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第十七話 : 不確定名・『柱の中の目』

 


「凍りづけになりなさいっ! せゃー!!」


 なんだか気の抜けそうな掛け声を上げて、ディーが自分の武器を振るう。

 横にいるおれだって、それを立ちっぱなしで眺めてるワケにはいかない。


 別方向から近付いてきたスケルトンに、武器シャベルを思い切り突き出した。


「――よし! これで今いるスケルトンは全部だ!」


 柱の陰になるように動いて、スケルトンに刺さったシャベルを外す。

 そうしてから、ディーが号令を出した。


「じゃあ、次のスケルトンが来る前に行きますよ!」

「…………」


 だが、すぐに返事は出来ない。


「……マジでやるの?」


 『目』の放つ石の弾丸が衝突し続けてイヤな音を建てている柱を見やり、次にディーを見る。

 真面目に頷かれてしまった。

 急かすように、ぱんっと手を打ち合わされる。


「冗談でこんな事言いませんよ!」


 一点の曇りもない瞳だ。

 きれいなジャイ○ンも真っ青な澄んだ目だ。

 どこまでも本気なようで。


「はぁ……、やるしか無いのかな……」


 そうして、おれは。

 地面にしゃがみ込んだ。


 よいしょ、とディーが背中にのし掛かってくる。


 そして立ち上がってみる。

 と、あら不思議。


 青い髪の少女を背負った、ぼろぼろパーカー男の誕生だ!!


 ディーが上、おれが下になる最新の戦闘態勢!

 名付けて『人力騎馬戦(馬役は一人)』!


 …………。


 ……。


 そうだよ! 簡単に言えばただのおんぶだよ!!

 何故かディーを背負うコトになっただけだよ!


 普通と違う所と言えば、片腕で支えて反対の手はシャベルを持っている事と、これが戦闘中に行われてるって事くらいだよ!


 ジョークだったらどんなに良かったか。


 なんだか早くも、PT(パーティー)メンバーの意見を信用しなければというモットーが正しいのかどうかすら判らなくなってきた。


 ……全く、誰だそんなコトを言ったPTリーダーは!?

 おれだよ! 残念ながら!!

 メンバーが(仮)ならおれはリーダー(笑)だよ!!


 大丈夫なのか?


 コレ、本当に大丈夫なのか!?


 どう考えても大丈夫じゃ無いよな!?


「あっ、ちょっ!

 手は支えるなら、もうちょっと下で!

 そこはダメですっ!」


 言われるままに、手の位置を修正する。

 妙に背負った子の吐息が耳をくすぐってくるが、まあ気にする余裕なんて無い。

 ちなみに青い髪も垂れ下がって来てくすぐったい。


「ごめん、でも本当にコレやるの?」

「槍は……、ヒカリさんは持てないんですよね?」

「『元囚人』だからな。でも本当にコレやるの?」

「じゃあ私が持っておくので、落ちないように支えてくださいよ?」

「ああ。でも本当に」

「スケルトンが来ますよ!

 四の五の言わず、早く! さあ!」

「チクショウ話を聞いてくれない!!」


 しかも、ディーを背負っただけで終わりではない。

 むしろここからが本番だ。


 時間がないです早く早くと急かされておれは、シャベルを手にツルハシを腰にディーを背中にしょって走り出した。


 柱から出て、『目』により近い位置にある最寄りの柱へ。

 近年稀に見る前傾姿勢の全力疾走だ。


 ちなみに前回の全力疾走はついさっき突撃した時だ。

 稀でも何でもなかった。


「うぉぉおおおおあああああ!!」


 当然『柱の中の目』が連射して来る、『小礫投射デブリスシュート』はヤツがおれ達を狙って撃っているものだ。

 隠れる柱から出ればこちらを追っかけてくる。

 ついでに言えば、新しく出現したスケルトン達も追っかけてくる。


「だ、『ダッシュ』! 『ダッシュ』!

 石にッ、追いつかれる!!」

「ヒカリさん、かなり速いですよ! その調子!」

「うるさいよ!! こなくそーーーー!!」


 そしてそれを、人ひとり背負い込んで逃げ続けるおれ。

 片腕と背を支えにして上のアホの子を背負い、がむしゃらに走る。


 いけねえ、これシュールなヤツや!!

 仮にもボス戦で何をふざけてるんだ!!

 ……や、まあ理由はあるのだけれども。

 

 最寄りの柱に体をぶつけるようにして辿り着く。

 そして『ダッシュ』が再使用できるようになるまでほんの少し留まり、スケルトンがこちらに近寄る前にまた走り出す。

 さらに『目』の近くへ接近。


「意外とヒカリさん背中広いですね、さすが男の方!」

「ハァ、い、言ってる場合か! ハァ、『ダッシュ』!

 ディーは楽だろうけど、こっちは結構重た」


 途端、上からスッ……と冷たいモノが首の近くに置かれた。

 何コレめっちゃ冷たい!


「その続きを言ったら、槍が手からうっかり滑っちゃうかもしれませんよ?」

「脅し!? 必死に走ってる人間に脅し!?

 いやディーはかなり軽い方だろうけど、それでも小さな子を父親がしょってるのとはワケが違うんだから!」


 心の底から叫び、なんとか槍を下げてもらう。

 体重やらなんちゃらが気になるのは異世界でも変わらないと判った、そんなボス戦だった。


「本当はお姫様抱っこがベストですが、それだとヒカリさんがシャベルを持てませんからね」

「ベストの理由が判らない!

