第三章:秋風闘乱 前編
テストも終ったので第三章を更新です、良ければ第一章からお読みください^^
秋、猛暑の夏から季節は秋へと移り変わる。
涼しげな秋の風を背に、青年はその瞳に何を映すのだろう。
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九月が過ぎ去って、秋と言う季節に移り変わる、そんな僕の周りでは何時も何かが起ころうとしていた。
久しぶりに会った友人は変りなく、何時も通りの高校生活を送り、突然の昏睡状態になったりと、自分でも驚いている。
そんな僕、黒峰秋也の秋が、慌ただしく始まろうとしていた。
今日は土曜日、学校が休みで暇を持て余していたので久しぶりにクラスの友達と遊びに出かけ、気がつくと世界は深い闇の中、終電にはもう間に合わないだろう。
他の友達はバイクや、タクシーを捕まえて帰っていったが、余分なお金を持ち合わせていない僕は、歩いて帰る事にした。
家まではそう遠くないので、ゆっくりと道を歩いていく。
十月の十四日から次の日の十五日に日付は移り変わっていた。
人が寝静まった夜の街を、ひとり歩く。
突如雨が降ってきた、傘がないので雨がしのげる場所へ走る。
路面は雨で濡れ、雨音が耳に聞こえてくる。
衣服が濡れて体温が奪われる、湿った服にうんざりしている僕の前に二人の人影が現れた。
一人は、大きなトランクケースを両手に持ち、黒いスーツを着た女性。
もう一人は、リュックを背負って、今時の流行と思われる衣服を着込んだ青年。
青年は必死な顔で後ろに迫る女性から逃げるようにこちらに向って走ってくる、女性は目をひきつらせながら、その青年を追うようにやはりこちらに走ってくる。
三、二、一、やはり青年は僕に気づいてなかった、その為青年と僕は衝突した。
初めに言っておくが、僕はまさか衝突するなんて思ってもなかった、別にこの人達と関係を持ちたいと思い避けなかった訳ではない。
「痛……」
青年は足首を挫いたらしく、その場で足首をおさえながら痛がっている、僕はお気に入りのズボンが泥水で汚れてしまった事にガッカリしている程度である。
「ごめんね、大丈夫?」
僕に手を差し伸べてくれたのは青年を追っていた女性であり、もう片方の手で青年の襟を力いっぱい掴んでいる。
「――はい、大丈夫です。 そちらの方は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、大丈夫じゃなくても大丈夫よ――――多分」
女性の方をよく見て見ると、髪は長く、顔立ちは女性としては珍しいほど凛々しく、ちょっと眼つきが悪いかな、と思うが、これを世間では美人と言うのかも知れない。
青年の方は蒼く澄んだ瞳、髪は短めに切り揃えられ、一般的にはカッコいいと呼ばれる男の子ではないのだろうか、そんな青年が怨めしそうな目で僕を見ている。
「――姉ちゃん、命だけは助けてください」
「駄目よ、私から逃げた罰は重すぎるんだから。 とりあえずホテルでも探すわよ」
どうやらこの二人は姉と弟と言う関係らしい、その割りには弟君の方はやけに姉に弱い、そんなイメージが頭にある。
「あの、良ければ僕の所へ来ますか?」
「あら、本当にいいの?」
目を丸くして僕を見ていた女性の方が訊ねてきた、僕はそれに頷いた。
「僕は最近一人暮らしを始めたんで、そんな何もない僕の所で良いならどうぞ来てください。 夜も遅いんで今からホテルを探すのも大変だと思うんで、最終的な判断はそちらにお任せしますよ」
本当にまだ何もない、俊哉が一人暮らしをしているのを見ていての憧れから、親に相談して家賃の安めなアパートで生活を始めたのである。
青年は浮かない顔でいるが、女性の方は満面の笑みで喜んでいる、これを人助けと言うのかな、何だか嬉しい。
女性が青年の手を取ると、青年は立ち上がった。
僕は知り合ったばかりの二人と、夜の街を歩き始めた。
女性の名前は草壁詩織、青年の名前は草壁隼人、二人は世界を旅して回っているらしい、この二人は若く、隼人君の方はまだ十六歳で高校一年生のはず。
