第六話 : 後衛:巫女 前衛:無職 2
会話と地の文との割合が……難しいです……。
「ところでヒカリさん」
歩き始めてすぐに気を取り直したのか、前を歩く少女が話しかけてくる。
「そしてここでは敢えて、がっかりヒカリさんと呼んでおきましょうか」
「何故!?」
ダメだ、特に気を取り直してなんてない事が発覚した。
微妙にまだなじられていた。
しかも怒ってるのか呆れられてるのかが中途半端で判りづらい罵倒だ。
接続詞の使い方も間違ってるし。
だが原因も判らない以上、こちらは甘んじてがっかり八兵衛呼ばわりを受け入れるしかない。
理由を聞くと火に油を注ぐことになりかねないのだ。
アケミヤさんちの妹さんが不機嫌になった時と、どことなく似ている気がする。
「そ、それで何かな、ディーナさん?」
「協力して戦うってのは、もう少し前からしてるような気がするんですけど」
「うん」
なんだかんだで壁を壊すのにもスケルトンを相手に戦うのにも、お互いの協力のおかげで成功している。気がする。
「PTって、まだ組まないんですか?」
「えっ?」
「……えっ?」
もう共闘してる時点でPTなんじゃないの、と訊いてみるものの。
そうではありませんよと返されてしまった。
どうやら『PT』というモノは正確にはそれとはまた違う概念らしい。
ディーも詳しくは知らないが、冒険者達が組むことがある『PT』とは、ただ単にチームを組むだけではないらしいのだ。
「と、言われても。
おれパーティーなんてまだ一度も組んだことないからなあ……」
「えっじゃあ、このままで進むカンジでしょうか?
それでも大丈夫と言えば大丈夫ですけど」
でも、その話からするとパーティーを組む、というのはしないよりは確実にした方が便利になるとは思う。
じゃなけりゃ他の冒険者達だって組まないだろうし。
だが、方法が判らなければどうしようも……。
こんな場所では調べることも出来ない。
くっ。
こんな時にあいつが居れば……!
賢者の名を冠するあいつさえ来てくれれば……!!
そう考えた時、視界の端がデジタルに明滅した。
白い文字でメッセージが表示される。
《管理者、呼びましたか?》
――――――!!
――な、なんというタイミングの良さ!
どうせならさっきの戦闘時に戻ってきて欲しかった気もするが、でもまだグッドタイミングであると断言できる!
さらに言えばディーナと出会う直前の戦闘で出てくれればもっと、まあそれも置いといて!!
「わ、ワイズマンだ……!」
「どうしたんですか、いきなり?」
《再起動も終了しました。
ある程度の悪環境、高濃度の魔素環境下に対応可能です。》
さらに文字が流れてくる。
おお!!
洞窟に入る前に魔素による故障を避けるためシャットダウンしたワイズマン、無事に再起動できたのか!
どうやってやったのか見当もつかないけど、何かバージョンアップ的なこう……サムシングをして復活したらしい!!
まあ細かいコトはどうでもいいんだ!!
《それで、『PT』についての疑問でしたか。》
――――おれの視界に表示されている『ステータス・アイ』。
本人は『ワイズマン』と名乗っている。
恐らくサポートAIのようなものであり、敵の情報、こちらのステータスなど諸々の有益なデータを提供してくれる存在である。
恐らく、と付けたのは未だによく仕組みが判らないからだ。
なんで会話できるんだろう。
ただ、こちらの思考を読み取ってくれるため、彼(彼女?)との会話は頭の中のみで行うことが出来る。
しかも今まで考えていたコトまで読み取られているという、プライバシーもへったくれもない素敵な性能だ。
《心外です。また頭を電撃でポップコーンにされたいのでしょうか?》
はは、ワイズマンは冗談がうまいなあ。
本当にごめんなさい。
そしてPTについて知っている事を教えて下さい。
《……私のデータに存在する、正式なPT編成の仕方をお伝えします。》
なんだかワイズマン、さらに人間味が増してきてる気がする。
気のせいかもしれないけど。
ジョークなんてのも言うようになっちゃったし。
…………ジョークですよね?
