第九話 : バカ・ゴー・ホーム
ぬうううすみません!
金曜投稿のハズが、バイトで出来ずじまい……。
出来るだけ平日は投稿するよう努めて参ります!
前回のあらすじ。
武器がシャベルになった。
「……んですけど、どうしましょうコレ」
「そうだね……」
隣を歩く金髪の青年、エドさんに訊いてみる。
青年って言ったけど、実際この人の年齢って幾つなんだろうか。
鍛冶屋の親方には坊っちゃんとか呼ばれてたし、案外おれと同い年かもしれない。
もしかしたらおれより下の可能性もある。
背がデコ一つ分は負けていることはこの際無視しておく。
でないと心が折れるから!
疑問と言えばもう一つ。
おれの事はボウズと呼んでいた親方が、エドさんに対しては坊っちゃんと呼んだのも気になる。
坊っちゃんなんて言葉が出てくるのは、どこか偉い人のお子さんを呼ぶ時か夏目漱石ぐらいだと相場が決まっている。
いや、別に決まってはいないけど。
普通に小さな子どもに優しく話しかける時とかにもたまに見かけるけど。
でも、あの職人気質な、悪く言えばぶっきらぼうなドワーフの親方が、そうそう相手を坊っちゃんなんで呼称するだろうか。小馬鹿にしてそう呼んでる感じでも無かったし。
するとエドさん、実は結構偉い人だったりして?
優雅な物腰、丁寧な口調。
皇族が宮殿に住み優雅に暮らしているような世界だ、貴族だ華族だと登場してきても今更驚きはしない。むしろその方がしっくりくる。大商人の御曹司、とかも割と納得できる。
これで実は僕は農民だったんだイエーイ、なんて言われたらおれの中の異世界イメージがベルリンの壁のように崩壊してしまう。
もう既に宮殿から追い出された時点で崩壊しているのは秘密だ。
まあ、彼が冒険者として活動してる理由は判らないけど。
判らない、と言うとエドさんがおれを庇った理由も詳しくは判らなかった。
本人に鍛冶屋を出た時にそれとなく訊いてみたのだが、爽やかに笑って誤魔化されてしまったのだ。
ついでに「愛の為せる技さ」と言われた。親方に向けた愛であると信じたい。
もしくは異世界ジョークだろう。
でも、と考える。
あそこまで咄嗟に嘘を付ける、と言う事はつまり。
…………おれの状況を知っていた?
いや!!
そんな事あるワケない!
施療院でだって鍛冶屋までの道のりでだって、おれは自分の中でのトップシークレット、『ぱちもんの勇者であること』だけは一言も漏らしていなかったハズだ。
まさか、記憶や考えを読み取る事が出来る『技能』があるのか?
それでおれを良いようにこき使おうと?
いや、とそれも首を傾げて否定する。
それだとおれをターゲットにする理由が見当たらない。わざわざ勇者としての補正の無くなったへっぽこを目当てにするよりも、本当の勇者である優也や語歌堂さん、平野くんを対象に技能を使った方がよっぽど有用だ。
他にもいろいろ考えられるけど…………。
よし、試してみよう。
下手な考え休むに似たり、だ。
おれは適当な事を頭で考えてみた!
(ちくわ大明神)
…………。
……。
よし、反応が無い! 彼はシロだ!
