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第十話 : よくわからなくなる異世界魔法

ワーム戦で傷付いた探索隊、無事に安全地帯に向かえるのか……?


ではどうぞ!


 


「ヒカリさーん、どうですか?」


 頭だけをひょいっと出して部屋を覗き、周りを見回す。

 ちなみに、頭以外は石でできたハシゴに全身くっ付けるようにして壁にへばりついている。


「敵なし、アヤシい物なし、ついでに宝箱もなし」

「オッケーですね!」


 下の方から返事の声が上がる。

 目論み通りに安全な場所だったと判り、ホッとしたような声だ。


「じゃあそのまま、ヒカリさんは先に上がっちゃってくださーい!」

「りょうかーい」


 壁にミゾを刻むようにして出来た原始的なハシゴ。

 一番上まで登って、ほいっと身体を移す。

 それでようやく少し前に『屋根裏部屋』と例えた小部屋に侵入することができた。


「私も登りますよー?」

「下に敵は?」

「いえ、今は何もいません。せいゃー!」


 なんだか気の抜けそうな掛け声で気合いをいれて、声の主がハシゴを登ってくる。

 気の抜けそうな気合い、すごい矛盾だ。


「ヒカリさん、これ登りづらいです!」

「がんばれ!」


 適当に応援しつつ、自分の荷物を端の方にどさぁと置く。

 シャベル、一本になってしまったツルハシ、ウェストポーチ、革袋。

 身軽になってから、またハシゴに近付いた。


 …………登ってくるのが遅すぎる。

 いくら登りづらいにしても、そんなに段差ないハズだぞ。あのハシゴ。


 上から覗きこむと、青い髪のてっぺんが見えた。

 妙にもたもたしてるな、って。


「ディーおまえ、槍なんて手に持ってたらそりゃ、登りづらいだろ!」

「だってこれ、背負えませんもん……」


 ハシゴの中段でこちらを見上げ、このままじゃ登れません、と懇願するように水魔の氷槍(フロストロッド)を差し出してくる。

 先に上に運んでおこうというコトだろう。

 ……いや、そこはもっと早く気付いとこう?


 手を伸ばして、槍を受け取ろうとして気付いた。


 おれ、『元囚人』だ。


 あの槍を手に持ったら吹っ飛んでエライことになってしまう。

 具体的には、弾き飛ばされてこの狭い部屋の壁にディープインパクトしてしまう可能性がある。


「ヒカリさん?」


 気付かないまま槍を渡そうとするディー。

 いや、それはやめて、もうおれは強制回転ジャンプなんてしたくない。


「ごめん、そういやおれ、武器が持てないんだった」

「じゃあ私はどうすれば良いんですか!?」


 いや、普通に登ってくれば?

 ……とは言えない。そこまで鬼じゃない。


「早くしないとPT(パーティー)メンバーが下に落ちちゃいますよ!?

