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第三話 : Devil May Cry


バトル回にみせてシリアス展開風かと思いきや実はボーイミーツガールも予定していなくて説明回だったというわけでもなく、まあいつも通りの『ラックマン』です。


それではどうぞ!

 

 

 前回までのあらすじを三行で。



 湖の調査なのに気付いたら洞窟に入っていた。

 初対面の相手にゾンビ扱いされた。

 ボロボロのパーカーがまさかのアダになった。





「ダメだ……すでに意味が判らん……」


 口の中だけで呟いてみる。


 ――場所は洞窟の奥、地底湖の端。

 周りには視界が狭まるほどの濃い紫色の霧。


 眼前に居るのはこちらよりも少し身長の低い女性、というよりも少女。


 彼女が構えた槍は、おれの首に突き付けられていた。

 魔法だろうか、氷の刃で出来た槍先には鋭い冷気が渦巻いている。

 未だに、彼女にとっては気の抜けない状況のようだ。


 ついでに言えば、こちらの武器シャベルも相手の首元に添えられている。


 これは偶然、ふり向いた弾みでなっちゃっただけだ。

 未だに、自分でこうしている意味が判らないようだ。


 ……なにやってんのおれ。


「だから、犬に噛まれたせいで服がこんなになってるだけなんだって」


 しかし緊迫した空気だ。

 このままじゃどうしようもない。


「……いったん、お互いに武器を下ろさないか?」


 目の前の人物に提案してみる。


「い、いや、まだです!

 まだお互いの身元がキチンと判るまではこのままで!」

「まあ、別に良いけど……?」


 相手が万が一にも敵じゃないと判るまでは現状のままでってことか?

 確かに、こんな状況で合った相手に警戒するのも無理はない、かな?


 でも、こっちは地味に腕がつりそうなんだけど。シャベル意外と重い。

 先の方が幅広になってるから重心が遠くて重い。つらい。


 おれだけ先に下ろしちゃダメかな?

 ダメなんだろうな。


 少女が手にしている白い柄の、先端が鋭い氷で出来たスピアを見る。

 向こうの身じろぎに合わせて、袴服の肩で分離して肘から手首までを覆っている飾り袖が揺れ、氷の先端もゆれる。


「ふう……」


 少女がゆっくりと息をはく。

 それでも会った直後よりは、少し雰囲気は軟化した気がする。

 構えも念のためって感じみたいだし。


 だが、蒼い目はまだこちらを油断なく見据えたまま。

 喉元のヤリも突き刺されるワケではないが、まだ突き付けられてはいるのだ。


 シロかクロかで言うとまだおれの扱いはグレーなのだろう。

 結局どちらの色になるかは、これからの会話で変わるに違いない。

 一問一答の面接方式だ。

 なにそれかなり緊張する。


「……あなたは結局、犯人じゃないんですか?」

「違うって!」


 なんならシャベルを置いて両手も上げていい。

 さらに足を開いてもいい。

 しかも今ならその場でラジオ体操を始めるオマケ付きだ。


 下に出来ている水たまりをちらっと見る。


 さっきスケルトンを複数体まとめて倒してしまった技、魔法か技能スキルか判らないけど確か『アイスピラー(氷の柱)』とか言ったっけ。

 あれはとんでもない威力だった。

 シャベルをぶんぶん振ってるだけの人間じゃ、アレを食らったらひとたまりもないだろう。


 そもそもシャベルぶんぶんする人がまともに戦えるのって、ジャガイモかヘビくらいしか思いつかない。悲しい。


「悪い人にさっきのスケルトンと一緒に召喚されたモンスター、でもなく?」

「ええと、モンスターってこんなに会話通じるヤツがいるの?」


 ハッ! となって気付く少女。

 目を大きく開き、口が『Д』といった感じになる。


 あっなんかアスキーアートみたいな顔だ!

 驚いた時の顔文字みたいになったぞ!!


