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第一話 : データをロードしますか?

 

さて、ここからは通常通りの視点。

四章も本格的に始動です、ではどうぞ!

 

 


 いつの間にか、意識だけが浮上していた。

 身体がだるい。

 手足の至る所に鉛が貼り付けられているような、ずっしりとした重さ。


 頭だけは少し上に置かれていて、おれの頭は枕の上に置かれていることが判る。

 どうやら毛布も掛けられている事から察するに、ベッドに横たえられていたようだ。


 ……そう! つまりヘッドがベッドに横たえ


 なんでもない。

 しかも頭が載ってるのは枕の上だし。


 なんでこうしてアホな事を考えてるんだおまえと言われると、目が覚めてしまったからだ。

 まぶたは閉じてるけど、意識だけは割としっかり起きてしまった。


 そしてどうして起きたのかと聞かれると、どうにも身体がじっとりとして湿っていて寝苦しいためだ。

 大方、汗でもかいてしまったのだろう。


 うう……、じとっとして結構気持ち悪いな。頭が熱っぽい気もするし。

 こんなに身体を悪くしてしまったのはいつ以来だろうか?


 確か小学生の頃、インフルエンザにかかった時以来かもしれない。

 その後は病気になった覚えがないからなあ。

 …………そこ、バカは風邪をひかないとか考えちゃダメだ。


 インフルエンザに罹った時は、確かずっと妹のアカリが看病してくれた思い出がある。

 あれは雪の降った日の翌日だったか。


 我が家の優秀な優秀な妹は、朝に兄が熱を出しているのを見るや否や付きっきりで看病をしてくれた。

 その頃は彼女は小学校も低学年の頃だったのに、なんとも出来たしっかり者だった。


 そしてとうとう最後まで、出来た妹には兄は言いだせなかった。

 兄は、言えなかったんだ!!


 ――――原因が、前日におれの悪友ことヨシヒコと二人して『脱衣雪合戦』をしていたからだなんて!!


 ………………いや、事実事実。


 おれがダウンする前の日、地元でその年初めての雪が降ったのだ。

 だからヨシヒコのやつと、雪だるまを作り、雪布団の上に寝転がり、しまいにはおもむろに雪を食べるという、一連の『雪が降ったらまずガキんちょ達がやること』を、もはや神聖な儀式のごとく二人で粛々と行っていたのだ。


 忠実に儀式は進まれ、おれ達はとても敬虔な信徒であったと言えよう。

 だが、最後はマズかった。


 ヨシヒコが、


「おいヒカリ、雪合戦しようぜ!」


 と磯野家の長男を野球に誘うようなセリフをぬかした時に、やめておくべきだったのだ。

 大人しく家に帰ってコタツにくるまり、ピコピコ(古い表現)でもしておくべきだったのだ。


 だが、ヤツは卑劣にも、ヒカリがやらなきゃアカリちゃんを誘うぞああん? と脅しをかけてきた。


 よく考えればそんな誘いをされてもアカリはNOとキッパリ言える子だし、いざとなればその時既に会得していた脳天カカト落としでヨシヒコやおれ程度なら地面に垂直に埋めて地表から髪の毛だけ出ているピク◯ン状態にできただろう。


 だが、おれはヨシヒコにそう言われてしまえば、もう拒否する選択肢は無かった。

 アカリが断るかどうかではない。

 もう、それには兄としての矜持、妹への迷いない忠誠が天秤に載せられていたのだ。


 そして、おれも天秤に載った。

 ニヤニヤと不敵に笑うヨシヒコの提案に、乗った。

 『脱衣雪合戦』の始まりである。脱衣はいつの間にか付け加えられていた。


 ルールは簡単。


 雪玉が当たったら一枚服を脱ぐ、それだけだ。


 おれはその条件を最初、おれ自身に有利なものだと捉えていた。

 なぜならおれの着ている服は上が内側のシャツから上着まで、マフラーも入れて4枚、下は服と靴と靴下をそれぞれ単品で数えて8枚。靴下を二枚重ねで着ているという防寒仕様だ。

 おまけに手袋まで完備。合計で14もの『脱げる場所』、残機がある。


 それに対してヤツは………、3枚。


 3枚だった。


 半袖シャツ1枚と半パン、トランクスがヤツの装備だった。


 そう。

 アイツは、『冬の日でもなぜか夏着な小学生』だったのだ!!


