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第十六話 : どう見ても強制イベントのような

なんだか暑くなったり大雨が降ったり今度は寒くなったりと、変な日が続いていますね。


おかげで私のHPがもりもり減っていく(体調的な意味で)……。


それではこちら、金曜投稿予定だったものの改稿分になります!



 語歌堂さんと別れたおれは、一旦食堂に戻って農場の件をお祖父さんに報告した。

 彼女の方でも、宮殿に報告をしておくらしい。


 野菜を手に入れられなかった事を言うと、お祖父さんは少し考え込んでいたが、「まあ足りない分はメニューを差し替えれば良いじゃろ」という結論で落ち着いた。


 アドリブで料理をアレンジするなんて、デキるご老人である。


 で、おれはお使いのお礼として青銅貨を5枚程戴き、お昼としてコーンスープまでご馳走になってしまった。

 トウモロコシは備蓄が余っていたらしい。おいしかったです。


 野菜を取ってくる任務自体は失敗していたのに報酬を貰って良いのかどうか迷ったが、結局有難く戴いておいた。


 今のおれには金欠というほぼ人類共通の悩みであるバッドステータスが付いているのだ。


 ちなみに特に共通でも無いバステも大量に付いている、というのは今更の話である。


 本当は昼食はお祖父さんはもっと大量におれに食べさせたかったらしいが、こちらは固辞しておいた。

 優雅なブランチを既に済ましていたためだ。


 実際にはブランチとは名ばかりのフランさんにもらった巨大なパンの一気食いだったが。

 いや、おいしかったけど!


 当のフランさんはおれが報告に戻ってからすぐ、食材の補充のため出かけていった。

 食堂一家で飼っている犬、ジャネットの散歩も兼ねているらしい。

 ちなみに食堂のドアを開けて出る際に残したセリフは次の通り。


「じゃあ行ってきますー。

 ヒカリ、危ないことしちゃダメよー」

「はいっす」


 ドアに手をかけたところで、思い出したようにこちらを向いた。


 コーンの甘味がいい感じのスープを食べる手を止めて返事。

 おれが「行ってらっしゃい」というのも変な気がするから、返事はこんなもので良いだろう。


「午後ギルドで任務を受けるとしても、安全なものを受けるようにね、それから場所が遠いものとか治安の悪い所のもダメよー、受け付けの人とよく相談して決めなさい、それからそれから知らないおじさんに付いて行っちゃ」

「そんな事しませんから!

 早く出ないと、入り口で昼飯に来てる方達が詰まってるから!

 しかも何故か皆揃っておれを睨んでるから!!」


 なかなかにフランさんからおれへの信用の無さが増していることが窺えるワンシーンだった。

 知らないおじさんなんてすげえ久しぶりに聞いたぞ。


 ちなみに現代ではもう、知らないおじさんどころか『知っているお兄さん』でも危ない。皆も気を付けよう。


 どうしてかは判らないが金髪エドさんの爽やかな笑顔が脳裏に浮かんだが、まあ関係ないだろう。


 あと、なんでおれが店に入ってきた冒険者風の人にめっちゃ舌打ちされたんだろう。

 音にすると「ッチィッ!!」みたいな切れ味鋭い舌打ちだった。


 何が彼のヘイトを上げさせたのか。


 顔? フェイス?

 いやあ、幸薄そうな顔だねとはよく言われますね。


 そして入ってきてからも時たま彼を見やると視線がバッチリ合い、「ッターン!!」みたいな音を立てられた。


 おれはそれを聞いて、エンターキーじゃ無いんだから……、とスプーン片手に震え上がりながらスープに視線を戻していた。




 まあそんな感じで食堂に居るのがいたたまれなくなったので、昼飯を戴いて活力を取り戻したおれはそそくさと外に出たのだった。


 活力ついでに主に農場ら辺で減っていた正気度も回復したのは言うまでもない。


 収穫のつもりがマッチョな野菜に逆襲されて、しかもその後マッチョでは無いけどサイヤ人のようなステータスを持った少女にバックアタックを受けるだなんて誰が予想できるだろうか。