 いいんですか、大事な相棒が真っ逆さまに地に打ち付けられても!!」


 …………。


 ……でも、微妙に面倒くさくなってきた。


 どうしようかと考えた末、おれは体をハシゴの方へと乗り出し、手を伸ばして。


 ハシゴにへばり付いている青い髪の少女の服の、首根っこを掴んだ。


「じっとしてろよー? せいっ!」

「うわぁ!?」


 そのまま両手で上に牽引。

 予想以上に相手が軽かったために、ぷらーんと少女が上がってきた。

 青い髪に蒼い目、ウィン・ディーナ女史である。

 なんとか服に吊るす形で引き上げることに成功だ。


 そして、その相手のジトッとした恨みがましいような顔と目が合ってしまう。


「なんだか、徐々に私の扱いがヒドくなってきてる気がします……」

「ソンナコトナイヨ?」

「………………」


 しゅっ。


 手にした槍を無言で突き出された。


「あぶなっ! ちゃんと上まで引っ張りあげたのに!」


 そこで手を離してまたディーを危うく落としそうになり、一悶着起こるのであった。









 ディーの提案でやって来た小部屋。

 その中央に座って、辺りを再度見回してみる。


 部屋の隅にはぽっかりと穴が開いていて、そこが階下とハシゴで繋がっている。

 周りの壁は今までの通路や部屋と同じように薄く光っていて明かりには困らないが、それだけ。他には何も無い場所だ。


 地図からすると、ここは奥へ繋がるルートからは少し遠ざかり離れに位置していて。また、くだんの通り道の端にあるハシゴを登って、ようやく入ることができる。

 正しく家の屋根裏部屋のような空間だった。


「うう、疲れました…………」


 ここに来た目的は、ただ探索のため…………だけではない。

 休憩だ。


「もう暫くは歩けません…………」


 最後の戦闘、エドラワームとの戦闘で、PT全員、おれとディーが相当に疲弊してしまったのだ。

 もうへろんへろんである。

 そのため、ここへは一時的に休息を取りに来た。


 ……立地からして予想していたが、相当に休むのには適していそうだ。


 奥まった場所の、さらに奥にある空間。

 さらに、ハシゴを登る必要もある。あの壁のハシゴ、スケルトンなんかには難易度が高いだろう。

 魔素の霧だってほんの気持ち程度だが、ここは薄い気もする。


 要は、比較的安全な地帯だと考えられるのだ。


「あと、お腹も」

「判った! 判ったから!!

 安全確認も終わったし、何か食べよう! だから真横でブツブツ言わないでくれ!」

「だって、反応してくれなかったじゃないですか!」


 隣に座っていたディーが不満の声を上げつつ、降ろした自分の荷物から、数珠じゅず繋ぎになった小分けの袋を取り出す。

 おれも壁際近くにある自分のシャベル含む荷物の所へ這っていき、全部を引っ張って中央に持ってきた。


 今さらながら洞窟の地べたにそのまま座っているのが少し気になったけど……。

 まあ、乾いてるしいいか。ディーも特に気にしてないし。


 戻ってくると、ディーが手にした袋を一つ、こちらに渡す。

 自分の手にも一つ持ち、他のはポーチへとしまい直したようだ。


「はい! これが本日の晩ご飯となる干し肉です!」

「ありがとう。しかし、途端に元気になってきたな……」

「時間はここ(洞窟)じゃ判りませんけど、今ごろはもうとっくに夜でしょうからね。

 お昼の分を抜いちゃったので、こうなるのも仕方のないことなのです!」


 そんなもんかもしれない。

 このダンジョンに入ってから時間の間隔がなくなってしまったが、まあ外は夜になっているだろう。


 袋を開けて中身を見てみると、さらにまた笹のような葉っぱで包まれたモノがあった。

 葉を広げてみると、薄切りにした肉が何枚か。

 焼いた物ではなく、かっちりと干されている。


「これが、この世界の干し肉……!」

「そんなに珍しいものですか? もしかしてヒカリさんの居た世界となにか違いが?」

「ああいや、雰囲気は変わらないけど……」


 元の地球、日本じゃ冷蔵技術が発達してたから、ナマモノの精肉は冷蔵庫に入れてたからなあ。そもそも基本は焼くか煮るかでスグ消費してしまうし。


 干し肉なんて今までの中じゃ、市販されてるような干し肉もといビーフジャーキーか、かつて一度だけ、アケミヤ家のポンコツ二号こと我が母親が、『あっ、外に出したまま冷蔵庫にしまうの忘れちゃった、てへ☆』と言って台所から持ってきた時しか記憶に無いな。



 ――――あの時は恐ろしかった。


 何が恐ろしかったって、休日の昼間っから居間で寝そべってゲームをしていたおれと父さんのところへ、わざわざ口の開いたパックごと、『二日ほど外気にさらされた牛肉』を持って見せにきたのだ。