 おれはそのルールを聞かされた時、思った。

 ヨシヒコはやはり、底抜けにおバカだったのだと。

 雪の降る中で既に半袖になっているヤツを見て、再確認した。

 おれは条件を呑み、雪の降る戦場へと上がった。


 しかし、それこそが。

 それこそがヤツの思惑。

 短パン小僧スタイルのあいつが仕掛けたトラップだったのだ。


 気付いたのは、試合が始まってから。


 おれはようやく、気付いた。気付いてしまった。


 ――――『勝利条件が無い』ことに。


 そう、この戦いのルールには『雪玉が当たったら一枚服を脱ぐ』とはあるが、『服が無くなったら終了』だなんてヨシヒコは言わなかったのだ。


 つまり、服が無い状態=負け、にはならない。


 おれの思い違いはそこに、服を残機だと思ってしまった事にあった。


 また、『ヤツが薄着であること』の意味。

 幾つかあるが、厚着のおれと比べて身軽に動けること、被弾面積が狭いこと。

 …………そして、寒さに慣れていること。


 だからこそ、ヤツはニヤリとしたのだ。


 試合は無情だった。


 おれが一つ雪玉を投げると、ヨシヒコはその無駄に身軽なフットワークを活かして無駄におれの三倍くらいの速さで動き、三つの雪玉を当ててくる。

 おれからも一つは命中弾はあったものの、あいつは苦にもせずに脱ぎ去る。


 残機だと思っていたものは、もはや足枷。

 しかしいざ脱いでしまえば、おれの手足は寒さにかじかみ、頼みの綱の雪玉すら持てなくなる有様。

 気付けば既にズボンまでを脱いで、残った布は一枚になっていた。


 このままでは、降参と叫んでしまう。

 それこそが、ヤツの狙い。


 愛しの妹が、あんな下郎に奪われてしまう。

 後から考えれば全くそんなコト無いのだが、それを避けるために必死になった。


 必死になって考えた末に何を思ったか、当時小学生のおれは最後の砦を脱いだ。

 一切の衣を身にまとわない、最古にして最新のファッション。


 今でもどうしてそんな事をしたのか判らない。


 そして唖然とするヨシヒコに雪玉を両手に持って躍りかかりやつの口に詰め込むことによって、辛うじて勝利を得たのだ。

 永く辛い戦いだった。


 …………で、インフルエンザに罹った。


 まあそんな感じで体調を崩したのを最後に、以後は大した病気には罹っていないのですよ。

 やっぱりバカだから風邪をひかないのかも知れないと思う回想だった。


 と、目をつぶって熱っぽい頭で、ごく適当なことを考えていると。


 ぴたり。


 ――――額に、手が当てられた。


(ん、誰だ…………?)


 一瞬のことで驚いた。


 誰かを確認しようにもまぶたは重く、すぐには目を開けられない。

 体も上にかかった毛布がまとわりつくように重く、手足を動かすことも出来ず。

 そもそもこの気怠さでは、動かす気にもならないけど。


 頭に置かれた手は、おれが僅かに身動みじろぎするとパッと離れ、また少ししてから額に手のひらで触れてくる。

 されるがままになっていると、なんだか手が冷たくて心地よいことに気が付いた。

 そうかおれ、かなり熱があったんだな。通りで身体が汗でじっとりとして、頭もグラグラしていたのか。

 とすると、上に載った手は熱を確かめていたのだろう。


 手はおれの熱を測ってから、なにやら溜め息と共に離れていく。

 水を絞る音がして、頭に今度は濡れたタオルが載せられた。


 …………気持ちいい。

 体にあった悪いあら熱が取れていくような感覚だ。


 ところで今この近くにいる人は、誰なんだろう。

 ディーか、それとも?


