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第十六話 : 仄暗い湖の底から

所と時間は変わって、アホの子コンビの話です。


第三章終了まで、あと三話。


 


「いたたぁ……、まさか後ろからいきなり殴られるなんて思いませんでしたよ……。

 ほらヒカリさん見てください、コブが、大きなコブがー!」

「そんなに訴えられても…………。

 さっき出てきた影みたいなヤツの攻撃だからな?」


 前を警戒しつつ、後ろからの声を聞き流す。


 さっきのような敵が出現するなら、より注意を払わねばならぬのだ。

 後ろのディーナさんもおれも特段慎重な性格ってワケでは無いのだから、せめて意識は高く持っておかねばならぬのだ。


「いや、それは知ってますってば!

 あっ、じゃあ、コブになったところ撫でてください」

「なんでそこで『じゃあ』に繋がるんだ」


 ええぇえ…………?

 撫でるったってそんな、転んで膝をスリ剥いた子どもの母親じゃないんだから。


 それに痛いのがとんで行くのは単にプラシーボ効果だ。

 撫でるお母さんの手がキリストの如く奇跡を起こしてケガを治すからでも、お母さんが聖母マリアだからでもない。


 あと単純に気恥ずかしい。

 そんな、お互いこの歳で……。


 もしかしたらこの世界では大人・子供と区別せずそういった習慣があるのかも知れない。

 だが、街で大の大人がおっさん同士でケガした所を「痛いの痛いの飛んでいけ☆」とやってたら確実に目に付くハズなので、やはりそんな気色悪い習慣は無いと言える。


 しかし後ろのPT(パーティー)メンバー某一名はそんな事にお構いなく、なでろーなでろーと騒ぎ立てる。

 正直に言うと、いや言わなくても五月蝿うるさい。


 おれは後ろを向いた。

 ……やたらと期待に満ちた視線と目が合ってしまう。


 ふう。これでは無碍むげに断るコトも出来ないな。


 仕方なく、ディーの手を取って彼女の頭に持っていった。

 槍を持っていない方の手だ。


「ディー。何のために人間、手が二本あるんだい?」


 そうしてグッとサムズアップし、前に向き直る。

 ガソリンスタンドでもバイキング形式の食べ放題でも、セルフ形式は基本なのだ。

 今なら自分の頭、撫で放題です。


 シャベルを背負い直す。

 これで良し。さて行こうか。


「………………!」



 ごっ。



 無言で頭突きされた。


「撫でなさい、早く撫でさすりなさい!

 痛いの痛いのとんでいけと撫でさすりなさい!!」

「あ、痛っ! おれが痛い! やめろ、昨日からトラウマになりかけてるんだから!

 ってか頭にコブ出来てたんじゃなかったのか!」

「痛いですかヒカリさん! でも、私のコブの頭はもっと痛いんです!!」

「ならやめろよ! なんでちょっと説教っぽい感じで言うんだよ!!

 おれの心の方がもっと悲しいし痛いよ!」


 味方から意味なく攻撃食らってる所が、特に!

 やめろ、頭をグリグリ押し付けるな!!

 そんな元気をもっとこの洞窟と敵の警戒に使えよ、おれにだけそのあり余るエネルギーを向けなくて良いから、要らないから!!


 首の後ろあたりに当たる青い髪の頭を引き離そうとする。

 そのために振り返ると、突然首の横辺りが刺激を受けたように痛んだ。


「あぐっ!?」

「!? だ、大丈夫ですか?」


 気付いたディーが慌てて離れ、おれの首を見る。


「ヒカリさん、首、切り傷が出来てますよ!」


 どうやらディーが言うには、右のアゴから首の後ろにかけて、切り傷が付いているらしい。

 傷自体は小さいが、周りも赤く腫れているそうだ。


「さっきのヤツが使った魔法かな、避けたと思ったんだけどな……」


 少しヒリヒリするくらいだったから僅かに触れただけかと思ったら、実際には傷になっていたようだ。

 周囲が薄暗いから、ディーも気付かなかったのだろう。


「早めに治しちゃいましょう。治癒ヒーリング!」


 気付いた途端にズキリと感じ始めた痛みが、暖かい青い光によって癒されていく。

 若干減っていたHPも回復して満タンになった。


「助かったよ」

「いえいえ、どう致しまして」


 そして再び前を向いてから、気付く。


「なあ」

「はい?」

「自分のコブにも、ヒーリングを唱えれば良いんじゃ?」


 彼女のHPを確認してもほとんど減っていないし、すぐに治せるだろうに。

 何より手っ取り早い。


「今みたいにパッと治せるんじゃないか?」

「――それじゃダメなんです! 全くダメなんですよ!!」


 力強く否定されてしまった。


「……自分で治療する、それも確かに良いでしょう。一人の時や急場しのぎには、充分でしょう。そうするしかない場合、仕方の無いのは否めません。私だってもし一人この場所にやって来ていたら、例えコブひとつだったとしても戦闘が終わればそれはもうすぐさまヒーリングを唱えて治療していたでしょう。でも、私達はPT、仲間です。仲間と助け合うという意味では、自分でさっさと治してしまうのは果たして正しいコトなのでしょうか? 協力し合う者同士として、今こそ優しさが求められるのではないでしょうか? どうなんですかヒカリさん早く返事を!!」

「メッチャ長い! しかもすげぇ早口!」


 突然かつ無意味に長くペラペラと語られてしまった。

 歩き出そうとしたのを中断させられ、後ろに振り返ざるを得なくなる。


 一体全体、何が彼女をそんな炎のように熱くさせるんだ。

 何に情熱を注いでいるんだ。

 と言うか水属性じゃなかったのか。


 でも道理も理論もへったくれも無いが、勢いだけはある。気がする。


「し、仕方ないな……」


 後ろを向いて、またもや期待に満ちた目と目が合う。

 すぐに相手は頭を傾け、こちらに寄せてきた。


「それでディーナさん、患部は?」

「ここです、ここ」


 耳の上辺り、青い髪のこめかみとつむじとの中間ぐらいを指差す。


 ………………。


 言われた通りの所を撫でてみた。

 無心になろう、ここでディーの機嫌を損ねるのも不本意だ。

 こうして恥ずかしがることなく、ご利益のある仏像を撫でるような気持ちでひたすらさするのだ。


 おお、でも昨日は野宿同然だったハズなのに、結構髪がサラサラとしていて…………。


「いたっ! コブが痛いです!」


 すぐやめた。


「何がしたいのおまえ!!