 六月の下旬、気温もかなり上がってきた日の事である。

 どうやら、買い物してきた肉を、野菜置き場に間違えて置いたまま気付かなかったらしい。

 それだけでも既におかしいのだ、が。


 二人で「ふぬぅぉおおああああ!?」と叫びながら持ってたコントローラから手を離し、必死に母さんから離れた。

 何よりニオイが凄かったからだ。さらに、実物を目視した時点でもっと距離を取った。


 そして、次のセリフで我が家の居間は、恐怖のどん底に無慈悲に突き落とされた。

 うららかな土曜日の午後は、瞬時に世紀末と化したのだ。


 その、もはや凶器のようなパック入り牛肉を手にした母は。



「――――これ、まだ食べれるかな? お昼は干し肉?」



 ちょっとだけニオイは変だけど、と。


 邪気のない笑顔で、自分の鼻を摘みながら尋ねてきたのだ。


 もうダメだ。

 おれと、隣で一緒に尻もちを付いていた父さんはその言葉に、震えた。


 よりにもよってアレを干し肉と比喩で表現した母の途轍もないセンスに、震えた。

 そして比喩であると信じたかった。

 ポンコツ一号たる我が父であっても、度肝を抜かれたのだ。

 世界は驚きに満ちていると言うが、こんなサプライズは要らなかった。


 母さん、それは干し肉じゃない。


 というより多分もう人間の食べ物じゃないんじゃないかな?

 それと、ニオイの時点でそれは牛肉を超越してしまったモノだと気付こう、な?

 一見すると塩漬けに見えなくもないけど、その肉だったのを覆っているのは塩じゃなくて白カビだよ、母さん。

 と、父はそう言いたかったのだろう。


 だが、父さんの口はかくかくと開き閉じを繰り返すばかりで「ああ……とぅああああ……!」と言葉にならない声が漏れ出ていて、そしてそのブリーフにシャツのみという出で立ちは、戦闘力が遥かに上回る敵と相対してしまったベジタブルな戦士のようにがくがくと震えていた。

 ほぼブリーフ一丁の成人男性が床で尻もちを付いて腰を抜かしているという事態が、さらにカオスな状況を加速させていた。


 おれはと言うと、ポンコツ二号の質問がポンコツ一号に向いたのをチャンスとばかりに必死に這って脱出しようとした所を、これまた必死な父に足を掴まれて拘束されていた。

 ブリーフ父さんの死地への旅の道連れに選抜されてしまったのだ。

 全く嬉しくない選抜メンバーだった。


 そして、危うく昼飯で死者が出るかというギリギリのタイミングで、空手部の合宿で家を空けていたジャージ姿の妹が帰宅した。

 この世紀末の状況に、救世主が降臨したのだ。


 三日家を空けていた我が家の長女、アカリはその惨状を見るなり。


 一瞬で全てを察して、スポーツバッグを持ったままリビングへと走り、母の手にしていた化学兵器を引ったくって、ビニール袋にパックごと放り込んで袋の口を縛り、『なまごみ』と油性ペンで書かれたゴミ箱に放り込んだ。

 続けて居間の窓を全開にして、母から肉の所在を聞き出し、念のために野菜庫に置いてあった野菜も確認してから一部を廃棄した。


 さらに、バッグをソファに置いてから、おれと父と最後に母を三人並べて正座させ、帰ってきてアカリ自身疲れているだろうに、それを押してたっぷり一時間、説教を行った。


 いわく、母さんと父さんはもっと自覚を持って、大人なんだから。

 いわく、兄貴は二人(父母)に任せたらダメなのは判ってるんだから、しっかりして。

 いわく、なんで私が家を三日空けただけで、こんなコトが起きるのか。


 全て正論である。

 どこにも反論の余地は無かった。

 むしろ、母さんに対しては温情を相当にかけた処遇だったと思われる。


 そうして、母が料理をする際にはおれが見張るように、買い物を母がした際にはなるべく父かおれかアカリが品物のゆくえを確認するように、という家訓が作られ、関係者に心の傷を残しつつ『明宮家干し肉(仮)テロ事件』は収束したのだ――――。



