68話 共に迷宮へ
一度帰還したあと、『森の都』にて合流したミズキとファティマが今後について話し合っていた。
「どうしましょうか」
「どうしようね」
ミズキの問いかけに、ファティマは聞き返してしまう。このようなことになるとは思っておらず、ファティマは戸惑っていた。
普段であれば探索の行き先が決まっており、ファティマはそれについて行くだけだからだ。
「剣を使えるようになりたいんですよね?」
「うん、全然扱えないけどね……」
そう言ってファティマが落ち込んでしまい、その表情が暗くなる。
「気にしないでください! 最初は誰だって難しいですよ!」
ミズキが慌ててフォローし、いい案が無いかうんうんとうなりだす。
「強くなるにはやっぱり迷宮ですよね?」
ミズキが思いついたのは迷宮でとにかく戦ってみることだった。
風の導き石で剣の迷宮と念じれば風が吹き、道順とポータルの先の景色が少しだけ流れ込んできた。
「物は試しです。とりあえず今から行ってみませんか?」
ファティマがどれほど剣を扱うことができないのかを、ミズキは一度確認しておきたかった。
*
ミズキたちは『亡剣の迷宮』と呼ばれる場所に来ていた。ポータルを潜った先にあったものは古城と言える寂れた城だ。
城と言えるほどにかなり大きく、石積みされた土台の上に薄茶色の石が組まれ作られている。
十字に交差する石壁の上に建物があるような構造で、天辺部分にはいくつもの尖塔が見えていた。
そんな城の横にある、坂になっている通路をミズキたちは歩いていた。建物内へと通じるだろう扉の前にミズキたちは到着する。
「いかにもって感じですね……?」
さび付いた金属製の大きな両扉を前に、ミズキは怖気づいていた。
「なんだかすごいところだね……」
石造りの壁にはツタが生い茂り、どこか暗い雰囲気をかもし出している。
ミズキが扉を押せばギィィとさびた金属のすれる音が響いた。外は暑かったが中に入った途端に涼しくなる。
まずは大きなホールが目に入り、両側には二階へと続く階段があった。
豪華だったと思われる装飾品の塗装は剥げ落ち、吊り下がるシャンデリアに取り付けられた光晶石は埃を被っている。
光晶石の発する明かりはぼやけ、室内の陰影をおぼろげにしていた。
ホールを通り過ぎれば部屋が続き、薄暗い通路を進めば刃物を研ぐような音がしてくる。
ミズキがびくびくとファティマの後ろに隠れ、その腰の辺りから恐る恐る顔を覗かせていた。
音のする場所は先に見える扉の向こうのようで、息を呑んだファティマは扉を開け中へと入っていく。
部屋の中では細い剣が独りでにその刀身を研いでいた。辺りに冷たい靄が立ち込めると気温が下がっていき、突如として後ろの扉が閉められた。
「ぎゃああああああ!」
細剣がゆらりと持ち上がり、こちらに迫り斬りかかってきた。ファティマが片手剣を抜き応戦するも、一撃で弾き飛ばされてしまう。
ミズキの居る方向へ。
「あっ……!」
「ぎゃあああああ!」
ミズキの顔のすぐ横を通り、後ろの扉に突き刺さっていた。
「もう一本あるよ!」
ファティマが魔法箱から片手剣を抜き放ち、切り結ぶもまたもや一撃で弾かれてしまう。二本目もミズキの顔のすぐ横に突き刺さった。
「ひいいいい!」
「まだあるよ……!」
「待ってええええ!」
ファティマは剣の魔物を倒すことはできず、弾かれた剣からミズキは逃げ続けていた。
結局、ミズキが長柄戦斧でぺきんとへし折れば、光る粒子となって散っていった。
「はぁ、はぁ……」
ようやく戦闘が終わり、靄が晴れた頃には疲れ果てたミズキが肩で息をしていた。
「強敵だったね……」
ファティマのほうに振り向いたミズキは何か言おうとして、その言葉を無理やり呑み込んだ。
初の共闘をどうにか済ませたミズキたちは、開いた扉から部屋を出て通路を進んでいた。
「どうですか。何か参考になりそうですか?」
「どうすれば剣を飛ばされずに済むのかな」
ファティマから返ってきたのはそんな言葉だった。まさかここまでとはミズキも思っておらず、いったいどうすればいいのかと途方に暮れる。
「左手で持つのはどうなんですか?」
「それだとすごく変な動きになるんだ」
左手も駄目なようだった。そもそも、右手で剣が扱える訳がないと男に言われた経緯があるので、選択肢にはないとミズキは判断する。
「とりあえず迷宮の主を探しませんか。もしかしたら何かわかるかもしれませんし」
「わかった」
主にミズキが危ない、同じような戦闘を経て二人は順調に進んでいった。
途中、何度かミズキに片手剣が突き刺さり、ファティマの回復魔法ですぐに治癒されていたのを気にしてはいけない。
城はかなり広く、随分と探し回ったが迷宮の主は見つけられなかった。
「全然見つからないね」
一向に見つからないことにファティマは呟いた。




