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かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く  作者: 野林緑里
奪われた瞳と放たれた銃弾
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迫りくるモノ⑤

 歌が聞こえる。

 常備灯とテレビの光のみで照らされた部屋で、テレビから漏れる歌声のみが響き渡っている。

 部屋は見渡す限りの棚には無数の人形やぬいぐるみたち。その主となるものがくまのぬいぐるみなのだが、時折フランス人形の姿もある。

 月の光が照らす窓際の作業台の上にはミシン。中央には広いテーブルの上には、作りかけのぬいぐるみと裁縫道具。その前にひとりの女性が座っている。なにもすることもなく、まだ目のついていないフランス人形を見つめている。

「どちらかにしてもらえないかしら」

 彼女の後方から声がした。女性というよりも少女の声だ。

「どちらも好きなの。ぬいぐるみを作るのもすきだけど、最近は人形を作ることがすきよ」

 人形の前に座る女性がいった。

「そうね。あなたの作るものは私も好きよ」

 背後にいる少女がいうと、彼女が振り返る。

「ありがとう……」

 彼女が微笑みを向けたのは、少女。フリルのついたワンピースを纏い、腕にフランス人形を納めた十歳に至らないほどの幼い女の子だった。

「でもね。そんなに素敵なのに、どうして迷うの?」

「迷うわ。どうしても見つからないのよ。どうしても……」

「そうなの……」

「でも、ようやく見つけたわ」 

 彼女は目の入っていない人形を見ながら、うっとりとする。

「ふふふふ。とめようとしても無駄よ」

「別に止めない」

 今度は男性の声がする。

 彼女は振り向かない。彼のことも知っているからだ。

「そう……。大丈夫よ。これが完成すればやめるわ。これさえあれば満足なの」

 彼女は口元に笑みを浮かべた。


________________________________



 洋子は寝付けなかった。

 帰ってすぐに風呂と食事わ済ませた洋子は、何となく疲れていたのですぐに布団に入ったというのに、どうも誰かに見られているような気がして寝付けない。こんなこといままであったのだろうかと振り返ってみたが、感じたことがない。ただ唯一、姉の葬式の時にだれかに見られているような感覚に襲われたぐらいで、それ以降にそんな気持ちになったことはない。それなのにいまはどうだろう。

 だれかがじっと観察しているようでならない。

 誰?

 彼女は布団から起き上がって周囲を見回した。

 特に変化はない。

 いつもの自分の部屋だ。

 なにかが起こる気配などどこにもなかった。

 けど、どうしてなのか違和感があった。

 見慣れた自分の部屋。

 その中になにか異質が紛れ込んでいるような違和感。

 なんだろうか。

 洋子はその正体わ探るべくしてベッドから降りると、部屋中を見回した。そしてふいに箪笥の上を見る。そこにはラッピングされたままのくまのぬいぐるみが置かれていた。あれもずっと置きっぱなしだ。姉が死んだ日からずっと置かれているから埃かぶっている。

 彼女はどうもそこから目が離せなかった。

 視線がする。

 もしかしてみているのだろうか。

 その中のぬいぐるみが出してくれといっているような気がした。

 洋子はそっとぬいぐるみの入った袋を手にとるとラッピングをほどいていく。

 ようやく熊の後頭部が目に入ったとき、彼女の手が止まった。

 だめだ

 出してはダメだ

 どうしてそう思うのかはわからない。

 でも、ここからだしてはいけないような気がしてならない。それなのに、出せ出せとなにかが言っているように思えてならない。

 出していけない

 出さなければならない

 そんな想いが交差していく。

 心臓がバクバクする。

 戸惑っていると一瞬熊の耳が動いたような気がして、思わず袋ごと放り投げてしまった。

 袋から熊の顔が現れた。

 彼女が熊のほうへと近づこうとした瞬間、熊のぬいぐるみが勝手に袋から這いつくばるようにして飛び出したのだ。

 え?

 出てきたかと思うとムクッと立ち上がった。

 なにが起こったのかはわからない。

 洋子は呆然とそれをみていると。熊のぬいぐるみがこちら側を見た。そして、両手を伸ばしながら、ゆっくりと洋子のほうへと近づいてくる。

「なに?なんなのよ」

 洋子の声が震える。

「くれ……」

 声が漏れる。

 女性のくぐもったような声だ。

「くれ……ほしい……その瞳……」

「きぁあああああ」

 洋子は悲鳴を上げた。


_______________________________________


 彼女は歌っている。

 テレビから流れる曲に合わせて歌いながら、人形の髪の毛を撫でている。

「なにかしたの?」

 少女が尋ねた。

「もうすぐ仕上がるのよ。そのために必要なものがもうすぐ手に入るの」

「でも邪魔もいるでしょ」

「それは大丈夫。もう指示しているわ。それとあなたたちが探していたもの。持っていかれたわよ」

「そうなの……。でもどうでもいいわ。もっていったのは、彼らでしょ」

「知り合い?」

「知り合いといえば知りあいね」

 少女は隣にいる男性を見た。男性は視線のみわ彼女に向ける。

「ま、どうでもいいわ。お隣のビルの事情も呪いも私には関係ないわ。でも、大丈夫?あなたたちの知り合い」

「あらら、あの呪い。やつらが狙っていたのね。大変」

 そういうわりには全く切羽詰まっていない。

「でも大丈夫よ。あの子は強いからね。ねっ、ユキ……」

 少女は男性のほうを見る。

 ユキと呼ばれた男は別の方向を見ていた。



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