第一章:夏月幻影 前編
初投稿です、これから宜しくお願いします。
更新はなるべく早くしていこうと思いますが、内容を深くしたいのでそれなりの時間をかけるつもりなのでそこのところは御了承くだされば幸いです。
夏の日差しの中、俺は一人の男に出逢った。
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九月になってから数日過ぎた夜に、秋也が俺を訪ねてきた。
「こんばんは。 久しぶりだね、俊哉」
玄関口に立つ来訪者は、久しぶりにあった俺に笑いながら挨拶をする。
「相変わらず学校に出てこないけど、出席日数大丈夫? ――――はい、これ」
玄関で靴の紐をほどきながら秋也、手に持っていたノートを俺に渡たした。 授業中に黒板に書かれたことを的確に記されている。
俺がノートを確認している隙に、秋也は靴を脱ぎ終えて、さっさと俺の部屋に歩いていく。
俺の家はマンションの一室で、玄関から一メートルも満たない廊下をぬければ、居間と寝室を兼用した部屋がある。
秋也の後ろ姿を追い掛けるように、俺も自室に移動した。
「ちゃんと学校に行かなきゃ退学になっちゃうよ? 成績は良いんだからもったいないよ」
「その時はその時だ。 もったいないも何も俺の勝手だろ」
「……そうだけど。 学校をサボるのは良くないと思うよ」
苦笑いしながら秋也は腰を下ろす。 昔から秋也は何かとお節介である。 ――昔と言っても中学時代に知り合ってからだけど。
秋也は部屋の真ん中の方に座り込み、俺はその横のベットに腰をかける。
これから秋也が何をするのかと、俺は観察する。
黒峰秋也と言う名前のこの青年は、中学からの友人である。 何事にも積極的だが、流行には敏感でもない、今の世の中には珍しい普通の学生である。
今は俺と同じ高校で生徒会長をしている、そんな中態々俺を訪ねてくるほどのお人よしで御節介である。
髪は黒く、短く切り分けられている、飾り物などはつけたりしない。 身長は百七十を越えている。 幼い顔立ちで、美男子である。
学校ではその容姿に女子が黄色い声をあげるぐらいだ――
「俊哉、ちゃんと聞いてるの?」
「悪い、ボウっとしてた」
「だから、神崎の家にはちゃんと顔を出してるの? 透さんにこの前会ったけど、俊哉の事を心配してたよ」
「ああ、神崎の家にはこれと言って、用がないからな」
「用がなくてもお世話になったんだから、たまには顔ぐらい見せに行くのが普通でしょ?」
「普通も何も俺が会いにいっても、ろくに会話も続かないし、直ぐ帰る事になるから、距離が開くだけだ」
「そんな事言ってるから余計に距離が開くんだよ」
秋也の言葉に間違いはない、それが分かっているから、俺は余計に不機嫌になる。
自分でも分かっている、でも駄目だ。
幼い頃に俺の両親が他界した、その後、知り合いの神崎家に引き取られた。 引き取ってくれた事には感謝しているが、所詮は他人。
……秋也はやっぱりお節介だ、人の気持も知らないで言いたい放題だ。
◇
千鳥俊哉とは中学時代からの友達だ。
有名な私立の中学の入学式、僕の後ろの席に座っていたのが俊哉だった。
入学当初、期待に胸を躍らせる者が多い中、俊哉は無表情で黒板を睨みつけていた。
前、後ろの席と言うことで僕から話をふったりして、それから僕らは、何時の間にか友達になっていた。
何事にも積極的に頑張ろうとするクラスの雰囲気に、俊哉は不満そうな顔をしているのが目に映る。
そんな俊哉は、少し長めの黒髪、凛々しい顔立ち、勉強も運動も出来る優等生だった。
そう見えていただけで実際は学業に無関心で運動も嫌々やっていただけであった。
無表情で口数も少ないと言う事で、俊哉は女子生徒から注目を集めている時期もあった。
何人もの女子は俊哉に告白し、無残にも撃沈していく、可哀想であるが俊哉は異性にはまったくと言ってもいい方ど興味が無いのである。
時にはそれを理由に男子生徒が俊哉に喧嘩を売るのだが、喧嘩を売った男子が逆にやられてしまい、無残な光景を目の当たりにする事も屡であった。
興味と言う言葉に対して何の思いも寄せない俊哉は、生ける屍ではないのだろうか、そう思っていたが、俊哉にも興味と言うモノは存在していた。
殆どが完璧である俊哉にも苦手な事はある。
身体、学力は万能な俊哉、そんな俊哉は友達を作る事が苦手である。
そして初めて、俊哉が友達と呼べる相手が僕、黒峰秋也であった。
◇
「殺人事件」
「え――?」
「だから、最近起こってる殺人事件の犯人は捕まったのか?」
ボウっとしてた、秋也が俺の言葉を聞いて、正気に戻る。
「ん、確かまだ捕まってないと思うよ。 ちゃんと新聞とかニュース見てる? ――――確かこの近くの公園でも殺人事件が起こったから、夜中は出歩くのは控えたほうがいいよ」
「そうか、近くの公園だな?」
「興味本意で行くのは駄目だよ。 俊哉の悪いところだよ、直したほうがいいよ」
「そう言う風に、遠慮なしに口に出すのが秋也の悪いところだ」
少し言い過ぎたと思ったが、秋也は気を悪くした風には見えない。
「そうだね、ごめん」
「いや、俺も悪かった」
一瞬場が静まったが、秋也が何かを思い出したように喋り始めた。
「そう言えば同じクラスの女子が塾の帰りに公園で見たんだって」
「何を? 幽霊?」
「幽霊かな? その殺人事件がおきた公園で、長身の男が蹲って、呻いているのを見たんだって」
「――――――」