と、エドさんがおれの視線に気付いた。
「なんだい? どうする、それが気に入らないなら返してこようか?」
おれの背中のシャベルを指差す。
「いや、大丈夫ですよ。一先ずこれで試してみます」
「シャベルに試すも何もあるのかな……?」
そう言われてもおれにも答えられない。
というか答えようがない。
まさか鍛冶屋に武器を買いに行ったら、個人用の鉄製土木用工具を渡されるとは。
それでも親方のお手製だったそうで。
大工の職人にまとめて売る予定が一本間違って多く造ってしまったため、店奥の鍛冶場に転がして置いたらしい。可哀想に。
炉に燃料くべる時にでも使おうと思っていたところで、突然買い手がやって来たそうだ。
おれの事である。
おれとしては武器を手に入れる最後のチャンスとして装備を選んだつもりだったし、周りの二人もそれで納得していたのだが、フタを開けてみれば大型スコップを両手で下段に構えている謎の人物が突っ立っていた。
おれの事である。
一体何と戦おうって言うんだ。
土でも耕すのか。
ガイアがおれに耕せと囁いているのか。
どうしてこうなった。
しかし流れ的に「いや、やっぱこれはノーカンで……」なんて言えるような空気では無く、エドさんも親方も首を傾げつつもおれの武器がようやく決まったことをパチ……パチ……、と拍手して祝福した。
すげえ微妙な雰囲気だった。
それでも親方はせっかく使うんだからと、棒の先に三角形の平板が付いた取っ手すらないシンプルなシャベルを改良してくれた。
柄の端の方に革を巻き付け、更に普段背負うための革紐、つまり簡易なショルダーストラップまで追加してくれたのだ。
これらのおかげで、おれは全長1メートルを超えるシャベルを楽に持ち運べるようになった。
ありがたい事だ。
普段は背中に背負っていて、必要になったら構える。
構える動作も試しつつホルダーを付けてもらったのだけど、背中に斜めになるようにシャベルを背負っていた場合、構える際には背後の下から刃先を持ち上げるように前に持っていくのが一番効率が良いことが判明した。というか親方からアドバイスされた。
意外にもゲームなどからイメージしていた、肩の上からぶんっと下ろすように構えるやり方だと、どうにもシャベルを前に持ってくるまでの時間が遅くなってしまった。
地味ではあるけれど、下から持ち上げるか横からぐるんと回す方が早い。
咄嗟の時に下から構えられるように意識しておこう。
このタイムラグは結構重要になるかもしれない。
こればっかりはカッコ良さとか気にしてられない。
そう真面目にシャベルの運用法を考えつつ、シャベルを正眼の位置に構えてみた。
…………刃先があるせいで重心が偏っているせいか、棒を構えるよりも、恐らく剣を構えるよりも重いよコレ!
使いづらいよ!!
仕方ないので下段に構えてみた。
また土木作業員スタイルになった。
あ、今からお仕事ですか? という感じだ。
どう見ても工事現場にいる人だ!!
これ確実にRPGな世界で戦う人の格好じゃないよね!?
これじゃあ冒険者というより、むしろ某有名配管工や洞窟を探検するランカー先生に近い。
先生の方は一応探検家って設定らしいけど。
あれ、でもあの二人のゲームってって一撃二撃食らうとすぐにやられ……?
おれもヘビ戦を振り返ってみれば、一発でHPが大幅に持ってかれて瀕死になってたような……?
深く考えないでおこう。
で、結局ここまでして貰ったのでおれはシャベルを買うことにした。
お値段100エウルともうちょい。
最初に手に取った鉄の剣を見たら、200エウルだった。
お手頃価格どころか、どう見ても捨て値価格である。
聞くと、親方も処理に困ってたから在庫が捌けて丁度良かったらしい。
ホルダーと柄のグリップはおまけとの事。
お前も要らない子だったのか……。
ちょっとシャベルに親近感が湧いた。
後できっと何か名前を付けてやろう。
それでおれはポケットに入れていた巾着からコインを吐き出させ、カウンターの上に置いた。
親方は銀貨を一枚取っていったため、銀貨一枚が100エウルだと判明。
他のコインを袋に戻してから、礼を言った。
そしてお礼ついでに最初エドさんが言ってたのを思い出して、