 寝込みを襲うようなのとは正反対の人物ってのは判るけど。

 襲うんだったらこんなコトせず、ナイフでぐさーって感じだろう。

 まず頭にタオルを載せるような事はするまい。


 ちなみに口元に濡れタオルをかぶせられた場合は、すわ窒息狙いの暗殺か!? となるがこれは全くそんな気配はなく、ただただ冷たくて心地よいだけだ。


 お陰で、オーバーヒートを起こしていたような体も多少は融通が利くようになった。

 目ぐらいならば開けても問題なさそうだ。


 薄くまぶたを開くと、入ってくる光量が一気に増えて目がチカチカした。

 目を閉じていた時とは比べ物にならない眩しさ。

 思わず目の端に涙が溜まる。


「………………ま、眩しい」


 かすれた声が出る。

 もうずっと発声していなかったような、乾いた声だ。


 目が慣れてくると、おれの頭の横にいた人が視界に映った。


 そして見えた相手。


 『彼女』は、金色の髪にあお色の眼をしていた。


 そう、彼女だ。女性だった。おれより年上かもしれない。

 長い金の髪はさらさらと流れ、一房が首元からたれ下がっていた。

 よくよく見れば、目の色が片側だけ薄い…………、と言うより、明度が増している。

 碧色とは言ったものの、片目はむしろ翡翠ヒスイのような色に近いだろう。要はバイアイ、オッドアイなのだ。

 

 上から見下ろすようにして、その両目は大きく丸く見開かれている。

 驚いているのだろうか?


 しかし、なんと言うか……。

 美人さんだ。


 ふと、そう思ってしまった。


 髪や目からして、西洋人形のような美しさ、みたいなものがあるかも知れない。

 でも、誰かは判らない。

 なんだか見覚えがあるような気もするんだけどな…………?

 金色の髪とか、驚いたような表情とか特に。


 と、相手が動いた。

 見つめ合う状況から一変、あたふたとし始める。

 片手で自分の顔を覆い隠すようにするが、当然そんなんじゃオッドアイの目も充分に隠せず。


「…………ど、どなたですか?」

「~~~~~~!?」


 尋ねた瞬間。


 シュバッと視界が塞がれた。


 具体的には、デコに載せられていたタオルを広げられ、顔にべちゃんと全て押し付けられる。

 もう完璧に塞がれている。完璧にフルマスクだ。


 ――――って、言ってる場合じゃない!!


(も、もふぁーーーー!?)


 やべぇ、これ息できない!


 水で湿ったタオルが口にまとわり付いて息が!!

 振り払おうにも手は動かないし、上から押さえつけられてるから、もう!!


 や、やっぱりアサシン的な職種の人だったのか!?

 やめろっ、こんなへなちょこ暗殺したって何の得にもならないぞ!


 おれは必死に叫んだ!

 というよりはもごついた!!


ふぁ()ふぉがふぇ(離せ)ーー!!」


 相手がおれの状況に気付き、タオルの拘束を緩める。

 そして、口を塞いでいたのを外すと同時に。


 ――――ダダダダダッ!