 結局ディーを持つのには変わらないし!!」


 ワケの判らない問答をしている間にも、ギリギリで瓦礫ガレキの弾丸から逃げ続ける。


 こうまでしておれがディーを運ばなきゃいけない理由。

 理由はただ一つ、それが彼女の考えた作戦だからだ。


 攻めあぐねている時にディーが発案した、本人いわくかなり有効な作戦。


 聞いた時は「はあ……?」となったし今は疲れでハァハァしているが、もう始めたものは止められない。

 上でなんだかラクしてる気がする仲間を背負って、走り続けるしか無い!!


「ヒカリさん、飛んでくる石が当たりそうです!

 スピード落ちてませんか?」

「それはっ、『目』にっ、近づいてるからだっ……!」


 スケルトンを引き離し、更に柱の陰から影へと渡り走る。

 渡った先でまた別の柱を目標にして、デブリスが途切れた瞬間を見計らってさらに前へ。


 一体のスケルトンなんかは、不用意にこちらの後ろを追ってこようとした時に『目』のデブリスシュートに巻き込まれ砕け散ってしまった。

 それだけでもあの魔法の威力の一端が知れる。

 直撃したら大ダメージは免れないだろう。


 その命懸けの綱渡りを、ディーを背負ってするおれ。

 曲芸師じゃないんだぞ。

 コントでもないんだぞ。


「くぅ、相手の狙いが距離のせいもあってっ、正確になって来てる!」

「わっ!! 私の背中を掠めました!

 『水守ミズモリ』専用のこの装束でも、まともに受けたらダメージになっちゃいます!」

「おれなんかただのパーカーだよこのトンチンカン!!」


 これ以上前に出るのはムリだ。


 ここらが限界か。


 スニーカーで地面を擦って無理矢理に減速し、柱の陰の安全地帯で止まる。

 背後を石の弾丸が通り過ぎ、さらに柱にデブリスが衝突し続ける。

 ややもすれば足が竦みそうな程の怖さ。


「もっ、もうムリ! 疲れと恐怖と、あと何でおれこんなことしてるんだろって疑問で足を前に動かしたくない!」

「でももう一本二本ぶんぐらい、『目』の近くの柱に近寄れそうな気も……」


 ………………。


「あっ、そんな顔で睨まないでくださいよ!

 じゃあ、次の段階に移りましょう!」

「なんでディーナさん、そんなテンション高いんですかね」

「お気になさらず!

 では行きます、『属性付与:凍結(アイスエンチャント)』!」


 おれの片腕で持っていたシャベルが、ディーの魔法の発動と共に白く染まる。

 白い理由は 先端部分を取り巻く冷気。

 シャベルに彼女の『水魔の氷槍(フロストロッド)』のような、触れた相手を短い時間氷漬けにする能力が付与されたのだ。


 その代償として、おれのなけなしのMPが緩やかに減少し始める。


 付与が終わると、その反対の腕で支えて背負っている荷物が、無邪気に非道な言葉を吐いた。


「では、ここからまたさっきの後方にまで戻りましょう!」


 しょーう、しょーう、しょーう…………、と、テンション目一杯高いその言葉が、心なしかホールに軽く木霊こだまする。


 ダダダガガガガッと柱の反対側に礫片れきへんの散弾がぶつかる音を聞きながら、一応尋ねる。


 ディーナさんにお伺いを立てる。

 もはや敬語だ。


「……休む時間は無いのでしょうか?」

「ありません! スケルトンがこちらに来たらすぐにリターンです!

 何のためのアイスエンチャントですか!!」


 少なくとも、おれの自由のためでは無さそうだった。

 世の中って無情だ。


「はぁ……、ガイコツも来てるし行くか。

 数は結局四体にまで増えてし。一斉に潰さないと」

「作戦はもう覚えてますか?」

「うん」


 短く応える。


 作戦自体はなんとも単純だ。

 ここまでは無事に成功している。ある意味でおれは限界だけど。


 まず、この状況を整理する。


 敵の攻撃は主に『デブリスシュート』と『スケルトンを召喚・そいつらを使役して攻撃させる』の2パターン。


 こちらは柱から出れば瓦礫ガレキの散弾に撃たれ、柱に留まっていれば、倒しても倒しても続々と召喚されるスケルトンとの消耗戦を強いられる。


 相手はあれだけ惜しみなく魔法を連発できるんだ、何らかの手段でエドラワームのSP(スキルポイント)のようにMP(マジックポイント)を超回復させているとしか思えない。

 正面から相手の作戦に応じれば、こちらはディーのMPが尽きた時がすなわち死ぬ時だ。

 彼女の魔法は戦闘時、生命線となるのだから。


 しかし、ここでディーは閃いたらしい。


 スケルトンは、倒さなければ増えるスピードは遅いようだというコトに。

 数体が出現している間は新しく湧いてくる事は無い、という推測。


 連続する『目』の『小礫投射デブリスシュート』も、無尽蔵に撃っているが無限に連射できるワケでは無い。

 柱に隠れればこちらは当たらず、その連続した魔法にも、僅かに途切れる瞬間はあるという法則は発見している。

 ダダダダッと撃った後、魔力の充填のためか、ほんの少し次の連射まで間が空くのだ。


 だから、それら全てを利用する。

 相手は盤石の構えを取っているが、それでも僅かな隙を突く。


 そのためにまず、スケルトンはある時点から無視し、こちらは走って逃げる。

 でも逃げると言っても当たり前だがホールの出口では無い。

 そもそも両方とも、もう塞がれてしまったからな。


 そこで、逃げる方向は。

 『目』の居る方へと定める。


 これがちょうど今、第一段階。

 そして。


「はぁ。じゃあ、もうちょっと強く背中に掴まってくれるか?