 よく考えたら当たり前だろ!?」


 そらケガした所じかに触ったら痛いわ!


 PTで助け合った結果がこれだよ!!

 あの長口上はなんの意味があったんですかね!?


「うう……、治癒ヒーリング

「おれ、ディーを見てると『あれ? もしかしておれって、意外とバカじゃないんじゃないかな?』と思う時があるよ……」

「ひどい!?」


 踏んだり蹴ったりですよ! と頭を押さえたディーに涙目で避難される。


 でも、それを言うなら頭突きされた挙句に頭を撫でる事を強要されしかし結果非難される、おれはどうなるんだ。

 踏んで蹴られた上にエルボードロップされた感じじゃなかろうか。

 ついでに、何でこんな目に遭ってるのかも判らなくなってきている。


「はいはい、じゃあ今度は敵の不意打ちに気を付けような?」

「なんだか、徐々に私の扱いが適当になってるような……」


 気のせい気のせい。

 しかし残念ながら、夜の間延々とヘッドバットを受け続けた恨みはまだ薄れていないのだ。

 手は強く握られていて距離も置けなかったし。


 最終的に、おれは柔道で投げ技を食らったようなムリな姿勢で地面に自ら進んで横たわり、ホコリっぽい床に伏せて定期的に振れるディーのハンマーのような頭を震えながらやり過ごすという恐怖の一夜を体験した。

 何その罰ゲーム。

 お陰で若干睡眠不足だ。


 ってかディー、石頭だな。

 さっき出た敵にだって殴られてもコブひとつで済んでるし。

 彼女の属するウィン族は皆そうなのだろうか。


 だが、今はその事も置いといて、と。


「いや、もう一度あの襲撃を受けたら次はこんな軽傷じゃ済まないぞ、おれもディーも。

 さっきの敵、『シェイド・マンタイプ』だっけ?」

「確か、そんな名前でした」


 黒い影がヒトの形を取ったような新手の敵が出現したのが、つい先程のこと。


 名称は『シェイド・マンタイプ』と表示された。

 レベルは12と、HPもそこまで高くは無いが、しかし特徴的だったのは……。


「あれは不意打ちっていうか、その場にいきなり湧き出てきたような感じだったな……」

「突然湧き出して、倒すと突然消えましたね」

「ああ、倒せば消えるのはスケルトンと同じだけど、スケルトンは持っていた武器はその場に落とすからな……」


 のこのこと歩いていたおれ達のすぐ後ろから唐突に現れたかと思うと、ディーを殴り付けてきたのだ。

 そして倒したら直後、跡形も無く消えてしまった。


 まさに影のような不気味な存在だ。

 ただ、例の青い燐光を放って消えるということは……?


「『全身が魔素のみから生まれた』魔物、なのかもしれませんね、その敵も」

「そうなんだろうな……」


 むしろスケルトンよりも更に実体が無く魔素で出来ている事を考慮すると、魔素が湧き出ている原因に徐々に近づいているのかもな。


「あとは、魔法か。

 ディーが使ってるのはもう見慣れたけど、相手が使うのは初めて見た」

「ヒカリさんの言う『解析スキャン』で確認しました。『小礫投射デブリスシュート』ですよね?」

「うん」


 正確には解析ではなく、『行動解析アクションスキャン』だけど。


 今ワイズマンが訂正してきたから間違いない。

 細かく訂正して来たから間違いない。

 まあ些細な違いだ。


《………………。》


 …………。


 ……か、影のような魔物はボケっとしていたディーをぼこっと殴りつけた後、すぐさまおれの方を向いて手のひら(影だが、おそらく手だろう)をかざしてきた。


 それから手の周りが茶、あるいは黄色っぽく光ったかと思うと。

 次の瞬間、黄色が凝縮して石の形を創り出し、こちらに拳より小さいくらいの岩片を飛ばしてきたのだ。


 真っ直ぐ飛んできたので横に避ける事が出来たたが……。

 予想外にスピードがあったため、首筋にダメージを受けてしまった。

 今はもう傷もすっかり治っているけど。


 その時はまさかと思ったが、行動解析によって知るところ、やっぱりあれは魔法だった。

 『小礫投射デブリスシュート』という魔法。


 ワイズマンを起動して『小礫投射』について調べてみる。


《『行動解析』、『行動解析』で判明しているデータを提示します。》


 なぜ強調するんだ。


《『小礫投射デブリスシュート』:消費MP 10

 属性:『土』 クラス:『Ⅰ』

 対象一体に、形成した石礫せきれきによる魔法攻撃。投射型。》


「…………ん?」


 何やらいろいろと情報が出てきた。


「ディー、そっちにも見えたか?」

「今出てきた説明みたいなやつですか?」

「ああ」


 おれが見てるデータについても、ワイズマンによってPTメンバー間で共有されているようだ。

 魔法については、やはりここはディーナ先生に聞いた方が早い。

 判らない時は人に聞くのが正解だ。無知を恥じていてはいけない。


「ディーナ先せ」

「ヒカリさん、この『クラス』とか、とーしゃ? がた?

 …………って何ですか?」

「ディーも知らないのかよ!」


 ダメだった。


「魔法のコトはディーに聞けばなんとかなると思ってたのに……」

「私だって知らないものは知らないんです!」


 後ろから、ヒュッヒュッと音がする。

 いきどおりから腕をぶんぶん振るついでに『水魔の氷槍(フロストロッド)』も空を切っているのだろう。

 間違ってもおれに当てるんじゃないぞ?