――詩織さんの方は年齢を聞いた瞬間に右拳に異様な殺気を感じた為、聞くのをやめる事にした。
「まだ歩くの? 何だか疲れたわ」
「もう少しで着きますよ、お疲れのようですけど、何かあったんですか?」
詩織さんは本当に疲れた顔をしている、理由を聞いたが、何となく分かる気がする。
「このバカが私から逃げようとしたのよ、それを追うのに時間がかかちゃってね」
隼人君の頬を引っ張りる詩織さんを見ていると逃げたくなる気持ちも分かる。
「姉さん、痛い、痛い」
「あら、ごめんなさい。 本気で引っ張ってたわ」
そんな会話が続く中、やっと自分の住むアパートまで戻ってきた。
自室に来ると詩織さんは勝手に境界線を作るとそのまま寝てしまった。
「すいません、本当に姉が迷惑かけて……」
申し訳ないような顔で正座する隼人君の肩に手を載せる。
「――大変だと思うけど、挫けたらそこで終りだからね」
「はい、本当にありがとうございます」
今は夜中の三時、そろそろ寝とこうと目覚ましを設定していると、隼人君は既に深い眠りについていた、僕もつられるようにソファーの上で眠りについた。
……眠りにつく前に、詩織さんが持っていたトランクケースから血の匂いがしたのが気になったが、疲れのせいか何時の間にか意識は遠のいていた。
翌朝。 目覚まし時計の音と共に目を覚ますと、隼人君がキッチンの方に立っていた。
こちらが起きたのを察したのか、僕におじぎをした。
境界線の先を見ると詩織さんが衣服を乱しながらまだ寝ている、境界線の先はと言うと、本来は僕の寝室である。
「すいません、迷惑かけて。 昨晩のお礼と言ってはなんですけど、朝食の方を作りましたので召しあがってください」
テーブルに並ぶ数々の料理、どうやら調理に使用した材料は元々隼人君が所持していた物だと思う。
旨そうな香りが部屋を包む、その香りにつられて詩織さんが起きてきた。
「姉さん、おはよう」
「――――」
どうやらまだ寝ぼけているような顔でテーブルの上に並ぶ料理を見ている。
その後本格的に目を覚ました詩織さんを中心に朝食を食べ始める。
朝食の最中にテレビをつけると、また不可思議な事件の事を盛り上げているニュース番組が映りだした。
現場にいるニュースキャスターがその事件について語る。
大分前からある廃ビルの中で、男性三人の遺体が発見された。
三人の遺体には、何者かの手によって体中に締められたような痕が残されている、遺体の口元から血が出て、現場は血の臭いに包まれているそうだ。
その廃ビルがある場所はここからそう距離はない場所にある。
――その体の締められた痕は、普通の人間の力とは思えない程の力がかかっていたのが見ただけで分かる。
その事をニュースでは追求する事はなく、被害者の身元を公開し始めた。
被害者の二人は高校生の少年、現場近辺でよく遊んでいる不良であった、もう一人はその少年達の先輩であり、薬の販売などを仕事にしていたらしい。
そんなテレビのニュースに場が暗くなってしまったと思い、テレビの電源をきった。
「さて、私達はそろそろ行くわ。 いろいろありがとね」
そう言うと急にトランクケースを持ち、早々と玄関まで歩いて行く。
「もう少しゆっくりして行っても良いんですよ?」
「いや、多分もう会う事はないさ」
「――姉さん。 秋也さん、ありがとうございました」
そうして、二人は去っていった。
その去り際の二人の顔は、どこか寂しそうに見えた。
/2
あの夜に知り合った二人の一件が終り、学校が始まった。
僕が通う高校は、有名な私立高校であり、その高校の生徒会長を僕が勤めている。
生徒会の責任者である僕の仕事は簡単なものではない、時間をかけてやる事が山積みであった。
行事を取り仕切るにあたっての行動、その資料を掲示したりと忙しい。
そんな高校生活が今の黒峰秋也の日常である。
この日常に文句はない、むしろ感謝している、こんな僕でも人の役に立てるものだと実感できるからであり、今は幸せである。
――――そんな事を思っていると学校へ辿りついた。