「……………………」

「ヒカリさん? ヒカリさん?」


 少しの間動きが止まっていたおれに、横から呼びかけられる。

 顔の前で手をひらひらと振られてから、ようやく回想から意識が戻った。


「あ、悪い悪い。ちょっと物珍しさがあってさ。

 おいしそうだなー、と思ってさ」


 ディーにこの話をした所で、お互い何の意味も無いだろうな。

 思い出してしまった昔のことは、今は忘れよう。


 そう思うポンコツ三号であった。

 おれの事である。


「でしょう? 父が意外と丁寧に作ってましたからねー」

「なるほどなるほど……。じゃあ、こちらも」


 いったんディーから戴いた干し肉を、袋を下にして横の地に置いてから。

 取ってきた袋から、巨大なパンを取り出す。

 片手で持つのに苦労するくらいの大きな丸い黒パン、ライ麦パンだ。


「よくあんなに動いていて、そのパンが無事でしたね」

「食べ物を粗末にしちゃいけないからね」

「え、そんな理由で……?」


 そんな理由とは言えど、フランさんが焼いてくれたパンだ。

 余さず食べねばバチが当たる。いや、むしろおれがバチを当てる。

 何を言いたいのか判らなくなったけど、まあそういう事だ。


「じゃあ、これな」


 固いパンをなんとか半分にちぎって、傍らのディーに渡す。

 渡す際に、ディーがおれの右手を見た。


「ヒカリさん、それ、早く治療しないと跡になっちゃいますよ?」


 心配げにおれの右手、さっきのエドラワームとの戦闘で負ったヤケドの箇所を指差す。

 傍目から見ると結構痛々しい傷に映るのかもしれない。

 グーパーすると少しヒリつく程度だが、確かに治せるなら治すに越したことはないな。


「うん。もう敵もここには来ないだろうし、応急処置でもしてみるかな。

 ライフポーションで効くかどうか…………」


 ウェストバッグから、ジャムの容器のような厚瓶を取り出す。

 中には、少しかさが減ったがまだかなりの量の青い液体が残っており、少し振ってみるとちゃぷんと容器の中で揺れた。


 これこそ、熱さましにも出血止めにもなったゼンノ草から抽出されるライフポーションである。

 きっとヤケドにも効くに違いない。


 語歌堂さんに貰っていたものだが、ついに使う時が来たのだ。

 しかしここで横から、待ったがかかった。


「あ、ポーション持ってたんですね。

 でも、それなら私が魔法で治癒ヒーリングしましょうか?」


 その手もあったのか。

 そうすれば、さらにこのライフポーションは温存できる。


 きっと賞味期限が切れるまでは温存できるな。

 ……ポーションの賞味期限ってなんだろう。


「助かる、お願いしようかな」

「あ、でも今はMPがまだ回復してないので、ご飯食べた後でもいいでしょうか?」

「構わないけど、『瞑想』を使うとかは? あれ使えば、SPは減るけど代わりにMPを補充出来るんだろ?」

「あの技を使ってる間は動けないので、私がご飯を食べれません」


 それなら仕方ない。


 おれだっていい加減空腹で我慢できそうにないのを、相手には押し付けるなんてコトは出来ない。


「じゃあ待つよ。…………あっ、そうだ」

「?」


 魔法だ治癒魔法だと言われて思い出した。

 あれは聞いておかないと。


「だいぶ前に三叉路で言ってただろ、『魔法の効果は術者との距離が離れると消える』って。

 あれの解説を頼めるか? 今なら時間あるし」


 そう言われたディーは無言で、手にした半月に割られたパンと、おれの顔とを見比べる。

 なんか『まて』をくらったイヌみたいな動きだった。


「……い、いや、食べながらでいいから」

「判りました! はむっ!」

「早っ!!」


