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第四話 : Devil May Cry2


題名の付け方がストレート過ぎるんじゃないかと思うこの頃……。


で、ではどうぞ!

 


「しかし驚きました。まさかヒカリさんが勇者様だったなんて……」

「うん。取り敢えずディー、涙拭こうな?」


 地底湖の端、恐らく洞窟の最奥部の場所。終点。

 その湖面から少し離れた所で、岩壁を背にして座る者が二人。

 岩壁の照明はぼんやりとそれを照らし、湖面に向かって影を作る。


 ……なーんて言ってみるものの、実際にはただ疲れたから座ってるだけ。


 話が長くなったので立ってるのがツラかっただけだ。

 地面は乾いていたので服が濡れたりはしないだろう。


 隣に居るディーナの話が終わってから続けてこっちも、不審者疑惑を晴らすために素性をあますところなくまるっと話したからな。

 だいぶ時間が掛かってしまった。


 でも、そう何度も何度も変質者扱いされてはたまらない。

 服こそ無意味に破けてはいるものの、こっちは至極まっとうな一般人なのだ。


 横に並んで座っている青髪蒼眼の少女が顔を涙でぐっずぐずにしているため、腰に付けてるベルトポーチを探って中身を漁る。


 タオルかなんかあったかな……?


 ごそごそ。


 …………。


 ……。



 ポーションの小瓶しかなかった。



「…………」


 無言で傍らのディーナにビンを見せてみる。


「…………?」


 頭にクエスチョンマークが出てる感じの反応。


 ですよね。


 さすがにガラス瓶で顔を拭けなんて言えない。

 それ絶対にライフポーションの使い方間違ってる。


「何か拭くもの、拭くもの……」


 ダメ元で服のポケットなども調べてみる。


 パーカーの左は……、何もないな。

 パーカーの右は……、そもそも破けててポケット自体がないな。


 まあ、そういう時もあるよね。


 ジーパンの方はどうだろう?


 左はこの世界の通貨が入った巾着と、最近のスマホばりに厚みの薄い元の世界のサイフが入っていた。中身ぺらっぺらだ。

 まさにおサイフケータイである。

 言ってる場合か。


 ……ところでこの革財布、この世界で携帯する意味あるんだろうか。


 右には元の世界でスマホが入っていた所にステータス・カードが入っていた。


 そういやおれのケータイどこ行ったんだろう。家出かな?

 どこの時点までは持ってたっけ……?


 もしかしたら、元の世界に置いてきてしまったのかもしれない。

 パスワードでロックはしてあるけど、誰かに悪用でもされていないかどうかだけが心配だ。

 あと誰かに『いもうと着信ボイス(本人無許可)』とか聞かれたら終わる。世界が。


 ステータス・カードは、名刺より多少大きい程度のサイズの金属板である。

 これを使用者は体にくっつけることでその名の通り、自分のステータスを正確に知ることができるのだ。すごい。


 いやでも……、さすがに『おい、これで涙拭けよ』って言うのもなあ?

 角が当たったらさらに涙目になる、二重の意味で。

 そんなの鬼畜の所業だ。

 しかもやっぱり使い方間違ってる。


「ごめん、タオルとかハンカチとかあれば良かったんだけど……」

「あ、私タオル持ってます」


 おっと、それなら良かった。


 ディーが自分のウェストバッグから真白いタオルを取り出して、顔を拭(ぬぐ)う。

 彼女もここに来る際にいろいろと準備はしてきたのだろう。

 ちなみに持っていた槍は、少し前から壁に立てかけられている。


 それを見つつ、一つ訊いてみた。


「そんなに悲しいかどうかはともなく……。

 他にもなにか、身分の証明とかってした方が良いかな?」

「?」


 タオルをこちらに渡されそうになったので手を挙げて断る。

 いや、別におれは泣いてないから。


 手に持っていたメタリックな板を見せる。


「いやさ、コレを使えばその人のステータスとか色々見れるんだよ」

「それは……。ステータス・カードって名前の魔道具(マジックアイテム)ですよね? 以前に一度父に見せてもらったことがありますよ」


 マジックアイテム?

 この小さな金属板が?


 でも確かに、仕組みは魔素がどうのこうの……、とか使用者の魔力の流れがー……、とか聞いた覚えがある。

 それなら、マジックアイテムで合っているのだろう。

 ところで一応自分の所持品なのにおれの理解度が浅すぎる。


「ただ、証明とか確認用に使うこれなんだけど、何故かおれ自身じゃ上手く使えないんだ」

「へ? 使い方が判らないとかですか?」

「違う違う」


 さすがにそれは理解してる。


 おれは試しに、自分の額にカードを当てて、むむむと念じてみた。

 カードがほのかに熱を持ったような感覚がして、文字が板上に表示される。



 ----------------


 名前:アケミヤ ヒカリ 


 LV:??


 HP:????

 SP:????

 MP:????


 種??:????

 性別:男

 属性:????

 職業:????


 装備適正:????????????????????

 魔法適正:『????』?? 『????』?? 『????』?? 『????』??


 称号:????????????????


 能力値

 ST??:????

 ????T:????

 I????:????

 R??S:????

 ??????:????

 ??????:????

