60話 季節は変わり?
『森の都』の北部にある一軒家。大共闘のあと、家に帰ったミズキはベッドの上で寝苦しそうにしていた。
蹴飛ばされた掛け布はベッドからずり落ちている。体には汗で濡れた衣服が貼りつき、何度も寝返りを打つも不快感がなくなることはなかった。
うだるような暑さの中で小さなうなり声が繰り返される。
「暑い!!」
勢い良く起き上がったミズキは寝癖で髪がはね、その表情は溶けそうなくらいにうんざりとしていた。
「なんでこんなにもあぁつぅぅいぃぃのぉぉぉ!」
ベッドに倒れこみ足をバタつかせる。ごろごろと転がり始めたところでベッドから落下した。
「むぅ……」
まずは水を飲むことにしたミズキが水場へと向かった。蛇口を捻れば水が流れる。横から貪るようにして飲み自身の頭にも掛けていった。
ようやく涼むことができたミズキは、髪から滴り落ちる水滴を気にもせずに、じょうろを取り出し水をそそいでいく。
窓から外に出ると庭にある巨木へと向かった。巨大な影の下でしゃがむと頬杖を突き、じょうろから出続ける水をぼーっと眺めていた。
水遣りを終えると立ち上がり、どこか嬉しそうな巨木をあとにする。
室内に戻るとテーブルへと突っ伏した。もう動く元気もないのかピクリともしない。
そうしていると、カランと呼び鈴の音が聞こえた。誰かが尋ねてきたのだろう。
ミズキは動くこともなく、そのままの格好で「どうぞ~」とやる気なく答えるとジャラックが入ってきた。
「大丈夫ですか?」
「あー……」
「ではなさそうですね」
近くに来ていたジャラックを見るとカードを取り出していた。
「大共闘の報酬を預かってきましたよ。渡すのでカードを出してください」
「うー……」
ミズキはうだりながらもカードを取り出し、ジャラックのカードと合わせると小さく光った。
「これで受け渡しは終わりましたよ」
「……なんで」
「ミズキ?」
「なんでこんなに、暑いんですか……」
「それは『変転せし六光』が切り替わったからですよ」
ミズキは目線をジャラックに向け続きをうながした。
「『変転せし六光』は青い面を今は下に向けていますよね。青色は炎に関係する色ですから、『変転せし六光』が青いときはそれらが強化されるんです。ですので単純に箱庭全体が暑くなりますよ」
「戻して……」
「それはちょっと無理ですねぇ」
「うぅ……」
「そんなに暑いのでしたら、涼しくなる魔道具や晶石を用意したらどうですか?」
「そんなのがあるんです?」
そんな便利なものがあるとは初耳だった。あるのならなんでもいいので、この暑さを早く何とかしてほしいと思いジャラックに期待する。
「どこの家もあるはずですが、ここにはないのでしょうか」
ジャラックが軽く部屋のなかを探しながら疑問を口にした。
「リアルトさんが不自由はないはずだと言ってましたけど……」
「ああ、やはり。ありますよミズキ」
「ふえ?」
ジャラックが光晶石のスイッチをいくつか操作する。天井に下げられた光晶石のうち、赤と青に光を抑える黒い棒が当てられ暗くなった。
すると部屋の温度が下がり始め、わずかながらだが過ごしやすくなった。
「ちょっとだけ涼しいです……」
「あとはそうですねぇ、涼しくしてくれる魔道具があるはずなのですが……おや?」
棚の上に書置きが立てられていることにジャラックは気がつく。そこにはこう書かれていた。
『鐘の鳴る木』により魔道具を置くことが困難なため、必要になった際は私、リアルトまでご相談くだされば取り付けに参ります。
「なるほど。この書置きによるとリアルトという方に相談すれば取り付けてもらえるようです」
「そんな書置きがあるなんて知りませんでした」
「『鐘の鳴る木』が庭にあるのなら仕方ないでしょう。最近街ですごく騒ぎになっていますよ。あの『鐘の鳴る木』が静かになったと」
「あはは……すごくうるさいですもんね。でもなぜか、最近は寝てても鐘の音で起きることがないんですよ」
「理由がわからなくとも静かになったということは喜ばしいですね」
話しているとまた呼び鈴が鳴らされた。
「あれ、今度は誰だろう? もしかしてアラムさんかな?」
ミズキが椅子から立ち上がり、のろのろと玄関へと向かう。扉を開けた先に居たのはアルクたち三人だった。
「おうミズキ! しっかしすげぇところに住んでるんだなぁ」
「僕もびっくりしました」
「まぁ予想外だよね~」
ペルナキア、アルク、カレヒスと、ミズキの住む場所についての感想を好き勝手言っていた。