 そこまで飢えてたのか。

 でも、おれも朝からロクに何も食べていないから、正直同じくらいに腹は減っているかもしれない。


 そう思いつつ、ライ麦パンの外側の固い部分を小さく引きちぎり、内側の生地といっしょに口に放り込む。さらにもっふもっふとよく噛んで食べる。


 ……うん、おいしい。

 なんだかパンを食べてからようやく、自分でも気付かないうちにエネルギーが底を尽きかけていたことを知った。


 続けて、脇に置いておいた干し肉の一切れを他の薄切りからはがす。

 それを噛みしめた瞬間、口の中に広がる濃い塩味。


 なんというか、一言で言うなら、


「食事って、大事だな……」


 しみじみと呟く。

 フランさんの焼いたパンが美味しいからこそ出る意見かもしれない。あと、干し肉の方も、主食のパンと良くマッチしている。

 感謝してもし足りないな。フランさんにも、ディーにも。


ほふえ(そうで)すねー」

「いやディーは頬張りすぎだろ! リスかよ!

 頬をそんなに膨らせてる人、久しぶりに見たよ!!」


 隣からきた同調の声が妙にくぐもっていたので、見ると青髮の少女が口一杯にパンを詰め込んでいた。

 なぜそんなに急ぐ。

 焦らなくたって、ディーの分を取る人なんていないって。


 そして暫くもごもごしてほおぶくろの大きさを減らしてから。

 口の前を手で覆い隠しつつ、改めておれに話しかけてきた。


「いやあ、おいしくて手が止まらず……。

 ごちそうさまです、さて、何から話しましょうか?」


 ああ、魔法の話だな。

 そうだな……。


「うーん、恥ずかしい話、そもそも魔法についてほとんど知識が無いんだよな……」

「そうなると、逆に私がヒカリさんから『どこまで魔法について知っているか』を聞いてからの方が良さそうですね……。

 で、付け足すような形で私が説明します」

「なるほど、判った」


 それではと、一つ咳払いをしてから、干し肉を束から剥がしているディーの方を向く。

 視線を感じたのかディーは、素早く食べ物を口に入れてから手で口を押さえ、ぶんぶんと首を縦に振った。

 …………たぶん、話していいですよというコトだろう。


「じゃあ、そうだな。今までで聞いた話では…………」


 今まで、とは言ってもここ三日くらいの話だし、それ以前には魔法なんてゲームやマンガ、小説の中の舞台装置でしかないと思っていたけれど。

 ざっとまとめるとこんな感じだろうか。



 ・『魔素制御法』、略して魔法。


 ・魔法は魔力、つまりステータスで言うMP(マジックポイント)を消費して発動する。


 ・MPは、この世界にあふれている魔素マソを体内で変換して生成している。


 ・魔素には、『火』『水』『風』『土』の四元素シゲンソに対して影響を与える力がある。


 ・この世界の全てのモノは、おおよそ四元素から出来ている。


 ・だから、MPを消費して魔素を自分で操作し、それを周りにある四元素に働きかける事で、超常の現象を起こせる。



 と、これがおれの知ってる限りでの『魔法』である。

 だいぶ短くまとめてしまったが、他のことはよく判らない。


「なんか間違ってる部分があるかもしれないけど、大体こんな感じって聞いた覚えがあるな」


 言って、またパンを食べる。

 パンの欠片の周りを干し肉の薄切りで包むという、逆サンドイッチとでも言うべきものを試してみると、なかなか贅沢な気分になった。


 そうしていると、ディーが小さく唸る。


「ふむ……?」

「どうした?」

「いえ、判らないっておっしゃる割りには、かなり重要な部分は抑えているなー、と。

 私が父に魔法を教わった時とおおよそ同じ内容ですね」


 そうなのか?

