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牌アガる!-High!-  作者: ぺー村様
麻雀部 創設編
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2/2

第十七話「麻雀部?」

⚠︎良ければブックマーク、評価の方よろしくお願いします。

──────────


『よし! ツモーーー!』

『今日の朝枠の麻雀対局も見事一着でした!』

『今日も朝から見てくれた視聴者の方、ありがとうございました!』

『実は高校生活が今日で三日目なんだけど、もう部活の勧誘が凄くてさ~。あ、でも星七は帰宅部だからみんな安心してね~☆』

『でも視聴者の中に部活を頑張っている人がいたら、星七は応援してます!』

『それでは、今日もみんなと対子になれたかな?おつせな~』


──────────


挿絵(By みてみん)



(オフライン)


配信画面が切り替わり、待機画面へと戻る。

スマホの画面を閉じ小さく息を吐いた。


「私もそろそろ行かなきゃ……」


時計を見る。


まだ少し余裕はある。

けれどのんびりしている時間でもない。


ベッドから立ち上がり、

机の上に置いてあった通学バッグを手に取った。


入学式からまだ数日しか経っていないのに、

この学校の空気にも少しずつ慣れてきた気がする。


そして今日もきっと海里は朝から元気なんだろうな。

そんなことを考えながら、学校へ向かった。





「おはよー!」


教室に入り、自分の席へ向かいながら見知った顔と軽く挨拶を交わす。


まだ三日目とはいえ、

クラスメイトの顔と名前も少しずつ一致してきた。


話す相手もだんだん固定化されてきて、

高校生活らしくなってきた気がする。


席に座り時間割を見る。



「今日は数学からか……」


思わず小さく呟く。

中学の頃から数学は嫌いというわけではなかったが、

朝一番となるとなかなかに頭を使う。


(眠くならなきゃいいけど……)


