77話 対抗装備を考える
『森の都』にあるポータルの前には、床に顔を擦らせたミズキと肩で息をするファティマの姿があった。
その様子を道行く人々が怪訝そうに見つめていると、鼻血を垂れさせるミズキが勢い良く起き上がった。
「ひどい目に会いました!」
「はぁ、なんとか逃げ切れたね……」
『森の都』に逃げ込んだ二人の服は、雪が溶けてびちゃびちゃになっていた。ミズキに至ってはおなかに穴が開いている始末だ。
「これからどうしよう……」
「まずは炎属性の武器と防具が最低限必要かな……?」
「リティス様なら作ってくれるだろうけど素材、あったかな……?」
駄目でもともと、必要な素材を教えてくれるかもしれないのでリティスのもとへ向かうことにする。
「リティス様のところに帰ろうと思いますけどファティマさんはどうしますか?」
「私も一度帰ろうかな」
「わかりました。ではまた明日会いましょう!」
「うん、わかった」
それから二人は光に包まれると、それぞれの魔女の下へと帰っていった。
*
魔女エマヴィス・リティスの領域に、ミズキの元気な声が響いていた。
「ただいまです!」
「おかえりミズキちゃん」
読んでいた本を置いたリティスがソファーから立ち上がる。
「聞いてくださいよリティス様! 氷の素材を取りに行ったら敵が硬すぎて歯が立たなかったんですよ!」
ミズキは『氷耳兎』との戦闘の様子を、リティスに一生懸命に説明していく。それからトナカイに追われて逃げ帰ってきたことを話した。
「予想通りね!」
「え、予想通りってどういうことですか?」
リティスのまるで知っていたという言葉にミズキは首を傾げる。
「言うのを忘れていたけれど、氷属性の魔物と戦うには何かしらの炎属性のものが必要だからよ!」
「そんな大事なこと言い忘れないでくださいよ!」
ミズキは不満に吠えるがリティスが気にすることはなかった。
「だって言おうと思ったらすでに居なかったんだもの」
「それなら向こうで話しかけるなりしてくださいよ!」
「あ、その手があったわね。忘れてたわ」
「ひどいです!」
肩を落としたミズキは本来の目的について話すことにする。
「はぁ、とにかく対抗できるような装備が要るんですから……今のままじゃ全然戦えませんよ?」
「そこは安心していいわ! 取っておいたこの『炎鉱石』があるから装備を作ることは問題ないのよ!」
どこからか現れた『炎鉱石』がリティスの手の平にいくつか乗っていた。
「前に全部使ってしまったって言ってませんでした?」
「言ったわね」
コレクションを全て使われ『ばとるん二号』が作られてしまったことだ。
「ミズキちゃんのコレクションは全部使ってしまったと言ったはずよ」
「じゃあなんでその鉱石が残ってるんです?」
「それは『炎鉱石』は取っておいてミズキちゃんのコレクションは、全部使ってしまったからよ」
「ひどいです! 自分のお気に入りだけ取っておいてボクのコレクションを使うなんてひど過ぎますよ!」
ミズキは机をだんだん踏みつけ、涙目でリティスを見上げながらににらんでいた。
「そのおかげで今装備が作れるから別にいいじゃない」
「良くないですよ! 順序があるんですよ!」
倒れ込んだミズキが手足をばたばたと動かし、体全体で抗議していた。しかし、リティスはその様子を眺めるばかりでさしたる効果はない。
それどころか、リティスの顔がだらしなくなっていることから、その様子を楽しんでいるのだろう。
やがて疲れたミズキは動くのをやめ、その腕がぱたりと机の上に落ちた。ミズキがぐったりしていたが、リティスはお構いなしに話しかける。
「それで何を作ろうかしら?」
「戦えればなんでもいいですので勝手にしてください」
「そんな……!」
ミズキの投げやりな様子に、リティスは衝撃を受けよろめいていた。
「なんでも作っていいなんて……!? それなら猫ちゃんパジャマを強化するとかキラキラなドレスとか作っていいってことよね!?」
「わあああ! 普通の、普通のがいいですぅぅ!」
ミズキが慌てて起き上がった。両手を振って否定するミズキをよそに、リティスは邪に目を細め、その妄想ゆえか気味の悪い笑みを浮かべている。
「変なの作っても絶対に着ませんからね!」
ミズキの決して譲らない主張にリティスは残念そうにする。
「猫ちゃんパジャマじゃ駄目なの……?」
諦め悪く名残惜しそうに呟いた。眉尻を下げ悲しそうにするリティスの様子にミズキはたじろぐものの。
「ふ、普通のがいいです……!」
「……わかったわ。それはそれとして武器はどうしましょうか」
武器と言われてもミズキはよくわからない。『ばとるん二号改』に炎属性を付けるのでは駄目なのだろうか。
「単純に炎属性にするんじゃ駄目なんですか?」
「駄目よ! 折角のチャンスだもの! ほかの魔女の作っていないロマン溢れる武器がいいわ!!」
「あまり変なのだと戦いにくくないですか? ボクは〈魔力刃〉みたいなわかりやすいのがいいんですけど」
しかし、ミズキの言葉はリティスには届いていなかった。熱く語るリティスが腕を振るい、机に手が叩きつけられるとミズキの体が飛び上がる。
それだけに止まらず、衝撃によって崩れた本がミズキの周りに落下していた。
「わああああ! 本が、本がああああ!」
崩れてくる巨大な本をミズキは必死に避けていた。なんとか窮地を脱したミズキが肩で息をしている。
「それでほかに素材は無いのかしら?」
机の上の惨状を目にしながらもリティスは呑気に問いかけていた。
「…………」
ミズキは納得がいかないながらも、無言でランドセル型魔法箱から素材を取り出し、リティスへと投げ続けていた。
しかし、素材はリティスにぶつかることなく空中で止まり、リティスの手の平へと落ちていく。
「かなりいい素材だけれどほかには無いのかしら」
素材の質に不満だったのかリティスがそんなことを呟いた。
その言葉にミズキはどきりとする。剣の亡霊と戦ったときに得た一番光が強いものを出していなかったからだ。
ひそかにコレクションにしようかと考えていた、とっておきの素材だった。