 俊敏な足音。

 音は途中でバタンというドアの開く音を織り交ぜ、遠ざかっていく。


 ……タオルの隙間から見れば、隣に居た女性はいなくなっていた。

 走っていってしまったらしい。


「一体……なんだったんだ……」


 もちろん考えても判るハズはなく。

 おれは再びタオルに熱を溶かしながら、睡魔に負けてしまうのだった。


 ……体力が切れたとも言う。









「………………」


 今度はバッチリと目が覚めた。

 遠足に行く朝の子どものような目覚めっぷりだ。


 今度は近くには誰も居ないらしい。静かだ。


 身体がじっとりとする以外には、もう何も問題はないみたいだ。

 はっと気合いをいれて起きる。

 頭からずり落ちるタオルを手で受け止めてから辺りを見回すと、そこは見たことが無い部屋だった。


 緑色を基調とした模様のカーペットが床に広がっていて、中央には花瓶がのっかった四脚の丸いテーブル。

 窓にはカーテンが掛けられ、日差しを和らげている。

 後ろを振り返ると寝ていたベッドが妙に豪華なことに気が付いた。

 花瓶といいカーテンと言い、なんだか家具が品の良い感じ。


 しかしそうすると、気になるのは……。


「……ここは、どこだ?」


 喉の調子も快復していて、きちんと自分の疑問が声になって出る。

 その答えは、ベッドの上から降りて確かめたほうが良さそうだ。


 思い出してみる。


 確かおれ、『目』を倒してからなんやかんやがあって、こっちまで倒れたんだよな?

 いや倒れた原因は『目』の攻撃じゃなくて、味方のせいなんだけど。


 じゃあその味方ことディーはどこへ行ったんだ?

 そもそもここはどこかの部屋ってのは判るけど、いつの間に運ばれてきたんだ?


 そうして、毛布から出てカーペットに降り立つ、と。

 自分がバスローブを着ている事が判明した。


 病人着みたいにも見えるが、たぶんこれバスローブだ。映画でスタイルの良い外人さんが着ているのを見たことある。ついでに、おれが着ても驚くほど似合わないコトが判明した。


 でも、どうしてこれを着ているのかは判らない。

 というか誰のだ、これ。


 そして、右腕は添え木と包帯でぐるんぐるんに固定されていた。

 え、コレ完全に骨折している人がする手当てじゃないの? と考えたが、そう言えば最後に自分の体を見た時には、右腕が新種の軟体動物のように柔らかく通常とは反対方向に折れ曲がっていたのをすぐに思い出した。

 おれは完全に骨折している人だったのだ。


 強く動かさなければ大丈夫だろうけど、触って添え木がズレたらマズい。

 そっとしておこう。


 それから足元を見ると、ボロきれが目に入った。


 ………………。


 ……いや違う、これがおれの服だ!?

 自分で自分のをボロとか言っちまったよ!

 なんかゴメン!!


 よくよく見れば、それはジーンズにパーカー。

 おれがこの世界(エリネヴァス)に召喚された時に着ていた服装だ。

 今は見る影もなく、ジーンズは足首の方がびりっびりに破け、パーカーに至っては右腕部分の布がまるっと消えていた。

 ただし汚れていないのは、洗濯されたためだろうか。


 そしてさらに横には、真っ二つになったシャベルが。


「うわっ、これはヒドイな……」


 ねじり切ったように中央の部分で千切れ、意味もなく分離形態になっている。

 ただし再び元通りには戻れないというのがミソだ。

 ちょっと、いやかなり見ていて痛々しい姿だ。

 おれとは違った意味で痛々しい姿だ。


 カーペットに転がったシャベルを手に取ろうとした時。

 外からなにやら、鼻歌交じりの独り言が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声だ。


「ふんふふ~ん、今日は何をしましょうかねー?

 とりあえず熱を測ってお水を飲ませてあとはタオルを取り替えるついでに、か、カラダを拭いて…………!