「ヒカリさん? どうしたんですか固まって?」
「あっ、ディーちょっと待って。
今、もう少しでPT編成の仕方を思い出せそう」
「え!?」
驚愕するディーへの言い訳がまったく思い付かない。
正直に話すにしても、かなり時間がかかるし。
…………今は無視してもらおう。
「まあ、ギルドで聞いた話を思い出してるだけだ。
一先ずPTの方をなんとかしよう」
「え、ええぇえ……?
大丈夫なんでしょうか……?」
「大丈夫!」
とっても適当な弁解だった。
ちなみに何が大丈夫かはおれも判らない。
《準備は宜しいでしょうか。それでは――》
「ふむ。まずはどこでも良いから、対象者の身体に触れる……」
ワイズマンの説明を聞きつつ、自分でも呟いて確認する。
「いきなり下心ですか?」
「無いわそんなの!! ほら!」
手のひらを上に向けて、手を差し出す。
それにディーが首を傾げつつも、自分の右手をぽんと載せる。
………………。
……なんだか犬のお手みたいになった。
気にしないでおこう。
「それで、……次に相手に向けて、『PT勧誘』と伝達する」
視界に『対象をパーティーに加えますか?』と表示がされ、その下にYESかNOかの選択肢が点滅していた。
迷わずイエスを選ぶ。
「むむっ。なんだか目の端っこに文字が出てきましたよ!?
ええと『PT勧誘を受けました 参加しますか?』、だそうです」
「あー、多分それだ」
こんなやり方で出来ちゃうらしい。
書類とか契約書にサインしてそれから、といった面倒なモノは必要ないらしい。
妙にお手軽だった。
「こ、これは一体……!?」
ただ、おれはワイズマンで慣れているものの、ディーには『視界に文字が出てくる』というのは驚愕の事態だったらしい。
どう対応して良いのか判らないようだった。
まあ、おれだって最初に皇宮で『ステータス・アイ』が、ワイズマンが出てきた時はビックリしてたからな。
取り敢えずそのメッセージに肯定的な意識を持って応えてみて、と伝えてみる。
自分で言うのもなんだけど、こんな適当なアドバイスでいいのか。
「どうやるんでしょう……、肯定的、肯定的……。
ヒカリさんの全てを、受け入れなければ…………」
「突然何を言い出すんだ……って、おや?」
シュゥンと音がして、また視界の表示に変化が起きた。
元からおれのステータス、つまりレベル・HP・SP・MPあたりは簡易的に下の方に表示されていたのだが、それが横にズレたのだ。
さらに、移動した後のスペースに、自分のものとは別のデータが割り込んでくる。
ちょうどそう、二つのステータス欄が横並びになっている感じ。
新しく出てきた表示を見てみると。
----------------
名前:ウィン・ディーナ
LV:17
HP:60
SP:27
MP:52/90
----------------
「わっ! もしかしてコレ、ヒカリさんの能力値ですか?」
「こっちにもウィン・ディーナって名前とデータが出てきたな……」
「なるほど、『PT編成』が上手くいったってコトですよね?
いや、どうして出来たのかいまだに判らないトコがありますけど……」
「後で説明するよ」
でも大丈夫、詳しい仕組みはおれも判らない。
ワイズマンに聞いても答えてくれなさそう。
《………………。》
…………。
……。
だ、だが、なるほど。
『PTを組む』こと、そしてそのメリットっていうのは、こういう事か。
組んだグループのメンバー間で、互いの状態を把握出来るのだ。
メンバーの一人のHPがガンガン減っていれば敵から攻撃を受けている最中だと一目で判るし、MPが減っていれば魔法の運用もチームで効率的に行えるだろう。
自分のHP等がどの程度減ったかをいちいち味方に伝えなくても済むのは大きいな。
わざわざ無線で「こちらアリの大群に襲われている!」とか「サンダーーーーーー!!」とか言わなくても、情報を共有できるのだから。
まあそんなヤバすぎる状況には陥りたくないけどね!
今だって現に、ディーのMPがさっきの魔法でどれだけ消費したかがキチンと判る……って、あれ?
「これ、ディーのステータスだよな?
なんか…………強くなってない? 気のせい?」
「あら? 確かにレベルが上がってるみたいですね」
なんとなく数値が違うと思ったら、やっぱりレベルアップしてたんだな。
どうにもMPの最大値が変わってると思ったんだよ。
「でも、ヒカリさんも先ほど言っていた話と比べて、能力値が大きくなってませんか?