 LUC(運勢):0(固定)


 ----------------



「な?」


 そして表示されたステータスを見せる。


「ぜんぜん判りません」

「ですよね!!」


 そらそうだ、こっちだってどうしてこうなるのか聞きたいよ!!

 上手く使えないっていうのはこういう意味なのさ!


 おれこのカード持ってて意味あるんですかね!?


「ま、まあ名前と、男性というのは判りましたけど……」

「……あとLUC(運勢)値な」


 そこだけすげえクッキリ表示されてるから……。

 他はほとんど見せる気ないぞ、このカード。


 他の部分は、さっきした説明を信用してもらうしか無い。


「本当に0なんですねえ」

「しかも『固定』とかわざわざ書いてあるからな。

 とまあこんな風に、その人の情報が判るカードなんだ」

「なるほどなるほど……、あっ、薄く冒険者ギルドの印が彫られてる。

 ヒカリさん、話の通り冒険者になってたんですね」


 カードを渡すと、へーとかほあーとか驚嘆の声を上げながら映った文字やカードの裏側を眺める。

 と、その手が止まって、こちらを見た。


「これって、本人しか使えないんですか?」

「ん? あ、そっか。

 やろうと思えば他の人も出来るみたいだぞ」

「じゃあ私もやってみて良いですか?

 私の身分証明にもなりますし」


 とは言うものの、妙に期待に満ちた目をしている。

 蒼(あお)い目がキラッキラしてる気がする。

 たぶん、使ってみたくて仕方がないのだろう。


 おれにもそんな時期がありました。

 結果は例の如くだったけどね!


 別に良いさ、こっちだって『ワイズマン』の機能を使えば見れるんだし!

 今はスリープ状態になっていて起動すら出来ないけど。


 了承すると、ディーが自分の額にカードの角を軽くあてて目をつぶる。

 すぐにステータス・カードに反応があった。


「わあ、映りましたよ!

 ……自分のステータスは久々に見ますけど、少しは成長してますね!」

「前見た時はどうやったんだ?」

「ええ、私の昔住んでた所にも、こんな道具はあったんですよ。

 それ自体はこんな小さいカードじゃなくて、いちいち村の外れにある祭壇に行って、水鏡を見なきゃいけませんでしたけど」

「へえ……」


 水面に文字が映るのか。

 なんだかそっちの方がマジックアイテムっぽいイメージだな。


 でもまあ、持ち運びに便利なカードも便利なのだろう。


「はい、じゃあこれ私のステータスです」


 なんだか改めて見せるのも恥ずかしいですねえ、と渡してくる。

 ディー、体をクネクネさせるんじゃない。


 さて……、どんなもんなんだろうか……?



 ----------------


 名前:ウィン・ディーナ


 LV:16


 HP: 53

 SP: 24

 MP: 82


 種族:ワーロック(ウィン族)

 性別:女

 属性:水

 職業:水守


 装備適正:『槍』A

 魔法適正:『火』E 『水』S 『風』C 『土』D


 称号:『水系魔人種』『水の巫女』


 能力値

 STR(攻撃力):11

 VIT(守備力):12

 INT(魔法攻撃力):40

 RES(魔法防御力):30

 SEN(命中・感覚):18

 AGI(速度):14

 LUC(運勢):26


 技能:『三段突き』

    『クイックストライク』

    『鎧通し』

    『瞑想』


 受動技能:『水神の加護』


 魔法:『水属性魔法:Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ』


 ----------------



「おお…………!」


 取り敢えずおれよりはやっぱり高い能力値だったのは置いといて。


 ……こういうステータスを見るのって、結構面白いかもしれない。

 かなりRPG等のゲーム的な要素が強いからだろうか。


 レベルは16。

 どう言って良いかは判らないが、確かにカルシウム多めなスケルトン達や森で出会ったアリさん達がせいぜい15であったのと鑑みるに、それらよりも若干高いことになる。

 あとおれの二倍くらいはある。


 特に悔しくもならないのは語歌堂さんというトンデモチートな存在を知ってしまっているせいか。


 まあ彼女は『勇者補正』が付いているらしいからね。仕方ない。

 おれには付いてなかったけどね。仕方ない。


 ………………。


 ……だが、そのレベルに比べてそれぞれの攻撃力とか魔法攻撃力の個々のパラメータは、かなりピーキーに成長しているように見える。なかなか興味深い。


 実際に攻撃力(STR)や防御力(VIT)を見てみると、案外おれと大差ないくらいなのだ。

 確かこちらは8とか9とかだから、一桁と二桁の違いとはいえ、数ポイント少ない程度だったはず。

 レベルの差はそれよりも大きいだろうから、STRなどに関してはあまりレベル上昇によって成長していないことが窺える。


 しかし、魔法攻撃力(INT)や魔法防御力(RES)になると話は変わる。

 それぞれ40、30と明らかに数値が高いのだ。


 マジックポイント(MP)も、他の二つの数値よりよっぽど高い。

 少し前に説明された魔人(ワーロック)としての性質なのか、それとも彼女自身の特徴なのだろうか。


「へえー…………」


 比較対象が少ないからなんとも言えないけど、ここまでパラメータごとの差が出てくるもんなんだなぁ……。


 属性は『水』のカテゴリ。

 こちらも『適正』の所や称号などの名前から察するに、かなり『水』に特化した形となっているのかもしれない。


 他にも、それぞれの『称号』の意味とかも気になるな……。


 ふんふん……。


 『魔法』の欄、コレどういう意味なんだろう……。


 いろいろと訊いてみたいな……。


「ちょ、あんまりしげしげ見ないで下さいよ!