 まあでも、結局知識はあっても、使えなければ意味が……。

 いや違う、ここで使うための糸口を何かしら見出さねば。


「じゃあ、そこから先の部分をお話しましょう」

「お願いします、先生」

「せ、先生…………」


 先生、先生と繰り返してから、やにわに胸を張ったかと思うと、何やらドヤァとした顔でこちらを見た。

 何か琴線に触れるものがあったらしい。


 そしてパンの千切った大きな欠片を口に入れる。


ふぁ()て……」

「先生、それ食べてからでいいです」

「…………」


 またもごもごとしてから、こちらに向き直る。


「さて! ヒカリさん!」

「はい」

「ヒカリさんは『魔素を操作して、四元素に働きかける』と言いましたよね?

 では具体的に、働きかけるってのはどういう事だと思いますか?」


 え。

 具体的に……、って?


 魔素ってのは今も周りに漂ってるような、この霧みたいなヤツだろ?

 でも、触れた時の感触もないし、息を吹きかけても手であおいでも何も起こらない。

 霧と例えたが、こうしてみれば、どうやっても『働きかける』なんてコト出来なさそうだ。


「き……、気合いかな」


 なので、答えもすげえ曖昧になってしまった。

 自分で言ってもなんだがそんなので


「だいたい当たりです」

「ええぇえ!?」


 そんなので解決しちゃうもんなの!?

 何その根性論!?


「いえ、やってみると判りますが、そう答えるしかないんですよ。

 正確にはイメージ、と言いますか、想像力なんです」

「想像力って、そんなんで良いのか……」

「はい。また、魔法の発動には幾つかの要素を組み込むことができます。大まかに分けてその要素というのは四つあって、それぞれ『詠唱』『触媒』『魔法陣』『周りの四元素の濃度』です」


 ディーが言うところによると。


 『詠唱』とは頭の中で唱える魔法の完成形をイメージし、そのディテールを深くすることでより高い効果・高い再現性を出すための動作。彼女は特にしないが、自分で文言もんごんを決めておいて、それを唱えることで魔法をイメージし易くしている人も結構居るらしい。


 『触媒』は、属性にあった物や魔素を多く含むような性質を持った鉱石を利用することで、術者をサポートする形で魔法の発動を助け、威力を高める。

 ディーの持っている武器、『水魔の氷槍(フロストロッド)』なんかも触媒としての効果を持っているらしい。ステータス上でもINT(魔法攻撃力)を上げる効果があるそうだ。


 『魔法陣』も術者をサポートする点では触媒と同じだが、こちらはさらに大掛かりになっている。

 触媒が宝石一つあれば事足りることもあるのに対して、魔法陣は地面に決まった書式の魔法式を描いたり、様々な魔法の補助具を設置したりして準備する必要があるのだ。

 その時間と手間の分だけ、魔法の効果は触媒よりも遥かに高くなっている。


 『周りの四元素の濃度』はそのままの意味で、例えば湖の近くだと『水』属性の元素がより濃く、水系統の魔法を使うのが容易くなる。

 逆に、乾燥した暑いところでは『水』が薄いため、その属性の魔法を使用するのが格段に不便になってしまう。

 今回は地底湖や地上の湖にも近い場所であり、ここら辺はどうにも『水』は濃くなっているようで、ディーは今かなり効率よく魔法を使えているらしい。


 また、ステータスを見ると自身の『属性』も判るが、この属性も周りの四元素の濃度によって本人に補正を与えるそうだ。

 『火』属性の人だったら砂漠や熱帯でも活発に動くことができ、『風』だったら高原や渓谷など、風により親しい地域でステータスの上昇補正がかかる、との事。

 ちなみにおれの『属性』は空欄だ。むなしい。


「でも、結局はどれも術者自身の想像力、発想力とかで魔法を創りだしていますからね。魔法の威力を高めるための詠唱なんてモロでしょう?」


 なんだかんだ言っても、最後は個人の発想力にかかってくるらしい。

 詠唱でいうところの自分で言葉を決めておくのだって、一度使えるようになった魔法をまたすぐに頭の中からアウトプットするための手順みたいなもんだと考えられる。


「まあ、確かに……。

 でも『魔法適性』が全部『E』のおれは、発想力以前の問題なんじゃ?