そんなことを考えていると、

教室の扉が勢いよく開いた。



「おはよー!」


聞き慣れた声。

振り返らなくても誰だか分かる。

教室の反対側からこちらに向かって大きく手を振っている。


周りのクラスメイトもちらりと海里を見るが、

本人はまったく気にしていない。

私も軽く手を振り返す。


「はいはい」


それだけ返して前を向く。

海里も特に気にした様子はなく、

満足そうに自分の席へ向かっていった。


朝から元気だなぁ。

そんな元気な友達の背中を眺めながら、

始業前の静かな時間を過ごした。





あっという間に授業は消化され、

気付けば放課後になっていた。


終わりのチャイムが鳴る。

教室のあちこちで椅子を引く音が響き始める。


私も鞄を手に取り席を立った。


さて、帰るか。

そう思って教室を出ようとした瞬間だった。



──がしっ。



後ろから肩を掴まれる。


「何を帰ろうとしている?」


聞き慣れた声。

そのまま後ろへ引っ張られる。


「これからが本番でしょ?」


「なんでしょう?」


私はわざとらしく首を傾げた。


「分かってるくせに!」


海里は呆れたように言う。

そして満面の笑みを浮かべた。


「部活!」


「……」


「麻雀部の見学に行くよ!」


やっぱりそれか。


「はいはい、分かった」


観念してため息を吐いた。

すると海里は満足そうに頷く。


「よし!」


こうして私たちは麻雀部を探して校舎内を歩き始めた。



まずは部活動一覧の掲示板を見てみる。


サッカー部。

野球部。

バスケ部。

吹奏楽部。

美術部。

写真部。

演劇部。

ボードゲーム研究会。


「おっ、ボードゲーム研究会あるじゃん!」


「瀬戸さんが入るって言ってたね」


「でも麻雀部は?」


「⋯⋯ないね」


二人で首を傾げる。


「別の掲示板かな?」


「かもね」


私たちは校舎を再び歩き回った。


探す。


探す。


探す。


体育館前の掲示板。

特別棟の掲示板。

中庭の掲示板。


どこを見てもそれらしき名前は見当たらない。


「おかしいなぁ」


海里が腕を組む。


「ボードゲーム研究会はあるのに!」


「麻雀ってそんなにメジャーじゃないでしょ?」


「いや、あるはずなの!」


なぜそんなに自信満々なんだろう。

さらに数十分ほど探し回った。




やっぱりない。


「海里と一緒に麻雀をするという高校生活は、

早々に終わりを告げたのであった」


遠い目をしながら呟いた。


「勝手に終わらすな!」


即座に海里のツッコミが飛んでくる。


「だって麻雀部ないじゃん」


「まだ終わってない!」


海里はびしっと人差し指を突き付けた。


「むしろここからだから!」


どこから来るんだその自信は。

小さくため息を吐いた。


「麻雀が強い先生がいるって聞いてたから、

てっきり麻雀部もあるものだと思ってたんだよー」


まさかそもそも存在しないとは。


「どうする?」


尋ねると海里は少しだけ考える素振りを見せた。

そして、


「ひとまずその先生を見つけようか!」


「そうだね」


部活がないなら作るしかない。

そして部活を作るならまずは顧問だ。

少なくとも今はそれくらいしか手掛かりがない。


「なんて先生なの?」


「たしか……」


記憶を掘り返すように首を傾げる。


「奄美さん?」


「疑問形なんだ」


「いや、でもそんな感じだった気がする!」


全然信用できない。


「お父さんに聞いておけばよかった……」


「今さらだね」


私は苦笑した。

とはいえ、名前さえ分かればどうにかなるだろう。


「じゃあ職員室に行こっか」


「おっけー!」


海里は元気よく返事をすると、

迷いなく廊下を歩き始めた。

その背中を見ながら思う。


本当に見つかるのかな。

そんな一抹の不安を抱えながら、

私たちは職員室へ向かった。




「失礼します!」


職員室の扉を開けるなり、海里が大きな声を上げた。


「奄美先生いますか!」


職員室中の視線が一斉にこちらへ向く。


キーボードを打っていた先生。

書類を読んでいた先生。

談笑していた先生。


みんなが一瞬だけ手を止めて海里の方を見た。


静かだった職員室に妙な緊張感が流れる。

私は思わず一歩後ろに下がった。

すると、


「星川」


聞き覚えのある声がする。

振り向くと担任の新井先生がこちらへ歩いてきていた。


「職員室では静かにしなさい」


「はい……」


さすがの海里もしゅんとしている。


「それで?」


新井先生は眼鏡の位置を直しながら質問をする。


「奄美先生を探してるんです!」


「奄美先生?」


新井先生は少し考える。

そして首を横に振った。


「奄美先生なんて、この学校にはいないわよ?」


「えっ!?」


海里が固まる。

すると新井先生は何か思い当たったように口を開く。


「もしかして⋯⋯天音(あまね)先生のことかしら?」


海里が勢いよく指を差す。


「たぶんそれです!」


(たぶんなんだ)

