98話 クーの炎魔法
「青炎は全てを焼き尽くす、冷気払いし炎の守りを我らに、〈炎の加護〉」
青い光がミズキたちを包み込み寒さが和らいだ。
「おお、すごいです! 暖かくなりました!」
「ほんとに全然違うね」
「ん」
ミズキがフードの耳を立てて喜び、ファティマもその効果に感心している。そしてその様子にクーは満足そうにしていた。
〈炎の加護〉は『大雪原』のような極寒の地では極めて有用な魔法だ。寒さから守るだけでなく、凶悪極まりない氷属性の威力を弱める効果があった。
〈炎の加護〉も掛けたことでいよいよ探索を開始する。クーはミズキを抱えながら歩き、その後ろをファティマが続く。
さらさらの雪をかき分けながらミズキたちが進んでいたときだ。あの角が氷で出来たトナカイのような魔物が現れた。
「来ましたね! 今回は前とは違うんです、リベンジですよ!」
「〈炎槍〉」
ミズキがクーの腕の中でやる気十分といった具合に叫んでいると、クーが〈炎槍〉を放った。
目の前で螺旋を描きながら圧縮された炎が、槍となってトナカイへと飛んでいく。
直撃すれば大爆発が起こり、跡形もなくなってしまう。そして付近の雪が消え、そこだけ地面が露出していた。
「……リベンジですよ~……」
一瞬で終わってしまった戦闘に、やる気をみなぎらせていたミズキはどうしていいかわからず、気まずそうに言葉を重ね、フードの耳をしんなりさせていた。
「任せて」
魔物を一撃の下に消し飛ばしたクーは満足そうな表情だった。
「街でも見たけどほんとにすごい威力だね」
「これがあるから」
ファティマがクーの魔法の威力に感嘆していると、クーが灯杖を掲げて見せた。
灯杖に下がるカンテラの中には炎精霊が入っており、炎魔法の威力上昇や魔力消費を抑える恩恵がある。
代わりに炎魔法以外は威力の減少や、魔力消費量の増加などのデメリットがあるものでもあった。
なかでも、このカンテラには上位の炎精霊が入っており、そのカンテラが二つ付いているのがクーの持つ灯杖だった。
「なるほど。変わった形だと思ってたけどそういうことだったんだ」
クーの説明にファティマは頷いていたが、ミズキは首を傾げてしまう。
「精霊って『全て慈しむ紫光』や『変転せし六光』のことですか?」
「全然違う」
「あう……」
疑問に思ったミズキが問いかけるもクーに否定されてしまう。
クーが言うには二人の創精霊と六人の大精霊が居り、そのほかの精霊が数多く居るとのことだった。
創精霊とその辺りに居る数多の精霊では格が違いすぎるということで、先ほどの言葉に繋がった。
「これは高位の精霊」
クーはカンテラを掲げ、中に居る精霊の格が高いことを示していた。
「へぇ、すごいんですね?」
「そう、すごい」
クーは満更でもないらしく、その顔は少し緩んでいた。しかしそのとき、遠くで何かが動いていたのをファティマが見つける。
「何か居たから二人とも気をつけて」
「どこ?」
クーが確認すればファティマは居た方角を伝える。
「わかりました! 今度こそボクの出番ですね! さぁクーさん、ボクを降ろしてください!」
「〈鎖爆〉」
手前から奥へ向けて続く、連鎖的な爆発が雪を吹き飛ばす。
爆発が通り過ぎたあとには青炎が舞い、周囲との温度差によって陽炎が生じてしまっていた。
確かに何かの魔物が居たようで、遠くで霧散していく粒子が確認できた。
「…………」
「降ろしたら寒い」
抱えられたミズキが抗議のために後ろを見上げていると、クーがぼそりと呟いた。
もはや自分たちが居る必要などないのではないか、そうミズキが思い始めると。
「私たち、居なくても変わらないんじゃないかな……」
ファティマがミズキの考えていたことを呟いてしまう。
「気にしない」
クーがいつもの調子でフォローを入れると黙々と歩きだした。
それからというもの、ミズキはひたすら抱きかかえられるばかりで、たまに魔物と遭遇すればクーが問答無用に焼き払っていった。
そんな感じの探索を続けていると、辺りが急に暗くなり夜となった。
「どうする?」
「どうしよっか」
クーが続けて探索するかと確認すれば、ファティマも同じく聞き返していた。
「ん~、ボクは歩いてないので全然疲れてないんですけど……二人は疲れていないんですか?」
ミズキはずっと抱えられたままなので、一度も足をつけておらず全く疲れていなかった。
「確かに疲れてるし、もう休もっか」
「了解」
ファティマとクーが休むことを決め、厚手の白いテントを取り出していく。一度雪を掘り起こし、穴にテントを埋めるようにして設置していった。
中に入ると火晶石ストーブを点け、外界との繋がりを遮断する魔道具も設置していく。
そうすれば極寒の地に居るというのに中は暖かく、十分くつろげるだけの広さがあった。