 ついでに言うと、おれ自身の属性も無いぞ?」

「うーん……」


 少し思案する様子。


「少し、試してみましょうか?

 あまりオススメはできないんですが、魔素の濃い所では、どの属性の魔法でも使う際のハードルが低くなってるんですよ。それだけ四元素に働きかける魔素の量が多いってコトですからね」

「オススメ出来ない理由って?」


 微妙に言葉を濁すような感じの表現が気になる。

 聞いておかないとマズい気がしたのだ。


「…………逆にハードルが低くなり過ぎて、慣れていない魔法を使おうとすると暴発ぼうはつしやすいんです」

「それ聞いてイヤな予感しかしなくなった!!」


 大丈夫!?

 それ本当に試して大丈夫!?


 おれ、自分で言うのもなんだけど運勢値(ラック値)は人よりも悪い方だぞ?

 というかゼロだよ?

 どうみても魔法に失敗しておれがどうにかなっちゃう未来しか見えないのは気のせい?


「だ、大丈夫です!

 じゃあ、まずは自分のお腹に手を当ててみてください」

「わ、判った」


 でも、ものは試しとも先人は言っていた。

 先生がやれと言ったんだ、ダメ元で試してみよう。

 まさか一瞬でHPが0になるような事態にはならないと思うし。

 ……頼むからならないでください。


 ヤケドしていない方の手を、閉じたパーカー越しに腹に当てる。

 パンは横によけておいた。


「次に、目を閉じて頭の中をからっぽにしてから、意識を集中してみます」


 ……む?


 ふと思い出した。

 そういやこんなの、前に一回だけやった覚えがあるなあ。


「前は、手は手のひらを自分に向けてるだけだったっけか……?」

「集中! ……って、ヒカリさん、以前にも試したことが?」

「うん。その時は何もイメージだっけ? できなかったな」

「なんと…………」


 また少しディーナ先生がシンキングタイムに入った後、今度は前回とは違う方法を試してみることになった。

 考えこむ時間が、さっきよりも長くなっていたのが気になる。


「大丈夫です! ヒカリさんならやれますきっと!」


 グッと手を握りこぶしにして、ディーが言う。


 ……いけねえ、既に『きみはやれば出来る子なんだから!』と出来ない子に励ますような感じになってる!

 なんだか申し訳なくなってきた!!


 これは、是非とも次のは成功させたいな……。


「先ほどのは、『自分の属性を見つけて、それに合った魔法を引き出す』方法でした。

 今度は、『先に魔法の属性を決めておく』方法を取りましょう!!」

「と、言うと?」

「これです」


 自分のポーチから一枚のタオルを取り出して、おれに渡す。

 端っこの方を握るように言われた。


「これを?」

「はい! じゃあ今からこれを凍りづけにしてください!」

「なーーーーーー!?」


 ムチャぶりだ!!

 恐ろしいほどのムチャぶりが到来した!!


 タオルをその場で凍らせるって、北極のびっくり現象じゃないんだから!

 あっちだって、濡らしたタオルを極寒の中で振り回してようやくカチーンと凍るというのに、おれはこの場でタオルをフリーズさせないといけないらしい!


「これは、ちょっと……」


 おれにはできないと思います。


 困り、タオルを少女に返そうとする、と。


「ダメですよ!!」


 ディーが叱責した。


「ヒカリさん、諦めたらダメですよ!」

「いや、でもさ」

「それでも、魔法を使ってみたかったんでしょう?」

「――――!!」


 タオルを差し出そうとした、おれの手が止まる。


「判りますよ、だってまだヒカリさん自身は使えないハズの魔法のコトを、そこまできちんと覚えて、整理してまとめていたんですから…………。

 ここで諦めたら、きっと、ヒカリさんご自身が後悔します!」


 ディーだって、おれの問題だと言うのにこんなに熱心になって教えてくれている。

 属性も適性もなんにも無いのに、それでも出来ますと断言してくれる。


「そうか……そうだよな……」


 それなら、おれがこんなにあっさりと諦めていいのか?