思わず心の中でツッコんでしまった。

新井先生も小さくため息を吐く。


「天音先生なら一年C組の担任よ」


「どこにいますか!?」


「今の時間なら自分のクラスじゃないかしら?」


「あざっす!」

「ありがとうございました」


海里より一歩遅れて、私も頭を下げた。

そして職員室を後にする。



廊下へ出るなり海里が振り返った。


「いたじゃん!」


「名前違ったけどね」


「細かいことは気にしない!」


気にしてほしい。

こうして一年C組の教室へ私たちは早歩きで向かった。




「頼もー!」


海里が勢いよく一年C組の扉を開けた。


ガラッ。


教室の中を見渡す。

しかし。


「……」

「……」


思っていた光景とは少し違った。


教室にいたのは生徒が四人ほどいただけだった。

そして突然現れた私たちを見てC組の生徒も止まった。


気まずい。


ものすごく気まずい。


この気まずさにはさすがの海里も勢いを失ったのか、

その場で固まっている。

仕方なく私が口を開いた。


「えっと……」


四人の視線がこちらへ集まる。


「担任の天音先生がどこにいるか分かる?」


すると窓際にいた女子生徒が首を傾げながら答えてくれた。


「天音先生だったら確か図書室に行くって言ってた気が……」


「本当?」


「たぶんだけど」


「ありがとう!」


海里が満面の笑みで答える。


「ありがとね!」


私も軽く頭を下げた。



廊下へ出て、海里が拳を握りながら言う。


「よし! 次は図書室だ!」


「どんどん移動してるね」


「RPGのイベントみたいになってきた!」


「先生探してるだけなんだけどな⋯⋯」


「あと図書室は静かにね!」


隣を歩く海里に釘を刺した。


「分かってる分かってる」


そう言う時の海里は大体分かっていない。


少し不安になりながらも、

次の目的地《図書室》へ向かった。




廊下の突き当たり。

図書室と書かれた扉の前で立ち止まる。


ガラッ。


扉を開くと、ひんやりとした空気が流れてきた。

本棚が整然と並び、紙の匂いが漂っている。


窓際では何人かの生徒が静かに本を読んでいた。

ページをめくる音だけが聞こえる。


図書室らしい静寂。

私は室内を見渡した。

しかし、


「あれ?」


先生らしき人は見当たらない。

海里もきょろきょろと辺りを見回す。


「いないね」


本棚の間を覗いてみる。

閲覧席の奥も見る。


それでもいない。


カウンターの向こうにいた図書委員らしき女子生徒がこちらを見ていたので、近づいて聞いてみる。


「すみません」


「はい?」


「天音先生って来ませんでした?」


「あー⋯⋯」


女子生徒はすぐに納得したような顔をした。


「来たよ」


「本当?」


「うん。準備室にいるわ」


そう言って図書室の隅を指差す。

本棚の陰に小さな扉があった。


「ありがとう!」


海里が小声でお礼を言う。

私たちはその扉の前まで移動した。




コンコン。


海里がノックする。


「天音先生ー?」


返事はない。

もう一度ノックする。


コンコン。


やはり返事はない。


「いないのかな?」


「でも図書委員さんはいるって……」


海里は首を傾げた。

そして、


「失礼しまーす」


ゆっくり扉を開ける。


ギィーーッッッ


中は思ったより狭かった。


机が一つ。

本棚がいくつか。


そして───。


「……」

「……」


私と海里の動きが止まる。


挿絵(By みてみん)


部屋の奥。

ソファのような長椅子の上に女の人が横になっていた。


「!?」


思わず二度見する。


いや、


いる。


確かにいる。


でも、


なんというか。

想像していた姿とあまりにも違う。


恐る恐る一歩近づいた。

海里も後ろから覗き込む。

そして、


「ね、寝てる?」


思わずそんな言葉が口から漏れた。



授業が終われば他の先生たちは仕事をしたり、

部活の顧問をしたり、

生徒の質問に答えたり、

忙しそうに校内を歩き回っている。


少なくとも私の中の先生のイメージはそんな感じだった。


それなのにこの人───。


寝てる!?


思わず固まった。

でもよく見るとかなり美人だ。


長い黒髪。

整った顔立ち。

すらりとした体型。


普通にしていれば高嶺の花のような雰囲気がありそうだ。


普通にしていれば。


ただその人は準備室のソファに寝転がり、

気持ち良さそうに眠っていた。


(なんて残念なんだろう。

まるでここにいるポニーテールみたいだ)