「このシャベルで活躍した暁には、周りの人にここの工房製だって宣伝しますよ!」
と広告塔になることを快諾した。
シャベルで活躍って何なんだ……? と微妙な顔をされた。
「……まあ、そう親方にも宣言しちゃいましたし、やっぱりコレを使ってみますよ」
「そう、ヒカリ君が良いならそれで良いけどね」
うんうん、と首を縦に振って賛同してくれる。そこに邪意や悪意は一欠片も感じられなかった。
やっぱり彼は悪人には見えない。きっとここまでしてくれたのもちょっと大きめの親切に違いない。
……妙に距離が近いのを気にしなければ。
そうこう言ってる内に、施療院の前まで戻って来た。
もう時刻は空が赤から色を濃くして暗くなっていくまでに経っていた。
午後一杯をクエストと武器探しに使ってしまったのだ。そろそろ食堂に戻ってフランさんに報告しなければ。
これからの身の振り方は、その後にでも考えれば良いだろう。
この時間から駆け込んで、宿屋とかは空いているだろうか。まあ空いているんだろうな、西門に行く時の通りでも結構宿屋っぽい建物を沢山見かけてるし。
「それじゃ、おれはクエストが終わったのを知らせてあげる約束をした人が居るので」
「そうなのかい?」
「はい、今日は有難うございました」
「いいよいいよ、気にしないで」
「そういうワケにはいきません。どこかでお礼をさせて下さい」
また固辞しようとするエドさんに先んじて続ける。
「今は難しいですけど、クエストを手伝って欲しい、なんてのでも何でも構いませんから」
まあ、まだまだ冒険者にはなったばかりだけど。
ついでに言えば武器はシャベルだ。
「分かった。機会があればそうさせてもらうよ」
「是非お願いします。じゃ、おれは食堂に行きますね」
そう言っておれ達は、宵がかったセンティリアの通りでそれぞれ別れて、自分の帰る場所に街灯に照らされた道を戻って行ったのだった。
勝手口の鍵が閉まっていたので、表の方から食堂に入る。
食堂の中は丁度夕飯時だったようで、席待ちこそ無いものの、店内には結構な人数の客が集まっている。
おれはちょっと辟易しつつもそのままホールを歩いて調理場へと向かった。
「人が凄いね!」
「ですね、丁度人が多い時に当たっちゃったみたいです」
「で、目的の人はこっちに居るのかい?」
「どうでしょう、居たら良いな、ってくらいで……」
この時間だったら昼間の話から、フランさんも店の手伝いに入ってるんじゃないかな、と考えての事だ。
まあここに居なくても彼女のお祖父さんお祖母さんは働いてるだろうし、彼らに尋ねれば良いだろう。
果たして、フランさん一家はそこに居た。
だいぶ忙しそうに調理場での仕事を手伝っている。
お祖母さんが素早く注文を取り、お祖父さんとフランさんがそれ以上の速度で素早く料理を作り上げていた。
中々に声を掛けるのを躊躇う光景ではある、が……。
「す、すみませーん」
取り敢えず存在を主張してみた。
今流行りのアピるというヤツである。
別に流行ってはいない。
「おお! ヒカリ君じゃないか!」
お、一番近くにいたお祖父さんがおれに気付いてくれた!
ちなみに彼は流し台の横、コンロのような加熱器の前で料理の真っ最中。
というかあれ、日本のガスコンロとかなり似ているけどどうやって出来てるんだろう。
違うのはそのコンロが横に五連で並んでいることぐらいだが、それも大きな食堂なら元の世界でもありそうな具合だ。
むしろその五台の上全部に鍋やらフライパンやらを載せて同時に作業している方が謎だった。
どうしたらそんなん一人で作業こなせるんですかお祖父さん……。
圧倒的な光景に度肝を抜かれているおれに構わず、お祖父さんが話しかける。でも手は止めずに、残像が出るレベルの速度でフライパン達の上を飛び回っている。
「なんじゃ、戻って来てたんなら言ってくれればええのに」
「いやあ、忙しそうだっ」
「フラン! フラン!? ヒカリ君、帰って来とるぞ!」
言い終わる前に調理場の奥を向いて怒鳴るじっちゃん。
すげえ声量。
すると奥からパタパタと駆けてくる人が。
フランさんだ。
「あっヒカリ! もう帰って来たのー?
ちょっと待ってね、今が一番忙しい時間でー」
「いやあ、忙しそうなら別にあ」
「そうだ! 表の席で空いてる所に座ってて!