「じゃあ、ワイズマンが頼みの綱だな……」

「……?」


 いやこっちの話だとディーには言ってから、頭の中でワイズマンに問いかける。

 君の説明を更に詳しく説明してくれ、ワイズマン!


《私のデータにも説明の詳細は記載されていません。

 ただし、管理者のPT(パーティー)メンバーの使用した魔法は『行動解析』が済んでいます。》


 PTメンバーと妙に遠回しに言っているが、指しているのはディーのことだ。

 それを見て推測しろってコトかな。

 じゃあデータを見せてもらおう。


《『氷刃アイスエッジ』:消費MP 6~30

 属性:『水』 クラス:『Ⅰ~Ⅲ』

 任意方向に、斬撃属性を付加した氷片を射出する。貫通型。》


《『氷の柱(アイスピラー)』:消費MP 15~45

 属性:『水』 クラス:『Ⅱ~Ⅲ』

 術者から連続した氷結効果を、直線上に展開する。連続型。》


《現在、以上の二種類です。》


「ふむむ…………」

「どうしたんですか、一人で唸って?」

「ディー……、いや」


 試しに魔法を使ってみて、と言おうとしてやめた。

 暇な時間ならともかく、この移動中にMPを浪費するのはマズい。

 小規模とは言え治癒ヒーリングもさっき二回使用しているのだから。


 代わりに、後ろの魔法の師匠(仮)に問いかけてみた。


「ディーが魔法を使う時って、詠唱えいしょうの時間を変えてるだろ?

 それで威力が変わるって話だけど、どれ程変化があるんだ?」

「へ? んー……」


 視界の表示されるワイズマンの文字から一旦目を離して、洞窟に意識を戻す。

 おっと、こっちは曲がり角になってるみたいだ。


 ディーに注意を促してから、曲がった先に敵が居ないのを確認。

 そのまま進む。

 後方の少女も、後ろのメリーさんよろしくぺたぺたと付いてくる。


「そうですね、『氷刃』で言うならそれこそ最初にお見せした『洞窟の壁を僅かに揺らす』くらいから、『通路上のスケルトン・ソルジャーをまとめて倒す』ぐらいまで変わりますね」

「で、その分MP消費も大きくなる、か」

「はい。上下差はかなりあると思います」

「具体的には?」

「判りません!!」


 …………。

 ディーナ先生、そこは元気に否定しないで欲しかった。


 でも、若干だが説明の意味が判ってきたぞ。


 要は、魔法はワイズマンの説明の通りだけのMPを込めることができ、その消費MPによってより強力な魔法を放つことが出来るのだ。

 逆に弱い威力の魔法であれば、説明文の中の最低値のMPを対価にして魔法を発動。

 具体的なMPで上下差を表したのが、データの数値なのだ!


 例えるなら、カレーは煮込めば煮込むだけ具に味が染みこむが時間がかかり、早く火を止めれば味は染みこまないものの、手っ取り早く完成するって感じか。

 そのまんま過ぎる例えだった。


 だけど、『クラス』ってのは…………?

 消費するMPや魔法の威力によって付けられるのだろうか?


 うーん、どこかで聞いたコトがあるような……、無いような……。

 街でギルドのメガネ係員さんあたりに教わったっけ?

 思い出せない。

 今は他のコトに言及しておこう。


「……魔法の威力って、ディーはどうやって決めてるんだ?

 自分の残りMPとかの配分で決めてるのか?」

「勘です」

「………………」

「黙らないでください……」


 そして、ディーにも『行動解析』によって手に入れた消費MPの情報について説明した。

 なんとなくでも知っておけば、彼女も魔法を使う時のペース配分に役立てられるかもしれない。


「ふむふむ…………」

「って事で、魔法の発動には細かく調節が出来るみたいだ」

「なるほど、なるほど」


 おれは前を、後ろはディーに警戒してもらいながら歩いているが、どうだろう。

 また人型の影の魔物、『シェイド』が出現したら素早く対処したいからな。

 だがあれっきり敵は出てきてないのが、妙に気になる。


「すると、最小のMP消費なら詠唱の時間も短くなるし、連発出来るんじゃないか?」

「でもそれだとスケルトンの一体を倒せるかも判りませんし、大きい魔法でまとめてやっつけた方が効率も良いですよ?」

「あー、そうか……」


 転ばず歩くために壁に当てていた自分の手を、アゴに持ってくる。

 確かに…………。

 倒し損ねた相手にこちらが攻撃されてしまえば、さらに次の敵に対応できなくなってしまう。悪循環だ。


「でも、弱い威力の魔法だったら詠唱の時間もごく短いですから、『移動しながら魔法を放てる』っていう利点もありますね」

「エドラワームにダメージを与えるような威力が要る場合は『その場に留まって集中』する必要があるみたいだからな」

「はい」


 メリット・デメリットがちょうど対になってるな。

 どうにか長い詠唱のスキを無くせれば、高い威力の魔法を安定して撃てるんだろうけど……。

 そう上手くはいかないか。


「ちなみに、まだ使ってませんが低威力・短時間の詠唱の魔法だと私は『氷漬けの杭(フローズンパイル)』なんかがあります」

「どんな技だ?」

氷刃アイスエッジの刃がクイに変わったような魔法です。

 刃に比べて氷の形成量が少なくて済むので、早く撃てるんですよ」


 そう説明されると同時、ワイズマンが反応した。


《PTメンバーから魔法の情報が開示されました。》

《『氷漬けの杭(フローズンパイル)』:消費MP 4~15

 属性:『水』 クラス:『Ⅰ~Ⅱ』

 任意方向に、刺突属性を付加した氷片を射出する。貫通型。》


「おおっ……!?

