第十二話 : 農場物語
文章をコンパクトにまとめる力が欲しい……!
でもコンパクトにすると話の中身がポテトチップ並のサクサクペラペラに……。
「ここが例の共有農場かな?」
首都センティリアの中央通りを南下して南の門から市街に出た所の草原。
首都の南に位置するこの広大な草原、名前を『リヴァド草原』と呼ぶらしい。門番がそう話してくれたので間違いないだろう。
名前の由来は『二つの川に挟まれた』という意味だそうで。
確かに首都を含めてこの草原は、北から南に向かって伸びる中規模の川によって両側を挟まれているのだ。
昨日行き帰りした西の平原は川に掛かる橋を越えた所にあったなあ、と思い出す。
そしてそこから更にえっちらおっちらと歩いていくことおよそ三十分。
目の前に広大な柵が見えた。
内側には耕土らしきものが伺える。
間違いない、ここが目的の共有農場だ。
と、ヒュウっと大きな風が吹いたため、持っていた大袋が飛ばされないように片手で抑える。
この辺りは地面が平らなまま広がっている地形だからか、周りに障害物がなくて風の影響を受けやすいみたいだ。
でも、周りの草が揃って風になびいているのを見るのは壮観だった。
日本の都会にいたら見れないような光景だっただろう。
「入り口、入り口は……?」
ずっと連なっている木の柵に沿って歩きつつ、入れそうな所を探す。
柵は、野菜の盗難防止とか魔物避けとかに設置されているのだと推測。
しかし、結局何事もなく普通に目的地に着いちゃったなあ。
……いや、別に期待していたワケじゃないけどね!
おれに被虐趣味は無い。
そんなのあるのはヨシヒコくらいだ。
ただ、拍子抜けではある。
元から方向オンチでは無い方だしお祖父さんのメモもあったから、迷うこと無く一直線でこの農場にやって来ることが出来た。
ついでに言えばこの農場に来るまでモンスターとも一体も遭遇せず。
あまりの遭遇しなさに道中、「罠かっ!?」と身構えそうになってしまったが、やっぱり出現しなかったのだった。
まあ、身構えると言っても大きなパンのせいでシャベルもツルハシも構えられなかったけど。
逆転の発想でパン自体を両手で構えてみたりもした。
自分が何をしたいのか判らなくなった。
何も逆転した要素がない。
……投げるの?
いや、食べ物を粗末にしちゃダメだろう!
ということで、ここまでおれのメインウェポンであるシャベルも、サブウェポンとして追加された両腰のツルハシも、小脇に抱えた飛び道具のパンも出番が無かった。
おれの運の無さと昨日起こった事から考えれば辿り着くまで、何度かモンスターと戦闘が起こったり、途中でにわかに雨が降り出したり、意味なく落とし穴に引っかかったり、パンを咥えて走ってきた女子と正面衝突してもおかしくないんだけどな。
……多分最後のはLUC値がむしろ高くないと起こらないイベントだった。
あとパン持ってるのはおれの方だし。
咥えるには難易度高いけど。
試しに咥えたら視界がパンで埋まったけど。
そうして歩いていると、パンの表面がガチガチになったくらいのタイミングで遠くの方に柵に囲まれた土地が見えた。
ので、そちらに深く考えずに進んで来て現在に至るのである。
あ、ちなみにパンはもちろん後で食べる。
別にパン派という訳では無いけど、米に比べて調理後の保存性に優れているという点ではパンは勝っているだろう。
米は炊く前の状態ならば乾いた温度の低い環境下であれば暫くは放置しておけるが、一度炊いてしまうと水分を吸った事により時間が経つと傷んでしまうか、もしくは再び水分が抜けて乾きひどい味になってしまう。
これは、食物のα化、β化と呼ばれる現象だ。
無加工である米はβ状態と呼び、このβ米を『炊く』事によって水分を与えると米はα状態、おれ達が通常食べている白米になる。これがα化。
しかし時間経過によって米が老化してしまうと、α状態だった米はまたβに戻ってしまう。
そのため米は保存性に長けているとは言い辛いのだ。
だがパンは、こうして表面が固くなることによって中の生地の柔らかさを保つことが出来るのだ。
表皮が先にβ化を起こす事によって、中の生地は水分が放出されなくなり、内側ではα状態が保たれる、という理屈なのである。
そう考えるとパンって結構スゴイでしょ?
