43話 勝利と制裁 1
風の知らせ通信のとある掲示板。
「ねえ、なんか騒がしいんだけど」
「ここはいつも騒がしいだろ」
「いや……街の様子なんだけど」
「おい! 今目の前で切り殺された奴が居たぞ!?」
「物騒だなおい」
「おいおい街の中で何やってんだ!? 切った馬鹿はどこのどいつだ!?」
「良くわからなかったんだが、小刀使いでフードを被っていたような」
「……〈最強〉じゃね?」
「馬鹿とか言ってすいませんでした! 見てるかわからんけど許してくれ!」
「こっちもいきなり斬られた奴が居たんだが戦争でもやってんのか!?」
「戦争つってもあの〈最強〉に喧嘩売る馬鹿は居ないだろ」
「いや、どうやら居たらしい。中層の広場でぶつかった上に文句言いまくった馬鹿が」
「馬鹿か?」
「馬鹿でしょ」
「度し難い馬鹿だな」
「しかもちっちゃくて可愛い子に切りかかったらしいぞ」
「は? クズじゃねぇか」
「それと今日はもう外に出ないほうがいいかもしれん」
「下手したら巻き込まれそうだし、そうしたほうがいいみたいね」
「〈最強〉は降りかかる火の粉を火元ごと消し飛ばすような奴だからな……」
「そもそもどことやりあってんだ?」
「どうやら〈勝利と制裁〉らしい」
「あの評判の悪いところか、ざまぁねえな」
「報酬の分配がひどいところね」
「それに上から目線で傲慢な連中だ」
「目の前でまとめて十人くらい切り殺されてたんだが」
「〈最強〉ならそれくらい余裕だろ」
「前に戦争したときは同時に一五○人くらい相手にしてなかったか?」
「あいつはまともにやっても勝てんぞ。そもそも戦うことすらできん」
「ほかにも喧嘩を売ったらヤバい奴らは居るが、〈最強〉は別格だから絶対に手は出すなよ。大規模結盟でも喧嘩売ったら大被害はまぬがれない歩く災害だからな」
「射杖を使ってないところを見るにだいぶ自重してるのか?」
「あんなもの街中でぶっ放したら大惨事だぞ……」
*
『森の都』の空を疾駆する男の姿があった。青灰色のフードとマントを纏っている。少し前にミズキと別れたアラムだ。
上下左右に広がる建物や通路の間を駆け抜け、目に付いた男に向かって速度を上げる。
すれ違いざま小刀の一撃で即死させ、次の獲物へ向けて文字どおり飛んでいく。
アラムはジャラックと〈勝利と制裁〉との戦争に、ジャラック側の陣営として介入していた。
敵対者の大まかな位置は把握することができ、無造作に、抵抗もさせず次々と仕留めていく。
〈勝利と制裁〉の拠点前では、アラムを迎え撃つ準備が進められていた。
「あのやろうよくもぶっ殺してくれやがったな!」
「こっちは武器が壊されてんだ! 袋叩きにしたうえで命乞いさせてやろうぜ!」
「命乞いしても許さねえがな! あり金一桁になるまで巻き上げてやる!」
相手を倒すとそのカードから割合で所持金を奪える。何度も繰り返せば残高をほとんどゼロにすることも可能だからだ。
結盟全員が臨戦態勢となりアラムが来る方角を見張っていた。弓を構え、大規模な魔法はいつでも撃てる状態を保持している。
「これだけの人数に喧嘩売るたぁ馬鹿にちげえねえぜ!」
しかしアラムからすれば、たったこれだけの人数でしかなかった。装備も比べるのが馬鹿々々しい程に貧弱だ。
理不尽な戦力差に彼らが気がつくのは間もなくだった。
災厄がポータルを潜ってくる。
「来るならそこからだと思ってたぜ!」
矢が、魔法が嵐の如く撃ち込まれた。さらには爆炎が、岩弾が、水槍がアラムごと周囲を破壊し尽くす。
跡形もなくなったあとにアラムの姿はなく、折れた木材などが散乱するばかりだった。
「ハッハー! ざまあみろ!」
男の胸に漆黒の小刀が突き刺さっていた。
「え……?」
いつの間にか距離を詰めていたアラムが目の前に居たのだ。
男は小刀によって真っ二つにされた。
別の男がその様子を見ていたが、アラムが振り向きこちらに踏み込んできたところで意識が途切れる。喉元を切り裂かれていたからだ。
女が魔法を撃つが、アラムが構えた小刀に当たると消失してしまった。
男が切りかかるがその剣ごと切断される。逃げようとしていた女も斬られ光に包まれていた。
なすすべなく蹂躙され、通りに人が居なくなるとアラムが〈勝利と制裁〉の建物へと入っていった。
戦争中は敵対者の位置がわかることと、もうひとつ特徴がある。転送地点が拠点などに固定されることだ。
建物の中でまたも同じような蹂躙が行われていった。倒された者たちが再転送された瞬簡には光と共に消えていく。
何度も繰り返され続ければ〈勝利と制裁〉の戦意は完全になくなっていた。