 おっと、そう言えばギルドにも農場の異変を報告した方が良いかもな。

 もう誰か報告してるかもしれないけど、一応おれも伝えておこう。


 ついでに余裕があれば何かラクそうなクエストを受けてお金を稼ごう。

 異世界独り立ち計画の一貫、その第一作戦だ。


 ちなみに第二以降はまだ考えていない。

 狸の皮算用どころか、算用すらしていない状況である。


 そうしておれは午後の予定をざっくりと決める。

 よく晴れた空の下、シャベルを背負い直して半袖短パンな出で立ちでギルドに向かう。


 ……パーカ達が汚れてたからお祖父さんに勧められて着替えたけど。


 この恰好、なんか夏休みの小学生みたいになってない? なってるよね?









「失礼しまーす」


 軽く挨拶してギルドのドアを開ける。

 すぐに係員のメガネさんと目が眼鏡越しに合う。


 メガネさんは読んでいた紙を下に仕舞うと、おれに会釈をした。


  昨日入会したばかりの冒険者が、ひょこっと半袖短パンにシャベルな格好で闖入して来ても一切彼の表情は動かなかった。


  これがプロか。


  ……もしくはただ単に諦められているのか。


「失礼します」


 もう一度言って、そちらの方へ向かう。

 彼の居るカウンターの前の空いている席に座った。


「昨日は申し訳ございませんでした。

 私も大分取り乱してしまっていたようで……」

「あ、いやいや、気にしないで下さい」


 手を横に振って、なんてこと無いですよアピールをする。

 実際、振っている当の手の傷は魔法で治療してもらったし、特にその後の痛みとかも起こることは無かった。

 魔法ってすごい。


 おれも覚えといたら便利そうではあるけど、確か『適正』が必要なんだよな……。


「それで、今日も昨日から続けて早速クエストを受けに来たんですけど……」

「ふむ。クエストならあちらのボード、クエストボードから任意の物を取ってきて戴ければこちらで受け取りますよ?」


 あ、そうか。

 そんな仕組みだったのを忘れてた。


 依頼書が貼ってあるボードから好きなクエストを選び、その紙を剥がして受付に持って行くんだった。

 おれは腰を上げ……、かけて止めた。


 そういやさっきの、


「おれが来る前に見てた紙って、あれは一体?」


 気になったので訊いてみた。

 確か向こうのボードに貼ってあるような紙と同じ形をしていたな。

 もしかすると何かのクエストかも知れない。


「ああ、ゼンノ草の採集依頼で、あ!」


 途中でハッと気付いて言い止まるメガネさん。

 焦ったようにこちらを見る。


 ますます気になったので更に聞いてみた。

 この冷静メガネさんが焦るなんてほとんど無いことだろう。

 ……それこそ目の前の人間が突如自分の人差し指に針でも刺さない限り。


「もしかすると、それって?」

「……はい。こちらになります」


 渋々、といった感じで机の下から紙を取り出す。だいぶ渋い顔だ。

 度合いで言うなら渋柿と渋栗の中間か。

 中間をとった意味は特に無い。


 それはやはり、依頼書だった。


 内容は『至急:回復薬の備蓄が予想より早く切れそうなので、再びゼンノ草を規定の本数、採取してきて欲しい』というもの。


 見て判る通り、依頼主は施療院から。

 昨日もお世話になったあの場所だ。


「この辺りで薬草が採れるのは西の森の手前の場所なのですが……」


 おれがこちらに向けて置かれた依頼書を読んでいると、メガネさんが付け足すように言う。


「昨日ヘビが出るとの目撃例があったので、依頼を伏せようと思っていた所でした」


 目撃例、の所でおれを見る。


 まあ確かにヘビと出会ったのは間違いないしな。

 ギルドに伝えたのは「死骸があった」と咄嗟に情報を曲げて言ってしまったけれど。