 しかし、やっぱりモンスターは基本的に対話は出来ないのか。

 まあヘビとかジャガイモとかを見る限り、問答無用で襲ってきてたからな。

 シャベルで戦うしかなかったからな。


 というかその事実にもっと早く気付いて欲しかった。

 出来れば槍を向ける前くらいに。

 あとおれの腕がつる前に。


「そもそもおれもこの洞窟へは、ただ調査に来ただけなんだって。

 調査って言うか、偶然こっちに来ちゃった感じだけど」


 さらに少女は意外そうな顔をする。


「えっ、私と同じ理由だったんですか?」

「そうだったのか?」

「はい、住んでた辺りの魔素マソがいきなり濃くなって、しかもモンスターがわーっと出てちゃったんで調べに来たんです」


 おお、大体同じだ。

 かなり似たような状況だった。


 そうするとおれとはまた別に、センティリアの街からこの洞窟に調査に来た人なのかな?

 冒険者だろうか?


 少し相手の素性が判明したため、安心した。


 それはあちらも同じだったようで、かなり気安く、


「じゃあ、あなたも『ワーロック』だったんですね!

 なんだ早く言って下さいよー、確かに、そうでもなければこの魔素の濃い中で会話なんて出来ませんからね!」


 言って胸の前で手のひらを合わせ、安堵の笑みを浮かべる。

 武器は意外と軽いのだろうか、ワキで挟んでいた。

 スピアはいつの間にかおれの首を射線から外されて、氷で鋭利な穂先を地面に向けている。


 いやあこの近くに他のお仲間さんがいたなんて知りませんでしたー、と続ける少女。

 そう早口で言って、カン違いの照れ隠しのように笑っている……、けど。


 …………?


「……なんのコト?」

「えっ」


 びくっと肩が動き、相手の動きがフリーズ。


 おれと彼女の間に不自然な沈黙が流れる。

 地底湖に上から水滴が落ちるポタン、という音だけが湖で反響した。


「……もしかして、違ったり?」

「何が? そっちもセンティリアの街から来たんじゃないの?

 他にここから近い街ってあったっけか?」

「………………」


 しまった、という顔になった少女が目を離し、横を向く。


 しかも気付いたらまた槍がおれの首の所にすすす……、と上がってきた。

 両腕で持ち上げるようにしてこちらに当てている。


 ……いやいや、さっき構え解いてたじゃん!!

 なんで!?

 そんなに刺したいの!?


「ど、どうした大丈夫か?」

「いえ別に冷や汗なんてかいてないですよ?」


 それは聞いてない。


 あと、そのヤバっ、な感じの横顔に伝っている水分はなんなんだ。

 汗じゃないのか。全然隠せてないウェット感はどう説明するんだ。

 なぜムリヤリ誤魔化しにいったのか。


「えーっと、先程の話は聞かなかったということで……」

「へ? 別に良いけど『わーろっく』って何の事?」

「き、聞かれてたーーーーーー!」

「うわああ腕を動かすなヤリが突き刺さるから!!」


 槍を持ってない方の手で頭を抱え、突如うわああと取り乱す。

 ついでに片手で無理して支えている槍がプルプル揺れる。

 どこがヤバいっておれの喉ぼとけがヤバい。


 一体何が起きたんだ。情緒不安定なのか。


「うあーー! だってだって、こんな魔素だらけの洞窟に入り込めるなんて、モンスターじゃなければ同じワーロックしかあり得ませんもん……。そんなの知りませんよ…………」


 おれも知らないと返したら、とっても恨みがましい目で見られた。

 だが、すぐにまた消沈する。顔が下を向いてしまったため、青い髪のつむじの所しか見えなくなってしまった。


 ため息をついてからたっぷり二、三分の後、


「いいですよ、知りたければ私の正体を洗いざらい話しましょう……」

「いやそんな話さなくても特に」

「話させて下さいーー!!」

「どうした突然!?」


 いきなりクワッとなった。

 いきなり必死の形相だ。


 ……おい、なんかやけくそになってないか?


