67話 ファティマとの出会い
ミズキが助けたのはペールブルーの髪が綺麗な少女だった。助けることができたと喜んでいると、こちらに歩いてきていた男に声を掛けられた。
「〈自由と共鳴〉の盟主をやってるクロードだ。ミズキちゃんでいいのかな? 助けてくれてありがとうね」
「ボクも助けられて良かったです」
クロードは笑顔で頷くと素材の扱いについて言及する。
「素材は全部君が持っていってくれ。君が助けてくれなかったら間違いなく全滅してたからね」
「いきなり現れた奴に素材全部寄越すのかよ!?」
割り込んできたのは、もう一人の生き残りの男だ。不満な表情でありえないと叫んでいた。
「駄目かな?」
「俺たちが弱らせたあとの美味しいところだけ持ってかれるなんて反対だ! 元はと言えばファティマがヘマさえしなければ倒せてただろ!」
あまりの剣幕にクロードは困り果て、頭をかきながらうなる。
「う~ん、でもなぁ。それは結果論で俺たちじゃ倒せてなかった訳でしょ? 今回失敗したのも俺の責任な訳なんだし」
「俺たちが頑張ってそこの足手まといをフォローして戦ったのに分配なしとかありえないだろ!」
なぜか口論になってしまっていたが、そもそもミズキには素材を受け取る気はなかった。
ただ、あまり関わりたくないなという気持ちが強まり、こっそり帰ってしまおうかと思い始めてしまう。
「なら俺が一度預かってミズキちゃんを含めて分配すればいいかな? ミズキちゃんが良ければになるけど」
「あの、ボクは別に素材や報酬は要らないですよ?」
「へっへっへ、話がわかるじゃねぇか」
クロードとミズキが話す横で男が満足そうににやついていた。
ミズキの言葉にクロードは首を傾げてしまう。普通は貢献度を加味すれば八割はあるはずだったからだ。だというのに報酬は全く要らないと言う。
「じゃあなんで助けてくれたの?」
「助けたかったからだけど……」
「変わった考えの子も居るんだね? いや、それだけ強ければ余裕も生まれるのかな」
逆にミズキにはクロードの言ったことがよくわからなかった。
自分の攻撃は動きの早い魔物には当たらないし、先ほどは不意をつくことで楽に倒せたからだ。
別に自分は強くなく報酬を貰うような働きもしていない。そう思い首を傾げてしまう。
「素材もいただいたことだし、あとは分配だな。もちろん今回足を引っ張ったファティマは少ないんだろうな?」
二人を無視して報酬のことしか頭にない男が勝手に話を進めた。
そして男の蔑むような視線にファティマはうつむいてしまう。
「いや、ファティマは良くやってくれていたよ。俺の指示で動かなかったときもあったけど、それ以外は十分以上に働いていた」
「はあ!? あいつが倒れてからこの悲惨な状況になったんだぞ!」
「ごめんなさい……」
男がファティマを指差しながらクロードへと詰め寄り、唾を飛ばす勢いでまくし立てていた。
「それはあるが俺たちがフォローしきれなかったのが原因だよ」
「フォロー、フォローって、俺たちが悪いのか!? ろくに戦えもしないくせに剣に拘りやがって、ずっと迷惑してんのを我慢してんのはあんたも知ってるだろ!?」
「だから俺が悪いと言ってるよ。それにそのことを差し引いてもファティマの回復魔法は重宝すると話し合って決めたじゃないか」
二人の口論は収まるどころか激化の一途をたどる。その横でうつむくファティマの表情は暗い。
「いつもそいつを特別扱いだよな! 腕も羽も無い、一人で戦うことすらできないクズになんで俺たちが遠慮しなくちゃならねえんだ! 俺たちが捨てたらどうせ行くところも無いんだろ! 片腕がない気持ち悪い見た目の奴なんざ誰も相手にしてくれねえだろ!? ほかの奴だってそう思って――」
男が吹っ飛び壁に叩きつけられた。崩れ落ちた体はびくびくと痙攣し白目を向いている。