 いやこれは不可抗力! 不可抗力ですから!! 起きない方の看病のためならしかたなーい!」


 今にも歌いだしそうなめちゃくちゃ楽しげな声とともに、前方のドアが開く。

 くるくるとダンスのように回りながら部屋に入ってくるのは、不審者以外の何者でもない。


「ですがこの私ディーナはもう、夢が広がって広がっ、てっ……!?」



 ディーだった。



 ウィン族の魔人ワーロックこと、ウィン・ディーナさんだった。



 青い髪の少女と、立ったまま向かい合う格好になる。

 回転の止まった相手と、ばっちり目が合った。

 バスローブ姿で。


「………………」

「………………」


 ………………。


 …………。


 ……。


 固まること、しばし。


「………………なんの夢が広がるって?」

「ぎゃーーーーーーーー!?」

「叫んだーー!?」


 がたーんと手に持った木のトレイを床に取り落とし、自分の口元を両手で押さえてから。

 落ちたトレイを一顧だにもせずドアの所から反転、猛スピードで去っていく。


「ヒカリさんが起きましたーーーー!!」


 カランカランとトレイが揺れている間にディーは、だだだだんだんっずべっ、と大音を立てて遠ざかっていく。音からすると、階段を降りていってしまったようだ。

 あとたぶん、途中でコケたよあの子。


 しかしまあ来る時も帰る時も静かにできないなんて、なんともディーらしい。

 …………じゃなくて。


 開けっ放しになったドアと、バスローブ姿で取り残されたおれ。


「………………何これ?」


 謎は深まるばかりだった。


 それと…………。

 そういやこうして走って逃げていくのって、確か前にもあったよな?

 と、ぼんやりと何かを思い出しかけてすぐに消えてしまった。





「こちら、紅茶でございます。

 サンリズ地方の茶葉を使用しましたが、葉の好みがございましたらお取り替え致しますが?」


 純白の陶製ソーサーの上に、同じ色合いのカップが置かれた。

 中には、琥珀色の液体が湯気を立てている。


「あ、いや、大丈夫です」


 思わず恐縮してしまう。

 ここまでかしずかれてしまうなんて初めての体験だ。


 おれにそう訊いてきた相手は、白と黒色だけを組み合わせてできたようなエプロンドレス、手首のカフス、そして頭の白のヘッドセット。


 ――つまりは、メイドさんだ。


 初めて見た時はその姿に思わず三度見してしまった。

 だが、今でも気を抜くと二度見くらいはしてしまいそうだ。

 もちろん失礼なのでしないけど。

 でも、それほどまでにテンプレかつイメージ通りな使用人ルックなのである。


 とりあえず、大丈夫ですからともう一度言うと、そのメイドさんは笑顔を絶やさず、またお辞儀を一つして下がった。

 なんとなく頭の中に、プロフェッショナルという言葉が浮かんでくる所作だ。


 おれは、前に向き直る。


「それで…………、エドさん?」

「なんだい? 我がヒカリ君?」

「我がでもバーガーでもありませんが、まず聞きたいことがあります」


 がっしりした作りの四角テーブルの向こう。

 紅茶から立つ湯気越しに、金髪の青年の姿があった。


 赤い紐ネクタイの付いた服も洒落ていて彼の面立ちの良さを引き立てている、なんで世の中こんなに格差があるのかねえと唸ってしまうほどの美男子っぷり。


 ――つまりは、エドさんだ。


 初めて彼におれの姿を見られた時は「ひ、ヒカリくーーん!!」と叫んで突進、危うく抱きつかれそうになった。

 だが、今でも気を抜くと一瞬でテーブルを回り込まれて奇襲されてしまいそうだ。

 もちろんそんな事はしないと信じたいけど。

 でも、それ程までに目が本気かつ獲物を見る目なのである。


 と、まあ冗談が一割の話はさておき、エドさんとは確か、フランさんの食堂で別れて以来だ。その後は『目』の起こした事件のごたごたで会えずじまいだったからな。


 先ほどのベッドのあった部屋から出て階段を降りると、すぐにダイニングとキッチンを合わせたような大きな部屋でエドさんと会ったのだ。その後奥のほうからディーとメイドさんもやって来て、なし崩し的にこうして、理由も判らないままお茶を前に話し合っているのである。