 本気で恥ずかしいです!」

「あ、悪い悪い」


 文字表示を消去してディーに確かめてもらい、カードをしまう。

 顔が赤くなってるのが見てとれたため、冗談ではなさそうだ。


 確かに、個人の中身を見るっていう点では身長体重とかスリーサイズと変わらないのだろう、感覚としては。


 あと他にも、まだよく知らない相手に自分の情報を見せてしまうのは、かなりアドバンテージを与えてしまう行為だろうというのも思い付くことだ。


 今だって、ディーのデータを見ていろいろ判ることがあったんだし。

 まあ、そっちの理由で嫌がってる訳では無さそうだけど。

 大体の事は聞いてしまってたし、『魔人』という内容も出ていたけど、それはもう先に話してもらっていた事だからな。


 おれのステータスはさっきの話ついでに言ってしまっている。

 こちらも特に隠すような内容もなくなってしまったから。

 別の意味で恥ずかしいステータスだけどな!!


「でも、確かに言ってることは間違いなかったみたいだな」

「もちろんですよ」


 ふふん! と胸を張る。

 若干胸が強調される姿勢になる。


 なんというか……、目の毒なので顔を逸らしておいた。

 槍の方を見ておく。

 服の生地、意外と薄いのかもしれない。


「ワーロック、ウソ、つかない」

「なぜカタコトになるんだ…………」

「な、まだ証拠が足りないと!?」

「言ってねえ!!」


 ならば仕方なーい、と立ち上がる。

 これで流石に信じて貰いますよ! と言って袖を捲(まく)ってみせる。


 毒を食らわば皿までということだろうか。

 いろいろと開き直りすぎじゃなかろうか。

 ところでノリが誰かに非常に似ている気がする。誰だ。


 そして、肩口で装束の胴の部分から分離した袖をまくり上げる。

 なにやら時代劇の岡っ引きのようにヒジの所をぐいんと前に出して見せてくる、が。


「……? 特に何も?」


 別にどうってことない腕だ。

 ジャガイモのようにやたらと筋肉質ということもなく、男のおれよりも細いってぐらいか。桜の紋所なんてのももちろん無いし。合ってもコメントしづらいけど。


 そこまで特徴になるような要素も……。


「まあまあ、見てて下さい」


 ディーが目を閉じて、どこか意識を集中させる。

 すると、体が青白く光った。


 髪の所までもが青みを増して、ふわりと浮き上がる。


 モンスターを倒した時に出る燐光とはまた違う、深い海のような柔らかい色彩がうっすらと彼女の体を包んだ。


「お、おお……?」


 ……かと思うとその深蒼(ふかあお)の色は両腕の所へ集まっていき、上腕から横に向かって伸長する。


 淡い光はそこに収束して、あるモノを形作り。

 三角形に伸びたそれはまるで、


「――――魚の、ヒレ?」

「そうです」


 それは、人間には持ちえない体の構成要素(パーツ)。

 陸上で生きるにあたって進化の過程で淘汰されてしまった器官。


 ……そのはずなのに、ディーナはそれを持っていた。


 しかも、本来の魚類のヒレのような生々しさはあまりない。

 薄膜状の生体器官ではなく、見た限りでは、ステータス・カードのような薄板の金属に近い質感をしている。


 それが紫の霧の中で青一色のサイリウムのように浮かび上がっているのだ。

 どこか非生物的で幻想的な印象を受けてしまう。


「私達、魔人の中でもウィン族の人達は、例外なく属性は『水』になります。

 そして、魔人である最大の証拠がコレなんです」


 コレ、と言う際に体の前で腕をクロスして、こちらに輝くヒレを強調する。

 少しだけ苦笑交じりにディーが続ける。


「亜人や獣人の方(かた)は動物っぽい感じの特徴が出るんですが、魔人になるとそうもいかなくて。

 こうして、魔力を込めると他の種族には無いような特徴が出ちゃいまして」

「ウィン族……だっけ、その一族では『ヒレ』が生えるってことか」

「そうです。『水』の元素が集まって出来るモノだと言われています。

 得体が知れなくて気持ち悪いでしょう?」


 変わった服装をしているのもそのヒレが理由。

 ヒレを隠すための、ウィン族代々の民族衣装みたいな感じなんだそうだ。


 しかし、気持ち悪いってほどか?