思い出した、一週間ぐらい前から噂になっていたな。
深夜に突如現れる、長身の男を見ると呪われるだか、呻き声が聞こえたら、翌朝死ぬ。
実際、この噂を信じているようなやつは相当な臆病者だ。
「その話なら聞いた事がある。 最近知った事じゃないから、今の噂は聞いてないけどな」
「その長身の男を見た人は、自宅で急死をするって言うのが、今の噂なんだけど」
「――けど?」
「実際に急死する人が続出、既に七人は自宅で謎の死を迎えてるそうだよ」
実際に急死と言うのは初めて聞いた、噂が現実になると言うのは本来ありえない。
「俺も夜に公園を散歩するけど、長身の男を視たのだって一回だけだ」
俺には見える、見えると言うよりも視えるが正解であり、『本来見えないモノ』を形にして視る事が出来る。
要するに俺は幽霊でも殺そうとすれば殺せるだろう、形があるのだから。
不死なんてモノは存在しない、形あるモノは何れ壊れる、なら幽霊と言う形を壊す事だって出来てしまうのが俺の力だ。
「俊哉が見たって事はやっぱり幽霊的なモノ?」
「どうだか、邪魔になるようなら殺せばいいだけだ」
秋也が呆れたような顔で俺を見てくる、別に害があれば殺す、害がなければ別に放っておけばいい事じゃないか。
「何で僕には見えないんだろう?」
「その幼顔がいけないんだ」
幼い顔つきは関係ない、と秋也が拗ねている。
その仕草が妙に似合っている、やはり秋也は顔も幼ければ、心も幼いのか、だからそう言うモノが見えないのかもしれない。
「なあ、殺人って――」
「ん? 何?」
「いや、何でもない」
それを秋也に聞くのは、俺が恐かったのかもしれない。
/2
九月も終りにさしかかった夜、俺は散歩をする事にした。
夏の暖かさは既に秋の涼しさへと移り替わり、外の空気は肌寒い。 街は夜の闇に包まれ、静まりかえっている。
誰もいない、静かで、寒くて、只暗闇の中に淡い輝きを放つ満月がある。 明かりがない家、明かりはあるが静まっているコンビニ。
――――まるで死街のようである。
こんな中で一人で歩くのは、それはそれで落ち着くかも知れない。
――こんな日は目が酷く痛む、視たくもないモノが良く視えてしまうから。
俺は家を出る時、白色のシャツの上に黒色の革製のジャケットを羽織、下は蒼色のジーンズ着た。
ジャケットが厚手の御蔭で、下がシャツでも体を温めてくれる。
外のひんやりとした空気のせいか、暑すぎない。
最初から寒くもなかったのかもしれない。
夜の街へ一歩一歩進み始めた。
◇
誰もいないと思っていたが、街を歩けば人と出会った。
音楽を聴きながら、早足で歩いていく誰か。
生きているのかも分からなく、路地で俯いて座る誰か。
それを横目で観察しながら歩く俺。
――何の為にこんな中を歩いているんだろうか。
今から家に引き返して睡眠をとった方がよっぽどマシである。
いや、俺は夜が好きなんだ、静まり返ったこの夜を俺は求めているのかもしれない。
何の目的もなく、俺は夜闇の中を歩いている。
――――幼い頃、俺の両親は交通事故で亡くなっている。
そう聞かされた、俺は幼い頃の記憶がない、気がついた時には俺は病院のベッドの上だった。
身寄りのない俺を引き取ってくれたのが、親の知り合い、神崎と言う家柄の人達だった。
哀れに思ったのか、それとも何らかの理由があったのか、神崎の人達は俺に優しくしてくれた、嬉しかった、その反面、神崎の人達と俺は距離が出来てしまった。
一人になるのが恐いとは思わない、俺の眼には何時も視えている。
交通事故に巻き込まれたのは両親だけではなかった、俺もその事故に巻き込まれていた。
目立った外傷はなかったが、事故から数週間、眠り続けていたらしい。
起きてから、この時はまだ視えなかった、何時だろう。
――思いだした、初めて俺が神崎の人達とあった時だ、それ以来俺の眼には『本来見えないモノが形として視えてしまう』と異常な力を手にしてしまった。
形になったモノに触れた事はないが、きっと触れる事だって、と思っていた、その通りであった、触ることも出来るし、壊す事も出来た。
恐くはなかった、そんな無駄な感情は俺に働きかけなかった。
両親の顔すら覚えてない今の俺と、幼い頃に両親に育てられた俺、一体どちらが本当の俺なんだろう。
そんな事を考えながら俺は夜闇を一歩、また一歩と歩いている。
――――本当の自分を見つける為に歩いているのだ。
◇
一体どれぐらいの時間を歩いたのだろうか。
気がつくと此処は噂の公園の中であった、無意識の内にこの場所に辿りついた。
何の変哲もない只の公園、昼は小さな子供達が走り回る、普通の公園である。
辺りの家から明かりが消えている、街の人は眠りについている。
時計の針は午前の三時をさそうとしている、こんな夜中に出歩いている人はそうはいないであろう。
――突如何かの気配を感じ、公園の中央を見ると、薄っすらと影が現れた。
影は段々と人の形になっていく、そう例の長身の男である。
俯き、蹲り、呻いているように見えるそれの目からは涙と言う滴がこぼれている。
――――背筋に寒気が走り、鳥肌になっている。
「不愉快だな、視たくもないモノが視えてしまうと言うのは」
気分を害した俺は公園を後にした、あの男が何をしようが知った事じゃない。
公園から出ようとする俺の後ろで、男の呻き声が背中に響いた。
後編へ続く
前編の方をお読みくださり、有難う御座います。
後編では戦闘シーンなどを入れていくのでお楽しみに。