 まさか棒で殴り飛ばした上でこちらががっぷりと噛み付かれただなんて、そんなハッスルな話は言えない。


 メガネさんの伏せる、という言い方はオブラートに包んだ表現であって、実際にはクエスト自体がもう取り下げになってしまうのだろう。


「依頼目的の危険度が上がってしまうと扱いもより上の難易度(ランク)になる為、依頼自体の受注料が高くなってしまうので……」


 彼としても不本意な事態であるのか、沈痛な面持ちで告げる。


「今の難易度はどれ位だったんですか?」

「この採取量だと『銅Ⅲ』でした。ただ、出現する可能性が高くなった場合は、戦闘を考慮して『銅Ⅶ』まで上がります」

「なるほど……」


 結構上がるんだな、という印象だった。

 それだけ、モンスターの戦闘は重く見られているのだろう。


 ましてやあのヘビどもは群れを作り襲ってくる上に、一体一体がレベル10だ。

 ロクな武器も無い初心者が戦う相手では無い。


 ……あれ、おかしいな? 冷や汗が止まらないぞ?


「ちなみにこの依頼書にある至急、って?」

「今朝方にいらした施療院のエマさんによると、朝から妙に怪我人の数が多く、昨日そちらに集めて戴いた分では足りなくなってしまったようです」


 メガネさんの話では、今日は冒険者の依頼失敗も多いらしい。

 どういうことなんだろうか。


「その為人員不足に加えて上からの通達で魔物出現の危険区域も上がった為、ランクの低い依頼はキャンセル、後に依頼者に連絡、という事に……」

「あー……」


 なんと言うべきか。


 なんで聞いてしまったと言うべきか。


「えーっと、今ならまだ下げられて無いんですよね?」

「……?」

「おれが行って来ます」


 頭を掻きつつ言ってみる。


 ここまで詳しく話を聞いておいて、「ふーんそうなんだーがんばってねー」なんて意見になったら人としてマズイだろう。


 しかもおれがヘビと遭った所為でこうなったのかもしれないと思うと、もうダメだ。

 採取依頼が贅沢品ならまだしも、必需品である回復薬であると言うのも結構な罪悪感を助長している。



「場所は昨日と同じ所で良いんですよね?

 行ってきます!」









 メガネの彼はなかなかに粘った。

 猛反対だった。


「ランクの高い方が受注すれば済む話ですから」


 という宥め方から始まり、


「ギルドの上の決定ですので」

「ヒカリさんはまだ冒険者として経験が浅いですから……」


 的なテンプレ係員的な断り方で攻めてきた。

 いや、守ってきたと言うべきか。


 でもここで、じゃあ頑張って下さいね、ではおれ自身が納得しない。

 こちらもあらん限りの論破を試みた。


 具体的に言うと。


「今日ギルドで人員不足って言ったのはメガネさんじゃないですか!」


 だとか、


「取り下げられる直前のタイミングだった今なら、まだ受注できるんじゃ?」


 とかあーだこーだ言った末に、終いには苦肉の策を発動。


「うっ……くう、おれの手の、右手の指の調子が!?

 さらに詳しく言えば、手の人差し指が痛む……!?」


 と言って手をプルプルさせて反対の手で押さえた。


 言ってることは邪気な眼だが、やってることはただの脅迫である。


 どっちもロクでも無かった。


 結局、メガネさんの反対を押し切ってクエストを開始してきた。

 一応クエストという形を取っておかないと、施療院の方へ渡せないからね。


 もしかするとこうなることを予想して、彼は最初おれが採集依頼の事を尋ねた時に、しまった! 的な反応をしたのかもしれない。


 おれが無理やり引き受けたので、報酬は最悪貰えなくても構わない。係員さんにも大分ムリを言っちゃったからな。


 ……あれ、誰も得をしてないような…………?

 い、いや、きっと回復薬が無くなって困る人が居るハズだ!!


