99話 吹雪の中でも進みます
「では魔法箱からいろいろ取り出すので今度こそ降ろしてくださいね!」
「……わかった」
クーは迷いに迷った末、渋々とミズキを降ろした。ミズキは魔法箱からパニネや串肉、温かいスープといったものを取り出し二人へ手渡していく。
「これは?」
クーは手元にある焼きたての串肉と、湯気の立つスープを見て首を傾げていた。
「ボクの魔法箱は温度が変化しないので買ったものをそのまま入れてあるんです!」
「なるほど」
そういえば保温器が要らない魔法箱だったことをクーは思い出した。
「便利」
クーが一言呟く。ファティマはすでにミズキの魔法箱の機能を知っていたので、特に気にせず美味しそうに串肉をほお張っていた。
それから食事を済ませた三人は、暖を取るために一緒になって毛布に包まっていた。
ミズキは相変わらずクーに抱き締められていたが、もはや気にもせずすっかり慣れてしまっているようだった。
「なんで『大雪原』」
ふと、クーがなぜこの『大雪原』に来たのかを尋ね、ミズキはファティマの魔法剣を作るためだと話した。
その際に氷の素材が必要だと言われ、探しに来たのだと続けて説明していった。
「私は剣士になりたいんだ」
ファティマは片手剣を持った者に助けられて以来、ずっと剣士に憧れ過ごしてきたことを話していく。
「ふぅん」
話を聞いたクーの言葉はそっけないものであった。しかし。
「なら任せて」
クーの言葉は率直に過ぎたものだったが、そこにはファティマの助けになりたいという、確かな思いが見て取れた。
「ありがとう」
ファティマにもクーのそんな思いが伝わったのか、嬉しそうに微笑んでいた。
「ボクにも任せてくださいね!」
「ふふ、ミズキもありがとう」
自分も居るのだと、クーに抱かれ毛布からひょっこり顔を出すミズキが強調すれば、ファティマの口からは笑みが零れる。
「私の目的はそれだけどミズキは元の世界に帰りたいんだよね?」
「そうですね、今は帰るのが難しいですけど……」
「元の世界?」
ファティマとミズキの会話の中にあった、元の世界という言葉にクーが反応する。
「ボクは別の世界からリティス様に呼び出されたんです」
今までのことをファティマに話したように、クーへも同じように説明していった。
「そっちも手伝う」
「ありがとうございます!」
クーはやはり無表情だったが、気遣ってくれての言葉にミズキは嬉しくなった。
一方でミズキは、魔法剣に必要な素材集めを手伝ってもらうばかりでなく、元の世界へ戻ることも手伝うと言ってくれたクーに、何かお礼ができないかと考える。
ましてや寒いのが苦手だというのに、どうしてここまでしてくれるのか聞いてみると。
「一緒に居るほうが暖かいから」
暖かいミズキ狙いであった。まるでそれ以外は要らないと言わんばかりの答えだ。
「そう、だったんですね……なんとなくそんな気はしてましたけど……」
フードの耳を垂らして脱力したミズキは、まるで湯たんぽのような扱いに密かにため息をついた。
*
翌日は吹雪であった。風が叩きつけるようにしてテントへと襲いかかり、厚手の布地がばたばたとはためいている。
そのテントの中でミズキたちは話し合っていた。
「すごい天気が悪そうですけど……」
「よくある」
ミズキの言葉になんのことはないとクーが答えていた。
「吹雪の中を歩くのは危なくない?」
「〈炎の加護〉で行く」
ファティマは滑落や魔物との急な遭遇を心配し尋ねていた。
しかし、魔物についてはなんとかすると共に、『大雪原』に不慣れであるならば、吹雪の中でもある程度戦えるようになったほうがいいとのことだった。
視界を奪うタイプの魔物も居ることからの判断だ。
「わかりました」
「なるほどね」
二人が了承したところで、食事を済ませたあとにテントを出たが。
「ぎゃあああああ! 目が、目がああああ!」
猛吹雪によってミズキの顔に凄まじい勢いで雪が叩きつけられていた。
「青炎は全てを焼き尽くす、冷気払いし炎の守りを我らに、〈|炎の加護〉」
青い光に包まれると、風に飛ばされる雪が球状に広がる光を境に逸れていく。
内側からは、雪と風が避けるようにして流れていくところがはっきりと見えた。
「おお、すごいです! 雪が避けていきますよ!」
しかし、視界は隔てる境界まではいいのだが、それより外は真っ白でなにも見えない。
「視界は悪いまま」
「それでも全然違うよ。相手も見えないなら大丈夫じゃないかな。それに結構広いよ」
クーが視界の悪さを指摘すると、ファティマは戦う分には問題はなさそうだと話す。
「あ、近くに居るみたいです」
二人が話しているとミズキが魔物の気配を察知した。