正確なコトは判りませんけど……」
「え?」
ディーの言葉を待っていたかのように、メッセージが出る。
《機会を逃したために報告出来ませんでしたが、管理者、現在はレベル9にまで上昇しています。》
なんですと!?
特に変化のない、というより歪みねえ低スペックなために気にしていなかった自分のステータスを急いで見直す。
最後に確認した時はレベルは5だった。
つまり、既に4回は成長していることになる!
スケルトンやら何やらの戦闘を経て!!
「おお……!!」
これはもしや、大幅にパラメータも上がってるんじゃ!?
オラ、なんだかワクワクして
----------------
名前:アケミヤ ヒカリ
LV: 9
HP: 45
SP: 18
MP: 5
----------------
こなかった。
ワクワク感なんて一瞬でパージされてしまった。
むしろガッカリだ。
「こ、これだからがっかりヒカリさんはッ……!」
何ががっかりするって、MPがレベルよりも低いのが目も当てられない!
HPとSPだって上がっているとはいえ、比べてみるとディーのステータスとの差も激しいし!!
自分のステを見て判る、語歌堂さんの強さ!!
相変わらず見ていて力が抜けそうになる能力値だ。
破けたパーカーの胴体の部分が妙に涼しいのが、なんだか悲しかった。
私は貝になりたい。
「ひ、ヒカリさん!? なんで落ち込んでるんですか!?」
「これが今のあっしの全力なんです、この程度なんじゃあ……」
「口調と一人称までおかしなことに!
もしかしてさっき、がっかりって付けたのをすごく気にしてたり……?」
気にはしてない。
気にはしてないけど、実際に自分でもがっかりしてるからね。
あと、とても名前の語呂が良いのがなんか悔しい。
「気にするコトはないですよヒカリさん!!」
「……そうかな?」
「ええ、レベルなんて一緒に戦ってればすぐに私とも並ぶと思いますし!」
すぐにフォローしてくれる。
胸の前でぐっと右手を握りこぶしにして、力強く頷く。
「……服の腹の所がビリビリに破けてても?」
「なぜ今それを話題に出すんですか……」
変な所で呆れられてしまった。
「だからほらヒカリさん、立ってください!!」
ぐいんと手を引っ張られて、弾みで立ち上がる。
シャベルを落とさないようにするのが精一杯で、なすがままにディーと向き合う格好になってしまった。
妙に力強く感じたのは、相手のSTRが高いためか、おれ自身が弱っているためか。
「それと、戦闘の時には指揮も取ってもらうんですから!」
だからしっかりしてください、と言う青い髪の少女。
…………指揮?
「え? ……どうして?」
「それはですね」
一旦言葉を区切り、おれの後ろをちらっと見る。
そっちには、つい先ほど戦闘になった小部屋がある。
そしてそのまま、淀みなく続けた。
「さっきスケルトンがたくさん襲ってきた時も、落ち着いて私に指示を出してくれたじゃないですか。
どうにもヒカリさん、戦闘の時の立ち回りに慣れてるみたいですし。お互いに勝手に動くよりも、指示を出して頂けたほうが安心して動けると思うんです、私も」
「ディー……」
出会ったのも少し前だと言うのに。
こちらを励ますような表情にはもう、顔を合わせた時のような警戒の色は全く無かった。
なぜそこまで信頼されてしまったのかは判らないけど。
それでも、彼女はおれを『信用できる』と自分の中で判断したのだろう。
もしくは励ますためにおれに役割をくれたのかもしれない。
それなら。
それなら、おれはそれに応えなければならない。と、思う。
向こうが歩みよってくれたのなら、こちらもその期待に応じなければ。
例え自分のステータスが低かったとしても。
幸運値に至っては固定で0だったとしても。
勇者だなんだと言っても『職業』の欄は空欄だとしても!
……悲しくなるからこれ以上は考えるまい。
ヘコんでいる暇など無いのだから。少なくとも、今は。
だが、取り敢えず。
「判った。……なんとかやってみるよ」
「はい」
「それとありがとうございました、なんだか元気付けられました」
「なぜ敬語に?」
照れくさいからです。
なんでこんな事を面と向かって言うハメになってしまったのか。
たとえ同姓だったとしても結構恥ずかしいぞコレ!