 最終的に彼は折れて、「魔物と遭遇したら、今回は戦わずに逃げて下さいよ」と念を押しておれを送り出した。


  昨日の顛末について完全に知られていたと気付いたのはついさっきだ。


  完全にバレていた。



 そうして昨日と同じように西門から平原に出て、ゼンノ草群生地に向かう所である。

 今は川沿いの道を歩いて、川を渡る木の橋に向かっている所だ。


 もはやこの依頼が日課になりかけている。


 ゼンノ草を規定量取ってくるだけの簡単なお仕事です。

 お給料は日当、時間帯も任意、活気のあって明るい職場です。

 ……ヘビも活気付いていますけど。


 まあ遠くから森の近くの様子を見て、こりゃムリっすわ……って感じになってたら、すぐに帰還しよう。安全第一で行こう。


 と、適当な事を考えつつ歩いていると。



「う、うわあぁぁぁぁ!!」



 悲鳴が聞こえた。

 声は男性、大きさから言ってそう遠くない場所だ。

 素早く前の方を見渡した。


「助けてくれえぇええ!」


 いた!


 先にある橋の中央だ!


「『ダッシュ』!」


 反射的にスキルを使い、そちらに走りだす。

 舗装路を外れて橋に最短路で向かう。


 見ると、橋の上で荷車、手押し車が放置されている。

 その前には頭に羽根帽子を被った人と、――――ヘビが居た。


 赤く長い胴にそれよりも赤く光っている眼。

 間違いない、昨日も遭ったヘビの魔物、スモールレッドボアだ。

 それが見た限りで三体、帽子の人を襲っている。


 帽子の男の方は武器を持って……あ、持ってる。



 でもあれ、木の棒だ。



 なんだか凄く見覚えがある感じになっていた。

 ヘビの数と場所が違う以外はほぼ同じ状況だ。


 来るなあ、とか言いながらへっぴり腰で振り回してるけど……。

 あんな木の棒でどうやって身を守ろうと言うのか。


 橋を一気に駆け上がっていく。

 ここは、早く援護に入らなければ!

 このおれの、――――シャベル(ウェポン)で!!


 素早く背中からでっかいスコップを横回しに引き抜き、下段に構える。

 人とヘビとの間に割り込むようにして脇の方から突入。


「折れた木の棒の恨みいぃいいい!!」


 ついでにヘビの一体を横ざまにスコップの先で叩き飛ばした!

 スコップの先制攻撃だべ!


 橋の欄干に叩き付けられ、動かなくなるヘビ。

 ちっ、本当は下に流れる川に落として、場外行きにしてやろうかと目論んでたんだが……。

 まあいいや、手すりにぶつかった時にむしろダメージが入ったみたいだし。


 呆気に取られていた残りの二体のヘビとおまけに帽子の人の注意が、こちらに集まる。


「これを使って下さい!」


 後ろに庇う形になった帽子の人、荷車から考えて行商人だろうか、に向かっておれは腰からまた別の予備武器(サブウェポン)を引き抜き、パスした。


「それなら木の棒よりは役に立つハズだ!」

「いやこれ、ツルハシじゃ」

「おれが先に攻撃を仕掛けます!」


 叫ぶや否や、残った二体の内一体に狙いを定めて、突進。

 『ダッシュ』はさっき使ったから、今回は控える。SPの温存だ。


 思いっきりシャベルを振りかぶって……、腕が止まる。

 ……この木の橋、キズつけちゃったら後で怒られるかもしれない。

 上からヘビに向けて振り下ろしたら橋に刺さっちゃうんじゃ?


 でももう勢いが止まらない!

 おれはヘビの前で無理やり態勢を反らして、


「シャベルキック!!」


 鎌首に向けて水平蹴りを当てた!


