表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/175

56話 二人の想いは


「どうやらここまでは攻撃も来ないみたいですね」

「もう、なんなんですかあれ! 無茶苦茶ですよ!」

「どうにもなりません。私も片手剣とあの大盾を失ってしまいましたし、残った盾もごらんの有様です」

「あ……。ボクが転んだときのですよね、ごめんなさい……」


 申し訳なさからミズキはしゅんとしてしまう。


「気にしなくていいのですよ。気づいたら動いてしまっていましたから」

「あの光を防ぐなんてすごくいい盾だったんですよね? その……」

「そうですねぇ、あれほどのものをもう一度手に入れるにはかなりの費用が掛かってしまいますが……」

「ボクの所為です……あのときすぐに逃げなかったから……」


 あのとき逃げていれば、貴重な盾を失うことはなかったのかもしれない。


 過ぎてしまったことはどうにもならず、自分の不甲斐ふがいなさに涙がにじんでしまう。


「いいんですよ。こうして無事だったのですから」

「でもッ……!」

「それとも私に助けられるのは嫌でしたか?」

「そんなことないです! すごく、嬉しかったですよ……!」


 嬉しい反面、ミズキの胸のうちは後悔の念が渦巻いていた。ジャラックの助けになろうと思い頑張ったが、結果はこの様だ。


 申し訳ないという気持ちがあふれ、自身を責め続ける。結局のところ、自分には何ひとつできることなどなかった。


 たった一人に、恩を返すことさえできない。ミズキはいかに自分が無力かを思い知らされ、何も言えずに涙をこらえることしかできない。


 情けなく思う気持ちと同時に、こんな自分を助けてくれたことが無性に嬉しくもあり、心が引き裂かれそうにもなる。


 どうして、自分には力がないのか。


 なんのわだかまりもなく接してくれた人は、ジャラックが初めてだったのだ。


 そんな人に何も返せないことが悔しくて、惨めで、どうしようもないほどに情けなく思えてくる。


 価値のない自分なんかのために、どうして手を差し伸べ、ほどこしてくれるのか。


「どうして……ボクなんかのためにそこまでしてくれるんですか……?」

「どうして、ですか?」

「ボクばかり助けられて、ジャラックさんの目的の邪魔ばかりしてるじゃないですか……それにボクは、居なくなるかもしれないんですよ。なのに、なぜなんですか……?」


 一度(あふ)れてしまった思いを止めることはできず、尋ねる声は震えていた。


「そうですねぇ。前にも言ったとは思うのですが、私はこんななりですので、多くの者は協力したり手伝ってはくれませんでした」


 その姿ゆえ孤独なことが多かったと、思い出すように視線を落として語っていく。


「なかには奇特な方も居ましたが、初めてだったのですよ。私をまっすぐ見てくれた気がしたのは。ミズキが初めてでした。その時の胸の高まりは言い表せないほどに嬉しかったですよ。だから、ですかね。力を貸したいと思ったのは」


 同じだったのだ。


 ジャラックもまたミズキに助けられ、その気持ちを返そうとしていたのだ。


 思い、想われ、いつしか相手のために居たい、そんな関係になっていたとはミズキは想像すらしていなかった。


 そのことを知ったミズキはとうとう泣いてしまい、涙があふれてしまう。うつむいた先に見える床へとこぼれ続けていく。


 嗚咽が漏れ、目頭が熱くなり胸が締め付けられる。先ほどまではひたすらに悔しく、悲しかったが、今はただただ嬉しく思う。


 熱い気持ちだけが胸をいっぱいにしていた。だというのに涙は止まらず、嬉しいはずなのに胸が苦しくなる。


 息が上手く吸えず、胸の辺りをぎゅっとつかんでも切なさは消えない。思いを伝えようとしても顔を上げることができず、か細い声だけをしぼり出す。


「そう、だったんですね……すごく、時間が掛かるかもしれないですけど、また一緒に探索に行って……いっぱい稼げるように、頑張りますね……」


 時間を越えて帰るのならば、こちらにどれだけ長く居ようと関係はないのだ。どれだけ時間が掛かろうとも、ジャラックを手伝いたいとミズキは思った。


 もう泣き止まないと思うほどに、感情の奔流ほんりゅうは収まることを知らない。左腕で服のすそを握り、もう片方で涙を拭った。


 そのとき。


 顔に硬い何かが当たる感触がした。腕輪だ。リティスが作ってくれた、薄い金属が編みこまれたようなそれがミズキの目にとどまった。


(もしかしたら)

(なんとかなるかもしれない)

(でも)


 上手くいくかはわからない。しかし、あのリティス本人が威力は折り紙つきだと言っていたのだ。


 ならば可能性はあるのではないか。ミズキは顔を上げた。


「ジャラックさん、もしかしたらなんとかなるかもしれないです。もし、ジャラックさんが迷宮の主を倒したことにできれば、ほかの人とも組むことができて、目的までの道のりを短くできますか?」

「それはどういう……」

「ボクがあいつを倒します。この腕輪で」

「……腕輪?」

「この腕輪は使うと自爆します。もしかしたら倒せるかもしれません」

「自爆で倒すというのですか? 仮にそうだとしてもやめてください。ミズキにはそんなことしてほしくありませんから」

「でもッ……! もし、あいつを倒せたら、ジャラックさんの目標は近づくはずです!」


 ミズキは走りだした。この方法が今できる最良の方法だと信じて。ジャラックの助けになりたいという一心で、大部屋へとひた走る。


「もし上手くいったら、ジャラックさんが倒したことにしてください!」

「ミズキ!」


 ジャラックが追いかけようとするが足に激痛が走った。


「こんなときにッ!」


 ミズキとの距離はどんどん離され、魔法箱を放り投げる姿が見えた。


 速度は緩むどころか加速しており、ジャラックが入り口に到達したときにはすでに『自在砲剣』へと肉薄しつつあった。


 大部屋に踏み込んだ瞬間、追いかけるジャラックの目の前をさえぎるようにして光がなぎ払われた。


 青光の粒子が舞う陽炎の向こう側の、走るミズキの姿が小さくなっていく。


 ミズキは持てる限りの力で走り続けていた。服をはためかせ、振られる青光を避けながら想いを胸に走り続ける。


 幾度となく青光が進路をさえぎり、その体を焦がしていった。ついに『自在砲剣』の近くまで到達したミズキが跳躍する。


 その姿が光に飲み込まれ消えてしまう。しかし、光が通り過ぎた空中にはギリギリ光を避けたミズキの姿があった。


 そして腕を伸ばし叫んだ。


「〈起爆イルーヴ〉!」


 腕輪が発光した次の瞬間。


 音を消し去るほどの紫光が解き放たれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もし、面白いと思いましたらクリックしてくださると作者が喜びます。一日一回だけ投票できます。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