 仲間のデータは、本人が許可すればすぐに表示されるのか」


 とりあえず私の使える攻撃魔法はこんな所です、と言うディー。

 他にも『水』魔法で氷を作るタイプの魔法は幾つも種類はあるが、彼女はまだ覚えていないそうだ。

 一つ覚えてるからと言って全部が全部のバリエーションを使用できるようになる、というコトは無いらしい。


 もちろん最終的には様々な物を使えるに越したことは無いが、それよりは、数種類の魔法を上手く使えるようになった方が便利だとの事。

 正論である。

 魔法をひとっつも覚えていないおれには判らないが、器用貧乏になるよりは良い。と思う。


「ところで、昨日の大きなイモムシと戦った時から気になってたんですが」


 ディーの魔法談義も終わり、今度は彼女が訊いてきた。


「こうして出ている魔法とか相手の技能スキルの説明って、どこから調べているんですか?」

「あー…………」


 やっぱり気になるよな。


「ヒカリさんが表示させてるんですか?」

「うーん……」


 どう答えよう。

 誤魔化すとか言い辛い事情があるワケじゃないけど…………、なんと言うか、説明がし辛い。

 やっぱり言い辛いんじゃねえか。


「おれが表示させてるというか、おれの頭が勝手に表示してくれるというか……。

 こう、意図してないけど勝手に調べて、しかも表示されちゃうというか?」

「なるほど、誰にでも無意味にカッコつけたくなる時期はありますよね!」

「どうしてそんな解釈になる!?」


 違う、そうじゃない!

 そういう意味にも取れる言葉だけど、そうじゃない!!

 決してこう、ジュニアハイスクールの二年生的な感じじゃないから!


「違うんだ、おれの頭の、な、中……? に、賢者(ワイズマン)っていう人が!」

「ヒカリさんが…………、ワイ、ズ?」

「そこを疑問形にするな! まあ自分でも賢くは無いと思ってるけど!!」


 な、何て説明すればいいんだ、ワイズマン?

 ワイズマン教えてくれ、おれはあと何回、頭のゆるい子扱いされれば良い?


《いつも通りの扱いでは?》


 ひどいや!!


 と思ったら、続きが表示された。


《私は現在はアプリケーションに近い存在、実体が無いので外部への影響を及ぼす事は困難です》


 そう言って親切に提案をしてくれるワイズマン。

 なるほど、そういう事なのか。


《外部へ私を知らしめるとすれば、管理者の頭に電撃を流す以上の協力は難しいと思われます。》


 でも大丈夫。その協力は不必要だよ。

 ははは、だってそんなコトしたってディーには伝わらな


 ビリビリビリ!!


「ぐぬおお要らないって言ったのに!

 あがががが、くそう沈まれおれの頭まままままま!!」

「ヒカリさん!?」


 幸いにして、電気ショックはすぐやんだ。


 後ろの少女に「ちょっと頭の方が暴走しそうになってさ! 大丈夫、今は押さえ込んだから!」と言い訳して、何事も無かったように歩き出す。

 我ながらヒドい言い訳だと思う。


 結局、ディーに言われたような人になっちゃってるし。

 邪気眼ならぬ邪気アタマだ。

 何それすごくおバカっぽい。


 ……いや、おれは要らないって言ったじゃんか!

 なんて事するんだワイズマン、ディーにドン引きされたらどうすんだ!!


《望む所ですが?》


 何故そんな好戦的なの!?

 何がおまえをそうさせるの!?


 しかしそれ以上は説明もなく黙られてしまったので、こちらも疑問のまま放置するほか無かった。

 毎回のような気もするが、電撃を流される理由が理不尽な気がする。

 バラエティ番組ばりのムチャぶりだ。


 ワイズマン、一体何を考えているんだ……?