「なんで蹴った!?」


 後ろから何か聞こえるが気にしない。

 そのまま体格差を活かして、ダメージを与えた一体を更にシャベルで攻撃。


「シャベル踏み付け! シャベルドロップキック!」


 そして、相手の動きが止まる。

 敵のHPが0になったのだ。


 おれは調子こいて繰り出した飛び蹴りの態勢で地面に横倒しになっていた。が、その状態で残ったヘビを警戒する。

 いざとなればすぐさま転がって起き上がる構えだ。


 だが、残りの一体は。


 シュルシュルシュル……。


 素早く橋の向こうへ降りて、逃げていってしまった。

 最初に吹き飛ばしたヤツを『眼』で見る。と、そちらのHPは既に切れていた。


 これならすぐに青い光が出て、完全に倒した事が確認できるだろう。


 戦闘が終わったのだ。


 安全なのを確かめてから、おれは武器を渡した行商の人を見た。

 向こうもツルハシを両手で持ちつつ、こちらを見返していた。


 ……大分微妙な表情だった。

 なんで君、橋の上で寝そべってるの? という顔だった。

 あとついでに、なんで君、シャベル放り出したの? という顔もしていた。


 おれはごろごろと転がって横に放り出されていたシャベルを掴み、それを支えにしてよいしょっと立ち上がった。


 そして助けた相手をキリッとした顔で見る。


「お怪我はありませんか?」

「あ、ありがとう……」


 そう言ってツルハシをこちらに返してくる相手。

 ついでに気になったのか、おれに聞いてきた。


「下、ずれてるよ?」


 おれは下を向いてツルハシを腰に差した。

 ついでに脱げかけていたズボンを履き直した。





「武器とかは持ってなかったんですか?」


 そうおれが訊くと、行商の人は困ったように笑った。


「この辺りはいつもは安全だったんだけどねえ」


 それこそ、冒険者を雇ったり武装しなくても良い程治安が良かったらしい。

 RPGお馴染みの山賊やら盗賊やらも出ないんだそうだ。


「ましてや、こんな街に近い所で魔物が出るなんて……」

「うむむ……」


 このヘビ達は、昨日近くに行った、あの森から出てきたのだろうか。

 周りを見回しても、広い平原に他のモンスターの姿は見えなかった。


 気になるのはこっちに来た理由だ。

 森から橋に来たヘビは、一体何をしようとしていたんだ?


 まさか行商人や通行人を襲う、と言った理由では無いだろう。

 それこそ人間の盗賊がやりそうなことだが、魔物には盗みなんて必要ない。気がする。


 森から橋を見て、その先の延長線上。


 後ろを振り返る。

 すると、そう離れていない所に首都センティリアの西門が見えた。


 ……街に入ろうとしていた?


 いやでも、入ろうとした所で街は城壁に囲まれているし、門にはスタアァァップ! と言ってきそうな屈強な衛兵が立っている。

 街中だってマッチョフルな冒険者も多いし、強面こわもての憲兵も在中してる。


 魔物が一体二体迷い込んだところで、へいよーぐっつすっすして速攻で倒されるだろう。


 しかし妙に不安な感じがする。


 ギルドか、もしくは街の人、まあお祖父さん辺りにこの事を伝えた方が良いような気が……。


「君はこれからどうするんだい?」


 考え込んでいると行商のお兄さんから声が掛かった。


「僕はもう街に戻ることにするよ。物騒だからね……」


 普段居ない場所に魔物が出たことを言っているのだろう。

 それなら丁度良い、彼にお願いしておこうかな。


「あ、じゃあ、戻るついでにどこかのギルドにでも今の事を報告しておいて戴けませんか?」

「それはもちろん構わないけど……。

 君は戻らないのか?」


 おれも一緒に帰った方が良いのかも知れない、けど……。


 ヘビが一匹逃げて行った方向を見る。


 どう考えても、向こうにあるのは例のゼンノ草の群生地と、その奥の森だろう。


 視界の端のステータス、自分のHPは僅かにダメージを受けた程度で2も減っていない。つまり20はある。

 多いかどうかは知らない。

 語歌堂さんの二割くらいの最大HPだとは知ってる。

 SPはたった今全快した。


 ……いけるかな?