 いや気持ち悪いというよりは、むしろ、


「なんだか綺麗だなあ……」


 それと、カッコ良いとも思ってしまった。

 彼女ら魔人からしたら、恐らく他のヒトとの差異になる部分だから嫌だろうし。

 そんな明るい感想を持てないのは推測できるけど。


 でも、街じゃウロコが生えてる人もしっぽが生えてる人も普通に見たしなあ……。

 もしくは今まで魔人について無知だったから、そう簡単に言えるだけかもしれない。


「きっ、キレイ!?」


 目の前の人物がすっ頓狂な声を上げる。

 それに呼応して腕に付いたヒレも、シュッと折り畳まれる。

 本当に動きは魚っぽいな、あのヒレ。


 いや何と言うか、本当にカッコ良いんだよ。


 逆手に持ったナイフみたいな形をしていて、青く輝くブレード(刃)みたいだし。

 さらに周りに青色の粒子がふわふわっと浮かんでるし。

 ファンタジーな癖にサイバーチックだな。


「~~~~!!」


 おれがぼやっと腕のヒレを見ていると、ディーは腕をぶんぶん振ってヒレを消す。

 何を思ったのか背中の後ろに手を隠してしまった。


 ヒレを形作っていた青い粒子の残滓(ざんし)が辺りに漂う。


「……ん? どうしたんだ?」

「こここ、この話は終わりです!

 これで、お互いに不審な所は無くなったってコトで良いですよね!?」

「あ、うん」


 今のはちょっと挙動不審だったけど、まあそれは良いや。


 重要なのは、相対している少女が魔人であること、そして敵では無いということ。

 それが判っただけでも充分だろう。


「コホン! ……それじゃ、ヒカリさんに提案です」

「ん?」



「――ヒカリさんと私とで、PT(パーティー)を組んでみませんか?」



「……なんだか、いきなりな話だな…………」

「でもこの危ない場所では一番良いアイデアだと思うんですよ、それに、」


 この場と言って辺りをぐるりと指で差す。

 それが一周すると、今度はディー自身をぐっと指差した。


「それに?」

「ヒカリさん、いや勇者様には、私の秘密な部分まで見せちゃいましたから!」

「なんてコト言うんだおまえ!?」


 誤解を招くような表現をするんじゃない!

 誰も聞いていないから良いものの!


 ステータス、それかヒレの事だよな!?

 ヒレだって別にウィン族全員に付いてるって話じゃん!


「その言われようには異論しか無いけど……。

 あと、別に勇者様なんて言わなくて良いって」

「え、どうしてですか?」

「いやあ…………」


 どうしてと言われてもな……。

 そう聞かれるとちょっと困る。


 ぼさぼさの頭を掻きつつ、言葉を探してみた。


「さっき説明した通りもうおれは普通の人と変わらない、いや、もっともっと弱いやつだからさ。ニセモノみたいなもんなんだよ。

 敬語も付ける必要なんてないぞ?」

「………………」


 下を向いて呟くのもなんなので、立っているディーに目を合わせて言う。

 立ち上がっているディーが座っているおれを見下ろす格好。


 なんだか不思議な表情をしていた。

 何か言いたげな、それでいて何も考えているか読めない表情。


 ――だがそれも一瞬のことで、すぐに元の表情に戻る。


「……まあ、私のこれは口癖みたいなものですから!

 ひとまず、『ヒカリさん』で良いですよね?」


 まあ、それなら別に構わないか。


 取り敢えず、何も目上だったりエラい所もこちらにはないってのに、様付けだったり丁寧語なのがムズがゆかっただけだからなあ。


「とりあえず今は、ヒカリさんの話で最後に言っていた、『調査任務(クエスト)』に私も協力させて下さい!