 いや、取り敢えずせめてディーにはフォローを……。


「ま、まあ、視界に表示されるこのデータについては、いずれ説明する機会はあると思うぞ。

 今はなんだか便利なサポート程度に考えててくれれば良いよ。さっきのはそのサポートが反抗期に入っただけなんだ」

「判りました…………?」


 あんまり判ってなさそうな感じの声で返事が。

 でもおれだってよく知らないんだから何も言えない。


「あ、ヒカリさん。

 その先を曲がると、この洞窟の一番大きな部屋に着きます」

「おお、やっとか」


 地図を持っているディーが言うなら間違いないだろう。


 じゃあ、ここまでの経過を整理しておこう。


 今、おれ達は朝起きてから『屋根裏部屋』を出発し、本筋の道に戻ってから進んできている。


 出発してからだいぶ歩いた気もするが、それでもまだ時間にして数時間。

 屋外は陽が上まで昇り、昼になったか少し過ぎているぐらいの時間だろう。


 この地下に作られた巨大なアリの巣のような、あるいは大規模な人工の建造物のようなダンジョンの地図を手に入れてから、実はおれ達は目標の到達地点を決めていた。

 それは、三枚ある地図の最後の一枚。

 正確に言えば、おれとディーが進んできた経路から見れば最後のマップである。


 さらに、その最後のマップの終着点が、次の大きな部屋なのだが…………。


 おれはダンジョンの角をまた曲がろうとして、


 ――――咄嗟とっさに体を戻した。



「ディー、ストップ」



 後ろ手に少女を牽制する。

 そして、声を潜める。


「どうしました?」

「居る」


 自分でも緊張していると判るような声が出てしまった。

 ディーも体をこわばらせる気配。


「…………いる、とは?」

「多分、『ダンジョンボス』ってやつだ」

「ボス?」

「見てもらった方が早いかも」


 おれは角から顔を出すようにして様子を確認していたのを、しゃがみ込んだ。

 後ろのディーがおれの頭上から顔を出し、ブレーメンよろしく揃って奥を見る。


「あれ、ですか」

「あれだな」


 奥の部屋に待ち構えていたモノ。


 否が応でも目についてしまうような、その異様な光景。


 その部屋に居るのがスケルトン・ソルジャーの群れ程度なら、どんなに良かっただろう。

 昨日戦ったエドラワームが普通の魔物に見えてくるようなプレッシャーだ。


 …………地図によると。

 この部屋はダンジョンの終端でありながら、今まで通った部屋と較べて最も大きな部屋であるとの事だった。

 そして、それは正しかった。


 見ると、部屋はまるで皇宮にある『謁見の間』のように広大で。

 その円形のドームのような部屋を何本もの人口の石柱が、通路よりも高い位置にある天井と床の間に、挟まるような形で支えている。

 床自体はどこまでも平坦で段差がなく平らではあり、過去あったままの状態をかなり保っているようだ。

 昔に住んでいた誰かは、ここを皆の集会場やホールとして使用していたのかもしれない。


 さらに、おれ達の居るこちらの通路から見える、ホールの奥の通路。


 そこには、階段があった。


 帰れる。

 外に出られるのだ。

 この紫色の魔素で満ちた不吉な建物から、脱出できるのだ。


 おれとディーがここを目指して進んでいた理由は、一つはこれがため。

 地図に階段のマークらしきものがあるのを見つけ、それを頼りにここまで探索してきたのだ。


 もちろん脇道も調べつつ進んだが、結局はここまで着いてしまった。

 昔の地図のものと地形が変わっていて階段が潰れている可能性もあったが、その心配は杞憂だったようだ。

 ようやく出る事ができる。



 ――――しかし、それは叶わなかった。

 ホールの中央に居るモノが、許さなかった。



 目だ。



 柱に、目が生えている。



 その『目』は、ホール中央の一番大きな石柱に横になって生えていた。

 生えていたとしか言いようが無い。


 普通は他の柱と同じように同じ石で出来ているべき箇所に、地面と垂直になるように丸い目が付いているのだ。円柱の真ん中に、そのまま同じ材質の球体をぶち込んだみたいな形。


 ご丁寧に、人や他の動物の目と同じように黒目や白目、まぶたまで備えている。

 時たままばたきをして目が閉じられると、中心だけ太った柱にしか見えなくなる。

 だが、またスグに開く。

 そして黒目をグリグリと動かして…………、あれは周りを見ているのだろうか?


 …………端的に言って、非常にキモチ悪い。

 電車に乗っていてふと見上げたら、得体の知れない、えも言われぬ不安感を煽られるような前衛芸術の絵画展の広告が目に入ってしまったような気分だ。


「部屋も、かなり魔素が多いですね」

「むしろアイツが放出しているようにも見えるな……」


 そしてその周りには尋常では無い量の魔素が取り巻いており、さらに周囲に惜しげもなく撒き散らしている。

 ホールの中央の目が付いた柱から、大量の魔素が広がっていっているのだ。

 魔素の紫色の中に、グロテスクな目のような何かが浮かび上がっている。


 つまり、おれ達がこのダンジョンを進んできたもう一つの理由も満たしているという事。

 『魔素が異常に増えた原因を探す』というもう一つの理由も。


 あれだ。

 アイツで間違いない。

 どうやってかは見当も付かないが…………。

 あれの内部から外に向け、魔素の霧がまるで蒸気のように噴き出すコトによって、辺りの魔素の濃度が上昇しているのだ。

 センティリアの街が魔素で覆われた事とも、アイツは直接関わっている。


 あと、アレを見て思い出した。

 『目』に気付かれないようディーに小声で話す。


「ディー、おれ昨日、『祠の所でヘンな黒い目を見た』って言ったよな?」

「……はい」

「それとそっくりだ」


 その祠にいた目をデカくして、柱に埋め込んだらアレと酷似する。

 これはきっと、偶然の一致なんかじゃない。


「湖を守る祠を壊したのもヤツか、ヤツの分身か何かで、祠の時は分身が消えた時にスケルトンが出現した。

 さらに、魔素はヤツを中心にして出ているみたいだ」


 つまり? と、ディーが息を吐くのと同じ位の小さな声で尋ねてくる。


 答えなんて一つしかない。

 彼女だって判っているのだろうけど。


「アイツが、今回の異変の元凶だ」


 少しだけ無言で『目』を眺める。

 そして、また通路に体の位置を戻した。


 二人して地面にしゃがみ込んでいる。


「では…………、どうしますか、リーダー?」


 じっとこちらを見つめる。

 それに対しておれは、出来るだけさらっと簡単に告げてみた。


「行こう」


 ディーはそれに、『水魔の氷槍(フロストロッド)』に刃を形成させることで答える。


 ロッドの先端が深い青色に光り、キシキシと凝結音を立てて氷が現れていく。

 刹那に、戦闘時に使うスピアの穂先が現れた。


 ……つまり、そういう意味だ。


「では行きましょうか」


 おれもシャベルを背中から抜き、ツルハシの位置を確かめる。

 一本は酸で溶けてしまったが、こっちのはまだ余裕で使い倒せそうだ。


「ディー、おれが言うのもアレだけど、迷いが無いな……」

「悩んでたって仕方ないですから。

 そもそもリーダーが悩んで決めたのなら、メンバーは従うのみです」


 それに、と続ける。


「どうせ出口は、その部屋を越えた先にしか無いんですよね?」

「ああ」

「それなら結局、帰り道に立ちふさがってるアレは倒さないと」


 帰るついでですよ、ついで!

 と、気楽な調子でディーが強がってみせる。


 おれも、わざと軽い調子で乗ってみた。

 こういうのは気持ちの問題だろうな。


 覚悟を決める、なんてのはここに来るまでに何度したか判らない。

 ここからはむしろ気負わず自然体の方が、カラダだって動かしやすいと思った。


「そうだな、さくっと倒して帰るか!」

「そうですよ!」

「あ、でも『解析スキャン』だけこの距離からやってみるのはどうでしょう?」

「なるほど、試してみる」


 早速良い案が出た。


 今度はおれだけが通路の角から身を乗り出し、あの『目』を見た。

 ワイズマン、この距離から『解析』が出来るか?


