……」
「いや、それに僕自身会いたかったというのもあるからね!」
「……?」
どういう事だ?
疑問符を浮かべるおれ。
なぜかエドさんは、うっとりするような顔になった。
マンガなら目に星とか浮かんでいそうな具合。
「ボラン兄上のように意地の悪い皇族や、何もしない大臣達をたった一手、服を脱ぐことによって追い詰め驚かせたその行動力! もちろん僕だって驚いたさ! あの光景は今でも目に焼き付いてるよ!! 素晴らしいシーンだった!!」
「や、やめろォ!! 忘れてください!!」
やめて!
別にそんなつもりでやったワケじゃ無いから!!
テンパった末に自分もビックリの奇行に走っちゃっただけだから!!
「さすがは異世界からの『勇者』、常人では考えつかないような発想……そう思ったね。
あれは、男なら惚れずにはいられない……そんな男らしい、勇ましいシーンだったよ」
大丈夫、元の世界でも一般的な発想ではありません。
そして頼むから、男なら惚れるというセリフの矛盾に気付いて欲しい。
「買いかぶられてもおれはそんな大した人間ではないですし、あの時のことは出来れば忘れて欲しい気もしますが……」
「そうかな、カッコよかったと思うんだけどな……」
別に他意はないのだろうけど、その言葉を金髪の碧眼、鼻もすっと通っているような爽やかイケメンに言われると、何か悲しいものがあるな……。
――まあでも、おれにとってのこの世界でのトップシークレット、『異世界から勇者として呼ばれた』というコトはもう彼には知られてしまっていたのだ。
ディーの正体だってバレている。
それに、おれのケガの理由や街に居なかったワケだって、多少は見当も付いているのだろう。
何より相手から話を聞いておいて、こちらが話さないというのもヘンな話だ。
それなら、おれは隠す必要もないかな。
「……判りました」
「おお! ついに僕との交さ」
「それは違います」
何かロクでもないコトを言われる前に切る。
ショボーン、みたいな顔をされた。
なんでだ。
「じゃあ、エドさんが話してくれたのにおれが話さないのも不義理だと思います。
ちょっと話が長くなりますが、さっきの『何を』『なぜ』『どうして』の全てに答えましょう。
…………ディー、なんでエドさんを睨むんだ」
では私はまたお飲み物を用意してまいります、とキリオーネムさんがキッチンの方へ向かうのを見つつ。
おれは、街を出てから起こったことをエドさんと、なぜか横で半眼になっているディーに話し始めるのだった。
今度は少し長く、十五分後。
いろいろと出来事がごちゃごちゃしていたため、整理しながら話したら時間が掛かってしまった。
「――――で、さっき目が覚めたらここに居たんですよ」
「なるほどね……」
そう言って腕組みをするエドさん。
そのまま目をつぶり、考えこむようなそぶりを続ける。
「ヒカリさん。ヒカリさんが最後に『目』を倒したのって、結局どんな魔法だったんですか? それとも技能?」
「それが、おれにも確かなことは判らないんだよな……」
シャベルを射出するようにして飛ばしたあの技は、今でも見当がつかない。
ワイズマンも呼んでも返事が無いから、能力値もHP、SP、MPだけを表示する簡易的なものになってるし。
と、エドさんが腕を解いた。
「よし、判った!!」
「いきなりどうしたんですか、エドさん?」
「ヒカリ君、君はやはり適役かもしれない!」
「…………適役?」
そうだよ、と大きく頷く。
「幾つか理由はあるけれど……、僕の目に狂いは無かったみたいだ」
あの真剣な表情からすると、別に冗談で言っているワケじゃなさそうだ。
「つまりね、君に――――」
真面目な表情の彼が話をしようとした、その時。
――――おれの後ろの方が、爆発した。
咄嗟に後ろを振り向いた。
音の出所は……、玄関のドアだ。
重厚な木製のドアが倒れて、細かく切り刻まれたかのように木っ端微塵にバラバラっと砕け散っている。
全く状況に付いていけないまま、玄関に立ち昇る煙が晴れるのをぽかーんと眺める。
外からドアを吹っ飛ばした人物の姿が、ようやく見えた。
(あ、あれは――――――!?)
声も出ない。
なぜなら、『彼女』はおれもよく知っている人だったから。
…………だが、それよりも驚いたのは。
「先程の通達の撤回を要求します!
この場所からヒカリを解放しなさい!!」
動きやすい軽装鎧、栗毛の頭の額に帯鉢金を巻いた女性。
何より異様さが際立つのは、長大な柄の上下に刃が付いているという、凶悪なプロペラのような両手斧。
その彼女の身長をゆうに上回るサイズの大斧を玄関から、居間にいるおれ達に向けて片側の切っ先を向ける。
ジャキン、と斧が物騒な音を発した。
「さもなくば――――このフランシスカ・レイクーン、刃を向けることも辞しません!!」
だが、それは普段のその人からは考えられないような姿。
「――――ふ、フランさん!?」
おれはエドさんを振り返った。
「な、なぜフランさんが? 通達って!?」
それに対してエドさんは。
なぜか悔しげに唇を噛んで、
「くっ、予想以上に来るのが早い……!
『ヒカリ君は女性に興味が無くなった』という一文がまずかったのかな……?」
「あんたって人はーーーー!!」
一国の皇子に再び叫ぶおれ。
取り敢えず、彼がロクでもない事をやらかしたというコトは判った。
急展開……なような、そうでないような。
たまには朝に投稿してみました!
また次回!