 この祠を調べるんですよね?」

「うん。でもディーもこっちに来た理由は、確か調査だったよな?」


 共闘、というよりはそのまま協力の申し入れ。

 場所が場所で、目的も近いものであるならお互いにデメリットは無いだろう。


「私も調査……ですね、確かに。

 ほら、先ほどカードでお見せした時に、『ミズモリ』って書いてありませんでしたか?」

「ああ、あったあった。

 アレなんなのか気になってたんだ」


 立ったままちょいちょい、とおれに合図を出す。

 その手招きに応じて立ち上がり、ツルハシとシャベルと装備しなおした。

 ようやく手の疲れも回復してきた。

 やっぱりシャベル重い。


 でも、ぶきやぼうぐはそうびしないと意味がないからな。

 まあ防具なんて元から服以外に無いけど。

 ステータスで装備欄があれば、ほとんど空欄だろう。

 ニンジャか。


「確か『職業』の欄にあったよな?」

「はい、水守(ミズモリ)っていうのはそのまま、『水源地や源流を災害や魔物から保護する』という役割を持っていまして。

 『水』属性の強いウィン族は昔からの慣習で、どこかの街の要請があったりするとそちらに出向いて数年単位で水源の近くに留まって、そこの管理人をするんですよ」


 職を務める男性は『水守の神官』、女性は『水守の巫女』と呼ばれるらしい。


 まあ、要は森番のようなものだろう。

 どうやら神事的な面も強いみたいだけど。


 ディーも父親と一緒に故郷から出てきて、水守として務めを果たしているそうだ。

 それも10歳の頃に里から出て、かれこれ7年間。


「へえ。……ってことはもしかして、センティリアの街の北にある湖に?」

「そうです、そこの畔(ほとり)に住んでたんですけど……」


 手招きに従って地底湖の端を、再び奥に向かって行く。

 確かそっちには……。


「つい今朝の事ですが、突然、湖が魔素で汚染されてたんです。

 変なガイコツの魔物もうろうろしてますし……。

 なのでこうして『湖下(こか)の水祠(すいじ)』、洞窟にある祠の様子を見に来たんです」

「ああ、やっぱりアレって祠だったのか」

「……あれ!? 祠が壊れてる!! なんで!?」


 前で驚きの声が上がる。

 声の主ことディーナの足元には、ボロボロになって崩れた祠が。


「うん、さっきそれ壊れたよ」

「えぇええええ!?」

「いや、それがさ」


 自分の見ててよく判らなかったんだけど、と前置きして。

 祠の中にあった不気味な目の付いた黒い球体と、祠も崩れてしまったことを話す。


「何それ、結構気持ち悪いですねえ」

「だろう?」

「そんな魔物、この辺りには居るはずがありませんし……。

 取り敢えず、水の魔力を送って祠の機能を直せないか調べてみます」


 祠自体は作り直せないが、『湖を保護する』という地鎮的な機能は復旧できるかもしれないらしい。

 水守の役割は、この水源に対応する祠を管理するのが主な仕事なんだそうで。


「じゃあちょっとやってみますね」


 ディーがしゃがみ込んだ。

 崩れた小さなガレキの山に向かって手を添える。

 そして彼女の体が青く光り、魔力が祠に込められた、途端――――。


 ボシュッ!


「きゃん!?」


 ガレキから黒い霧が意思を持ったようにシュッと立ち昇り、ディーを弾き飛ばした。

 後ろに倒れそうになるのを、慌てて支える。


「大丈夫か!?」

「ま、魔力が何かに押し戻されたみたいな感じです」


 祠の機能が戻らなかったということか。

 押し戻された……ってのは何だ?


「もう一度やっても、上手くいくかどうか……」

「いや、そんなヒマは無いかも」


 それよりも、今湧いた真っ黒な霧。

 おれが今、目で追っている霧なんだけど。


 火事の現場で見た煙を彷彿とさせるそれは、ディーを弾(はじ)いた後、そのまま洞窟の上の方に向かって浮かんで。

 地底湖に飛び込んでいった。


 ――静かに揺れるだけだったハズの湖面が、突如さざめき始める。


 ――それに合わせて、オオォン……、という遠響(えんきょう)が大きく、不吉なものに変わっていく。


 今や湖は、泥を落としたように一面ドス黒く濁っていた。


「まずい、まずいぞ……」


 猛烈にイヤな予感がする。


 残念なことに、こういう時に予感が外れた事はまず、無い。


「ディー! この洞窟で、どこか逃げられる場所は!?」

「え、そんなのどこにも……、あれ?」

「どうした?」

「祠があった所の奥を見てください」


 支えられた状態のディーが指で示す。


 見ると崩れた山の奥の岩壁に、バツ印に亀裂が入っている。

 裂け目の中央からは、僅かに明かりが見えた。


 壁一枚隔てて、あちらにも空間があるのだ。


「壁さえ壊せれば、向こうに行けます!」

「なるほど、それならツルハシか!」


 ディーを横にすとっと下ろして、腰に提げていたツルハシを構える。

 さっきの祠とは違って今度は迷いなく、壁にむかって叩きつけた。


 ザクン! とツルハシの先端が亀裂に埋まる。


 次の瞬間には衝撃で、亀裂から下がボロボロと崩れ落ちた。


 匍匐(ほふく)前進すれば通れるくらいの穴が開いたのだ。

 どうやらこの岩壁、だいぶ厚みは薄かったらしい。


「ヒカリさん、あれを!!」


 青ざめた顔のディーがおれの肩を掴む。


 ざぱっ、とか、ぴちゃっ、という音に、ギシッという擦過音が混じる。

 そちらを見れば、湖の淵(ふち)から何体もの白い人骨が立ち上がっていた。


 ぶらんと下ろした腕を、振ってパキパキと鳴らす。


 骨からは水が滴り落ち、手には錆びた剣が構えられている。


 湖のへりというへりから、ゾロゾロと次々にスケルトン・ソルジャーが上がってきたのだ。


「この距離だと魔法の詠唱が間に合いません!」

「ならここは逃げるしかない! ディー、そこの穴から奥に入るんだ!」

「わ、判りました!」


 武器を片手に、青い髪が穴の向こうへと消えていく。


 彼女の足までが穴を越えたのを見計らって、背負っていたシャベルと、二本のツルハシを奥に滑りこませる。

 既にこちらをターゲットしていたスケルトン達は、祠のあったこの位置に向かって走りだしている。


「早くこちらへ!」

「了解、横に避けといて! 『スライディング』ッ!!」


 昔から、狭い所を通る時はコレと相場が決まっている!

 昔って言っても特にいつだとかはないけど!!