 まあ、今まさにその理由を聞いていたんだけど。


 ただその彼は、少し気になることを言った。


「『三日経った』って言うのは、どういう事ですか?」

「そのままの意味さ。ヒカリ君はもうかれこれ三日の間、この家で寝ていたんだよ。

 あ、家に運ばれてきた時は夕方で今日の今はもう昼だから、日数で言えば四日になるのかな?」


 なんと、あの『目』を倒した後からすでに三日も経っていたらしい。

 しかもその間ずっとエドさん宅で治療を続けられていたというのだから驚きだ。

 驚きとか以前に、むしろ……。


「いや、ウソでしょう!?」

「本当だよ? 隣の子にも聞いてみたらどうだい?」


 言われた通りに、テーブル右隣の席を見る。

 そこには青い髪の少女が座っていた。言わずもがな、ディーである。

 ディーは前に着ていた巫女さん装束ではなく、センティリアの街でよく見るような街娘な感じの格好をしていた。


「本当ですよ?」


 こちらを向いてカップを置き、こくんと頷く。


 もう幾日も私が付きっきりで看病してさしあげたか、とドヤァな表情とともに付け加えられたので、じゃあなんでおまえさっきおれの部屋から逃げたんだと聞くと、すぐさま前の紅茶のカップに顔を戻された。

 ついでにぴーひゅるりと口笛も吹かれた。

 ところで、その額のコブは何かな?


 ……まあ、エドさんにお世話になった点に相違はないようだ。


「じゃあ、あのベッドとこの服は?」


 自分が現在進行形で着ている限りなく似合わないバスローブを指さす。

 きっとこれにクラシック音楽と片手にワイングラスが加わったとしてもまだ自分には似合わない気がする。

 おれお酒飲めないし。


「それ? 僕のだよ」

「そうですか、エドさんのでしたか……。すみません、今度洗ってお返しします」

「いや、洗わなくても別にそのまま着るしむしろ」

「洗ってお返しします!!」


 体調が戻ったはずなのになぜか頭痛がしてきた。

 おれ、間違ったこと言ってないと思うんだ。


「とにかく、おれもディーもここで何日もお世話になっていたみたいで。

 ありがとう御座いました」

「いやなに、気にすることは無いさ。だろう、キロさん?」


 おれの横に控えたメイドさんに向かって、すごく様になるウィンクを一つ。

 それに彼女も応え、


「はい。看病の方もいらしてましたし、賑やかになる分には結構です」

「はっはっは、それはいつも家を空けてる僕への当てつけかな?」

「いえ、そのような事は」


 ……笑顔を崩さずに、エドさんのウィンクを一蹴していた。

 一体どういう関係なんだこの二人は。主従じゃないのか。


 おれの変な顔に気付いたのか、エドさんが説明する。


「このキロ君、いやキリオーネム君は、僕がまだ小さい頃からの乳母か姉みたいな感じの女性ひとでね。

 別に恋愛関係にある訳ではないから安心していいよ、ヒカリ君」

「むしろ若干不安になりましたが、了解です」

「ところで、僕も訊きたいんだけど」


 エドさんがおれを真っ直ぐに捉え、さらにその横、ディーを見た。

 真剣な表情だ。


 おれもつられて横を向く。

 もしかして、ディーが何かとんでもない不始末を…………?


「その子は誰だい?」

「知らなかったのかよ!

 いや、自己紹介くらいしましょうよ三日はあったんだから!!」


 それを受けて、両手でカップを持ったディーも首を傾げてエドさんを見る。


「あ、それ私も気になってたんです。ヒカリさん、この方は?」

「さっきまで普通に二人とも話してたのに、なんで互いに知らないんだよ!?

 あんた達って人はーーーー!!」

 

 

 取り敢えず、彼らが以前とまったく変わりないことは判った。

 

 

ブレない三人。


また次回!

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