 やっちゃった……、とまたすぐに、今度は悩むように下を向く。

 恐らく何らかの葛藤があるのだろうけど、横から見る分にはただの変な人だ。


 だがおれも、考え事してるとそう周りに言われることが稀に良くある。

 何故だ。


 でも、さっき聞いたワーロックという単語はなんだか重要そうだ。聞けるのなら説明してもらった方が良いかもしれない。と、適当に考えて直してみる。


 こんな洞窟の奥深くで聞く内容かどうか、と言われるといまいち疑問だけど。


「ふふ、そう言えばあなたの側からすれば、突然やって来た私も同じくらいアヤシイ人ですからね、ふふ…………。

 うふふ、お互いの潔白のためにも話してしまうのが正しいのでしょう……、はぁ…………」


 青い髪で隠れて、こちらからは表情が窺えない。

 さっきまでは警戒でキッと引き締めていた口元が、今は自虐っぽい笑みに歪んでいた。


 ………………。


 ……不安になってきた。


 あと怖い。


 ふふって笑われるたびに意図せずこっちに当たりそうになる槍も怖い。


 で、でも、相手は話そうとしてくれてるし。取り敢えずもう戦闘にはならなさそうだし。

 攻撃の意思はなくなったのだから、話の流れは結果オーライだとしよう。


 あとどうでも良いけど、さっきまではおれが追い詰められていたハズなのに、今はなんだか向こうが被害者っぽくなっているのが凄く気になる。

 ワーロックという単語、そんなに何か言ったらマズい禁句だったのだろうか。



「――そうです、さっき喋っちゃった通り、私は『魔人(ワーロック)』です」



 地面に槍を立てかけ、力なく呟く。

 大事な秘密を告白するような感じだ。


 ……しかし、それが何なのかこっちには判らない。


「へぇ」

「軽いっ!? 魔人ですよ、魔人ワーロック!」

「そのワーロック、ってどういう意味なんだ?」


 ……………………。


「えぇ……?」


 なんだか呆れられてしまった。

 とっても不本意です。


「えっと、じゃあそこから説明したほうがいいですか……?」

「ああうん、お願いします」


 そして謎の空気。


 今、こんな所(洞窟の中)で説明する話題じゃないよな、と思ったのはおれだけじゃないハズだ。


 しかしこの場は二人だけ、つまり流れを止められる人が誰もいないので、話の軌道がおかしくなってる気がするが修正できない。


 そもそもこの状況を止められる人なんて居るのだろうか。

 噛み付き力に定評のあるジャネットさんだろうか。

 いや人じゃないし。犬だし。


 まあ良いや。続けてもらおう。


 ……ただし。


「……判りました! 不肖ふしょうこのディーナめが解説しましょう!」


 妙な空元気を発揮した目の前の少女に告げる。


「うん、その前に一つだけ」

「はい?」



「そろそろ武器を下ろしませんかね?」

「……………………あっ」



 危うくアゴに刃先が刺さるところだった。







 互いに洞窟の奥で立ったまま話すこと、およそ10分。


 結局全部、彼女に説明してもらった。


 片方は青い髪とヒラヒラの袖を揺らしながら熱弁をふるい。

 片方は地底湖の前で、ほうほうふんふんと相づちを打ち叩き続けていた。


  そして相づちついでに、時たま湖の方を見たり洞窟の出口の方を見たりして、ホネホネなモンスターがやって来ないかどうか警戒していた。

 まあモンスターに襲われてもこの子が速攻で倒してくれそうだけどな、さっきの戦いを見る限り。

 シャベルも背負い直したため、ラクなもんである。


 ちなみに当の少女はと言うと、ほとんどこっちが何も知らないのを察したらしく、毒気を抜かれたようにというよりはやや呆れの分量が多めに、詳しく話してくれた。


「――――という事なんです! 判って戴けましたか?」

「ああうん、お疲れ様です」


 肩で息をしながらそう話を締める。

 途中から話に熱が入り、体力を消耗したのかもしれない。

 何が彼女をそこまで駆り立てるのか。


 それでも、聞いた話は結構興味深いものだった。

 つまり。


「まとめると、こういうコトか?」


 確認がてら、ざっくりと概要を話してまとめてみる。

 間違ってたらフォロー入れてもらえば良いかな。



 まず、この世界には純粋な人間・ヒューマンの他にも様々なヒト種族が生きている。

 例えばそれはエルフであったりドワーフであったり、ネコミミ猫しっぽの付いた猫人族キャットマン、イヌミミ犬しっぽの付いた犬人族ドッグマンであったりする。


 前者のより人間に姿形が近い種族は元々のヒューマン種から見て『亜人(デミヒューマン)』、後者のより他の動物の特徴を捉えている種族は『獣人(ビーストマン)』と呼称される。要は耳が長いという程度のエルフ族なら亜人、耳が人からちょっと離れて動物チックに進化しているなら扱いは獣人になる。