《『解析』、開始します。》


 距離はどうにか範囲に収まっていたようで、『解析』が始まった。

 耳の奥で、ピッピッという処理音が小さく響く。


 だが。

 時間を置いて、ワイズマンは。


《レベルの差が離れ過ぎている、しくは何かの障害が起きているため、あの魔物への『解析』が出来ません。》


 ううん…………。

 前も一度、そんな結果が出たことはあったな。

 まあ少なくとも判ったのは、解析が出来た『ヤング・トレント』や『エドラワーム』よりはあのモンスターは強いだろうという事。


《ただあの魔物モンスター、不確定名『柱の中の目』は『土』属性のようです。》


 そして仮の名前と、属性のみが敵のステータス欄に表示される。

 他は全て『?』で覆われていた。


 相手について判る情報は、これだけか。

 体を戻し、ディーの方を見る。

 彼女も同じ情報を見ているハズだ。


「じゃ、行きましょう!」

「まあ今更こんな表示されたってなあ……」


 戦うことには変わり無いんだしな。


 まあ結局、ボスだからレベルが高いからと言ったところで、戦わないという選択肢は無いのだ。

 ここまで進んで来た時点で、もうそれは決まっていた事。

 もしくは、おれが街を出た時には既に定まっていた事。


 おれは奥の、恐らくこのダンジョンのボス、そして魔素の異変を起こした元凶の立ち塞がる大きな部屋に向き直った。

 ジャリッと自分の足音が洞窟の中に小さく響く。

 後ろからも、冷気の渦巻く音が増したのが判った。


「ヒカリさん、私のMPも回復しました」

「……よし」


 ディーのMPの自然回復も済んで、最大値まで戻ったようだ。

 整えられる用意としては最小限だが、行える準備はこれが最大限だ。


 後はもう。


「相手の行動が判らない。だから、指示は今は細かくは出せない。

 お互いに自分の身を守るのが最優先。

 魔法は、中威力ぐらいまでならディーの判断で惜しみなく使ってくれ」

「はい」


 通路の角から身を乗り出すと円形のホールが目に入る。

 その大部屋の中央の柱には、何の比喩でもなく『目』が付いている。

 人間の目を垂直に柱に張り付け、まぶたが左右から閉じて瞬きをしている。


「まずは先制攻撃だ。おれはコレ(シャベル)であの『目』に、一撃食らわせてみようと思う。

 ディーは遠距離から気付かれないように魔法を」


 かなりアバウトになってしまったが、仕方ない。

 何しろ相手の正体が名前すら判らないのだから。


「判りました」


 ここまで一緒に行動してきていた後ろの少女、ディーが言う。

 彼女も『水守ミズモリ』という職業だったり魔人ワーロックという種族だったり、おれと異なる部分は多い。ここに来た理由だっておれは街のためだがディーは単に湖の調査だったというような違いもある。


 あるが、共通している目的は。


「三つ数えてから部屋に突入。あ、声は出さなくて良い」


 目的はあの『目』。

 ワイズマンの言う、不確定名『柱の中の目』の、撃破。


 シャベルを持っていない方の手を後ろに向け、指で合図を出す。


 じゃあ行くか。


 3、


 2、


 1、


(――――『ダッシュ』!)


 通路のコーナーから飛び出し、二人して部屋の中央に向かって走りだす。

 相手にこちらの存在を知られていないなら、こういう時は先制攻撃に限る!


 そうして。


 初めてのボス戦は、その幕を開けた。









「――!?」


 部屋に入った瞬間、『柱の中の目』が驚いたようにこちらを向く。


 素早い反応だ。


 そして、その柱に埋まった体をぶるぶると震わせた。

 体といってもこちらからすれば巨大な目にしか見えないけど。


 まあ、足音はどうしても響いてしまうから仕方ない。

 どうせいつかはバレるんだ。


 こちらに気付いた相手の反応を無視して、さらに直近に走りこむ。

 距離にしておよそ20〜30メートル。

 そのままそれが、この大部屋の半径にあたる。


 ディーは途中の柱の陰に半身を隠し、魔法の詠唱を始めたようだ。

 前衛はあくまでおれ、ディーは後方からの攻撃に徹するつもりなのだろう。


 打ち合わせこそ無いものの、彼女の考えることは言わずとも伝わってきた。


 シャベルの先端は、意外なほど尖っている。

 道具として硬い地面を掘れることが求められるのだから当然だ。


 ……ならば。


「うらぁぁああああ!!」


 マトは大きいから当て易い!

 手に持った武器を槍に見立て、『目』の中央にに突き刺す!


 そして、ダッシュの勢いもつけてホール中央の柱にシャベルを相手に突き立てようとする。


 ――――が、防御されてしまった。


 『目』が、まぶたを閉じるようにして瞳を隠してしまったのだ。


 ガギンと音がし、分厚い岩石に衝突したようにしてシャベルが弾き返された。

 手にビリビリと衝撃が伝わる。

 これでは刃の根を足で蹴った所で、土を掘り返すように上手くは埋まらないか!


「ヒカリさん、横へ!」


 後方からの声に、おれは弾かれた反動に堪えて左に体を動かす。


 一瞬の後に『氷刃アイスエッジ』が横を通過する。

 辺りに冷気を振りまいて直進する、氷のギロチン。


 ……しかしこれも、『目』に弾かれてしまった。


 岩石のまぶたに衝突して、氷の魔法がバキンと砕け散る。


 ダメだ、全く効いていない!

 あの閉じた目蓋は、そのまま柱と同じレベルの硬さがありそうだ!


『目』はそのまま自身の瞳を庇うようにして閉じたまぶたを、左右を繋げるようにして同化させてしまう。

 完全に目は閉じられ、柱と一体化してしまった。

 既に、中心に薄く目蓋の稜線が残るのみ。


 そして、柱が黄色く発光し始めたのが判った。

 中央の『目』の居る柱からこちらに向けて、宙空に硬質の塊が形成される。


 閉じたまぶたの先で。

 凝縮して、それは石の塊を成す。


 ……少し前にも、おれは同じモノを見ている!


 あれは――――!


「ディー! 柱の陰に隠れろ!」


 叫び、おれも近くの柱に飛び込む。

 腕は先の攻撃失敗の反動で痺れているが、それでも足はまだ動いた。


 身体を柱に隠す、瞬間。



 おれの背後の空間を、石の弾丸がえぐり取った。



 『柱の中の目』から放たれたソレは、ギリギリおれのパーカーを掠め…………。

 さらに戦闘フィールドとなるこのホールの周壁にまでを射程に収め、奥の壁に当たってダガガガッと連続した衝突音を残す。

 連続しているという事は、少なくとも一発では無い。


 音が止んだのを見計らって柱から顔を出す。


 と、その目の前にも、また石片が迫っていた!