おれは丸いフランスパンの両側を両手で引っ張った。
そして力を込める。
だからですね、一度焼いてしまえばパンは食べたい時にはこうして割ってしまえば……。
割ってしまえば……。
割って……。
ミシミシ。
おれの指が割れそうになった。
「割れなかったーーー! 固いなコレ!!」
何これ、異世界のパンってこんなに固いの!?
もはや岩石だよ!!
それとも白パンじゃなくて黒パン、ライ麦パンだからか!?
笑顔でパンの良さを実演しようと思ったのにまさかの失敗。
料理番組だったら速攻で降板させられていた。
……後でどこかにぶつけるか、ツルハシで叩き割ろう。
おれの武器・ツルハシの最初の仕事が決まった瞬間である。
もはやどこから使い方を間違ってるのかも判らなくなった。
そうして適当な事をやっている間に、柵に挟まれた白塗りの木の門に辿り着いた。
どうやらここが入り口みたいだな。
『食糧品ギルド管轄 共有農場』って書いてあるし。
あれ? そういやなんでおれ、この世界の文字が読めたんだろう?
これも最初宮殿で聞いた『言語補助能力』のおかげなのかな?
とすると、おれがこの世界の文字を書くことも出来るのだろうか。
例えるなら何もせずに英検1級になる感覚か。
なにそれ便利。
まあいいか。
入ろう入ろう。
そうして門から農場に立ち入ろうとすると、途中で小型の柵が行く手を塞いでいるのを発見した。
なんというか、……地下鉄の改札に似ていなくもない形をしている。
駅だったら係員が待機してそうな、改札横の窓口みたいなのもあるし。
今は人は居ないみたいだけど。
そのゲートの横手を見れば、四角形の硝子板のようなボードが嵌めこまれた台座が置いてある。
半透明なボードには、おれには読めない文字でごちゃごちゃと何やら書いてあった。
それに加えて、ところどころ円形やら三角形やらが組み合わさったような図形まで記されている。
もしや、ウワサに聞く魔法陣と言うヤツだろうか。
うーん……?
(確か、この紙を使えってお祖父さんが言ってたな……)
ジーンズのポケットから野菜の足りないものリストと一緒に貰った厚紙を取り出す。
なんだかんだで食堂の準備が忙しくなって来ていたため、貰いはしたものの使い方が判らないという、いまいち存在意義がアヤシイ紙だった。
たぶん、この農場に入るための方法が書いてあるに違いない。
そしてその為のアドバイスとか、入り口の仕組みとかが詳細に書いてあるに違いない。
ファンタジーらしく、何か暗証番号代わりみたいな魔法や呪文を唱えるのかも。きっとそうだ。
ちょっと面白そうだな。
自分で呪文を実際に使うなんてのは初めてかもしれない。
二つ折りにしていた紙を拡げてみる。
すると、紙は元のスマートフォン程度の大きさに戻った。
おお、何か書いてあるな。
『共有農場許可書』
なるほど、これ自体がもう既に許可証だったのか。
お祖父さん、そんな気軽におれに渡しちゃって良いんだろうか。
さてさて肝心の呪文は……?
『紙を認証プレートに接触させて下さい』
認証プレート? ああ、コレの事?
許可書を入り口の隣にある台座のガラスにひょいっと当ててみる。
ピピッ!
音を立てて目の前の柵、というかゲートが開いた。
横から突き出すように出ていた鉄の棒が、ガシャッと引っ込んでいったのだ。
………………。
えぇ……?
……いや? 別に何も文句がある訳じゃないよ?
ただもうちょっとこう、ファンタジーぽいのを想像してたんだけどな……。
まさかの完全に改札だった。
なにこの許可書。PASM○なの?
いや、便利で良いんだけどね?
なんでそんなに電子音ぽい音でピピッとか言っちゃうんだろう。
おれは微妙に釈然としない気持ちになりつつも、パンを抱えた状態でゲートをくぐって中に入って行った。
通り過ぎると、後ろでまたガシャリとゲートが閉まった。
もう何も言うまい。
そういや今は起動してないけど、『智識の目』も妙にデジタルチックだった気が……。
後で時間が出来たら詳しく調べてみよう。
中に入って暫く歩くと、列状になって盛り上がっている耕土の地帯に着いた。
等間隔で緑色の葉が並び、土を覆うようにして生えているのが見える。
野菜が青々と育っているのだ。
「おお……!!」
おおお、農場っぽい!