 体が離れられると重心がズレて動き辛いんだ」

「……こうですか?」


 ぺっとりと背中にへばり付かれる。

 おれの頭のてっぺんにもディーのアゴが載った。


 ……なんだか、パーカー越しに柔らかい感触が…………。


「……いや、なんか言って下さいよ!

 それより早く出発しないと! ヒカリさんの髪もチクチクして痛いですし! このクセっ毛!!」

「何その罵倒! 悪かったなボサボサの毛で!!

 くそ、行くぞ!」


 しまった!

 戦闘中に何を考えてるんだ、おれは!

 まず背負っている状況に慣れてきてるのが恐ろしいわ!!


 おれの居る所にめがけてスケルトンが殺到する。

 相手も足は遅くない、すぐに追い付いてくるのは当然至極。


 まあ、タイミング揃えて近寄って来ているのは嬉しい誤算ではある。

 バラバラに接近されたら面倒だった。


 こちらも『目』からは柱の延長線上になるようにして、スケルトン達との距離を詰める。

 今度は、少しでも目から距離を置くのだ。

 理由は後で。


 上にはディーの持つ槍があるし、シャベルを振りかぶれば彼女の頭にサクッと刺さる可能性もある。


 だから空間的に余裕のある横を薙ぐようにして目の前 、三体のスケルトンを殴りつける!


 ――ズサッッ!


 狙い通り全てのスケルトンに、一気に攻撃を当てることが出来た。

 だが、もちろん致命的なダメージは与えられない。

 おれの攻撃力なんてたかが知れている。


 というかそもそも、最初の一体以外はほぼカスったようにしか触れてないし。

 カス当たりも良いところだ。


 しかし、当たるだけで充分。


 あるいは多少のダメージを与えられるだけで充分。


 『凍結』の状態異常を起こすには、充分だ。


 元から冷気への耐性が低いと見えるスケルトンは、二体とも間髪を入れず氷漬けになり、動きを止めた。

 この効果はもって数秒の上に打撃が不十分だから更に効果は短い、悠長なコトはしていられない。


「こちら、準備に入ります!」

「ああ! さっきの作戦開始地点を目標にして後退する!」


 背中に子泣きじじい顔負けに張り付いているディーの合図を受け、微動だにしないスケルトンをすり抜けて走り出す。

 念のため、すれ違いざまもう一度シャベルで叩いておくのを忘れない。

 効果があるのかは判らないが、追ってくる土魔法の連射を考えるとこれが精一杯だ。


 そして背後を追ってくる『小礫投射』から逃げる、逃げる、逃げる。


 おれの役割は、ひたすら自分の持つ技能スキルの『ダッシュ』で逃げつづける事だ。

 あれだけ『目』に接近できたのに勿体ない気もするが、それも一応作戦の内である。


「…………」


 静かになったディーも、ただ黙っているワケでは無い。


 魔法の詠唱に入っているのだ。

 おれの頭上で空間を軋ませる音を立て、青い光が凝縮し始める。

 凝縮する先は彼女が手に持つ『水魔の氷槍』の先端、氷の穂先が存在する部分。


 その場で詠唱を行うのに比べれば、術者の位置が動いてしまう場合、魔法は対応した自身の『属性』を周囲の空間から集めるのにブレが生じてしまう…………、とはディーの談。

 つまりロスが出てしまうため、通常の詠唱時間よりもより長い詠唱が必要になる。


 だから意地でもハッタリでも、とにかくおれは時間を稼がないといけない。

 スケルトンからディーを守らなければならない。


 ……と、四体目のスケルトンが正面に回り込んで来た!


 ここで走る速度を緩めたらおれも上の御仁もマトモに『目』のデブリスシュートを受けてしまう。


 ギリギリの距離まで近付き、行く手を塞ごうとするスケルトンの足元を薙ぎ払う!


「――!!」


 辛うじてシャベルの先端が引っかかるようにして命中。

 スケルトン・ソルジャーは剣を振りかぶった状態で姿勢を崩され、剥き出しの歯がガチガチと鳴った。


 地面に倒れたようだが、後ろを見る暇は無い。

 片手で持っているシャベルを深手に持ち直し、腕への負担を軽くする。


 さらに柱を盾にして次の奥の柱を目視、瓦礫の散弾が途切れた瞬間に安全地帯から飛び出した。


 そうして、一つ、二つ、三つ。


 今度は帰り道だとでも言わんばかりに、柱を縫うように移り渡り、『目』から離れる。

 行きは怖いし帰りも怖いという、よいよいな要素が一切ないのがミソだ。


 しかしずっと走っていても、上の少女から合図が来ない。

 詠唱が長引いているのだ。


 もうすぐ元の、最初のおれ達が集まっていた柱にまで戻ってしまう。

 これ以上離れてしまうと、作戦に問題が…………!!