「でもまあ元気になってくれたなら良かったです!
じゃあ行きましょう!」
そう言って、こちらの様子を特に省みることなく進もうとするディー。
狭い通路を、さっさと先に向かって歩こうとする。
……ついでにおれも引っ張られ、前に動かされる。
「ディー? あの、ディーナさん?」
「? どうしました?」
「手を離して下さい」
「あっ」
牽引されるがままになっていた手を見せる。
なぜそこは気付かないんだ。
「それじゃあディー、戦闘になった時の方針を決めておこう」
「お、なんだか早速やる気まんまんですね」
「一応指揮を任されたからな、これから何が起きるか判らないし」
「なるほど……」
洞窟の長い通路を歩きながら話す。
もちろん小声だ。
狭い通路上にはまだ敵は見えないけれども、向こうの道を抜けた先に見える広い場所に出たらどうなるかは予断を許さない。
今の内に打ち合わせをしておいて損はないだろう。
まだ突然戦闘になってディーに抱きつかれでもしたら、色々と困る。
「では、私はどうすればいいでしょうか?」
「そうだな……あ、別に後ろのこっち向きながら歩かなくて良いから!
転んじゃうだろ!」
おれの方を向いて後ろ歩きしようとするのを止める。
意欲熱心なのは良いけど、これでコケられたら目も当てられない。
というか多分、この岩地で転んだらかなり危ない。
「……コホン。まずはお互いの戦い方から決めよう。
ディーは見たところ、武器はその槍で、『水』属性の魔法もかなり使いこなせる。そんな感じだよな?」
「一応そうですけど、かなりなんて言われると照れますねえ」
前を歩くディーが、手に持った槍を掲げてバトンのようにぐるぐると回す。
危ないからそれもやめなさい。
当たったら大ケガするかもしれないだろ、おれが。
「ちなみに、魔法の攻撃と武器の攻撃だったら、どっちが得意なんだ?」
「どっち? うーん…………魔法、ですかね。
この槍もほら、刃のところは実は『水』魔法で作っているんですよ?」
言ってこちらに、振り回していた槍を見せる。
すると、ディーが目を閉じて集中させるのに合わせて、槍が青く輝いた。
そして槍の穂先まで、氷で出来た刃の部分まで光が伝わった途端に、刃が消えてしまった。
「うわっ!?」
氷の部分がカキン、と小気味良い音を立てて割れるようにして無くなってしまったのだ。
後には槍の柄の部分のみが残される。
「ふっふー。これは『水魔の氷槍』と言う武器でしてね、普段はただの棒と変わらないんですが、所有者の魔力に先っぽの特別な魔鉱石が反応して……」
もう一度槍が青く光ると、パシパシと水分が固まる音を立てて再び氷柱のような刃先が現れた。
穂先から柄にかけて冷気が渦巻き、元の槍としての姿を取り戻す。
「こうして槍になるんですよ」
「へぇー、便利だな……」
「でしょう? ただまあ、魔法の方が使っていて好きですけどね」
そう言って、再び前を向いて歩き始める。
こういう武器もあるのか……。
でもそりゃそうだよな。
元の世界の常識ではあり得ない武器であっても、そもそもこの世界には『魔法』という異なる常識がある。
強力な魔物に対抗するために、魔法、そしてそれを利用した道具はかなり有効な手段ということなのだろう。
ただし。
「その魔法なんだけれども、できる限り使わない方針でいこうと思う」
「えっ? なんでですか?」
「正確に言うと、『武器の攻撃だけで倒せそう』な戦闘の場合は魔法は使わないってだけ。例えばさっきのスケルトン・ソルジャーが一体だけの時とかな」
「『氷刃』を唱えた方が早いんじゃないでしょうか?
ヒカリさんも楽になりますよね?」
確かに、接敵してすぐさま魔法ぶっぱ、なやり方なら単純でラクではある。
けど、それじゃダメなんだ。
こめかみを親指で揉んで、言葉を探す。
「よく考えてくれ。
一体のスケルトンを『アイスエッジ』で倒したとしても、その後でまた次々に魔物が出てきたらディーもバテてMP切れになっちゃうだろ?