何か持って行くからー!」
あとで、とも言わせてもらえずまたもやぐいぐいと押し切られてしまった。
凄い押しの強さだ。
ノリが全く祖父と変わらない。
親にして子ありとはこのことを言うのかもしれない。
しかも話はもう決まってしまったようで、皆仕事に戻ってしまった。
後ろを振り返って金髪の青年を見てみる。
「確かに忙しそうだし、向こうで待ってようよヒカリ君」
「……ですね」
そうしておれらはホールに行って、入れ違いで空いた丸テーブルに着いた。カウンター席は全部埋まっていたのだ。
背もたれはないからラクな姿勢にくつろぐなんてのは出来ないけど、逆に言えば背負った武器を下ろす必要が無い。
もしかしたらその点を考慮されているのかもしれない。
周りを見ても、結構冒険者も食べに来ているようだし。
慣れた感じで注文をして、水の入ったコップをお祖母さんから受け取るエドさん。
「あれ、おれは注文しなくて良かったんでしょうか?」
「要らないんじゃないかな? さっき調理場の人も、何か持って行くって言ってたしね」
「なるほど」
それならフランさんがおれの分は持ってきてくれるのかもしれない。
来なければ来ないで、おれが億劫がらずに注文すればいいだけだ。
と、おれの方から見える入り口に、誰かが新しく食堂に入ってきた。
熊のような厳つい外見をしたその人は、周りを見回してから外に向かって言う。
「あー駄目だフォックス。こりゃ混んでて空いてねえわ」
それを聞いて外にいたであろうもう一人も店の中を覗いた。
「チクショウ、ここも空いてねえか……」
残念そうに言うその顔は、どうにもキツネを彷彿とさせる顔付きだった。
…………すごく見覚えがある二人だ。
というかグリーンベアさんとレッドフォックスさんだ。
動物の名前コンビだ。
こっちを向いたタイミングで、おれは手をひょろっと上げてアピールした。
そのままひらひらと振ってみる。
今流行りのアピるというもういいか。
するとこっちに気付いた彼らがおお、とか言いながら背負い武器をがちゃがちゃさせつつやって来る。
ところでベアさんを見た家族連れの小さい子が泣きだしたけど大丈夫? 出禁になったりしない?
イヤだよこんな予想外な理由で食堂に入れなくなるなんて。
そんな事態になったら今度はおれが泣くよ?
まあそれ以外は特に問題なく、ベアさん達と合流できた。
「お、ヒカリ良くやった、うまいこと席が二つ空いてるな」
「まさかまたお前とすぐに会うなんてなあ」
口々に感想を述べつつ着席する。
そしてすぐに、お祖母さんをテーブルに呼んで注文をした。
「いや、おれもこんなに早く再会するなんて思ってませんでしたよ」
「あれから上手くやれたのか?」
「はい。教えて貰った鍛冶屋にエドさんに連れていって貰って行ってから、別れて、たった今こっちに戻って来た所なんですよ」
キツネさんが不思議そうな顔をしている。
目が細くて鋭いのでちょっと表情が読みづらいが、首を傾げていたので判る。
「いや、お前、エドなら横に居るじゃねえか」
「はい?」
何を言ってるんだろうフォックスさん。
鍛冶屋で別れたって言ったばかりじゃないか。
そんな策士家みたいな糸目してるクセにー、案外抜けてる人だなあ……。
と、指差された方を見る。
エドさんが居た。
ん? という顔をしてこっちを見ていた。
「うわぁぁああああ本当にいたーーーーー!?」
「お前気付いて無かったのかよ!?」
「なんで横に居るのに気付かないんだよ!?」
「いやだって、鍛冶屋で別れて、……あれ?」
え、いやいや、あの街路で別れたハズじゃ!?
そっからはおれ、一人でここまで戻ってきて無かったっけ!?
「なんでですか!?」
「俺に聞くな!!」
「えっ、エドさん!」
「ん? なんだい?」
静かに笑顔で佇んでいたエドさんに必死に呼びかけた。
「おれはいつからアナタと一緒でしたっけ!?」
「施療院からかな」
「でも鍛冶屋帰りに別れましたよね!?」
「うん」
「じゃあなぜここに!? ホワイ!?」
身振り手振りで「?」という顔をしているエドさん。
おれは息切れでぜいぜい言いながら語りかける。
「まあそれは別に良いじゃないか。喉乾かない?」
「あ、乾きました」
確かに息切れするまで大声出すと喉は乾く。
「じゃあこれ飲むといいよ。あんまり大声出すと喉を痛めてしまうかもしれないからね」
「ですねー」
なぜか彼の飲みかけのコップを渡されそうになったので、やんわりと手で拒否しておれの近くにあった水を飲んだ。
十分冷やされていたためか、時間が経っても結構ひんやりとしていた。おいしい。
冷たい水を飲んだら、なんとなく落ち着いてきた。
なんでおれこんなに怒ってたんだっけ?
キレる十代?