「うわっ!?」


 慌ててまた柱に背を付け避けると、今度は柱越しに衝撃とけたたましい音が伝わる。

 思わず背中を柱から離す。


 ドシュッ、と遠くで音がしたかと思えばすぐさま、また背中の柱が硬い物を弾く音を立てる。

 それが断続して何度も続く。


 柱の陰でしゃがんでいてもそれは変わらず。

 おれは何度もそのドシュッ、ガンッ、という発射、着弾の繰り返しを聞くハメになった。


 ……くそ、何かは正確にはまだ判らないけど、『土』属性の魔法で狙い撃ちされている!


 ああしてずっと撃たれている限り、おれはここから動けない!

 クギ付けにされたって事か!?


 だが、今は咄嗟に近くの柱に隠れたお陰で無事だ。


 地下に存在するこのホールを支える柱の一本、流石にその丈夫な造りは、『目』の魔法から耐えられるようだ。


《あの『柱の中の目』の使用する魔法が判明しました。》


 ――――『行動解析アクションスキャン』か!


 でも、解析出来たのか?

 確かヤツの能力値については、レベル差があって見れなかったんじゃ……?


《原理は不明です。

 ただ、『解析』と比べ『行動解析』に関しては、調査の難度が低いものかと推測されます。》


 つまり『目』自体は依然として正体は不明のままだけど、『目の取った行動』は把握できる可能性がある、とか?

 ワイズマン、ナイスなアシストだ!


《…………。戦闘に集中を。

 あの魔法は『シェイド・マンタイプ』が行使したものと同系統であり、『小礫投射デブリスシュート』です。

 ただし消費しているMPは段違いであり、まず威力は『シェイド』のものと比較になりません。

 また、『小礫投射』のデータが更新されています。あの魔法のクラスは『Ⅱ』と表示されました。》


 後ろの正しく銃弾がブチ当たるような背筋の凍る音を耳にした感じ……。

 あれは、『シェイド』の一個の礫を飛ばす魔法などとは違い、もはや散弾のようにドバッと幾つもの石片を投射してきているようだ。しかも、かなりのスピード。

 クラスがⅠからⅡに上がってるというコトは、それだけ魔法の性能に差があるのだろうと推測。


 ただ、これではおれも動けないが、相手もおれが隠れている限りこちらに有効打を与えられない。


 すると、怪しいのは。


 ……この攻撃は、本命なのか?


 『目』は他にも別の攻撃手段を持っている気がする。

 気がする、だ。


 それが何か、魔法かあるいは未知の技能スキルかは判らないが。

 こういう時の悪い予感は、おおよそ間違いないと思って良い。


 だが、ここはおれが相手の注意を引いている間に、ヤツの攻撃が手薄になっているディーからは攻撃のチャンスがあるハズだ。

 そして、おれは少し離れた場所の柱に隠れる仲間にサインを送ろうと振り向い、



「『ダッシュ』!!」



 反射のように体が動いた。

 しゃがんだ中腰の姿勢のまま、クラウチングスタートのように足を前に出す。


「ディー、後ろだ!!」


 スケルトンだ。

 見間違えるハズも無い、複数の『スケルトン・ソルジャー』が、こちらを見ているディーの後ろに迫っていた。


「えっ……? きゃあああ!?」


 小礫デブリスの音に、スケルトンの足音がかき消されていたのか。

 ディーもようやく死角から迫る敵に気付く。


 だが、魔法詠唱のスキもあの距離では充分に取れそうにない。

 手にした槍で対処しようとしているようだが……。

 相手取る敵の数は三体だ。


 ホールの中央から唸るドシュッという発射音を避けるように顔を腕で隠し、走る。

 すぐ後ろの地面がバチバチとぜる。

 瓦礫ガレキの弾丸が背後にワンテンポ遅れて、おれを追って来ているのだ。


 中央の『目』の居る柱から放射状に並んで広がる柱群を、ディーの居る柱へと走る。

 場所は隣の列、かつ何本か後ろに下がった位置の柱だ。


 地面に足を取られた場合、一瞬で『小礫投射』の石の破片がおれに突き刺さるのは間違いない。


「突くんじゃなくて振り回せ!

 それと、一体じゃなくて全員に当てろ!」

「は、はい! 『三段突き』!」


 まごつきながらも意を汲み、ディーが槍の技能スキルを発動する。


 『三段突き』は、一度攻撃を行う時間で三度の連撃を代わりに繰り出すスキル。

 ただ一発辺りのダメージ低くなる。


 刹那、彼女の手と袖がブレたかと思う程のはやさで近くのスケルトンに槍を当てた。

 器用に一発を一体に、計三体に。


 そうして槍がホネの魔物に触れると、そいつらは瞬時にして槍の打撃部分から凍り始める。

 ディーの『水魔の氷槍(フロストロッド)』が持つ効果、『氷結』の状態異常だ。

 威力は低くても、相手を僅かの時間動きを止められるという効果は強力だ。


 見事に近寄っていた三体はその場で固まった。

 そう、スケルトンには『氷結』が効果を発揮する。


「……はぁっ!!」


 さらに、近くの一体にディーが追撃。

 氷の穂先でガイコツの首を貫き、頭部を切り飛ばした。


 そいつに続けて攻撃を――――、っと!


