人形たちの嘆き⑥
人形の手が一瞬止まる。
『いやな男。ただの人間なのに諦めが悪いわね』
その目には生気が失われてはいなかった。
珍しい紫の眼がまっすぐに人形を見ている。いや、人形の向こう側にいる彼女に注がれていたのだ。
その瞳に峰子は恐怖さえも覚えた。
人間なのに……。
なんの力も持たないただの人間なのに……。
峰子はふいに黒いローブの人間の言葉を思い出す
“消えてもらったほうが気持ち的にいい”
そういうことね。
嫌な目。
このまっすぐな目が煩わしいのね。
峰子はそう判断づけた。
でも、無駄よ。
何の能力も持たない人間が能力者の集まりである私たちに勝てるわけがない。
だから、彼らはどちらでもいいと判断したのだ。
この刑事の存在はどこか煩わしいが、ただの人間なのだから、いつでもどうとでもできる存在でもある。
いま消そうがあとで消そうが、彼らにとっての妨げにはならないのだ。
ならば、今消そう。
そのまっすぐな目を完全な曇らせることはできなかったけれど、それはそれで最高の作品ができるに違いない。
奪う。
その目も
その生命も……
『じゃあ。さよなら、刑事さん』
人形が尚孝の眼に触れようと再び動き出す。
「そうだな。けど、奪わせないよ。俺もこの子も」
「ハイパープリティーアタック―――――――」
直後、女性のハイテンションな声が響くと同時に尚孝の後方にあった壁がものすごい勢いで破壊されていく。その爆風で尚孝と洋子に張り付いていた人形たちが飛ばされていった。
『なに?』
峰子が驚愕の声を上げる。
尚孝は立ち上がり、洋子はなにが起こったのかわからずに、四つん這いのまま茫然とする。
「なんなのよ。その掛け声」
「相変わらずノリノリやなあ。愛美ちゃんは」
「へへへへ。いいでしょ。いいでしょ。衣装もばっちりよん」
「ようやく来たな」
尚孝は視線のみを破壊された壁から出てきた男女を見る。
洋子もそれにならって振り返ると、二人の女性と一人の男性の姿があった。
「おお。芦屋はん。元気ですかあ」
「元気だ。それよりも、派手な服きているな。お前」
その言葉を聞いた愛美は、ニコニコとまるで少女のような笑みを浮かべる。
派手というのもわかる。
彼女の来ている服がピンクのフリフリスタイル。まるでメイド喫茶の店員かどこかのアイドルのような装いをしていたからだ。
「っていうか。いつ着替えたんやあ」
「私の得意な三秒早替えよん」
その手にはステッキが握られている。そのステッキもどこかの魔法少女アニメの主人公が握ってそうな杖だ。
「いいでしょ。いいでしょ」
『なにものだ?』
人形がいう。
「決まっているでしょ。私たちは」
「はい。そこまで」
愛美がなにかを言おうとするのを制止した。
「ええ。これからなのにいい。魔法少女プリキュアセーラートモヤラブメグミ登場とか決めたいじゃないの」
「なに?その長いネーミング」
「いいでしょ。かっこいいでしょ」
「ダさ」
『なにをしゃべっている?邪魔をするなら、全部殺してやる』
直後、人形が一斉に倒れる。
「なんだ?」
「器から出てきたんや。鬼になり損ね。いやアヤカシになり損ねた魂の集合体がウジャウジャや。気持ち悪い。緑色の人間や」
成都がそう説明する。
「悪い。俺にはみえん」
「それなら、先に逃げや。野風頼むわ」
「心得た」
成都の呼びかけと同時に忽然と一人の女性が現れる。
「人の姿せんでもええやんか」
「別に構わんだろう。こちらのほうがいい」
野風と呼ばれた女は呆然としている洋子を引っ張り上げた。
「さあ。行くぞ。尚孝。私に捕まれ」
「恩に着る」
洋子は野風に抱き寄せられ、尚孝は野風の肩に手を回す。
「行くぞ。しっかり捕まえてろ」
「落とすなよ」
「そんなへまするか。ボケ」
野風たちは破壊された壁のほうへと向かう。
『逃がすか』
人形の中から現れた一つ目の緑色の人間たちが尚孝たちのほうへと近づこうとする。
シュッ
し
しかし、緑色の人間の体が真っ二つに切れ、そのまま消えていく。
『なに?』
いつの間にか、成都の手には槍が握られていた。
「ここからはおれたちが相手や。でも、炎出すには堪忍や」
「自ら弱点披露しないでよね。バカ」
桜花はこっそりとつぶやくし、その手にカードが握られている。
愛美もまたと杖の先を緑色の人間へと向ける。
その間に野風は尚孝たちを抱えたまま、壁から飛び降りた。




