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9 赤髪のハンター

 今日は、畑から収穫した薬草を村の外れまで運ぶ仕事を任された。

 村の向こう側まで行くには、島内の低い崖岩をひとつ越えたほうが近い。一本だけ、その道が整備されている。島民たちの村の中は少しだけ入ったことがあったけれどそれも長の館のそばだけで、ここの崖まで来るのは初めてだった。

 リヤカーいっぱいに積まれたアスピリ草は、きれいな花をつけていた。

 これはこの世界ではよく使われている、鎮痛の効果がある薬草だ。地球でいうと、柳の皮みたいな役割の植物だな。花をつける頃は香りがよく、料理の香草にも使われるそうだ。


 崖の急な坂道の前まで来て薬草のリヤカーをいったんおいて、昼食を食べに島長しまおさの館まで戻った。


 ご飯の後で帰ってくると、恐ろしいことが起こっていた。

 アスピリ草のリヤカーの周りに黄色い化け物がいる。

 初めてこの世界に来た時に見た、あのでかいトカゲだ。しかも三匹も……!

 薬草から離れてくれ……、と俺は慌てた。

 その時。


「下がれっ! それは私の獲物だ!」


 岸壁に反射して響く大きな制止の声に、俺は振り向いた。

 崖の道のほうで、女の子が仁王立ちしている。

 申し訳程度の防具はついているが、ほぼビキニとしか思えない服装の筋肉質な女の子で、大剣を構えている。

 その武器を見て俺はピンときた。

 ……ハンターだ!

 真っ赤な髪が常夏の光にまぶしい。


 彼女は俺を一睨みすると、すぐさま前を向いてそのどでかいモンスターに飛びかかった。

 その一撃で、最前列で威嚇していた一匹目のトカゲが沈む。


 速い。あの手の大型武器を振り回すには相当な筋力が必要なはずだ……。

 そんな事を考えている間に、小柄な一匹が激怒した様子で向かってくる。

 俺は思わず両手を突き出して、身を護るために衝撃波を出した。

 カモメを吹っ飛ばした時よりも気合を入れると、台風の日の傘のようによじれてぶっ飛ぶモンスター。

 その着地に駆け寄った女の子による横薙ぎの一閃で、二匹目も沈んだ。


 最後のトカゲはジャンプして上から襲ってきた。

 後ずさりながら風を起こしてその滞空時間を少し伸ばすと、そいつはバランスを崩して砂に降り立つ。

 そして俺たちの攻撃範囲に入ったところを、女の子が一刀両断に叩き潰した。


「ふぅ……」


 剣についたモンスターの体液を、映画にでてくるサムライみたいにバッと振り落とすと、彼女はそれを背中に納めた。

 ……おそるおそる話しかけてみる。


「助かったよ」

「ふん……。お前のような奴を助けるために戦ったわけではないぞ?」


 赤い髪を揺らしながらつんとした態度をとる彼女。顔立ちはかなり整っているしスタイルもいいのだが、表情のせいで近寄り難い印象を受ける女の子だった。


「おい。お前が使った能力は一体何だ? 戦いかたは知らないようだな。この辺りまで来るのは初めてなのか?」


 俺の心を読んだかのようにそう言う彼女。そして、質問攻めだ。


「ああ。俺は畑を手伝ってて……、今日初めてここに来たばかりなんだ。いきなり化け物三匹に出くわして驚いた」


 それを聞いてため息をつくと、彼女は腰に手を当てて、ほんの少しやわらかい表情になり自己紹介を始めた。


「私はマリーン。カルスを三匹も一度に狩れたのはまあ、お前のおかげでもあるな」


 ……カルス。ここへ来てからずっときいてきた外来種の名前だ。あのめちゃくちゃ美味しいヤツ。

 こいつ、この黄色いトカゲがそうだったのか。

 黙って考えている俺に、マリーンが話しかけてくる。


「お前の名前は」

「ミナミ・アオ。よろしく……」


 俺の名前を聞いて、マリーンが反応した。


「アオ? 噂になっている、ヤトラの浜から来た?」

「そうだよ。ところで、これが、カルスなんだね……。君は、ハンターなのかい?」

「そうだ。ほかに質問は?」

「とくに……ないよ」


 ハンターになる方法を教えてくれ、と言うのはあまりにも唐突だと思い、胸の奥にとどめて保留することにした。

 それに、こちらも、別世界から来たのだなどとは今は言いづらい。まだ黙っていよう。

 ほかにあえて一つ気になる事があるとすれば……防御力度外視のその服は……?と訊いてみたかった。

 すごい格好で外を出歩いているな。

 マリーンはそんなことまったく気にしていないようで、トカゲの体を眺めながら少し誇らしそうにしていた。


「島長に届け出るぞ。早めにこいつらを解体しないといかんからな」

「か、解体?」

「なんだ、見たことないのか」


 薬草をいったん持ち帰り、俺たちは外来種退治の報告を島長の館にしに行った。

 

 ──島のために、ハンターになりたいんです。カルスのハンティング報告をする際に、俺はカイリさんとラナナルさんに、そう伝えた。






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