69話 古城の揺らめく光
「どうしよっか?」
探索を続けるかどうかという意味の問いだ。城はかなり広く、今から外に向かっても夜となってしまうだろう。
ミズキはこの世界の一日のサイクルに慣れてきたものの、もうすぐ眠くなってしまう時間でもあった。
探索を中止して帰還するという選択肢もあったが、ミズキはファティマのことを思い探索を続けることにする。
「探索は続けましょう。休憩できる場所を探さないとですけど……」
しかし問題もあった。このいかにもな雰囲気の城内で寝泊りしなければならないことだ。
何か出そうなところでの寝泊りなどものすごく嫌であったが、背に腹は変えられない。
「ならそこの部屋とかどうかな」
ファティマが指差したのは、先ほど出てきたなんの変哲もない部屋だ。
城内に居る魔物はほとんどが部屋の中に居り、そこからほとんど動かないようで寝込みを襲われる心配はない。
部屋に入るとミズキが魔法箱からサンドイッチを取り出し、紅茶をカップに注げばあっという間に食事の準備が整った。
「あれ、湯気が出てるよ?」
「ボクの魔法箱は特別製? ですからね!」
「そうなんだ。すごい、ほんとに温かい……」
紅茶を飲むファティマは微笑んでいた。サンドイッチも食べ終わり、室内にあるベッドの埃を払っていたときだ。
突如として『全て慈しむ紫光』の光が無くなり、部屋の中が真っ暗となった。
「ぎゃああああああ!? く、暗いです! 暗いですぅぅぅぅ!?」
「きゃっ!」
驚いたミズキがファティマに衝突し倒れていた。
「ミズキ、大丈夫、大丈夫だから! 夜になっただけだよ!」
「ふぇ……?」
ミズキが涙に濡らす顔を上げれば、窓の外には星の光が見えた。
「びっくりしました……」
ミズキは力が抜けたのか震えながら呟く。それからはファティマがミズキをなだめ、一緒のベッドで横になっていた。
ファティマの腕の中には緊張に身を固くしたミズキの姿がある。
「うぅ……な、何も出ませんよね……?」
「きっと大丈夫だよ」
ファティマの体温を感じることでいくらか平静を取り戻せたが、やはり怖いものは怖い。ミズキはファティマにしがみつき、眠れぬ夜を過ごしていく。
それでもいつの間にか眠っていたようで、起きたミズキの前にファティマの胸が目に入った。
今更ながらに、自分の置かれた状況を理解したミズキは羞恥に顔を赤くする。
あまりの恥ずかしさに悶えすぐに離れようとしたが、寝ているファティマに抱き寄せられ、その胸に顔を埋める形となってしまった。
「~ッ!?!!?」
突然の出来事にミズキは狼狽し、慌てて離れようとするがファティマが逃してくれない。
顔に当たる柔らかい感触に、心臓の鼓動がうるさいほどに鳴り響いていた。
どうすればいいのか、すっかり混乱したミズキだったがファティマは目を覚ます。
「おはよう?」
胸元に抱き締めるミズキを見てそんな言葉を発した。
「お、おおおおはようございます……」
動揺仕切ったミズキが挨拶を返す。
「ごめん苦しかった?」
「だ、大丈夫です……!」
ミズキが顔を真っ赤にしたまま勢いよく起き上がった。
未だに顔に残る柔らかい感触にミズキはしどろもどろだったが、食事を済ませると探索を再開する。
槍や盾といった魔物も出てきたがやはり剣の魔物が多かった。
それからも何回戦ったのかわからないが、目の前の宙に浮く剣の魔物を倒すと光が現れ、ゆらゆら揺れる光は通路を進んでいく。
二人は顔を見合わせるも、揺れる光へとついていくことにした。
光の向かった先は、最初に見た大きなホールだった。両側にある階段のあいだにある壁に光が吸い込まれていく。
すると、壁を作っていた石材のひとつひとつがまるで生きているかのように動きだしたではないか。
個々の石材が回転するようにして折りたたまれていく。そうして出来た入り口の先には通路が続き、奥には地下へと向かう階段が確認できた。
光晶石の明かりが明滅し、白い靄が立ち込める通路からは嫌な予感しかしない。
暗い通路を進み、ファティマの後ろに隠れるようにしてミズキがついて行く。
石造りの階段を降りた先にはひとつの扉があった。金属製の黒色の扉には札のようなものがいくつも貼られ、いかにもな禍々しさが滲み出ている。
緊張に身を固くしながら扉を開けは、さびた音が響き聖堂のような空間へと繋がっていた。
高い天井に設置された、光晶石で出来たステンドグラスが室内を照らしている。
そこから多くの種類の光が弱々しく降り注ぎ、床や並んだ長椅子などの輪郭をわからなくしていた。
奥にある祭壇には剣が斜めに突き刺さっている。剣は先に向かうにつれ太くなり、均等に並ぶトゲのようなものと一体化した剣だ。
およそ斬ることはできないように思える刀身には、またもや札がいくつも貼られている。ミズキたちが剣の刺さった祭壇を見ていたそのとき。
周りからぼんやりとした光が無数に出てきた。それらが祭壇の剣へと集まると次々に札が剥がされていく。
そして剣が持ち上がった。
集まった光は人のような輪郭を形作り、暗い陽炎に包まれるそれは、まさに亡霊と言うのがふさわしい見た目だ。
亡霊は剣を掴み、宙を滑りながらこちらへとやってきた。




