かぐら骨董店②
突然、クラスメートの江川樹里がおかしくなったこと。渋谷での出来事。
はっきりと覚えている一連の出来事だというのに、だれも覚えてはいなかった。
何事もなかったように時が流れていくだけ。あれはなんだったのか。
ただの夢だったのではないかと思いはじめたときに、弦音の眼に奇妙なものが飛び込んできた。
見たことのない生物。
人間のように見えて、小柄だったり、耳が尖がっていたり、一つ目だったり、三つ目だったり、
ゲゲゲの鬼太郎でみたような「一反木綿」や「塗り壁」やら、ここ数日見たモノたちは数知れず。
けれど、それらは別に弦音を襲ったりすることはない。
ただ、そこにいる。
人込みの中で異質な存在がだれにも気づかれずに存在しているのだ。
どうなっているのかと訳の分からない現象に悩んでいるところに、突然子供が現れた。
教室の窓の外。
胡坐をかいた状態で無邪気な笑みを浮かべながら、プカプカと浮かんでいた。
弦音は思わず立ち上がり、声をあげてしまった。
授業中だったためにクラスの視線がこちらへと向けられたのはいうまでもない。
すると、いつのまにか子供が自分の目の前にいた。
そのはずだが、だれも子供に気づかない。いや見えていないのだろう。
「別に見えていないわけじゃないよ。ただ、僕にまったく意識がいっていないだけだよ。あっ、授業中だったね。じゃあ、放課後。校門前でトモ兄と待っているね。お兄さんの知りたいこといっぱいお話してあげるね。じゃぁね」
その直後、子供は視界から消えた。
「こらっ杉原。なにをしている。座りなさい」
弦音は慌てて席につく。
クラスの視線が正面に戻ると。弦音は窓の外をみた。もう子供の姿はない。
あれはなんだったのだろうか。
弦音は放課後、校門のほうをみる。
確かにいた。
トモ兄らしい青年とあの子供
有川さん?
有川朝矢はだれかと電話しているらしく、携帯を耳に当てていた。その隣で子供がこちらへと向かって手を振っている。
弦音は慌てて、教室を飛びだすと彼らの下へとむかった。
すると、朝矢が少々面倒くさそうな顔をしながら、骨董店でバイトしないかと言ったのだ。
突然何をいうのだろうと思った。
「俺はどうでもいいんだけどさ。店長が来てほしいっていうんだよ」
「店長?」
自分は会ったことがあるのだろうか。
「とうさんだよ。僕がお願いしたの。お兄さんをバイトで雇ってって……」
「おれはそんなこと頼んでないけど……」
弦音は困惑した。
「そりゃあ、そうだろう」
朝矢がげんなりした顔をする。
「だって、僕がそう思ったんだもん。お兄さん、必要かもって……」
子供の言っていることの意味が弦音には理解できずにキョトンとしている間にも、二人の会話は続いた。
「俺は反対だけどな」
「絶対に必要だよ。もっとたくさん、必要」
「そんな必要ねえよ。つうか、ナツキ。気に入ったからって、次々と誘うなよ。ボケ」
朝矢は、ナツキと呼ばれた子供の頭をたたいた。
「いいじゃん。たくさん。たくさん。必要だよ」
「楽しんでいるんじゃねえよ」
どうやら、自分はこの子供に気に入られたようだ。
たくさん必要というのはどういうことなのかはわからない。
「とにかく、来るか来ないかはお前次第だ。もし、その気があるなか店にこい。住所はここに書いてある」
そういって、朝矢はメモを渡した。