 ズシャーッと音を立てて小さなトンネルに足から滑り込み、そしてすぐに態勢を今しがた通った穴の方に反転する。


 壁の裂け目の反対側には、既にスケルトンが来ていた。

 爪先のホネがよく見える。


「穴を閉じます! 『氷刃(アイスエッジ)』!」


 既に体に青い光をまとった――多分、詠唱とやらが終わって魔法を撃つ準備が出来たのだろう――ディーが、槍を持っていない左手を突き出す。


 すると、手の前の空間がビシビシと歪み急激に凍りついたかと思うと、風切り音を立てて飛び出した。


 巨大なナイフが柄の所で二本組み合わさったような、あるいはブーメランのようなその氷の刃が、下半分が崩れた壁の上部に向かって突き刺さる。


 ぶつかった途端に氷でできた刃はバキリと砕け、そのまま消散してしまった。

 薄い壁をぐらつかせはしたものの、まだ足りない。


「ヒカリさん!」

「そういうことか、任せろ!」


 地面に転がっていたツルハシの柄の最端を両手で握り。

 横からフルスイングで壁の上の根本に突き立てる。


「っそいや!!」


 今度こそ、岩壁は崩れた。

 ガラガラと冗談のような音を放ち、天井部の岩も支えがなくなったことで壊れ、ガレキとなって落ちる。


「ディー、離れよう!」


 壁の様子を見つつ後ろに下がる。

 一応、崩落したのは壁の合った場所の天井だけで、こちら側までは影響はないみたいだ。やはり、かなり頑丈な造りの岩質なのだろう。


 崩落が収まるのを見届けてから、新しくできた壁を確かめる。

 パキリと足元で音がしたので見れば、ガイコツの手を踏んづけていた。


「うわっ、と!」


 だが、すぐにブシュッと青い燐光が出てホネは消えてしまう。

 土砂に巻き込まれてしまったか。

 穴を通ってこれたスケルトンは居なかったようだ。

 ギリギリではあったようだけど。


「いやあ、ビックリしました…………」


 荒い息と共に、ディーが感想をつぶやく。


 既に地に座り込んでいて、槍を抱きしめていた。


「うん。でもなんとかなったかな」


 青い髪の頭ごしに見ると、遠くの方まで一本の道が伸びている。

 土砂崩れした壁から反対の方向。

 この場所は、その間のちょっとした小部屋のようになっていた。


「――それで、こっちはどこに出る出口なんだ?」


 あっちの道はどこに出るんだろう。

 この場所に詳しそうなディーなら知って……、


「……えっ、判りません」


 ………………。


「えっ、じゃあ出口は?」

「行きに来た道一本だけですね」


 『行きに来た道』に繋がる道を見てみた。



 岩が積もっていて、完全に崩落していた。



 びっくりするぐらい通行止めだ。


「これさ」

「はい」



「どうやって外に戻ればいいんだ?」

「………………」



 閉じ込められた。





 ------------------





「参ったな、コレ…………」


 どうしようか。


 取り敢えず辺りをぐるっと見回してみる。


 相も変わらず洞窟の中。

 煙のように辺りを漂っている紫色の魔素も濃いまま。


 よくもまあ飽きもせずに、と言いたいほどもやもやと湧いてるけれど、本当にどっからこの霧はやって来ているんだろうか。


 場所は地底湖から少しは移動したのに、周囲の環境はあまり変わらないままだ。


 変わった事も幾つかあるが、せいぜいが辺りの光源が少なくなったことぐらい。

 地底湖の所までは松明(たいまつ)のような、赤い石が壁に掛けられていたんだけれど、それが無くなって今度は壁がぼんやりと青色に光るようになったのだ。


 ここはそもそも『湖下の水祠』と呼ばれる場所だ。すると、壁にあった赤い発光する石は人の手で取り付けられたものであり、地底湖までは歩いていけるようになっていたのだろう。


 するとこの壁の青い光はなんなのだろうか。判らない。


 ……まあ、その祠(らしきもの)がおれの目の前で壊れたり、湖からもりもりガイコツの群れが浮き上がってくる理由も判らないが。


 と、おれにこの洞窟の説明してくれた人が隣にいる。


 …………居るけれど。


「うっうっ、すみませんでした……」


 人がせいぜい二人で一杯になってしまうような狭い場所で、隣に居る人物。

 というより伏せている人物。


「私が、私があんなことをしなければ……!」

「いや、泣くなよ…………」


 ディーナさんである。


 うつ伏せになっているため、こちらからは服と長い青髪しか見えない。

 なんでそんなビーチフラッグ始める人みたいな態勢になってるんだ。

 というか服汚れるんじゃないか。


「もうダメです……私は、この洞窟の中で朽ち果てるのがお似合いなんです」

「そんな気にすることないって」

「私達は、この洞窟の中で朽ち果てるのがお似合いなんです……」

「なぜ複数形にしたし」


 隣にしゃがみ込む。

 触ってみると、洞窟の地面は意外とスベスベしていた。

 かと言って寝そべれるかと言われたら全身で否定するけど。


「土に還るのがお似合いなんです……。

 私は水属性なのに、土に還るってのも笑っちゃいますよね……。でも、それでヒカリさんが許してくれるなら…………」

「許すも何も、まず責めてすらいないって」

「優しいからそう言えるんですヒカリさんは……。危うく攻撃しそうになっっていた相手に…………」

「だから責めてないよって……」


 なんだろう。

 幾らなんでもヘコみ過ぎじゃなかろうか。


 さらに言えばなかなか面倒くさい。

 気分の上下差激しいなあ。


「……もし私のなれの果てがスケルトンになった時は、ヒカリさんが退治して下さい」

「イヤです」


 わっ、と顔を腕で覆う。


「うわーー、私なんかは倒すのもメンドーだって言うんですか!?