魔法を使うためのMPは自然回復するとは言え、連続してずっと使えるワケじゃないんだし」
洞窟は、草原や平原のように開けた空間ではない。
すると次の敵が近くに居たとしても気付けない場合もあり得る。
その敵が多数の群れであり、その時にMPが切れていたら。
先程のような対集団用の威力を持つ攻撃手段が使えなかったら。
「正直ディーの魔法は強力だからな、大事に温存しておきたいんだ」
「ふむ。私のことが大事だ、と?」
「それなんか違う気が……」
「お気になさらず!
そうすると、魔法を使っていい時と使っちゃダメな時を決めておきましょうか」
決めましょう早く決めましょうと、話を進められる。
重要な所をすごい勢いでごまかされた気がするのは何故だ。
まあ良いか。
使っちゃ駄目ってワケでもないけど、そうだな……。
「敵が一体、二体の時、それでいてしかもこちらが先制攻撃できる時かな?
そこまで有利な状況だったらまず魔法なしで負けないと思う。
こっちがシャベルで叩いてる間に、ディーも槍で中距離から攻撃してくれればまず勝てる」
ただ、もし敵が二体のみであっても前後でおれ達が包囲される形になった時や、一体でも強力な魔物が出現した場合はこちらも全力で戦わなければならない、とも言っておく。
おれのシャベルにまた『属性付与:凍結』の魔法を掛けてもらうことも考慮しないと。
「それで今度は魔法を使って戦う場合、なんだけど」
「はい、私の本領発揮ですね」
「ああ。こっちは単純だ。おれが前で敵の攻撃を防いでいる間に、ディーが魔法を準備。詠唱だっけ? が終わり次第発動してくれ。
魔法の種類はディーに任せる。戦う場所は、できれば敵の来る方向が限られる狭い通路が良いかな」
前を歩く少女があれ? っと声を上げ、青い長髪が揺れる。
ディーも気付いたようだ。
「それってもしかして……さっきの戦闘とほぼ同じなんじゃ?」
「ん? ああ、実はそうなんだよ。
ロクに指示も出してないのにディーも上手く立ちまわってくれたからな、凄く助かったよ」
「ふむ……。言葉なしで通じ合える関係だ、と?」
「それもなんか違う気が……」
「まあまあ気にせずに。通路であればヒカリさんも敵の一体ずつを相手にできる、……っていうコトですよね?」
的を射ている発言だ。
実際にそれが目的の大部分を占めているからな。
「おれが前衛で盾代わりになるから、その間にディーが魔法で敵にダメージを与えるんだ」
魔物を通路に引き込めれば、相対する敵の攻撃のみを避けることに集中できる。
大きな部屋の中で戦えば、四方八方を囲まれて周囲の敵全員からの攻撃を受けてしまう。
よって、こっちが相手よりも少人数であればあるほど、狭い通路で戦うのは有利になる。
もちろんおれ達が大人数であれば、話は逆転する。
……くどくどと言ってはみるものの、要はただのローグライクゲームだ。
アットマークや太っちょの商人や風来人の戦法と大して変わらない。
「ただし、相手も飛び道具を持っている場合はディーにも攻撃が来る可能性は高くなる。
そうすると、おれも守りきれないかもしれない」
「なるほど、なるほど」
「でも、そこでおれの持ってる、というかぶっちゃけ戦闘で唯一使えそうな『挑発』って技能がある。これを使えば、敵の注意を引きつけておれに攻撃が集中するワケだ」
ようやく『挑発』の使い道が生まれた気がする。
自分にガイコツの剣やらなにやらが集中するって、すげえ怖い響きだけどね!
でも、そこまでしないとおれは役に立てないからなあ……。
盾だけに。
……盾だけに!!
盾だk《煩いです。》ごめんなさい!