横にいる海里をちらりと見る。


「ん?」


本人は気付かずに幸せそうな顔をしている。


「いや、何もないよ!」


こんなことを思っているなんてとても口に出来ない。

そして恐る恐る眠っている先生へ声を掛ける。


「先生?」


反応はない。


「天音先生?」


今度は少しだけ近づきゆっくり肩を揺する。

すると、


「ん……?」


長いまつ毛が微かに動いた。

ゆっくりと目が開く。

そしてぼんやりとした視線が私たちへ向けられた。


「なに……?」


寝起き特有の間延びした声。

思ったよりずっと若い。


というか担任をしている先生には見えない。


「えっと……」


言葉を探していると天音先生は半身を起こした。

髪がさらりと肩から流れ落ちる。


しかし私に向かって不満そうな顔をした。

まるで昼寝を邪魔された猫みたいだった。


「あの……天音先生ですか?」


すると先生は面倒そうに表情を変える。


「違うぞ」


即答だった。


「用が済んだら出ていってくれ」


ソファに再び横になろうとする。

絶対天音先生だ。

直感がそう言っている。


というか、ここまで来て違ったら泣いてしまう。

海里も同じことを思ったらしく一歩前へ出た。


「私たち!」

「麻雀部を作りたいんですが!」


天音先生はゆっくりこちらを見る。


「……」


一瞬だけ沈黙。


少しだけ興味を持ったようにも見えた。

でもそれも本当に一瞬だった。


「麻雀部?」


「はい!」


海里が元気よく返事をする。

私は隣で様子を窺う。


「いやだ」


またも即答だった。


「え?」


海里が固まる。

私も固まる。


「い・や・だ!」


先生はもう一度言った。


「早くおうちに帰りなさい」


話が終わったと言わんばかりにソファへ寝転がる。


早い。


断るのが早い。


まだ何も説明していない。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


海里が慌てて食い下がる。


「なんでですか!?」


「面倒だから」


「そんな理由あります!?」


「ある」


あるらしい。


天音先生は毛布を引き寄せながら寝始めた。



数分の沈黙の後、

天音先生は面倒そうにまたこちらを見る。

そして大きくため息を吐いた。


「顧問は断ってるんだ」


「え?」


「昼寝の時間もなくなる」

指を一本立てる。


「帰る時間も遅くなる」

二本目を立てる。


「休みの日も出勤になる」

三本目を立てる。


「私の恋活の時間もなくなる」

四本目を立てる。


「良いことが一つもない」


断言した。



私は思わず海里を見る。

海里もこちらを見る。


この人、教師としてそれを言っていいんだろうか。


「恋活って……」


思わず口から漏れる。


「大事だぞ!」


天音先生は真顔だった。


「高校生にはまだ分からないかもしれないが、

人生にはタイムリミットがある」


なんか変なスイッチを踏んでしまった。



「だから私は定時で帰る」


天音先生は再びソファに横になる。


「顧問はやらない。分かったら帰れ」


何だこの人。

海里も同じことを思ったらしく、

引きつった笑みを浮かべていた。




「ここでサボってること、新井先生に言いますよ?」


準備室の空気が止まった、気がした。


天音先生の眉がぴくりと動く。

寝転がったまま向こうを見ている。

でも今、絶対反応した。


先生には効いていると確信した。

海里もそれを感じ取ったらしい。


「良いんですかー?」


さらに攻める。


(もっとやれ....!!)


心の中で私も応援する。


「良いんですねー?」


海里がもう一度念を押す。

すると天音先生がゆっくりと上半身を起こした。

さっきまでの気だるそうな雰囲気が少しだけ変わる。


「お前たち、名前は?」


海里が即答する。


「星川 海里です!」


続いて私も答えた。


「上路 緑です。」


「上路……」


天音先生が小さく呟く。

そのまま少しだけ考え込んだ。


不思議だった。

今まで面倒そうな顔しかしていなかったのに、

その瞬間だけ表情が真剣になったように見えた。


沈黙が流れる。

やがて天音先生は小さく息を吐いた。


「分かった」


海里と顔を見合わせる。


「明日、話を聞いてやる。それで良いか?」


「本当ですか!?」


海里が身を乗り出した。


「ただし」


天音先生は指を一本立てる。


「今日は帰りなさい」


「え?」


「昨日夜更かしをして眠いんだ」


それだけ言うと再びソファへ倒れ込んだ。


「じゃあな」


そして毛布を頭まで引き上げる。

話は終わりらしい。


私たちはしばらくその様子を見ていた。

少しあしらわれたような気もするが、

少なくとも次には繋がっている。


今はそれだけで十分だった。


どうやら天音先生は一筋縄ではいかないらしい。


「では、また明日来ます」


そう言うと、

毛布の中から小さく手だけがひらひらと振られた。


返事なのかどうかは分からないが、

私たちは準備室を後にした。





帰り道。


夕暮れの光が住宅街をオレンジ色に染めていた。

私は海里といつものように並んで歩く。


春になったとはいえ、

夕方の風はまだ少しだけ冷える。


しばらく無言で歩いていたけれど、

沈黙を破るように口を開いた。



「大丈夫かな、あの先生」


天音先生の顔が頭に浮かぶ。


準備室で堂々と昼寝をしていた人。

恋活の時間がどうとか言っていた人。


「うーん⋯⋯」


海里は少しだけ考える素振りを見せた。


挿絵(By みてみん)


「うん! でも良い人そうだって感じた!」


「そう?」


「そう!」


海里は自信満々に頷く。


「なんで?」


「なんとなく!」


「出たそれ! 中学の時から海里は変わらないね!」


私は苦笑した。


海里のそういう勘は意外と当たる。

だから私も信じてみることにした。



海里は前を向いたまま続けた。


「あたしはあの人と麻雀部を作りたい」


まだほとんど話をしていない。

むしろ断られている時間の方が長かった。


それでも海里はそう思ったらしい。


空を見上げた。

夕焼けが広がっている。


「そうだね」


自然とそんな言葉が出た。

きっと私も悪い人ではないと感じているんだろう。


分かれ道に差しかかる。


「じゃあまた明日!」


海里が大きく手を振る。


「うん」


軽く手を振り返した。

そしてお互いの家へ向かって歩き出す。





明日、天音先生はどんな話をするんだろう。

そんなことを考えながら、家までの夕暮れの道を一人で歩いた。


次回、天音先生と話をするために、私は海里と一緒に再び図書室の準備室を訪れる。果たして緑は無事に天音先生を説得することができるのか?


第十八話「MONSTERS」

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