 ……これは確か、ギルドの係員さんからも聞いた話だな。


 ちなみに、これらヒト種以外の種族を全部ひっくるめると『変化した者(オルタード)』と総称されるらしい。ちょっとカッコいい。

 こちらはまあ、人から少し変化したという意味しか無いのだろう。あまり深く気にしなくて良いかもしれない。


 ただ、『変化した』というのは重要だ。


 その変化による特徴は、外見的なものに留まらない。


 例えば犬耳を持っていれば実際に聴力はヒト種よりも敏感になるし、ドワーフであれば並の人達よりもすば抜けて骨格がガッシリしているがために、普通では考えられない重量の荷物を扱えたりする。


 そして、さらに大きな変化がもう一つ。


 『魔素(マソ)への耐性』である。


 ぼく達わたし達がこの世界で持っているRES(魔法抵抗力)という値は、『魔法』を防げる度合いのパラメータではあるが、『魔素』への防御値ではない。


 魔素は五番目の元素であり、人や魔物は魔素を体に取り込んでから魔力(この魔力がMPの事だ)に換えて、それを四元素に働きかける事でさっきの氷の柱などの魔法を作り出している。だから魔法はあくまでも、『火』『水』『風』『土』の四元素というカテゴリに属する。


 根本的に、魔素自身は人間からはいじりようが無いのだ。


 例えるなら、人間の体の大部分は(炭素)(水素)(酸素)で出来ている。

 それでも、身体は水素をそのまま保持しているというワケでは無い。あくまでも酸素や二酸化炭素、水やたんぱく質といった形で、身体の構成に用いている。

 水素は激しい燃焼性を持っているから、そのまま体内に取り込んでいたら激しいコトになってしまう。やべえ。

 だから、酸素や食物や水として外から取り込んで栄養にする。

 安全な形に置き換えてから、自分の維持・成長に利用する。


 それが、魔素にもきっと同じように言えるようだ。

 不自然に魔素の濃度が高かったとしたら、その中にいる人間にも悪影響が出てしまうのは当然の事なのである。らしい。

 その結果が、センティリア市街で起きた大惨事なのだろう。


 ただ、亜人や獣人はある程度、魔素の濃い環境でも生存できる。

 それは、彼らが元々魔素の多い場所で子孫を残してきたから。結果、種族としてヒトから分かれ、幾つかの異なる特徴を持つようになったとの事。

 彼らの耳やシッポは、魔素との親和性を示しているとも言える。


 しかし。


 そんな亜人さんや獣人さんであっても、極端に魔素が濃い地帯では耐性も役に立たなくなってしまうんですよ、と蒼眼の少女が言う。

 一般的なヒト族と同じように、許容限界を超えた魔素にやられて最悪死んでしまうのだ。


 だが、そこでも生きていられるものが、二つある。


 一つ目が、魔物。


 魔物、いわゆるモンスターは、元々の生まれからして通常の生物と違う。

 原理は良く知らないが、その身体は魔素で形作られているんだそうだ。


 良く知らないというのは、彼女が父親からこの話を教わった時に、その父親自身良く知らなかったために教えてもらえなかったからとの事。


 …………いや、一番重要な所だよそこ。


 まあ、魔物は魔素から出来てるんだぜ、と判明したのは収穫か。


 そして二つ目。


 さっきまでの話ではヒトとその近傍の種ではヒューマン、デミヒューマン、ビーストマンと三種類に分けられていた。


 しかし、さらにもう一種『ヒト』は存在する。

 それが『魔人(ワーロック)』。


 魔素への耐性は単純なヒューマンから離れるほど高くなるが、ワーロックはその高い耐性を持つビーストマンの耐性をさらに超える。


 魔物しか居られないような厳しい環境下でも、平然と生存できてしまうのだ。持ち得る魔力も他の種に比べて比較的高い。

 その名前が示す通り、魔に対してけた人間であると言える。


 だが、それはある意味で他の種から見て誤解の元になる。