ミズキが『ばとるん二号改』で平打ちした姿勢のままで止まっていた。
クロードはぽかんと口を開き、ファティマは何が起こったのかよくわかっていないようだった。
ミズキはミズキで男が見た目に言及し始めたところで怒りが爆発していた。倒れた男を侮蔑を込めた目でにらんでいる。
男は知らないが、見た目から決め付け侮辱するということは、ジャラックのことを侮辱したも同然だとミズキは考えていた。
はっとしたファティマが男に駆け寄り、回復魔法を掛けていく。治療され、立ち上がった男がミズキを凄まじい形相でにらみつけていた。
「てめぇ、どういうつもりだ……!?」
「訂正してください!」
「ああ!?」
「ファティマさんへの侮辱を訂正してください!」
こんな奴が居るからジャラックが苦労してきたのだと思うと、とてもではないが許せなかった。
「ミズキ……」
ファティマがミズキを止めようとしていたが、止まれるわけがない。
「使えない奴を使えないと言って何が悪い! ろくに剣も振れないくせに前に出たがる足手まといは後ろで回復だけしてればいいんだよ!」
「剣を使えるようになればいいんじゃないですか! あなたたちは試したんですか!」
「できるもんならやってみろ! どうせ無理に決まってる、そんな化け物みたいな腕じゃな!」
二人がにらみ合っているとクロードが口を挟んだ。
「一旦落ち着かない? 助けてくれたし素材も貰った。そんな人を不快にさせてこれ以上何が欲しいのさ? これ以上続けるなら相応の対応をしないといけなくなるけど?」
男がはっとしてクロードのほうを振り向き、ミズキをにらむと押し黙った。
「だから素材を回収して持ち帰っておいてよ。きっとみんな喜ぶからさ」
男は渋々といった様子で素材を回収して回り、光に包まれると消えていった。
「折角助けてくれたのになんかごめんね? うるさいから帰らせちゃったけど良かったかな」
クロードがそう悪びれた。ミズキも先ほどの男と一緒に居たくなかったので頷き了承する。
「ありがとう。ファティマも片手剣で戦いたいのはわかるよ。でも言い方は悪かったけどさっきの言い分も理解してあげてほしい」
「はい……」
「ファティマさんは悪くないですよ!」
ミズキが反論すると、クロードに手を掲げられ制止されてしまう。
「さっきの言い方はひどすぎたからあまり参考にしないでね。言いたいのはみんながファティマの回復魔法を頼りにしているってことなんだ。もちろん俺も頼りにしてるよ」
それで本題はここからだと、前置きしたクロードが話を続ける。
「一度この結盟を離れるのはどうかな。ファティマも居心地が悪いだろうし。例えばミズキちゃんと一緒に探索してみたらどうかな? ミズキちゃんが良かったらという前提があるけど」
「ボクは構いませんよ!」
「それって追放ってことですか……?」
クロードの言葉にファティマは暗い表情で確認した。その様子にクロードが慌てて手を振って否定する。
「違う違う、思えば随分縛り付けちゃったからね。探索費用は俺が出すから羽を伸ばしておいでよ」
クロードが言うには息抜きをしてくればいいというものだった。羽を伸ばすという言葉にファティマは少し笑ってしまう。
「わかりました。でもほんとにいいのかな?」
「大丈夫ですよ!」
ファティマがミズキに尋ねれば笑顔で答えが返ってくる。
先ほどの男がしていた忌々しいものを見る目などではなく、こちらをまっすぐに見つめる瞳は不安を和らげてくれた。
自分の見た目などまるで忌避する様子がないことに、ファティマは不思議な感覚を覚える。
この心優しい少女と共に過ごせば、何かが変わるかもしれない。その強さの理由を見ることができるかもしれない。
そして何よりも、この少女と共に過ごすことはとても楽しそうに思えたのだ。
「よろしくね」