「ヒカリさん、他の技能は?」
「うーん、『ダッシュ』と『スライディング』かな?」
あと『土木作業員』という妙な存在感の字面なパッシブスキルもあるけど。
「効果は名前通りなイメージだ」
「その技たちは戦闘の役に立たないんでしょうか?」
「いやあ、あんまり…………あ、でも逃げる時には便利だな」
よく考えるとおれのスキル、逃げるか相手の攻撃を引きつけるかしか選択肢がないのな。
一つくらい攻撃用の技が合ってもバチは当たらないんじゃなかろうか。
「逃げる時…………」
「ん?」
「私、そのスキル、持ってないんですけど」
あっ。
そうか。
当たり前だがこの技は自分にしか効果がなかった。
するとディーは同じ技を持っていなければ……。
「大丈夫、ハナから逃げるなんて考え無いから!」
「ヒカリさん、顔を逸らして言ってません?」
前を向いているのになんと鋭い。
「ダイジョブ。ディーナサン、ダイジョブ」
「なぜカタコトになるんですか……」
「まあ、冗談は置いといてこんな感じかな、おおまかな作戦は!」
ムリヤリ話題を終わらせて、会話を締める。
これ以上続けてもロクな進展がなさそうだ。
むしろ減退する気がする。信頼度とか。
「でも確かに、さっきの戦闘でもヒカリさん……」
「何か言った?」
「いえ! なんでも無いです!
しかし作戦というと何だか本格的にPTっぽくなってきましたね!」
父と一緒に戦った時とはまた違う感じが、と早口で続ける。
なぜ早口なのかは知らないけど、その言葉には同意だ。
「ディーがお父さんと一緒に戦ってた時はどんな風にしてたんだ? 作戦は?」
「あ、あれはまあ、相手にしたのも大したコトの無い魔物、というよりはシカやウサギがちょっと凶暴になったような魔獣でしたからね。
父も適当でしたし、合図を貰ったら二人で囲んで寄ってたかって、みたいな?」
「本当に適当っぽいな……」
「でしょう?」
でも、そんなんでも戦えるだけの敵との実力差があった、という事になる。
おれだったら動物はおろか、一人だとジャガイモと戦うので精一杯だったからな。
「しかしディーのお父さんて一体、どういう人なんだ……」
「気になりますか? 普通ですよ?」
てくてくと前を歩きながらそう感想を漏らす。
だが、言ってからすぐに首を傾げていた。
「いや、普通……? じゃないような?
やっぱり適当な、むしろ変? 変な人?」
「どっち!?」
「あ、ヒカリさんに似てる気がします」
「ええぇえ」
誰かは知らないが、なんだかお互いに不名誉な気がした。
変という部分で共通しているのではないと信じたい。
「な、なんか釈然としないけど、まあ良いや……。
取り敢えず、この洞窟から先はこれまでの戦い方は一旦、リセットして欲しい」
「どういう事でしょうか?」
「うん、そうだな…………」
あんまり気にしすぎても良くないけど、と前置きしてから話す。
ディーもこんな洞窟で戦ったコトは無いみたいだし、お互いにまだ協力体制になってから全然時間も経ってない。
逆に敵はと言うと、今の所スケルトンしかいないけど、それでも向こうはチームで動いて攻撃してくるし、更に強力な敵も出て来る可能性は充分にある。
視界だって確保しづらいし、まさに一瞬先は闇に包まれている状況。
また、さっき見た黒い煙の正体も判らないし、祠を壊した黒い目みたいなモノもどう見ても怪しい。
さらに魔素をここまで溢れさせている相手も見当が付かないとなれば、こちらは慎重に慎重に進む必要がある。
それこそ、今までの割合テキトーな戦い方では生き残れないかもしれないのだから。
休憩は出来る所で確実に取り、道中は相当警戒する必要があるだろう。
……と言っている間に、もう狭い通路は終わりに差し掛かっていた。
通路の横幅も広くなっていて、先はまた部屋状の空間になっているようだ。
意外と距離があったな、祠の裏にあった小部屋からここまで。
あるいはただ狭くて薄暗いから、ゆっくり慎重に歩いていたせいか。
でも、流石に話が冗長すぎたかな?
こんな薀蓄未満の適当な意見、長く聞かされてもつまらないだろう。
「長くなっちゃったけど、まあそんなトコ」
「ほあー…………」
「どうした? 変な声出して」
目の前を歩いていた少女が立ち止まって、こちらを振り返る。
驚いたような顔付きで、口もぽかんと開けられていた。
……非常におバカな子に見えた、なんて言うまい。
「ヒカリさんなんだか、やっぱり物凄く戦闘慣れしてません?