(…………ディーは、まだか!?)



 手前の柱から、最後の終点の柱に向かって走る。

 後ろからは既に凍結から快復したスケルトン達が、親玉の放つ魔法の射線を避けつつ、こちらに走って来ている。


 これ以上『目』と距離を開けてしまうと……。


 くそっ、そろそろ限界だ……!


 その刹那。


「ヒカリさん!」

「判った!!」


 石片がばしばし飛んでくる中、お互い怒鳴るようにして連携を取る。


 最後の柱に飛び込む直前、ディーからの合図。

 彼女が言葉を発したと言う事は、詠唱が終わったという事であり。

 準備が出来た、という事。


 後は、おれが調整するだけ。


 ……あのボスの魔法は、『リズミカル』過ぎる。


 MPを補充している関係かどうかは定かじゃないけど、だが一定のペースで『小礫投射デブリスシュート』を撃ち続けては一瞬止まり、再び撃ち始めるのを繰り返している。


 だから、次にあの『目』が休みを挟むタイミングは、簡単に判ってしまう。


「止まるぞ!」


 前に右足を出してスキーの板のようにブレーキを掛け急停止。

 ディーを背負った状態でもなんとか踏みとどまり、体のすぐ左を最後の『小礫デブリス』が過ぎ去る。

 しかしその次の弾丸はこちらに来ない。

 相手が一瞬魔法を止めるからだ。


(ここまではやったぞ、後は!)


 流石に我がPTが誇る『水』魔法使いのディー、このタイミングは逃しはしない。


「『氷漬けの(フローズン)……、(パイル)』ッッ!!」


 頭の上でディーが叫んだ瞬間、おれと頭やその周りと言いわず、全体にかつ無差別に、壮絶な低温の冷気が撒き散らされる。


 彼女の手に構えられ、その先端を『目』のこもっている中央の大柱に向けられた『氷魔の水槍(フロストロッド)』から。


 辛うじて杭だと言えるようなサイズの、特大の氷塊が放たれる。


 円錐形の氷塊は魔素で満ちている空間を直進し、中央の柱へ。

 運悪く間に割り込んだ二体のスケルトン、その上半身をついでの如く消し飛ばし……。


 『目』の潜む部分に、


 奴自身を保護していた岩壁を貫き、


 深く、深く、深く、奥に突き刺さった。



「~~~~~~!! ~~~~!!」



 振動する地面。


 『柱の中の目』が、苦悶にのたうち回っているのか。


 空中に浮かんでいた『小礫投射デブリスシュート』の岩片が崩れ、地面にガラガラと落ちる。相手が魔法の集中を乱されたのだ。

 相当な衝撃を受けているのだろう。


 でも、これでは――――、


 ――――まだ、足りない!!


「ディー、降ろすぞ! 隠れてろ!!」

「へっ?」

「『ダッシュ』!!」


 魔法を撃った直後の背中のディーを引き剥がして、すぐ横の柱の陰に降ろす。


 『氷漬けの杭』は、強力だったけど。

 まだ足りない。


 もうお判りかと思うが、ディーの立てた作戦の流れは、以下の通りだ。


 先程の通り第一段階、前に出て『目』に接近したおれ達だが、今度は反転、元の地点に向かって戻る。


 途中で追いついて来たスケルトンの集団は『凍結』させるコトで動きを止め、横をすり抜ける。一気に位置を逆転するのだ。


 こうする理由の一つは、『目』とスケルトンの双方から同時に、別方向に襲われるのを防ぐため。

 『目』の土魔法のみであれば、ギリギリだが、短時間であれば避け続ける事が出来るのはこれまでに証明している。危ないけど。


 そして一見ムダなように見えるこの接近・退却の往復だが、重要な意味を持っている。


 ディーの魔法の詠唱時間の確保、だ。

 これが根幹にあるため、是が非でもスケルトン達に囲まれたり、デブリスに撃たれるような状況からは、無防備になっているディーを守らなければならない。


 最後に、長い詠唱を終えたディーが『目』に向けて魔法をぶっ放す。

 まあそんな感じ。


 要は最大威力の攻撃を行うために、一旦走り回って逃げたというのが真相。


 ホールの周囲を回れば良いという考えもあるが、『目』から放射線上の柱を壁にできる移動の方が、単純に小礫デブリスからの死角は多くなるから有効だ。


 だから、こうやって半分死んだ目で荷物ディーを背負い、決死の往復運動を行っていたのも全て意味のある、事………………。


 …………あれ。


 ……あれっ?


 ……そういや、なんで行きもディーを背負ってかなきゃいけなかったんだ?

 別にあの子行きは詠唱をするでもなし、普通に二人して走るだけで良いんじゃないか?


 ディー、普通におんぶされてただけ?


(つ、疲れ損じゃねえか!!)