「いや、おれは少し街道と森の方を見てきますよ」

「え、危なくないか!?」

「危なくなったらすぐ逃げますよ」


 これは別に相手を安心させるため、とかではなくただのホンネだ。

 別にこんな所でむざむざと斃れたくは無いからね。


 例えるなら、「へへ、こんなとこでオレが死ぬもんかよ……。ほら、先に行け!」みたいな感じだ。


 それに、と続ける。

 ついでに自信たっぷりのドヤ顔を浮かべた。


「こんなんでも冒険者ですからね!」

「へ、へえ……」


 あっおれの武器見てる!

 見た上で微妙な顔になってる!!


 ええじゃないか!

 冒険者がシャベル持ったってええじゃないか!

 半袖短パンでシャベル担いでてもええじゃないか!


「うん……まあさっきの様子見たら僕よりは腕が立ちそうだし……。

 判った、僕は冒険者ギルドと、あと僕が入ってる商会ギルドに伝達しておくよ」

「助かります」

「いや、助けて貰ったのは僕の方さ。あ、そうだ」


 おれに背を向けて、手押し車の覆いを開けて中を探り始める。

 と、すぐに何かを取り出してフタを閉じた。


 こっちを人の良い笑顔で向く。


 いい感じの商人なスマイルだ。とても好感が持てる。

 きっとこんな笑顔で気の利いた品物の売り文句でも言えば、マダムたちがこぞって詰め寄るだろう。


「そうだ、お礼にこれをやるよ!」

「……?」

「見たところ持ってないんだろ?

 ほら、アイテムポーチだ!」

「おお!」


 渡されたのは、腰に付けるタイプの革のポーチ。


 大きさは大学ノートくらいで、厚みは10センチほどだろうか?


 動作の邪魔にならないように作られている。

 きっと背負うのではなく腰に付けるのも、武器と装備する場所が被らないように工夫した結果だろう。

 勿論リュックサックと比べると物も格段に取り出し易い。なにせ手を下ろした位置にすぐポーチの口が届くのだから。


 これなら、ポーションを入れておいたり、戦闘中にクッキーを食べたくなった時もすぐに取り出せる。


 ……自分で言ってて後者はどうなんだろうと思う。


 でも食べ物が回復アイテムのゲームってよくあるよね。

 あれってどんな仕組みなんだろうか。


 百歩譲って体力が回復するのは良いとしても、傷ついた仲間に食欲なんてあるのだろうか。

 仲間の一人が瀕死のダメージを受けて倒れた瞬間、その口にハンバーガーを詰め込むのだろうか。


 しかも場合によっては何個も何個も、味方が揃って詰め込んでくる。


 こちらを心配そうな顔で見つつ、食べ物を口をこじ開けて流し込む。



 どう見てもトドメを刺しに行っている。



 モチとかが回復アイテムだったら確実に殺人罪だ。



 っとと、考えが逸れてしまった。


 ここで装備していくかい? と言われたので、早速受け取って装備してみる。


 場所はツルハシ二本を持つ方の反対の腰だ。

 ポーチのホルダーはツルハシのホルダーと一緒に腰に巻くことになるが、腰でぐるっと二つがクロス、要はバッテンになるように装着することで対処。


 むしろ両サイドの重さが均等になったから、身体がラクになった。


 そしてちょっと格好が冒険者っぽくなった。

 これが重要だ。


「これはいいものだ……」

「そうだろう? じゃあ僕は行くよ。くれぐれも気を付けてな」

「判りました、ではまた!」


 結局話はそんな感じでまとまった。


 そうして、気を付けろよ、と念を押してこっちに言って街に戻った行商の人と別れ、おれは素早く森の方へ向かったのだった。







 そして、素早く橋を戻って荷車を押す行商の人と合流。


「……え? 君、どうした?」

「ええっと……」

「まさかあのヘビがまた、群れて来たのか!?」


 おれは正直に答えた。



「あの、大きめの袋か何か、貸して戴けません?」



 詳しく事情を説明すると、


「何しに行くつもりだったんだ……?」


 と言われつつ、何とも言えない顔付きで麻の大袋を渡された。


 いや違う、おれだって忘れてたワケじゃ無いんだ。


 依頼を受けた時にね、こう……忙しかったから!!


お読み戴きありがとうございました!


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