 いや、そんなハズは無い!!


 ファンタジーな世界と言えば魔法。

 そう当たり前のように思っていた。


 そう思っていたのに、異世界にやって来たおれにはステータスからして『適性』がなく、魔法を使える見込みが薄かった。


 ディーの言う通り、確かにおれは魔法にちょっとばかり、違う、かなり憧れのようなものを持っていたのだ。

 そして、諦めかけていた。


 だがこれは、そんなおれに与えられた最後のチャンスなのかもしれない!

 ディーがくれたチャンスなのかもしれない!


「よし……! ディー、ありがとう」

「ヒカリさん……!」

「試しもせずに諦めるなんて、そんなのシャベル担いでここまでのこのこやって来た人間がする事じゃないよな!」

「普通の人はそんな事しませんけど、その意気ですよ!」

「しゃあおらー!!」


 自分に喝を入れる。

 そして、イメージ。

 そう、イメージするだけで良いと言われている。

 想像力が大事なのだ。


 大丈夫、この勢いならイケる!

 どんなRPG等々ゲームにだって、氷の攻撃呪文なんてあったじゃないか!

 おれだってアイスクラ○マー、いや、アイスアケミヤにきっとなれる。


 後は――――、足りないのは、気合いだけだ!!


 おれは、タオルの端を握って目をぐっとつぶり。


 ワーム戦の時を上回るような渾身の気合いで、意識を集中させた……!


「むむむむむむ………………」

「ヒカリさん、その調子です!

 自分がどうしたいのか、それを強くイメージしてください!」


 そしてディーの声も聞こえなくなり、意識に変化が表れる。

 手のひらが骨の辺りから、そしてカラダの中心から熱くなるような感覚!

 これか、これがもしやディーの言っていた『魔法を引き出す』という感覚なのかもしれない!


 これをさらに手のひらに熱を集めて、


 手のひらに集めて、


 集めて、



 ………………………………熱?



 …………おれはタオルをどうすれば良いんだっけ?



 ――――まあいい、もう止まることは出来ない!

 だって既にもう手の辺りがなんかこう、エネルギー的な物が高まっちゃってるし!


 もうここはスパートをかけるしかない!!

 最大まで高まった気合いを一点、手だけに集中して、そして、その先に持ったタオルへ!

 力の赴くままにタオルを、左側の壁方向に向かって振る!


「破ァァーーーーーーーーーーーー!!」



 しゅばーん。



 タオルが大爆発した。



 破裂音が耳に入ったかと思うと、痛いほどの静寂がやってきた。

 パラ……パラ……と、糸くずが舞い散っている。

 小部屋の左手側も、羽毛をばら撒いたように白い繊維が周りに散乱していた。


 正面に向き直る。


「………………」


 呆然としてそちらを見ていたディーも、同じ動作でこちらを見た。

 口が半開きになっていた。

 彼女の頭にも、白い糸くずがくっついている。

 しばし向かい合って見つめ合う。


 それから、二人しておれの手元に目線が向かう。


 見れば自分の手から、ディーのタオルが消え失せていた。


 タオルを握っていた手は、代わりに今辺りを漂っているのと同じような繊維の一束を掴んでいた。


「…………」

「…………」


 再びディーの方を見る。




「じ、じゃあ次は、前に三叉路で話した『魔法の効果は術者との距離が離れると消える』について解説しましょう!」




 なかったコトにされた。



 

魔法の定義・性質はおおよそこのような形になっています。


が、まだ語られていない部分も多く、設定にも不備がある可能性も……。

万が一の場合、若干の変更があるやも知れません!


ではまた次回!

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