 理不尽だ。


 ……理不尽だが、でも今はこっちだ。

 何か彼女もそうした理由があるのかもしれないし。

 無かったら怒るけど。


 横に迫ったスケルトンに意識を戻し、エンチャントの切れたシャベルで殴りつける。

 撃退のみに留まり撃破はしていないが、それでも速度は落とせない。


 スケルトンを無視して一気に『目』と距離を詰める。


 『目』とは言っても、まだ最初のようにグロテスクな眼球は露出していない。

 つまりまだ『氷漬けの杭』は刺さっただけであり、相手もダメージは受けたが、それまで。

 『杭』が消えれば、また土魔法を連発されるのは間違いない。


 だが、今ならまだ間に合う。

 相手の怯んだ今なら、追撃が間に合う。


 これはチャンスだ。

 幸運ラック値がゼロの人間にそうそう機会チャンスなんてモノは降ってこないと思うが、自分達でムリヤリこじ開けるようにして得た隙ならば別だ。


 対象は、刺さっている氷の杭。

 ゆうに長さで一メートルに届きそうなその特大の杭を狙う。

 魔法の効果が消えてしまう前に。


 もちろん壊す訳じゃない。

 むしろ――――、押し込んでやるんだよ、さらに!


「間に、合えぇぇぇえええ!!」


 シャベルを横に構えて、走ったまま。


 その金属をハンマーに見立て、杭の頭に打ち付ける!!


 ガァン、とシャベルを鈍い音が伝わり、手が痺れる。

 それでも手応えはあった。


 『氷漬けの杭(フローズンパイル)』が柱の奥へ、『目』に更に刺さったのだ。

 そのまま、一度打ち込んだ杭を、さらにトンカチで深く打ち込んだのと全く同じ要領。


 『目』をカバーしていた岩の被覆が、そのショックを受けてボロボロと崩れ落ちる。


 そして、『杭』は時間の経過によって消滅した。

 なんとか消える前に間に合ったようだ。


 その場に残るのは、痺れる手でシャベルを掴んでいるおれと。

 覆っていた岩石は全体にヒビ割れ、間から露出した『柱の中の目』。

 『目』はフローズンパイルを刺されたためか、赤く充血していた。


 こちらを憤怒の様相で睨む。

 すると、次の瞬間。


 中央の柱、『目』から黒い波が吹き出した。


 黒い波は水や液体ではなく、物理的な威力を持った波動。

 空中を伝う衝撃となってホールに拡散する。


 それは全方位に飛ばされ、おれも例外ではなく。


 いや、おれを狙ったもので。


「う、ぐぁぁあああ!?」


 不意を付かれ、マトモに衝撃を浴びる。


 石畳のホールを転がり、後ろに弾き飛ばされた。

 途中でうつ伏せになった時、懸命に地面へとシャベルを刺す。


 ガリガリガリガリ!!


 シャベルが石畳を擦り地面を削り、イヤな音を立てる。

 だがスピードは殺されて、ようやく勢いが止まった。


 HPの表示を見ると、15ポイントほど体力が減っている。

 真正面から吹き飛ばされたにしては軽傷と言えば軽傷、だが。


 今は、距離を開けられた事が問題だ。


 くそ、どこまで戻された!?

 ここは!? 『目』からの距離は!?


 と、服を引っ張られる。


「ヒカリさん、大丈夫ですか!?」


 ディーだ。

 どうやら、かなり『目』からは離れた位置へと戻ってきたらしい。


 引っ張られるがままに、柱の陰に隠れる。


「悪い、トドメを刺せなかった」

「いえ……、とっさに良く動けましたね。

 あんな風に私の『氷漬けの杭』を使うなんて」


 シャベルを見る。

 かなり先を削ってしまったかとも思ったが、実際にはそれほど損傷は見当たらなかった。

 地面が土でコレが鉄だから、大きくすり減っていたのは地面の方なのだろう。


「でもディーもあれだけの威力、良く出せたな」

「魔法攻撃は、何よりもまず『相手にぶつけてやろう』って気持ちが大事なんだそうですよ。

 父が言ってました」

「なるほどな……、っと、それよりアイツは!?」


 柱から顔を出し、『目』を見る。


 『目』は自分の衝撃波で、自身を完全に柱から露出させていた。

 柱の根本に被覆の岩石が崩れて堆積している。


 そして。

 その全貌が、柱に隠れていた全体像が見えた。


 ――――グロい。


 その一言に尽きる。


 アイツは柱に埋まっていた、というのとは実際には異なり。

 上下の柱の間を『繋ぐ』ようにして、『目』が挟まっていたのだ。


 『目』の中心である眼球は、ディーの氷魔法が刺さったために傷付いていた。

 柱の中間にあった岩は、ヤツ自身の装甲だったとでも言うべきか。

 剥がれた部分はもう再生しないらしく、そのままになっている。


 そして繋ぐと言ったのはそのままの意味だ。

 『目』の眼球は上下に、植物の太いツルのような管を幾本も幾本も絡み合わせ、それを柱の上部、下部と接続させている。


 筋繊維か血管のように見えるその管は紫色で、『何か』を眼球に送り込むようにして、ところどころがブクリと膨れ上がり、膨れた部分が管を動いて眼球へと入っていく。


 その度に『目』は脈動し、からだを震わせ、辺りにドス黒い紫色の気体を大量に噴出する。

 火山から出る黒煙のような、それは。


「あ、頭が…………!?」

「どうした!? って、ぐっ……!」


 ディーの呻きに焦りとともに振り向こうとしたが、次の瞬間、おれも同じような声が出た。

 あ、頭がっ、痛い……っ!?