 魔素により親しい存在であるが故に起こってしまう認識。

 『魔人』は『魔物』に類似した存在なのではないか、という誤解。


 普通のヒューマンから見て、またビーストマンから見ても、ワーロックの性質は飛び抜けている。同じヒト種には見えないというのも、一理ある。


 そして遥か昔に起こったのが、魔人と他のヒト種との戦争。

 魔人を魔物と同一視し、排除するための戦争。


 好戦的な魔人も少なからず居たようだが、いかんせん種族としての数が少ない。

 結果は圧倒的な人数差によって魔人側がヒト、亜人、獣人の団結によって敗北した。


 そして敗者となった魔人族は弾圧されてその数を減らし、非戦の穏健派な魔人族の多くは世界各地に散り散りになって細々と暮らすようになった。他の人が寄り付かないような魔素の濃い地帯に隠れ里があったりするらしい。


「まあ実際には、その時の魔人のリーダーがちょっと鼻持ちならないかんじの人だったー、なんて話も残ってるんですけどね」


 なんせ数千年前に起こった逸話だから、大して記録も残ってないんだそうだ。

 だが、その影響は今にも多少残っている。


 例えば魔人(ワーロック)自体が珍しい存在であるため、奇異の目で見られやすいこと。


 戦争があったのはもう遥か昔のことだが、それでも魔人は他から見てあまり快く思われていない。魔人がその特異さから悪魔(デビル)だなんて悪名あくめいを付けられてしまっているのもその一端を示している。


 また、この帝国では特にひどくはないものの国によっては相応に身分が低く扱われてしまうため、魔人やそのハーフと言った血筋を持つ人が、


「奴隷に多い、か……」

「北にあるコールダートっていう国だと、けっこう奴隷の売買もされてるらしいです。貴族の方だといろんな魔人種の人を集めて一種のステータスにしてる人も居るみたいで」


 うわ、それはなんとも……。


 コレクション感覚なんだろうか、文化としての奴隷制がない国に住んでいた身としてはあまり想像できない話だ。


 ――とまあ、『魔人』とは概ねそのようなものであるようだ。


 さらに忙しい人向けに三行でまとめると、


・ヒト種には人、亜人、獣人に加えて魔人が存在する。

・魔素に強い。魔法もよく使えるので本能的に賢者タイプ。

・今では奴隷にされたりと、良くないイミで多少目立つ種族。




「だいたい合ってると思いますよ。

 ……二番目がちょっと良く判りませんけど」


 ダメ出しされた。


「だから魔人ってのは、すっっっっごく怖がられやすい存在なんです!」

「うーん…………」

「この話を知らなかったことは置いといても、それでも魔人が異質なのは判るでしょう?」


 そんな理由があるから、最初に自分から正体を話すときに緊張していたのか。

 もしかしたら、おれがその名前を聞いて怖がったり、イヤがったりするかもしれないと。


 ただ、魔人(ワーロック)の特性とか性質を聞いただけじゃ、まだ脅威になるかどうか判らないかな……。


「えーと、一つこっちからも訊いていい?」

「この際なんでも話しましょう」

「もしかして、世界を支配したかったり?」

「えっ? ……そんな事して何の意味が?」


 キョトンとした顔でこちらを見てくる。

 うん、おれも言っておいてアレな質問だなと思った。


 まあ見たところ、世界を半分くれてやろうフハハハなんて言いそうなテンプレ悪役ラスボスな感じではない。

 魔人とか聞くとどうしてもそんな悪者っぽい姿が浮かんでくるからなあ。


 この世界では魔人はむしろ、元の世界でもあったような民族差別・迫害のような要素を含んでいるようだ。


 ところで、『世界を半分』ってどうやって分割するんだろう。


 世界イコール地球だとすると、どう分けるのか。

 陸地とか海洋とかも面積を踏まえて考慮してくれるのだろうか?


