店長と刑事⑥
なんだか妙に緊張してしまう。
隣の運転席に座るのは、大人の男性。
よく見ると顔も整っているし、身長もそれなりにあるし、筋肉もありがっちりとした体形をしている焦げ茶色の肌に黒い前髪は後ろへと流している中で一房ほど前へ垂れ下がっている。
あの店でシャワーを浴び洋服を貸してもらって着替えた。
「よし、これでいいわね。もう外も暗いわ。帰ったほうがいいわよ」
店員がいう。何気なくいった言葉なのかもしれないが、洋子にとってはすごく冷たく感じた。もう少し話を聞いてくれてもいいのではないかという視線を向けるがそのあとの言葉がでない。
一体、彼女になにを訴えようとしたのだろうか。
「今日のところは帰ってちょうだい。もう店じまいよ。店長が連れてきたこともあるし、もしも話があるようなら、くればいい。話は聞くわ。どうするかは別の話だけど……」
彼女は洋子の心情を察したのか、そう付け加えた。
洋子は一礼すると帰ろうとした。それを呼び止めたのが刑事さんだった。
「もう遅い。家まで送る」
遅いといってもまだ8時だ。
店も開いているし、ネオンの光もある。そんなに危険な感じもしない。
「いいです。一人で帰れます」
「だめだ。未成年がこんな時間で一人でうろつくものじゃない。送ろう」
そう言われると、仕方がないような気がする。言い出したのは刑事さんだ。いうことを聞くしかないではないか。
「お願いします」
洋子は刑事さんの車に乗ることにした。
となりにいるのは刑事。
車両はパトカーでないにしろ、刑事と知っていると自分がなにかの罪を犯して捕まったような感覚に襲われる。
未成年だから、遅くまで街をうろついて補導されたというのが正確なのだが……。
車が走っていく。
なにも話すことがない。
刑事さんも黙ったままで車を走らせていく。
沈黙はさらに息苦しさを与えてしまって仕方がない。
なにか話したほうがいいのか。
それとも、ずっと黙っていたほうがいいのか。
洋子はちらちらと刑事さんへ視線を向ける。
そして、洋子は気づいた。
「あのお……」
思わず口を開く。
「どうかしたか?」
刑事さんは正面を見たまま、応える。
「そのお。初対面の人にいうのも失礼かなあと思うんですけど……。その……」
「初対面じゃないだろう。三か月前もあっている。別に構わない。なにか気になることでも……」
言っていいのだろうか。
「刑事さんはハーフなんですか?」
聞いてしまった。これは明らかにプライベートなことだ。
どうしよう。
洋子は思わず俯いた。
「目の色か?」
さほど時間を要することなく、刑事さんが答えた。
洋子が刑事さんを見る。
目の色。
日本人特有の黒い目をしていない。
かといって、単純に青い目をしているわけでもない。
暗くてはっきりとはわからないが、どこの国のものとも見当が付かない色をしているように思えた。
「桔梗?」
洋子がつぶやく。
その瞳は桔梗の花の色に似ている鮮やかな紫だった。
「珍しいだろう。コンタクトじゃない。生まれつきだ」
そんな会話をしている間に家が見えてきた。
「ここでよかったよな」
「はい。私の家です」
家の前で車を止めると。刑事さんがドアを開けて出る。それにつられるように洋子も外へ出た。
風が吹く。
まだ九月というのに少し寒い。
空を見上げると月も見ず、明らかに雲で覆われている。
家のほうを見る。
明かりがついている。
洋子は刑事さんに促されるように玄関へと向かう。
刑事さんがインターホンを押した。
すると、家の中でドタバタと駆けてくる音。
扉が乱暴に開くと同時に母親が血相を変えて、顔を出した。
「洋子。洋子」
突然、母が洋子に抱き着いてきた。
「遅いじゃないの。心配したのよ」
時刻は夜の九時。
いつもなら、七時前には帰っているはずの娘がなかなか帰ってこなかったことを心配していたのだろう。
そんなに敏感になることはないと思うが、姉の事件をきっかけに彼女の心配性が過剰になってしまっている。
もしも、姉と同じように事件に巻き込まれたらと思うと不安でたまらないのだろう。
「心配で電話したのよ。そしたら、そこの刑事さんが出てくださって……」
洋子は携帯を見る。
すると、母からの着信が何件か入っており、最後の一件は応答した履歴が残っている。
洋子は刑事さんを見た。
「すまない。取らせてもらったよ」
「洋子。刑事さんをせめてはいけないわよ」
別に攻めているわけではない。
しかし、母はよく刑事さんだとわかったなあと洋子は疑問に思う。
「洋子は知らないかもしれないけど、この刑事さんはね。お姉ちゃんの事件について真剣に調べてくださっているの。いつも経過を報告してくださるのよ。芦屋刑事……」
母が刑事さんを見た。
「本当にありがとうございます」
「いえ。娘さんに何事もなくてよかった。亜衣さんのことは引き続き調べていますので、なにか変化があれば報告させていただきます。それでは……」
刑事さんはそのまま去っていった。
洋子と母はしばらく刑事さんの車を見送っていた。