 疼くような痛み。

 一瞬だが視界がくらんだ。

 ぐらりと重心がぶれそうになり、なんとかしゃがんで堪える。


 ディーも同様に膝を付いている。


「ヒカリさん、魔素の濃度が一気に増えてますよ……!」


 ディーは魔人ワーロックだ。

 魔人はその種族の特質として、『魔素への耐性が強い』というものを備えている。


 だが。


「ディーが耐えられない程なのか…………!?」


 アイツだ、『目』が魔素を放出しているんだ!

 センティリアの街に魔素を流し、ディーが『水守』として管理している湖を汚染した相手。


 その相手が、こっちに全ての敵意を向けて来ている。


 また『目』の周りで、黄色い輝きが集まり始める。

 『小礫投射デブリスシュート』か!


「ディー、動けるか!?」

「はい、……なんとか」


 青い髪の少女は、やや憔悴した顔付きながらも柱を支えにして立ち上がる。


 柱からは、またドガガガガガッと連続した衝突音が聞こえ始めた。

 足元まで振動はビリビリと伝わる。

 それだけ威力が先程より増しているのだ。


「そういや、スケルトンはどこだ?」

「ゴホッ、……ヒカリさん、あれを」


 見ると、柱から見える場所にスケルトンが居た。

 だがそれは動く気配はなく、地面に骨が堆積したままだ。

 すぐに燐光を振りまいてガイコツは消えてしまった。


 それ以上は周りからスケルトンが現れる気配も、増援も無い。


「スケルトンを召喚しなくなった……?」

「かも知れません。相手も弱っているのかも」


 あれだけダメージを加えたんだ。そうであれば良いけど……。

 嫌な予感がする。


 こうしてガレキの破片を撃ち続けたって、おれ達は倒せないのに。

 怒りに我を忘れているのだろうか?


「とにかく、さっきみたくまたディーの魔法からおれが追撃……、って感じで攻めるしか無いかな」

「それが確実でしょうね」

「そうだ、後で行きもおれがディーを背負わなきゃいけなかった理由も教えてもらうからな?」

「あ、あはは……」


 後でお願いしますと言って、ふらふらと揺れる頭を抑え顔をしかめるディー。

 眩暈が起きているのだろう。

 かなり魔素の濃度が高く、HPには表示されないものの変調をきたしているようだ。


 これでは、長丁場で相手に何度も攻撃する、なんて作戦は取れない。

 おれ達の方が先にを上げてしまう。


 だが、一つ判るのは、


「こっちも魔素で打撃は受けてるけど、相手もかなり弱ってるんじゃないか?

 あれだけボロボロなんだし。スケルトンを召喚しなくなったのも実は、ヤツが力を維持出来なくなって来たからかもしれない」

「そうかも、ですね。あれだけ魔素を吐き出しているのも、そのせいかもしれません」


 ならば短期決戦だ。

 最初からそのつもりだったが、もうこれ以外の選択肢は考えられなくなった。

 すると、これ以上相手に行動をクギ付けにされたままでは居られない。


「なら、ディーは高威力の魔法を。

 おれはシャベルで――――」


 その時。


 ふっ、と。


 ……『小礫投射デブリスシュート』の音が止まった。


 あれだけ五月蝿うるさかった着弾音が、聞こえなくなる。

 間に挟む小休止ではなく、本当にピタリと柱が静かになった。


 代わりに地揺れのような、じわりと来るノイズが耳に入る。

 大きな地震が起こる前の予震よしんのような振動。


 何だ、これは?


 今、相手が、『魔法を撃つのを止めた』理由は何だ?


「――――マズい」

「……?」


 嫌な可能性に思考が辿り着き、至った時にはもう足が勝手に動いていた。


「マズいマズいマズい!!」

「何ですか、ヒカリさっ……!?」


 ディーの言い終わる前に、彼女の手を強引に掴んで走り出す。


 どこでも良い、とにかくここを。

 少なくとも、この柱の位置からは――――!!


 そして、聞き慣れないノイズが止まり。


 またたきする間の時間、ホールがぴたりと静かになってから。


 地面を揺るがすような重音と共に、低い風切り音を立ててこちらに何か迫ってきた。


 何もかもが未判明。

 だが。


「ディー、頭を守っとけッ!!」


 叫んで、元の位置から隣の柱に飛び込む。

 ザザザ、と石畳を擦って滑り、止まる。

 そのままディーを庇うようにして柱の陰に押し込んだ。


 途端、後ろの空間が、

 爆発した。


 その後、ズズ……、ン、と深く沈むような音。


 後ろを振り返る。

 おそるおそる、ではあったが。

 見て、固まった。



 柱が壊れている。



 元居た場所の柱が、砕け散っている。



 柱は上下部分を残して、岩が噛み千切られたかのように消え去っていた。

 いや、消え去ってはいない。

 おれ達が数秒前まで立っていた位置に、柱だった巨大なガレキがバラバラと積もっている。

 完膚なきまでに砕けてしまっているが。


 足元にごろんと岩が一つ転がってきた。

 色が同じだ、元は柱だった岩と判る。


 そして、その先のホールの端の壁には、クレーターが出来ていた。


 ……クレーターだ。そこだけ大きく窪んでいる。


 事態の異常さに、むしろ驚く余裕も無かった。


「な、何ですか…………!?」

「…………」


 遠くでドシュドシュドシュッと音がする。

 この音は間違いなく、


「ディー、柱から体を出すなよ……」


 それからやはり、バチバチとまた柱に石片が衝突する。

 デブリスシュートだ。

 聞くだけで体が強張るような、発射・着弾の音。


 だが、さっきの攻撃は別物だった。

 決して今『目』が撃っている小石のようなレベルでは無い。


 何があった?