 この暗い所で永遠に存在を揺蕩(たゆた)わせていろって言うんですか!?」

「どうしてそうなった!? あと突然難しい単語が出たな!!

 まだまだ余裕あるんじゃないか!」


 涙声でワケの判らないことを言い出す始末。

 反対の手で持った槍で地面叩いてるし。


 いや、倒してくれって言われてもそんなのコメントに困るわ!

 はい喜んで(ニッコリ)! なんて言ったらどうみてもヤバい奴だろ!!

 言った方も言われた方も!!


 ……ひとまず話をなんとか逸らそう。

 まともに泣き言に付き合ってたら身がもたない。


「ほら、こんなミスなんて、良くある事だからさ?」

「良くあるコトですか、これ…………?」


 うん、自分で言っていてどうなんだこのセリフ。


 そうだな…………。


 …………。


 ……いや、少なくともおれの周りでは良くある気がするぞ?


 気にしたら負けだと思った。


 そんな事を気にしだしたら、地面と水平になって気を付けをする人が二人になってしまうから。

 まんまビーチフラッグじゃねえか。

 周り洞窟なのに。


「あの壁を崩さないと、スケルトンに襲われてたからな。結果オーライだ」

「………………」

「二人ともケガもしてないだろ? ディーのお陰だって」

「………………」


 なんだか街が恋しくなってしまった。

 もっと言えばアカリの作る弁当が食べたくなってきた。


 でも出口が判らないし。

 出れないし。


「ほら、こっちの穴から先には続いてるみたいだし、早く行こう」

「………………」

「さっきのPTの話も、組んで早く連携を試してみないと。

 スケルトンもそうだけど、ここからはどんな敵が出現するかも判らない」

「!!」


 ピクッと肩が動く。

 今の言葉のどこに反応したのか。


「……まだPTを組むのって、無効じゃないんですか?」

「え、そうだけど?」


 いつの間に無効になったんだ?

 まだ組むか組まないかを決めてすらいなかったよな?

 ああ、さっきの失態(?)でおれがキャンセルすると思ったのか。


 ……なんでそんなネガティブ思考なんだろうか。

 さっきまですげえ元気だったのに。


 だが、恐らくここに話題転換の糸口があると見た!

 おれのへちょい交渉スキルが示しているんだから間違いない!!


「あ、ああそうそう!

 まだ全然、ディーの使える魔法とか戦い方とかはおれもよく知らないからな!

 実はかなり期待してたりするんだ!」

「……………………期待?」


 ちらっと振り向き、こっちを見上げてくる。

 青い髪が背中から横に流れ落ち、どんよりとした蒼い目がこちらをじっ……、っと見ている。


 まるで深い海に引きずり込まんとするばかりの暗さ。

 緊張の一瞬だ。


「でぃ、ディーさんの本気が見たいなあー!」

「……ホントですか? 仲間に、私が仲間になってもお役に立てますか?」

「立つ立つ!」


 スコップ担いだ人が、必死に地面に寝そべる人を励ますの図である。


 ……くっ、いい加減何をしているのか判らなくなってきたけど、もうここは押し切るしかない!


 そうでなくともここは限りなく敵地、強力な魔法を使う彼女の協力なしに先に進むのは恐らく不可能、いや確実にムリだ。


 スケルトンが我が物顔で歩いているこの地獄の体現のような場所で、シャベルとツルハシとそれからわたしでは限界がある!


 そんな所でなんでこんな応援団の如く必死こいてエールを送り続けてるのかと聞かれるとどう答えようもないけど、それでもこのディーナさんと共闘するのは間違いではないハズ!