こんな風景を見るのなんて、小学校の頃に遠足に行って芋掘り体験をした時くらいだ。
あちらはサツマイモだったけど、今回はジャガイモだ。
ちなみにここがジャガイモ畑であることは、おれの目の前に突き刺さっている看板に書いてある『ジャガイモ』という文字で明らかである。
これ以上なくポテトな畑だった。
ついでに丁度良いので看板の上に、抱えていたパンを置く。
意外と安定した。
……けど、なんか変なカカシみたいになったなコレ!
更についでにツルハシ二本も金属のヘッド部分を看板に引っ掛けてぶら下げた。
パンが頭、看板が胴体、ツルハシが腕になったカカシの出来上がりだ。
いや、決して遊んでいるワケではない。
なんか歩いてると結構邪魔なんだよ、ツルハシ……。
親方から貰ったのは有難いし確かに『武器じゃないけど武器として扱える』という意味では使えるかもしれない。
しれないが、既にシャベルを持った身では持ち運びがし辛いというのも事実なのだ。
帰ったらもうちょっと腰のホルダーの位置を調整しよう。
今のままだと歩く度にツルハシの尖った部分が腰の前辺りまでフラフラと動いて、その、いろいろと危うい。
もちろん下半身的な意味で。
よし、身軽になった。
装備がシャベルだけになったので、ジャンプして軽くストレッチをする。
遂におれはシャベルにツルハシにパンを持ったフルアーマーの変人から、シャベルを背負った変人に戻ったのだ。
もう深く考えてはいけない。
それじゃあ、お祖父さんからの依頼をこなしちゃいましょうかね!
まずはジャガイモからだ!
農地に足を踏み入れる。
野菜を踏み抜かないように耕土の谷になった所を歩いて、と。
入り口は自動改札だったけど、中は普通に農場やってるじゃんか。
ほら、ジャガイモだってこんなに豊かに…………って、アレ?
おかしいな。
目を擦る。
おれはジャガイモ畑に野菜を取りに来たんだよな?
ここにあるのはジャガイモなんだよな?
おれの目がおかしいのかな。
視力は両方共2.0あるはずなんだけど。
野菜が、なんかデカい。
「な、なんだこれ!?」
何あれ!? 大きすぎるだろ!!
畑に埋まっていたジャガイモ、またの名を馬鈴薯。
そのジャガイモは、テニスボール程の大きさの物が複数まとまっている、という元の世界の同じ野菜とは全く異なり、一つの実が10センチ程の大きさになって地面から頭を出していた。
多分引っこ抜いたらバスケットボール位の大きさになるんじゃなかろうか。
一つのジャガイモが、持ってきたフランスパンくらいあるぞ!?
巷で話題になるお化け野菜とか、そういうレベルじゃ無い。
もう同じ名前の全く違う野菜だろと言いたくなる程の差だ。
実はスイカでしたとか言われても驚かない。
いや、違うか。
この世界でも普通のジャガイモはあるみたいだ。
周りをざっと見る限り、大体のイモは元の世界でも見かけるようなそれと同じ形だった。
だが、幾つかのジャガイモが異常に、デカい。
ま、待て。落ち着こう。
おれはじりじりと目の前の巨大ポテトから後退して、距離を置いた。
もちろんそのビッグな野菜から目は離さない。
もしかしたら、異世界の野菜は巨大なサイズになるのかもしれない。
食堂のお祖父さんに聞けば、きっと野菜がここまで大きくなる理由とかも説明してくれる。
案外昨日は話題に出なかっただけで、実は食堂にも『巨大ジャガイモの薄切り揚げ』とか隠しメニューが存在するんじゃないかな。
どうやったらそんなの揚げられるのか判らないけど、まあ美味しそうだ。
それなら良いや、早く目標数の野菜を集めて食堂に戻ろう。
午後までには食材を補充しないといけないと言っていたからな。
今ならさっさと集めれば陽がそう高くならない内に帰ることが出来るだろう。
取り敢えず、あの妙に大きな野菜は無視して小さい普通のサイズの物を取ろう。
でも、あれ?
どうしてこんな野菜があるなら、バザールの果物屋や野菜家でも品物が出ていなかったんだ――――?
と、思った時。
――――にょきっ。
巨大ポテトから腕が生えた。
「…………えっ?」
次回、『あまりにクワが似合いそうな主人公』
それではまた!