「『目』からは柱を影にしろ、出たらヤツの土魔法を食らうぞ!」


 ようやくディーの居る柱に辿り着いた。

 追撃を抑える青い髪の少女に並び、手近なスケルトンにシャベルの平面を叩き下ろす。

 ガラスを割った時の如くバリバリと軽い音を立ててガイコツが砕ける。

 それを蹴り飛ばし、ラストの一体も巻き込んで地面に倒した。


「トドメです! ヒカリさん、その場で止まって!」

「判った!」


 ディーが手でおれを制して言う。


 ヒュゥンと空間が歪むような音を立てて彼女の槍を持つ手に青い光が集まり、それを溜めずにすぐ発射。

 詠唱時間を短くしたために小型の『氷刃』は地面に刺さり、それでも倒れていた三体のガイコツを全て切断した。

 ワイズマンの表示によると、全員HP(ヒットポイント)は0になっているようだ。


「良くやった、雑な指示だったけど上手く察してくれたな!」


 ディーと背中合わせに立つ。

 お互いに手にした得物は自分の正面で斜めに構え、辺りの様子を見る。スケルトンの増援を警戒するためだ。

 背中越しに伝わる温度が、柱などより余程頼もしい。


「ありがとうございます、褒めるならついでに後で頭撫でてください!!」

「この状況でもめげないなおまえ!!

 それよりアイツの攻撃方法が判ったぞ、デブリスシュートの強化版を撃ち続けるのと、スケルトンをどっからか生み出してそいつらに戦わせるって要領だ!」


 自分ボスは防御体勢のまま魔法を遠距離から撃ち、スケルトンを使役して隠れた相手へのダイレクトな攻撃はそいつらに任せる。


 かなり陰湿な戦法。

 だが、陰湿だと思わせる程に、盤石な戦法。


「この攻撃パターンを崩さないと、また『目』に攻撃するのは難しいぞ……!」


 問題は、スケルトンがどう湧くか。


 どこだ……!?

 一体、今さっきのスケルトン達はどこから現れた!?


 ……しかし、その正体は悩む間もなく知らされた。

 目を凝らして魔素の霧の薄暗がりを見回すおれに、ディーが叫ぶ。


「ヒカリさん、あれを!」


 肩を掴まれて指差された方を見る。

 すると、その先の壁際に変化が起こっていた。


 紫色のもや、魔素の霧がホールの壁際の一箇所に集まったかと思うと……。

 それが密に凝集して、くすんだ白色の骨の身体を形作る。

 スケルトンだ。


 スケルトンはその場で錆びきった剣を拾い上げ、こちらへと走ってきた。

 よく見れば、ホールの壁際には大量のサビついた剣や槍が打ち捨ててある。


 一体、何故? と考える暇も無い。

 おれは『目』の土魔法の騒音に混じって、後ろでガシャリと足音が鳴ったのを聞き逃さなかった。

 振り返るともう一体のガイコツが。

 二体で、今度はこちらを挟撃してこようという算段だ。


「お互い、自分の正面の敵を狙う!」

「はい! 『属性付与:凍結(アイスエンチャント)』は?」

「たぶんまだ必要ない!」


 背中越しに答えてシャベルを構え直す。

 正面から新しく来たガイコツの武器は、こっちの武器シャベルの半分位しか長さの無い短い剣。あれなら…………。


 刃の部分を突き出すようにして、スケルトンに刺す!


「シャベル突き!!」


 リーチの差で迫っていたホネをでかいスコップが貫き、それを刺したまま横の柱に叩き付ける。

 これで一体。


「『氷漬けの杭(フローズンパイル)』!

 ヒカリさん、もしかして今の、新しい技能スキルですか!?」

「ごめん、適当に叫んだだけ」

「ま、紛らわしい!」


 ちなみに先程『目』にやろうとして失敗した技だ。

 いや、技能じゃないから技とは呼べないのか。

 紛らわしいな!


 と、そこで。


 ズズズズ……、と上側から岩がせり出すようにして道を塞ぎ、ホールの周りの壁と一体化してしまう。

 おれ達が入ってきた方の通路も同様に閉じられていく。

 ……入り口と出口の両方が塞がれ、ホールから脱出する事は不可能になってしまった。


 階段へ繋がる通路が、閉ざされたのだ。


 さらにオマケとばかりに、再びスケルトンが壁際に出現する。

 また二体。

 倒してもすぐに新しいガイコツが現れるようだ。


 ドーム型の戦場。

 武器を手に襲い掛かってくる敵。

 出口はもう塞がれてしまったから脱出は不可。


「これじゃまるっきり決闘場じゃないか……」

「もしこれで、際限なくスケルトンが現れ続けたら……」

「それは……マズいな」

「ヒカリさん、どうすれば?」


 通路は閉じられてしまった。

 ではどうすれば再び開くか?


 閉じたのがあの『目』がやったコトならば、そいつを倒す以外に選択肢は無いだろう。


「ただ、あの『目』も岩石で覆われて閉じてて攻撃が届かない……」

「でしたら、岩を割るような魔法なら、私のレパートリーの『氷漬けの杭』とかはどうでしょう?」

「いけるのか? っとディー、横手から一体!」

「はい、大丈夫です!」


 近寄ってきたスケルトンに、小型の氷で出来た杭、『氷漬けの杭』を二、三本連続してぶつける。

 手をかざした位置から先鋭形の棒状に形成された氷が放たれ、敵の胴体に全て突き刺さる。

 遠距離からの攻撃にスケルトンは為す術なく倒れ、地面で氷の置物になった。


「その魔法を最大まで溜めたら、岩も貫通するのか?」

「これを最大の詠唱時間で出せれば……。やってみる価値はあると思います」

「ならやろう」


 迷っている時間も無い。

 PTメンバーが提案したコトをリーダーが無碍にしていたら、それはただの独り相撲と変わらない。

 増してや、彼女はおれなんかよりは魔法についてずっと長けているからな。


「あ、でも」

「どした?」

「長時間詠唱の時は動けなくなるので、あの『目』の射線上に出ないといけませんし、スケルトンからも無防備です」


 ならどうしようか、と聞く前に。


 背向かいの魔人の少女は、得意げに語るのだった。

 少し誇らしげに。


 というかドヤァな顔で。


「ですが!」



「…………ですが?」



「私に、いい考えがあります!」

 

 

 

キリ良く三話に収めるため、この文字数になってしまいました。


「長文でもいいのよ?」というご意見を頂いた事により、気が緩むとすぐコレ……!

これだから私ってヤツは……!!


でも続きます、それではまた次回!


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