「ふう……」
一息つく。
それからベアさんに言った。
「と、まあそんなワケで、エドさんはおれと合流したんです。判りました?」
「今の話から何を判れと……?」
呆れられた。
「いやお前らがすげぇ馴染んでるのは判ったけどよ……」
「そうだろう?」
なぜかエドさんがそこは同意した。
いや、でも実際おれもドコでエドさんがやって来たのか判らないよ……。
いつの間にか、後ろを普通に付いてきていたということしか思い出せない。
食堂の裏手に回った時にはもう居たよな……?
ニンジャか、ニンジャなのか。
確かにそういう意味では恐ろしいほどの馴染みようであると言える。
もはや後ろにずっと立っていても違和感の無いスタンドみたいだ。
「じゃあそれはもう良いか……。
それよりヒカリ、おめえ武器は手に入ったのか?」
気を取り直したベアさんに言われる。
冒険者たるもの、不可解な現象にも怯まず立ち向かう勇気が必要なのかもしれないな。おれも見習わないとな。
立ち向かうというよりは諦められた気配があるのは気のせい。
「おっヒカリ、背中にもう背負ってんじゃねえか! 見せてみろよ!」
フォックスさんが目ざとく見つける。
キツネ目は伊達ではない。
ふふ、そんなにおれの武器が気になりますか?
「ふふふ、見つけられてしまいましたか……」
「おいおい勿体ぶるなよ、見せてみろよ!
それ結構大きい得物みてえだが大剣か? 大斧か?」
あの親方が造った武器だ、イイもんには違いないけどな、と言いつつもこっちを興味津々に見るご両人。
おれは背中から、相棒を抜いて前の机に置いた。
溢れんばかりのドヤ顔で!
「刮目せよー!!」
その灰黒色の鈍い輝き!
クレイモアのような圧倒的存在感!
バトルアクスのような圧倒的質量感!
特に鋭いという程でもない刃!
そしてちょっと内側に反った剣先!
「「シャベルじゃねえか」」
おれはそっと横を向いた。
「いやいやいや無視すんな!!
シャベルじゃねえかこれ! 何やってんだお前!?」
「刮目せよ……」
「してるわ! 質問に答えろ!」
「……成り行きで?」
「どこをどう間違ったらそうなんだよ!?」
終いにはげっそりとした顔をされる。
もうツッコむのにも疲れた、という表情だった。
「もうお前にツッコむのにも疲れたよ……」
言われてしまった!
まあそりゃあ言われるよね!!
おれだってどうしてこうなった、と言いたいよ!
どうしてこうなった!
「お待たせしましたー」
と、そこでようやく注文の料理が運ばれてきた。
同じ机ということで、皆の物を同時にこちらに持ってきてくれたみたいだ。
持ってきたのは……。
「あら、このシャベル、どうしたのー?」
フランさんだった。
「って感じで工具担いで冒険者やることになったんです」
「あらー……」
混雑のピークが過ぎた食堂。
おれとフランさんは向かい合って座っていた。
間の机にコーヒーが載ってる以外は昼間の再現そのままである。
今日一日の報告をしていたのだ。
エドさん達はもう帰宅して、解散した。
ひとしきりおれの装備について熱い議論を行い、最終的に答えが出ないままご飯を食べ終えて「まあ、ヒカリには似合うんじゃねえ?」というあまりにもふわっとした結論を出して帰って行った。
というかたぶんおれを諦めただけだ。
エドさんは残ろうとしたが、流石にこれ以上一緒にいたら嫌な予感がするのでベアさん達に連れて行ってもらった。おれの嫌な予感は結構当たるのだ。
このままぼやっとしてたら寝るとこまで付いてくてくれそうだし。
おれの寝てるベッドの下にエドさんが佇んでいるのを想像した。
……なんかそんな都市伝説があった気がする!!