もしかして、ヒカリさんの元々居た世界……でしたっけ、そちらでも強力なモンスターとかがたくさんうろついてたんですか?」
「いや全く居ないけどそんな物騒なの……。
……まあ、ちょっとね! 実際の戦闘の場数だったらディーのが絶対に上だけどね!」
…………。
……言えない。
別にもったいぶってるワケじゃ無いけど、これは言えない。
――――全部ゲームの知識だなんて、絶対に言えない!!
要は魔法うんぬんの話だって、ただの『じゅもんつかうな』と『ガンガンいこうぜ』ってだけだし!
戦い方はローグ系のゲームだし!
前衛後衛の話に至っては、オンラインゲームのPTプレイで母さんに教わったアドバイスそのまんまだ!
自分で言うのもアレだけど親子で何やってるんだ!!
「色々あってね、ハハッ!
ただ、おれの話通りに戦闘が進むかも判らないし、アドバイスみたいなイメージで捉えておいてくれれば良いよ、ハハッ!」
ごまかし笑いがひどく怪しくなってしまった。
笑い方も若干著作権で引っかかりそうな感じだし。
夢の国からメン・イン・ブラックがしこたま駆けつけて来そうな感じだし。
「謙遜するなんてヒカリさん、そんな……!」
やめて。
そんな変に尊敬するような目で見るのはやめて。
違うから!
不相応にエラく扱われる位なら、おれはただの変な人で良いから!!
「そういうのは良いって!
ホラ、ステータスも貧弱もやし炒めだし、武器もコレだし!」
シャベルを思いっきり主張する。
これ持って戦ってる人を謙遜だ尊敬だなんてどうかしてる。
それをまじまじと見て、ディーが一言。
「そう言えばヒカリさん」
「……?」
「どうしてシャベルで戦ってるんですか?」
「あれ? 説明してなかったっけ」
シャベルを武器にして戦ってきたコトは言ったけど、鍛冶屋のくだりは話から省いてしまっていたかもしれない。
「ええっと」
「あ、私の氷槍使ってみます?」
「どこから説明すれば、って!?」
何気ない感じでディーがはいと自分の武器をこちらに渡す。
それをおれも何気ない感じで受け取ってしまう。
――気付いたのは、完全に手に持ってしまった後だった。
「うわぁああああ!!」
「ひ、ヒカリさーーーーん!?」
バッと手を離すヒマも無く、おれの方が先に弾きとばされる。
おれの持つ称号の『元囚人』の効果だ。
槍とシャベルをその場に放り出して、動きが固まっているディーを横目にすり抜けるようにして前に吹っ飛ぶ。
洞窟の狭い通路を地面と水平に、体育座りの姿勢でシャシャシャシャッと回転しながら滑空。
そのまま通路から放り出されたのち開けた場所で地面にズザザァと落ちて、マット運動で後ろ回りを失敗した人みたいな姿勢になった。
仰向けになって洞窟の天井を見る。
背中がすっごく痛いです。
「今回は、新しいパターン、だったな……」
まさか上方向だけじゃなくて横にも飛ぶとは。
嫌なレパートリーが増えてしまった。
聖徳太子みたいだ。
「い、いたたっ」
「ヒカリさん、大丈夫ですかー!?」
ディーの声が聞こえる。
走って来ているようだ。
と、覗きこむ影があった。
「ディー、シャベルは持ってきてくれた?」
「はい? 何ですか―? って、ヒカリさ--ん!」
ディーの声が、割と遠くから聞こえる。
……じゃあ、一体この影はなんだ?
ガシャガシャ。
何か軋む音が頭の上の方からする。
何か、というかホネが軋む音だ。
スケルトンだった。
「…………」
「…………」
さらに上の方を見ると、あと四体くらいホネが立っていた。
一瞬ホラー展開かと思った。
すると、影になっていた一体が剣を振り上げる。
……ホラーじゃなくてスプラッタな展開が待っていそうだ。
「ヒカリさーん! 逃げてーーーー!!」
「大ピンチだチクショーーーーーー!!」
せめて敵に当たってくれればいいのに、飛鳥文化アタック。
どうあがいても、コメディ。(キャッチコピー風)
マジメな戦略会議になる予定だったのに……。
ではまた次回!
ご意見ご感想、お待ちしております!