 相手がもし意地の悪い奴だったら、「これで半分だぜイヤッフー!」なんて言いつつ北極の周りと南極海辺りを丸ごとこっちによこしてくるかもしれない。

 そしてその場所の管理を任される。


 なにそれ凄く嫌だ!

 住民がペンギンぐらいしかいねえ!!


 ……まあそんなコトはどうでも良いんだ。

 落ち着こう。


「じゃあ……、大陸を滅ぼそうとしてたり?」

「へ? そもそもこの辺りから遠出したこともあんまりないです」


 故郷はちょっと遠くにありますけど、と被告は供述。

 センティリアの街にも来たことも数度しか無いらしい。


 あまり無いケースだとは判っているけど、もし好奇の目にさらされたらと思うと人の多い所には及び腰になってしまうんだそうだ。


 なるほどな…………。


「じゃあ別に気にしないでおくよ」

「えぇえええ!?」

「だってさっきの説明だと、魔人への拒絶感みたいなものはどれも、誤解に近いんだろ?

 それなら今さら怖がったって仕方ないじゃんか」


 さっきした質問の答えも、過激な部分なんて無かったし。

 むしろ害が無さすぎて悪人扱いするのもバカバカしいほどだ。


 あそこでニヤリ顔で含み笑いでもされたりしたら、おれは異世界を守るために命懸けでこの少女と戦うしかなかった。シャベルで。そして多分負けた。


「そんなあっさり信用してもらえるなんて……。

 も、もしかしたら私がウソ付いて騙してるとか考えないんですか?

 信じた瞬間後ろから、ぐさー! とかするかもしれませんよ?」

「それ自分で言ったらダメじゃない?」

「あっ」


 なんというか、語るに落ちるってのはこの事かもしれない。

 間違った言葉の使い方な気がしないでもない。

 でも気にしない。


「そもそも最初におれのことを、『あなたがこの事態の犯人ですね』とかなんとか言ってたじゃんか。

 なら少なくとも、そちらも魔物のせいで困ってる同じ立場なことには変わらない」


 聞いた話だとワーロックというのは世間からの扱いが悪辣なようだけど、こうして意思疎通する分には普通だし。

 最初の最初に槍でつつかれそうになったけど。


「…………」

「…………」

「なんだかシャベルさん、変わった人ですね」

「何その話のまとめ方……。それとシャベルさんって」


 いや、シャベルさんって。

 変わった人と呼ばれるのはまあ慣れてるから良いとしても、そんな風に呼ばれるのは初めてだ。


「でも手に持ってるのってスコップ……、というよりシャベルですよね?

 あっ! もしかして鉱夫のかたでしたか?」

「違うけど?」

「じゃあなぜシャベルを……?」


 すげえ不審そうな顔されてる!!