 何をされたんだ?


《『行動解析アクションスキャン』完了。

 先程の魔法のデータを閲覧しますか?》


 ……ワイズマンか!

 判った、見せてくれ!


 アレが何か知らないと、対策も取れない!


《『巨礫投射(メガリスシュート)』:消費MP 不明

 属性:『土』 クラス:『Ⅳ』

 対象範囲に、形成した大型石礫(せきれき)による魔法攻撃。

 広範囲投射型・炸裂型。》


「不明……?」


《こちらも不確定の要素により、解析が遮断されました。

 しかし、それだけの威力を有する魔法かと。》


 なんらかの条件によって調査が出来なくなったのだろう。

 ワイズマンに礼を言って表示を閉じる。


 ……『巨礫投射メガリスシュート』。


 表示されたクラスは『()』。

 ディーの最大威力の魔法でも『Ⅲ』だったはずだ。

 つまり。


「ディー、データは見たな?」


 ワイズマンのデータがディーにも送られたのかを確認した所、頷かれる。

 威力は推して知るべしだ。

 周囲の地形を、柱すら壊してしまうような、圧倒的な威力。


「ヒカリさん、音が止まりました!」

「またか!!」


 危うくの所をディーに言われ、また別の柱に走る。

 同じ場面の再生のように、後ろで柱が砕け散り、瞬時に残骸となった。


 ただし、その後で起こった事は別だ。


「天井が――――崩れてる!?」


 柱が二本も突然壊された事で、地下のホールが支えを失った。

 その結果天井の岩が自重に従って崩れ、ホールに向かって欠けて落ちてくる。


 と同時に、所々欠けた岩の間から水が落ちてきた。


 落ちてきた、というよりは水道管が破裂した時のような激流だ。

 ホールに降り注ぎ、床を少しずつ広がって浸水していく。


 地下だと言うのに上から水が降り注ぎ、天井からはパラパラと岩片が落ちてくる。


 アイツは、このホールもろともおれ達を潰す気か!?

 自分自身も巻き込んでしまうだろうに!


 再び本命の『巨礫メガリス』を撃つまでの繋ぎとして放たれる『小礫デブリス』が柱に衝突する音を聞きながら、音に負けないように叫ぶ。


「いよいよ時間が無くなってきた! このままじゃホールが崩壊する!

 やる事は、やらなきゃいけない事は判るな!」

「むしろ任せてください! 水が出てきたお陰で『水』属性の魔法の効果がより強くなります!

 私を誰だと思ってるんですか!?」


 強がりも含めて、力強い返答。

 状況に戦意喪失……、なんてなってたらどうしようと一瞬考えてしまったが、そんな心配は不要だった。


 魔人ワーロック

 ウィン族。

 『水守ミズモリ』。

 水魔法の使い手。


 色々と彼女を指す言葉はあるが、今は。


「なら、後方は任せた。ディー」

「はいヒカリさん!」


 それだけ言えば充分だ。


 シャベルを手に、斜め前方に向かって駆ける。

 走ること、前を向くこと以外は何も考えない。


 充血を起こし憤怒の形相で睨む『目』はおれを視線で追い、ガレキの破片を飛ばしてくる。

 これは『小礫投射デブリスシュート』。

 巨大な岩石を放つには、まだ僅かに時間が掛かるのだ。


 もちろん、『小礫』だけでも充分に当たればダメージになる。

 しかしそれは、当たればの話。


 何のためにSPを温存しておいたと思ってる!

 今使わないでいつ使うってんだ!!