 あとはまあ、他にも、


「……実を言うとさ、おれもちょっと不安だったんだよ。こんな危険な所なんて来たことも無かったからさ」


 まあ、当たり前の話だ。

 元の世界に魔物なんて居ないし、魔素の毒霧で満ちた洞窟なんてどこを探したって見つからないんだから。


「そんな場所で一人で来たは良いけどやっぱり不安で。だからさっき一緒に行動しようって言われた時は……」

「…………安心?」

「うん、……そうだな、ちょっとホッとした。

 それとまあ、かなり嬉しかったし」

「…………」


 背負ったシャベルを点検するフリをして、視線を外す。

 そのまま左手で首元を掻く。なんだか痒い感じだ。


 くっ、失敗したかな、なんか妙に恥ずかしいコトを言っちゃった気がする……。


「よーっし!!」

「!?」


 いきなり気合いの入った大声があがる。

 もちろん前にいるディーナの声だ。


「勇者様にそこまで言わせてしまうなんて、ふてくされてるのも無粋というものですよね!」


 見るとすでに立ち上がっていて、巫女装束に良く似た青い袴に付いた土ボコリを払っていた。


「いや、だから様付けは……」


 ばしばしと服を叩いてから、こちらを見る。

 その目には、いつの間にやら輝きが戻っていた。


「判りました、この水守(ミズモリ)の巫女(ミコ)ウィン・ディーナ、勇者であるヒカリさんにお供させて戴きます!」

「ええっと、そこまで大層に考えなくても良いけど」

「それと、会った時にいきなり攻撃してしまってスミマセンでした!!」


 やっと言える機会ができましたー、と言ってお辞儀を一つ。

 気持ちいいくらいの潔い謝罪だった。


 さっきまでの顔にタテ線が落ちたようなどんよりとしたテンションが、まるっとウソだったかのようだ。


 うん。


 まあ、悪い子ではないのだろう。

 会って間もないが、それだけは判った。


 むしろ少しテンションの上がり下がりが激しいのに目を瞑(つぶ)れば、真正直ないい子であると言える。


 魔人(ワーロック)の件だって、うっかり断片的に言ってしまったとはいえ、本当はおれに全部話す必要なんて無いんだし。

 適当に誤魔化すなりお茶を濁すなりの方法はあるハズだ。

 ……深く考えない性格(おバカな子)であるという可能性も多分にあるけど。


 でも、相手(ディーナ)が自分の事を話してくれたから、おれも身の上を話そうと思ったのは事実。

 どうにも、こちらも隠し事が出来なくなってしまったのだ。

 あの時にもう既に、おれは彼女の人柄を信用していたのかもしれない。


 それならば。


 よいしょ、と立ち上がる。

 向かい合った相手を、おれも正面に見すえる。

 すると相手の、ディーナの姿をきちんと捉えることが出来た。


 こうして面と向き合うのは、出会った時以来かもしれない。

 あの時はシャベルと槍越しだったけど。


 青色の髪に、蒼色の瞳。

 この薄暗くて霧で満ちた洞窟の中でもよく目立つ。


 ワキの所で分離した白と青が基調の装束を纏った姿は、やっぱりおれよりも少し背が低いくらいだった。

 少しだけ見下ろす形になり、彼女の頭の向こうも見ようと思えば見える程度。


 真正面から向き合うと、ディーナは少し驚いた表情になった。

 が、すぐに真剣な顔付きに戻る。


 むしろ、おれの方が驚いていただろう。


「では、改めてよろしくお願いします!」

「ああ、……よろしくね」


 手を前に出す。


 いやあ、本当に驚いた。


「……ディー、あれを」

「ん? あっ、こういう時にはそうですよね!」


 ディーナも笑顔で手をこちらに差し出してくる。


 いや、違うんだ。

 そうじゃない。


 なんと言うか。

 場面としては合ってる。

 けど、タイミングとしては合ってないんだよ。


 おれはそのまま無言で、手を――――というよりは、指を。


「……へ?」


 人差し指を、彼女の後ろ側に向けた。


「ディー、さっそく出番みたいだ」

「出番…………?」


 ディーナも自分の後ろを向くと、その方向の遠くには。



 ――――こちらに見ている、大量のスケルトン・ソルジャーが。



「ギャーーーーーー!!」

「あっ騒ぐな! こっちに来ちゃうだろ!!」


 ガシャガシャガシャガシャッ。


 紫色の霧の中に白く浮かび上がるシルエットのそいつらが、狭い通路を遠くから走ってくる。

 後ろの地底湖へと続く所が塞がれている今、その狭い通路のみがこの小部屋に繋がっている。


 数にしてこの狭い洞窟の中、少なくとも両手の指では数えられない位のシャレコウベが見えた。


 たぶん、よーっしという大声が突然洞窟の中に響いたのを聞きつけたのだろう。


 そりゃ警戒もするよな。

 警戒というかもう、こっちに走り寄ってきてるしな。

 アスリートみたいに腕も振って全速力だしな。


「ほら見ろ敵だって認識されちまった!

 また大量に来るぞ、なんとかしないと!!」

「ムリですよあんな数!」


 くそう、逃げた先でこんなに早く襲われるなんて!

 不運とか以前に不注意過ぎだ!!


 ……しかし、大丈夫。


 意識してゆっくりと背負ったシャベルを引き抜いた。

 構える。


 そして不敵に笑ってみせる。


 少し前までのおれなら、この状況でどう思っただろう。

 諦めるか、それとも無理に足掻いていたか。


 だが今のおれには、強い味方がいるのだ。


 彼女の助けを得て戦えば、勝機はある!


 一つ作戦を思いついたのだ。


 そう、強力な魔法の使い手であるディーナと協力すれば……!


 即席のチームではある。

 だが、ここでコンビプレーせずしていつするんだ!


 臨戦態勢に移り、傍らのディーに作戦を伝える。 


「よし、ディーは魔法を! おれは」


「どどどーするんですかヒカリさん!

 私を囮にして先に逃げるんですか!? 置いてかないで!

 いたいけな少女を置いて行かないで下さい!!」


「言ってないそんなコト!!

 うわ、くっつくなっ! あと自分でいたいけって言うな!!」



 ぐだぐだだった。



 今度こそもうダメかもしれないと思った。

 

 


〜〜没シーン〜〜


そして、今度はディー自身を指差した。


「それに?」

「手段は選びませんよ、三十話近くまで放っておかれたんですから!!」

「なんてコト言うんだおまえ!!」


〜〜


ではまた次回!


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