 うむむむ。

 それを説明するには、かなり時間が掛かりそうだな……。


 と、その前に名前を訂正しておかなければ。

 このままシャベルさんとかシャベルマンとかMr. シャベラ―とか、面白おかしい名前で呼ばれ続けるのは少し不本意だ。特に地面を掘り進む予定もないし。


 そういや相手の名前も知らないな。さっきちらっと言ってたような気もするけど。

 先に自分の名前はアケミヤですと伝えておく。自己紹介タイムだ。


「アケミヤさん……。なんだかやっぱり変わった名前ですねえ。

 あ、私はディーナ・ウィンって言います」

「やっぱりって何!?」


 青い髪に蒼い目の少女が首を傾げる。

 いや、やっぱりて。


 でも確かに、よく考えるとこちらの世界では西洋っぽい名前の人が多いから、日本語でのネーミングは多少変わっていると言われるのは当たり前か。

 そうすると相手の名前の方も、どこか不思議な感じがする。


 ということで、アケミヤは姓でヒカリという名が……と少し補足。

 決して変わった人呼ばわりがイヤだったからではない。決して。


「あれ、ファミリーネーム(苗字)の方が先に来るんですか?」

「そうそう」


 驚かれてしまった。


 理由を聞いてみると、ディーナ・ウィンという『名・姓』の呼び方は正確には帝国やヒューマン種での一般的な形式であるらしい。

 魔人の間では昔から伝統として、『姓・名』でお互いを呼ぶんだそうだ。

 つまりウィンという苗字が前に来て、その後で名前のディーナが付く。


「ウィンというのは私の住んでた場所の全員についてる『魔人族の名』みたいなモノなので、呼ぶ時はディーナで構いませんよ」

「なるほどなるほど」

「そちらはヒカリさんでも良いですよね? ただ……」


 一体どうしたんだ?

 言葉を止めて、こちらをじっと見てくる。



「ヒカリさん、本当に魔人(ワーロック)じゃないんですか?」



「……え?」

「だってこの国では、そんな名前の名乗り方はしませんよ?

 それに黒い髪に黒い目のヒトなんて、あまり居ませんし……」


 ああ、そういうことか。


 それに答えるには、おれがそもそもこのエリネヴァスに来てしまった所から話さなければならない。シャベルの事も元をたどれば全部そこから始まっている。


 だが説明に時間もかかるし何より、こんなコトを話したところで、ねえ?

 また『異国人』なんだと言ってはぐらかすしか…………。

 

 ………………。


 ――――いや、違うか。


 どこが違うのかは判らないけど、どこかが違っている、というのは判る。

 一箇所だけ歯車が噛み合わないような感覚。


 目の前の少女、ディーナはこんな状況だからかも知れないが、自分の正体をこちらに明かしてくれた。

 自分が、他の人に怖がられるかもしれない存在であること。


 聞いた限りでは、その内容に偽りは無いようだ。

 そもそもウソを付けるような正確じゃなさそうだし。


 その正直な態度に、こちらが背を向けて良いのか?

 こちらだけが相手を騙すのか?


 やっぱりどこか間違ってる。


 それはどこか、不義理な気がする。


「あー…………」


 ちょっと躊躇うものの。

 もう心は決まっていた。


「気になる?」

「なります」


 即答されてしまう。

 まあこれで嫌われたりしても、仕方ないと諦めよう。

 その時はその時だ。


「……他の人には話さないって約束できるか? 口は固い方?」

「なっ、そんな重要な内容なんですか?」


 ……なんだか目を輝かせ始めた。

 途端に楽しそうだなこの子。


「任せて下さいヒカリさん! 誰にも話しませんから!

 ここで聞いたコトは他言無用です!!」


 ついでにイーッと白い歯を噛み締めて見せている。


 でもたぶん、噛む力って黙秘力と関係ない。


 そしてこの人、もしかすると結構ダメな子かもしれない……。

 そう疑念が湧いたが、よく考えると会った時にヤリを向けてテンパっていた時点でだいぶアレだった。


「まあ、それなら……。でも大した話じゃないぞ?」

「いいからお願いします! 早く!」

「うわぁいきなりグイグイ来た!!