「当たるか、『スライディング』!!」


 叫んだ途端にぐっ、と体が地面に滑り込む。

 シャベルを顔の前で盾にして、上をかすめるガレキを避ける。


 と、ガッと石がシャベルの刃先に命中し、手にしていた得物が弾き飛ばされてしまった。

 運が悪かったか、それともただのムチャのし過ぎか。


 しかし最前の柱の陰に辿り着く事には成功した。

 なら、問題ない。構わない

 シャベル以外にも、まだ戦う手段はあるから。


 『目』はおれを執拗に狙っているようで、後方に居るPTメンバーには見向きもしない。

 デブリスシュートの勢いが止まったのを見計らって、相手の前に飛び出した。


 見れば、『小礫デブリス』とは比べ物にならない大きさの岩石が『目』の前で凝縮し始めている。

 巨大な岩石を高速で飛ばし柱すら軽く砕く、『巨礫投射メガリスシュート』だ。


 しかし、それは発射させない。

 必ず止めなければ、攻撃のチャンスはおろかホールの崩落をさらに進行させてしまう。


「『ダッシュ』!」


 持ちうる限りの技能スキルを利用して、前へ。

 腰からシャベルとはまた別の、おれの『武器』を取り出す。


 岩を砕くのにはもってこいの武器。

 ツルハシ。


 ただし、『巨礫メガリス』の岩を抑えるのはおれじゃない。

 後ろの彼女だ。

 ディーならきっと、やってくれる。


氷の柱(アイスピラー)!」


 短い掛け声ではあったが、こちらにも届いた。

 『スライディング』を発動して体を沈める。


 ……そう言えば、ディーに出会った時も同じパターンだったっけな。


 魔物に襲われている最中、別の方向から『氷の柱』が飛ばされる。

 危うく巻き込まれる所だった。


 まあ、今でもヘタすれば巻き込まれそうだけど。

 だがあの時と違うのは、二つ。


 一つは、これが魔物を、『目』のみを目掛けて放たれた魔法だという事。


 『氷の柱』は空気中の水分を伝って成長し。

 濡れた地面や天井までも冷気を走らせ、辺りを凍り付かせながら『目』に向かって高速で伸長。


 おれと彼女の狙い通りに、『巨礫メガリス』はボスの居る柱の前で、今までにない大威力の『氷の柱』によって氷に封じ込められる。

 出先を抑え込まれ、土魔法は放たれる直前で動きを止められる。

 岩の背後の『目』にまで凍気は到達し、生物的な質感を持った『目』の表面を薄氷で覆った。


 ――そして二つ目は、ディーが仲間だという事。


 短い時間ではあるが、ここまでずっとチームを組んで戦ってきた。

 かなり連携を取れるようになっていたのだ。


 何度も言ったが、おれ一人ではここまで来れなかったからな。

 ディーには後で怒ると言ったが、本当はそんな気さらさら無い。

 いや、感謝してるんだ。これでもかなり。


 ただそれよりも、今は。


 眼前の敵を倒してしまう事に集中しよう。


 おれは、ツルハシの柄の端を握り込んだ。

 狙うのは、『柱の中の目』。

 そしてその中心、おれを睨む目の中心。


 岩の覆いも無く、ディーの魔法で凍り付いている今なら。


(石を飛ばしたくらいで、足止め出来ると思ったら大間違いだッ……!!)


 スケルトンの召喚をやめたのは失敗だったな。

 こっちには心強い味方が居るんだ。

 だが、おまえにはもう居ない!


 おれ達を相手にするなら、複数がかりで襲わないと!


「お――――らぁッ!」


 一声、振りかぶったツルハシを振り下ろす。


 ザグンッ!!


 薄氷を突き破り、本体も本体、『目』の真中に鋭利な金属を埋め込む。

 そしてまた引っこ抜き、硬質なそのカラダに今度は横から突き刺す。


「~~!! ~~~~~~!!」


 洞窟全体が振動して崩れた天井にさらにヒビが入り、緩やかに崩落が進む。


 揺れている中心は『目』だ。

 今までに無いほどにのたうち回り、ツルハシで打撃を与えた部分からはドス黒い魔素の煙がブシューッとホースから出る水のように湧き出す。


 魔素の煙をモロに顔に浴びるが、構わずツルハシを両手で持ち上げる。

 渾身の力を込めて、『目』の上部に命中させた。

 その瞬間、ツルハシの先端がバキリと音を立て、金属の刃が外れて刺さりっぱなしになる。

 遂にこの二本目のツルハシも壊れてしまったのだ。


 だが、相手ももう終わりだ。


 『目』と天井・地面を繋ぐ紫色の管は赤く染まり、目の本体も充血してさらにグロテスクな様相になっている。

 もう斃れる寸前なのだろう。


 なんとか、ようやく、……ボスを撃破した。

 ステータスで確認は出来ないが、もう端の部分から身体が黒い煙を吐いて消え始めている。


 でも、息を付くのはまだ早い。

 この崩落するホールから出なきゃな。


 そうして、おれは閉じていた出口がボスを倒したことで開き、外を脱出できるかを



 確かめようとする寸前





 『目』が、笑った。





 真っ赤に充血した眼球を、愉快そうに震わせる。

 それに声は無い。

 でも、確かにわらった。


 何が、と思う前に吹き飛ばされる。


 地面を上下も判らないままに転がり、果ては柱にぶつかって止まる。


「が、はッ!」


 叩き付けられたために肺から空気が吐き出される。


 息が出来ない。

 目眩めまいがする。


 ただ目眩や体の変調は、弾き飛ばされたことに依るもの、だけではなく。


「ヒカリさん、魔素の量が、多過ぎ、て……」


 隣の柱に寄り掛かるようにして横たわるディーが、途切れ途切れに呟く。

 そのまま彼女は倒れてしまった。


 でも、おれだって似たような様態だ。

 頭だけを動かして周囲をぼんやりと見る。


 地面が冷たく濡れている。

 上から落ちる水流が増し、床が水浸しになっていた。


 辺り一面が魔素で満ち、紫と黒の中間の色で周りが覆われている。

 もうそれは霧の様ではなく。

 触れるんじゃないか、質感を持っているんじゃ無いかと錯覚する程の密度。


 その濃霧の奥には赤く輝く『目』が浮かび上がっていた。


 全身は幾度も攻撃を受け、半壊。

 端の方は消滅している。

 眼球に繋がる管の束だって、所々千切れてボロボロだ。


 だが、まだ動いていた。


 充血した眼球や上下のツルのような管から、魔素を無尽蔵にバラ撒き、自身は魔力を凝縮させる。



 それから、こちらを見て。


 倒れているおれを見て。



 岩石を、形成していく。

 

 

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