校舎は四階建て、生徒会室は三階にある。
校舎の周りは木々が生い茂り、自然がいっぱいとPRしているだけあって都心よりも空気がうまい。
校舎の建築に多大な金を使用しているが、やはり学校と言うだけあってエレベーターは備え付けられていなく、階段で生徒会室まで歩いて行く。
生徒会室の扉を開いて、膨大な資料が整理されてならぶ棚、そんな何時も通りの光景の中にまったくと言ってもいい程似合わない姿がひとり。
この学校指定の制服を身に包んだ青年が、きりっとした眼差しでこちらを振り向く。
「俊哉? どうしてここにいるのさ」
「お前に会いに来るにはそれなりの理由が必要なのか?」
理由と言われると困る、僕に会う為に来てくれた事は嬉しい。
「いや、理由なんていらないけど……」
――反論がまったく出来ない、俊哉との会話は何時もそうだ。
「なら良いじゃないか。 ――今日会いにきたのは近頃起きたあの事件についてだ」
事件、廃ビルで起こった三人の猟奇殺人事件の事だと直ぐに分かった。
「あの事件、俊哉はなんだと思うの?」
「――おまえが意識を失った事件、あれと関係していると思う。 最近この街に異様な気配を感じる、透も察していると言っていたからな、気のせいではないと思う」
夏、僕はある事件に巻き込まれ、意識を失っている時期があった、それを救ってくれたのは目の前にいる、千鳥俊哉だと僕は思う。
「俊哉はどうする気でいるの?」
「何か起こる前に俺が犯人を消すさ」
俊哉は言った事を必ず実行する、犯人を消す、犯人を殺すという事だろう。
そんな権利が俊哉にあるのだろうか、僕は俊哉の事を分かったふりをしているだけで、実際のところは何も分かってはいない。
それだけ言うと俊哉は僕を残して生徒会室を出ていった、これから何が起こるか僕はまだ分からなかった――――。
◇
秋也との久しぶりの会話を終えた俺は家に帰宅して眠りについた。
現在の時刻は午後十一時二十三分、夜の散歩としてはまだ少し早いが、今日は憂鬱で時間の流れが遅く感じる、その為今から散歩に出るのも丁度いい時間だと思い、俺は何時ものジャケットを羽織、家を出た。
今日の夜も月が綺麗に世界を照らしている、そんな世界の片隅を歩く俺、何だか酷く切ない――。
なんだ、こんな感情がまだ俺にはあったのだろうか、今の俺に感情はない、俺は俺であり、千鳥俊哉ではない。
――――千鳥俊哉は死んだ、交通事故で千鳥俊哉という記憶と共に千鳥俊哉は死んでしまったんだ。
今の俺は千鳥俊哉という名前を借りただけ、俺は誰なんだろう。
――そんな事を考えながら道を歩いていると、あるアパートの前にたどりついた。
黒峰秋也の住むアパートの前である。
どうしてだろう、こんな所に来る予定はなかった、俺は知らない間にここにたどりついた。
「あれ? 俊哉じゃないか。 僕にまだ話があるの?」
とっさに後ろを振り返るとそこには秋也が立っていた。
「――――違う、俺は違うんだ」
違う、俺はここに来る事なんて考えてなかった、違うから俺は直ぐに立ち去った、秋也の視線を背に受けながら、俺は逃げた。
走った――秋也の住むアパートから大分離れた、ここは公園、俺がここに来るのは幽霊事件以来である。
腕の時計を確認すると、既に午前零時を過ぎている事に気がついた。
疲れた、疲労が体を重くする、ここで一休みしてから戻るか。
――――誰だ、誰もいないと思っていた、いや、いなかったんだ。
つい先程まではいなかった、俺が気づかぬ間に公園の中へ入り込んでいた。
その男が立っている場所、それは俺が壊したモノが散らばった場所、誰にも見られずに散らばったはず、だが目の前の男は的確にその場所に立っている。
「……お前は一体」
思わず口に出した言葉、その言葉を聞いた男がゆっくりと振り向く。
「――六道総志」
そう言うと男の周りに土煙が吹き荒れ、それが収まると同時に姿を消した。
六道総志と言う男が事件に関係している事は確かである、俺は徐に夜空に浮かぶ月を見上げた、俺が視た月は紅かった――。
後編に続きます♪