そうして、おれとフランさんだけが残り、おれは今日の出来事を話していたのだ。
ちなみに一切の誤魔化しや誇張を加えてはいない。
それはおれなりの誠意の示し方だ。
もう既に一つ、おれの正体(と言ってもそんなカッコ良い物では無いのが実情だけど)に関して曖昧にしている以上、他のことについては正直に話そうと決めたのだ。
まあ幼稚な考えと言えばそれまで。
でもこうでもしないと今のおれのレスホームな状況ではお礼も出来ず、心が痛む。
だからきちんと話す。
正直に話したために幻滅されたとしても、それはおれの行いの所為だ。
話している間、フランさんは相槌を打つのみでじっと聞いてくれた。
「まあ大体そんな感じです」
ちなみに昼飯代を渡そうとしたら断られた。
夕飯代は無理やり渡した。40エウルだそうだ。
「で、ここら辺で近い宿屋ってないですかね?」
「え? あるには有るけど?」
どうして? といった顔をされる。
首を傾げたせいで、バレッタを外した髪がゆらっと揺れた。
「そんな不思議そうな顔されても……。
だっておれ、このままじゃ野宿まっしぐらですよ」
「ウチに泊まればいいじゃないー」
なに!?
いやそうしてもらえればすごく助かるけど、でも……!
「そ、そこまでお世話にはなれませんよ!
ほらほら、西門の近くに宿屋がたくさん並んでたでしょう、あそこら辺で適当に空いてるトコあれば」
「っ……! それはダメ!」
突如血相を変えたフランさんに遮られた。
怒鳴ったせいか顔も赤くなっている。
「まだヒカリは子どもだから早いよ!」
「いやおれ二十歳ですけど!?」
未成年じゃないから、宿屋に泊まるのに保護者の許可が要るとかもないよな?
そもそも許可が要るのか。
あと異世界の成人って幾つだろう。
「それでも許しません!」
残念ながら許可が下りなかった。
フランさん、完全に保護者である。
顔を真っ赤にしてたどたどしく話すフランさんによると、おれの見た通りではどうやら、宿泊施設としての機能ともう一つ、売春宿として営業している宿も幾つかあるらしい。
他と比べて相当に治安の良いセンティリアではあるが、そういった施設は無くならないもののようだ。
そんな場所に小さな子を一人で泊まらせるなんて出来るか! との事。
いや、だからおれ、二十歳……。
まあそこまで深く考えてた訳じゃないけど。そんなもんがあるなんて思って言ってなかったけど。
そううっかり漏らしたら、
「そう言うことも知らないなんて、尚更外に出るのは危ないよー!」
と言われてしまった。
「ヒカリにはまだ早い!」
ああ、こんな話だからフランさん、そんなに顔真っ赤にしてたのか。
……おれも恥ずかしくなってきた。
なんでこんな話題をおれより歳上の女性としてるんだろう。
うう、おおおお……。
「ええっと、何だかすみませんでした」
「わ、判れば良いの!」
結局、赤くなったフランさんに押し切られて、食堂の二階の空き部屋に今日は泊まることになった。
押し負けに定評のあるおれである。
なんか相撲みたいになった!
「じゃあ枕はこれ使ってね」
「はい」
「シャツは悪いけど、お祖父ちゃんのを使ってね」
「はい」
「大丈夫? 一人で寝れる? 寝れないなら」
「いいですから、もういいですから!」
子どもか! 子ども扱いか!!
そうしてフランさんは部屋から出て行った。
と言うよりちょっと無理やり部屋から押し出した。
扉に背を付けて息をつく。
見回してみる。
簡素な部屋だ。
ベッドと小さなテーブル、クローゼット以外には窓くらいしか無い。
でも、ここに泊めてもらえなければもしかしたら外に泊まるか、更に最悪の場合野宿になっていたのだ。
スリープインアウトドアだ。
……英語で言う意味は特にない。
英語が合ってるかどうかも判らない。
しかもそこはおれの事だ。
野宿なんてしてしまえば、どんなトラブルに会うかは予想も付かない。
口ではああ言ってはみたが、実のところ非常に助かってしまった。
取り敢えずベッドに寝転がってみる。
おお、意外とふかふかして……。
あやばい、これ寝オチするパターンだ。
安堵感と疲労感がない交ぜになって襲いかかってきた。
「まずい、せめて服を脱がない、と……」
もうパーカーなんてだいぶ汚れている。
ジーンズもだ。
このままじゃベッドが汚れて……。
「上から来るぞ、気をつけろ……」
もう自分で何を言ってるのかも判らなくなってきた。
今日一日、ちょっと出来事が多過ぎたなあ……。
そうして。
おれは睡魔に負け、意識を手放したのだった。
あ。
シャベル背負いっぱなし。
遂に二十話目を突破しました。
ひとえに読者の皆様のおかげにござりまする!
ではまた次回!