 自分が話す時と全然テンションが違うじゃねぇか!!」

「当たり前です!」


 興味津々といった表情で詰め寄ってくる。

 槍をまたこちらに突き刺さんばかりの勢いだ。

 まあさすがにもう槍を構えてはいないんだけど。


 どうどう、と両手で牽制して落ち着かせる。


 あまり勿体ぶるのもおかしいとは思うものの、そう嬉しそうに聞かれても困る。

 ただの不幸話だし。いやもう本当の意味で。


「ほら落ち着けって。……取り敢えずディーナさん、」

「ディーで良いですよ」

「……ディー、『勇者』って知ってる?」


 ふえ? と一瞬戸惑ったものの、知ってますと答えるディー。

 やはり、魔人でも知っている有名な単語のようだ。


 反応を見るに、『魔人と勇者は敵対している』とか『勇者が魔人を街から排斥した』といった伝承が……、なんてのもないか。少なくとも敵愾心てきがいしんはなさそうだ。


 地味にあるかもしれないと邪推してしまっていたが、杞憂だったようだ。

 そんな事態になったらかなりヤバかった。アイスアケミヤの危機再び。


 まあ、無いなら全然オッケーだ。


「実はおれ、その『勇者』らしいんだ」

「なっ――――!?」

「けど…………」





 そうして話すこと、また10分ほど。

 もう魔素の霧の中でも、だいぶ目が利くようになってきた。


 辺りは依然として視界が悪いが、最初の方は「おお……」とか「えぇ……!?」とか面白いくらいに大きなリアクションを返していたディーの表情も、それなりに良く見えるようになっていた。


 ただ途中からは言葉も少なくなっていたが、今は下を向いてしまっている。

 槍を杖代わりにして、こちらからはまたもや青い髪でこちらからは表情が窺えなくなってしまった。


 話した内容としてはまあ、ほぼ最初の方から全部。

 宮殿に召喚され―の追い出され―のと、まるっと喋ってしまった。

 なるべく簡潔に話そうとはしたものの、意外と端折はしょれる部分が少なかった気もする。シャベルの事も言ったし。


 ……やっぱり、軽蔑されてしまっただろうか。

 異世界の危機、『侵攻』に立ち向かうハズの英雄の実態がこんなものだったんだから、まあそれも仕方ない。


「――――と、そんな感じでおれは結局成り行きでここまで来ちゃったけど、実際には皇宮に他の凄く強い勇者の人達もいるし……、って、ディー?」

「………………」


 途中から黙ったきり動かないディーナ。

 ……と思ったが今度は、上服と分離した袖の間から見えている肩を震わせていることに気が付いた。


 心配になり、思わず近寄る。


「お、おい、大丈夫か?」

「…………うぅ……」

「もしかして、体調が悪くなったとか!? それとも」

「私は、平気です、ズズッ…………」


 顔を袖でおさえたまま言う。

 言葉もつっかえつっかえだ。


 ……どうみても大丈夫じゃないんだけど。


 というか泣いてるじゃん!


 映画で、隣の席の人がちょっと集中できなくなるくらい泣いてるじゃん!

 鼻すすってるし!


「なんで泣いてんの!?」


 そこまでイヤな話だった!?

 ごめんね!?


「ひ、ヒカリさんが、かわいそうでかわいそうで……」

「いや、泣くなよ……」


 と思ったら、(あわ)れまれてしまっていた事が発覚。


「だってそんな、別の場所から遠い所まで飛ばされてそのうえ、一人で外に放り出されて…………」

「自分から出てったんだけどそれ」

「しかも今は街からも追い出されてるなんて、そんな!!」

「自分から出てったんだけどそれ……」


 一応、おれ自身で決めた結果なんだけど。

 しかし彼女的には相当な悲劇として受け取られたようだった。


 そんなにか。

 そんなにヒドイ展開だったのか。


 ……泣くほど悲しいシーンなんてあったかな?


 別に大した話はしてないし、チカン容疑で牢屋に入れられて宮殿から追い出されて、ステータスも低くて武器もシャベルになって、三日経ったら『魔素侵蝕マソシンショク』の事件に巻き込まれたってだけだから……。


 ………………。


 …………。


 ……。


 心当たりが多すぎて困る。

 ……もしかするとおれって、いやなんでもない。


 ようやく顔を上げると、その顔は涙で濡れていた。

 そしてこちらを励まそうとしているのか、健気に笑ってみせる。


 おれを元気づけようとしてくれているのか。

 本当は優しい子なのかもしれない。


 袴装束によく似た服の、袖で泣き顔をぐしぐしと拭う。


 上手く笑えてはいなかったが、それでも、



「個人的に悲しかったのは、皇帝陛下に下着を脱げと強要された場面ですね」



「自分で脱いだんだけどそれ」

 

 

 なんか話が変わっていた。

 

 

 やっぱりおバカな子なのかもしれない。

 

 


新ジャンル、『アホの子ミーツアホの子』。


暑い日が続きますが、体調に気を付けて頑張りましょう!


ではまた次回!

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